IKUMOP.GIF - 1,393BYTES旅先むだ話IKUMOP.GIF - 1,393BYTES


++えうろぺのススメ++
毎日貧乏で、いつもお金のことで悩んでた。
食生活は貧しかった。宿もいつもドミトリー。
ほとんどは一人きりで、毎日のように観光し、移動していた。息つく間もなかった。

ヨーロッパを毛嫌いするバックパッカーは少なくない。
それは冒頭に書いたとおり、ヨーロッパに行くと、われわれ貧乏旅行者は、本当に貧乏になるからだ。物価の安いアジアからやって来た旅行者には特にきついだろう。100円出せばそれなりに美味いものが食べられるアジアと違って、ヨーロッパはつまらないサンドイッチでも4〜500円はする。まあ日本と同じくらいだ。
シングルの部屋なんて、とてもじゃないが泊まれない。かと云って安いドミトリーは限られている。
観光すれば、ばかすか金が飛んでいく。入場料、移動費、何でも高い。みやげなんか買おうもんなら、あっと云う間に財布は空っぽ。仕方ないから、一番安い絵葉書を買って、自分を慰める。

でもわたしは、ヨーロッパが好きだ。そして、ヨーロッパの旅はいい旅だった。
「ヨーロッパは歳とってから、お金を持ってゆっくり回りたいよねー。若いうちだと、歴史とか背景が分からないから面白くないじゃない」
貧乏か否かにかかわらず、旅行者がよく吐くセリフである。わたしも、確かに一時はそう思っていた。
しかし、歳とってから、果たして歴史について今より詳しくなっていると断言できるだろうか?下手すると、ボケが始まっちゃって、それどころじゃないのでは??
わたしは、今の歳で来て正解とは云わなくても、間違いではなかったと思う。
ステキなプチホテルではなく、大人数のドミトリーにばかり泊らざるを得ない旅だったけど、サンドイッチばかり齧る毎日だったけど、そうして浮かしたお金で、必死に美術館を回り、ひとつでも多くの街へ出かけようと頑張っていたことは、バカバカしいかも知れないけれど、何だか青春らしくてよかったな、と思ったりする。

また、お金以外のことでアンチヨーロッパな旅人が云うのは、
「人が面白くない」「どこに行っても同じ風景」
わたしはこれには反対だ。人が面白いとか面白くないとか云うのって、大体失礼じゃないのー?てのはさておき、例えばインドやエジプトなんかのようにウザい現地人に囲まれてイライラすることもなく、適度に放っておいてくれるヨーロッパは、わたしには合っていたと思う。
それに、どこに行っても同じ風景なんかじゃない。都市には都市の、田舎には田舎の美しさがきちんとあって、国ごと、街ごとのカラーもちゃんとある。例えばアムスとロンドンは似ていないし、パリとバルセロナは全く別物だ。

先進国だから自然を見る楽しみがない、なんて思ったら大間違い。日本と違って、ヨーロッパは本当によく緑を残しているなあとつくづく感心する。まあ、ある時期を境に反省した結果なのだろうけど。イギリスの初夏の緑なんて、身体がふるえるほど美しい。
山ならアルプス、海なら地中海。アルプスには上ったことがないけど、地中海は本当にキレイだ。海が本当に輝いている。ギリシャの島(ビーチ)なんて、まさに天国。

西欧と東欧でも全然違う。西欧の都市は華やかだが、東欧はメランコリックで、常に天気の悪いイメージだ。むしろ、天気が悪くないと東欧らしくない、と思ってしまうほど。何だろうな、あの古めかしい建物群に、太陽は似合わないのだ。ブダペストに着いた日、例の洪水の影響で土砂降りだったのもいかにもそれらしかった。懐かしいな。あのときはウンザリしてたけど。
西欧の名だたる観光都市は、どこもだいたい乙女チックというかロマンチックな要素がある。アムスの飾り窓地区以外の地区や、パリの一部、ベルギーのブルージュ、スイスのルツェルンなんかは特に、乙女の想像するヨーロッパそのものという感じだ。

