IKUMOP.GIF - 1,393BYTES旅先むだ話IKUMOP.GIF - 1,393BYTES


++古い話で恐縮ですが・・・旅に出るまでのさらに詳しい話【上】++
パソコンのファイルの整理をしていたら、こんな原稿が出てきました、というのが今回のむだ話。
一度お蔵入りしている原稿を引きずり出してくるというのは、かなりかっこ悪い気もするのだが、久々に読んでみると懐かしさで胸がいっぱいになり(笑)、ついアップしてしまった次第である。

・・・・・・

旅に出るまでのことを書くのは、旅のことを書くよりも難しいかも知れない。
出来ればあんまり触れないでおきたい気もする。
そもそも、何で放浪なんだろうか。この問いを何度も何度も繰り返してきた1年だった。

このホームページの母体と云うか、もともと作っていた
「Headdress」
というサイトに少し書いてもいるのだが、私は大阪の小さな出版社で2年2ヵ月働いていた(※Headdressはその時の先輩後輩で作成しているページです)。
その会社というのが、まあ、筆舌に尽くし難いほどすごいところだった。
まず面白いのが、メインにしてほぼ唯一の仕事である雑誌が発売日にまともに出たことがないのである。入社した時は本当に驚いたものだ。これは何も社員が働かないせいではない。要は広告が目標額に達しない(この目標額にそもそも無理があった)のでずるずると発売を延ばしているというわけだった。
そのため、当然のように会社は苦しい。どちらがニワトリでタマゴかというのは難しいけれど…。
1年目はそれでもまだマシだったのだが、2年目になると目にも明らかに傾き出した。毎月20日になると借金の督促の電話がじゃんじゃん鳴り、われわれは業務を中断して銀行に走らされることもしばしばだった。街金から何度もあやしげなファックスが流れてきた。


それだけなら、笑い話で済ますこともできるのだが、問題なのは、給料がまともにもらえなくなったことである。
それまでも諸経費が延々と滞納され、経理に請求しても音沙汰がないという状態だった。
一応雑誌を作っているのでフィルムや現像やもちろん移動費なども結構かかる。それを皆自分の給料でまかなっていたのである。
その給料すらも出ないなんて。しかし、好きで入った仕事にしがみつきたい気持ちと、こんな中途半端なところで辞めるわけにはいかないという意地で、すぐさま辞めるという決断はできなかった。


いったん未払いを赦してしまうとナメてかかられる。それからは、給料日などという日は無いも同然だった。
一応「後日払う」とは云うものの、全くもって当てにならない。
月末になると「今月出ると思う?」「いや、出ないんじゃないすか」という会話が挨拶のようになっていた…。


例えば給料が安くても、或いはなくても、好きな仕事ができるだけでありがたいと思え、なんて人生相談の本には書いていたりするのだけれど、もはやそういうレベルの話ではなかった。
会社は会社としてほとんど機能不全で、編集長はちょっと想像しがたいほどパラノイアでヒステリーで誇大妄想癖で仕事のできない人だった(笑)。そんな人から理不尽な要求をされたり、罵倒されたり、給料が払えないことで逆ギレされたりするともう本当に死にたくなった。業務中、ワープロで遺書を打ったことすらある(もちろん本当に死ぬ気はない)。
周囲の誰からも、出入りの業者の人にまでそんな会社は即刻辞めるべきだと諭された(親にはコワくて云えなかった)。あんたは本物のアホやろ、とはっきり云われたこともある。確かにその通りだった。常識は麻痺し、精神が日に日におかしくなっていく気がした。一緒に働いていた他の人達も多かれ少なかれそうだったと思う。


私は会社を辞めた。辞めるのなんて本当に簡単なものだ。何でもそうだが、やってみれば意外とあっけないものである。まして給料が払えない状態では辞めてくれてラッキーくらいのものだろう。私が辞めてとうとう正社員はいなくなり、前後して後輩も辞めた。そして誰もいなくなった(笑)…会社と心中する人達をのぞいては。


しかし、そこですべてが終わったわけではない。むしろそこからが修羅場である。


未払金の請求をしなければならない。何しろ半年以上まともに給料が払われず、経費に至っては日付が2年前のものもあった。計算してみるとほぼ50万あった。泣き寝入りなんてもちろん嫌だ。だが、どうすれば取り戻せるのだろう。本当に返ってくるのだろうか…。私は毎日不安に苛まれた。


色んな人に相談した。労働基準監督署に行くのが尤も正当な手段かと思われたが、以前やはり監督署の人間が査察(?)に入った際、うまいこと云い包められて帰ってしまったことがあり、何となく気が進まなかった。そこで、数ヶ月前に辞めていた専門職の女性が、やはり60万ほどの未払金を奇跡的に全額回収したその手段を私も用いることにした。それは何かと云うと、「先付小切手」というものだ。そういうものがこの世に存在するなど、こんなことがなければ知らなかっただろう…。


実は私もちゃんと知っているわけではないが、まあ一種の約束手形のようなものだろうか。約束手形よりも効力が弱いとかいう話も聞いたが定かではない。簿記の教科書にも載っていなかったし。とにかく即金で50万はほぼ不可能だったので、50万を数回の小切手に分けて払ってもらうことにするのだ。


それでも普通に考えればかなり妥協していると云えるだろう。裁判沙汰になってもおかしくないのだから(ある写真事務所はもう少しで裁判起こすところだった)。にもかかわらず、いや予想はしていたがものすご〜くイヤな顔をされた上、「ちょっとねえ、難しいんですよそれは」と、いともカンタンに却下されそうになった。
小心者の私は一瞬ひるんだ。しかし大金がかかっている。それ以上に人間としての尊厳がかかっていた(笑)。大げさかも知れないが、ここでハイそうですかと引き下がったら、この先の人生の困難に立ち向かうことができないような気がしたのだ。


あんまり詳しく書くと長くなるのでやめておくが、結果的には当月スタートの4回払いという条件で話がついた。毎日、どんな罵声を浴びても云い返せるようにシミュレーションをしていたためか、思ったほどの精神的ダメージは受けなかった(まあ罵声は浴びたが)。そして4ヶ月後、金は無事に返ってきた。法的拘束力は強し。100回の口約束より1枚の書類、である。


金が返ってきたからいいようなものの、今思い出してもあんまり気分のいい話ではない。だが、あの時の精神的苦痛はもう過去のものだ。トラウマもない。ただ、社会の恐ろしい部分と云うか、見たくなかった部分、見なくてもよかったものを見てしまったなという気はする。いつかこの経験が役に立つ日も来るのだろうか。

・・・・・・【中】に続く。

(2002年)


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