ところで、ヨーロッパは病んでいる、というのが旅に出る前からのわたしのイメージだった。
おそらく、澁澤龍彦あたりの影響をモロに受けているからだと思うが、異端とか、魔術とか、秘密結社とか、そういう暗黒系アイテムが満載、という印象が強い。
ナチス、なんていうのもまさにヨーロッパの病んだ一面が、最も残酷な形で現れてしまったもののように思える。
荒俣宏の「ヨーロッパ・ホラー紀行ガイド」なんかを読むと、いかにもヨーロッパらしい異端なものが満載でおもしろい。かの本を読んだ記憶を頼りに、そのテのスポットにはちょこちょこと足を運んだものだ。パレルモのカタコンベとか、パリのカタコンベとか(墓ばっかだなー)。

わたしがヨーロッパに惹かれるのは、多分、どちらかというと闇の部分なんだと思う。キリスト教異端派、とか中世暗黒時代、なんて聞くと、妙に血が騒ぐちょっと危ないわたし。それこそ澁澤兄の影響なんだろうけど…。
血と陰謀。ヨーロッパはこれでしょうやっぱ。いたるところに秘密と謎の匂いがするのがたまらん。
ボルジア家とか、ジャンヌ・ダルクとか、ルートヴィヒ2世とか、エリザベート(シシイ)とか、青ひげとか、薔薇十字団とか、カスパール・ハウザーなんて聞くといてもたってもいられない。
あと、フランス革命周辺の話は、いつ読んでも興奮する(もちろん「ベルばら」はマストアイテム)。マリー・アントワネットはもちろんだが、ロベスピエールとかサン・ジュストとか聞くとこれまたいてもたってもいられない(ホンマかいな)。
どこの国・地域にも闇の歴史はあるけれど、ヨーロッパのものは芸が細かいというか、ディテールが面白いなあといつも思う。

そんな血と秘密に彩られた歴史の遺伝子は、決して死んだわけではなくて、さまざまな文化に手を換え品を換えして、脈々と生きているわけで。
チェコアニメだとか、ドイツのカルト映画なんかを見ると、「ああ、これだよこれ。これがヨーロッパだよ」と、偏見に満ち満ちた認識を、また新たにするのである。

さて、今までの旅でどこが一番よかったか?というお決まりの質問に、わたしはいつも「プラハ」と答えていたのだが、最近ちょっとそれも飽きてきた。
それで、一体プラハ以外でどこが気に入っているかなあと考えると、これが出るわ出るわ、あそこもよかった、ここもよかった、と、とてもじゃないがひとつに決められない。
首都だけでも、ロンドン、パリ、アムス、ストックホルム、ウイーン、ローマ、ブダペスト…ダメだ。決められるわけがない。バース、ナポリ、バルセロナ、ブルージュ、クラコフ…まるで走馬灯のように思い出しては、懐かしさで胸が痛くなる。

数あるヨーロッパの街でも、ここは美しい!!と思ったベスト3は、
@プラハAヴェネツィアBドブロブニク
だ。旅先風信でも、それぞれの街について書いてあるのだけど、カンタンに云うと、プラハはクラシカルな欧羅巴の首都、ヴェネツィアは翳りのある水の都、ドブロブニクは宝石のように輝く港町といったところだろうか。ちょっと貧しい表現だけど…

気に入りの場所となると、また少し変わってくる。
人に聞かれて答えることはほとんどないけれど、個人的に大事に仕舞ってあるのがイギリスのダンジェネス。
人に云わないのは、もったいぶっているからというより、マイナーすぎて多分誰も知らない(教えても誰も行かない)からなのだが…。詳しくは風信14および写真館2に記述しているので省くが、あそこはわたしの中では一種の聖地なのである。

最近よく思い出すのはフランスだ。パリはもちろん、南フランスが無性に恋しい。
当時はそうでもなかったのに、パリを思い出すにつけ、やっぱり素晴らしい街だったなあと思う。たとえそれが、乙女的偏見であったとしても、あそこには独特の香りがある。文化の香り、なんていうとベタというか白々しいけれど、何かそういう類のものだ。パリに憧れる人の気持ちも、今なら身を持って理解できる。
そして、南フランス!太陽がキンキンにまぶしかった、アヴィニヨンとプロヴァンス。プロヴァンスのセナンク修道院の、この世のものならざる静謐な美しさ(でも土産物屋はあるのだが)。ゴルドの街で、太陽に照り付けられながら食べたシトラスのジェラートの美味かったこと。ああ、フランス。モン・サン・ミッシェルの巨大な景観。古い城。

ヨーロッパの思い出と云えば、何はさておき美術館めぐり。
何かを吸収せねば、というヘンな義務感のせいもあったけれど、本当に毎日のように美術館には行っていた。
今思えばぜいたくな話だ、全く。
ダ・ヴィンチにルーベンスにゴヤにゴッホにゴーギャンにモネにマグリットにピカソにラファエロにクリムトにシーレに…とにかく見られるだけ見た。お金が高くて断念したところもあったけれど、それも今は後悔している。
好きな現代美術もたらふく見られた。ロンドンのテート・モダン、パリのポンピドゥーセンター、そしてウイーンのMQは忘れられない。本体もさることながら、ここら辺はショップの本のセレクトが素晴らしい。こういう空間は、日本にはあるようでない、という気がする。日本も現代アートがこれほど盛んになっている昨今、テート・モダンのような美術館が存在してもいい、というか存在すべきだ…って、わたしが知らないだけでちゃんと在るのかも知れないけど。
美術の世界はいつも静かで、清潔だ。それがどういう背景のもとに生み出されたものであっても、作品自体はあくまでも静かに、そこに在って完結している。全てが流動的で不安定な現世にあって、やっぱり美術は心の慰めだなあと思う。
色々行ったけれど、やっぱりルーブル美術館が、質・量ともに圧倒的。世界三大美術館のひとつとしてルーブルと肩を並べるスペインのプラド美術館は、ルーブルよりはいくらか見劣りする。面白かったのは、アムステルダムのゴッホ美術館とパリのピカソ美術館。二人の巨匠が、いかに絵を描きまくっていたかがよく分かる。

アラブの国を回ってくると、エルサレムの旧市街はとても懐かしく感じられる。あちこちにある教会、石畳の小道…慣れ親しんだヨーロッパの風景が目の前に広がる。嬉しくなって、同じところを何度も何度も歩いた。
そんなエルサレムの安宿では、珍しくヨーロッパ好きのバックパッカー2名(しかも男子)に出会った。こんな機会はそうそうあるものではないので、わたしは彼らを離さなかったね(笑)。
たいていの場合、これまでの旅のルートは?と聞かれて「ヨーロッパを半年近く」と答えると、お金は大丈夫だったのかという話になるか、やんわりと無視されるかのどちらかだったのだから。
一人は、イスタンブールで会ったことのあるYくんという同い年の男子で、もう一人は初めて会うKくん。Kくんは男子にはありえないチェコ好きで、小さな田舎町までかなり徹底的に回っていたらしい。うう、負けた…(何がだ)。
3人とも共通するのが、「アジアに行ってない」という点もこれまた不思議だった。
Yくんはすでに旅に出て1年が経過しているのだが、アメリカ、南米、ヨーロッパと回ってきたので、未だアジアは見ていない。これからアフリカに南下しようか、もう一度ヨーロッパに戻ってイタリアなど南の方を回ろうか悩んでいたが、結局ヨーロッパに飛んだ。
「ヨーロッパで住むとしたら何処に住みたいか」などというくだらない話で、朝の5時まで盛り上がっていたわたしたち。寒さに凍えながらも、何だか同志を見つけたような気がして、いつまでもいつまでも、夢見るようにヨーロッパの話をしていた。

いやはや、ほんと、ヨーロッパは奥が深い。貧乏でも何でも、行く価値は十二分にある。アジアでだらだらだけじゃなくて、「ヨーロッパ?興味ないね」なんて云ってないで、ちょっと気を引き締めて、ヨーロッパ回ってみませんかね、パッカーのみなさん?

(2002年12月…の原稿に加筆したもの)


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