IKUMOP.GIF - 1,393BYTES旅先むだ話IKUMOP.GIF - 1,393BYTES


++物を失くす++
最近、やたらとものを失くす。本当に、病気ではないかと思うくらいに、よく失くす。
今回は、自分への反省の意味もあって、この原稿を書いている。

いつかのトップページにも少し書いたように、最近のわたしの物の失くし具合といったら、尋常ではない。
よくそれだけボロボロと落として回るなと、自分でもあきれ果てる。ほんと、軽いアルツハイマーにでも罹っているんじゃないだろうか?!と、かなり真剣に悩んでいる。

例えば、今年に入ってから無くしたもののリストを上げるだけでも、これだけある。↓

・薄手のナイロンパンツ・・・メキシコシティ
・キューバで買った「苺とチョコレート」Tシャツ・・・メキシコシティ
・友人にもらったTシャツ・・・メキシコシティ
・ケニアで買ったマサイキコイ(布)・・・オアハカ
・餞別にもらったグアテマラ通貨2〜3ドル分くらい・・・サンクリストバル
・日本食、食器を入れたタッパーまるごと・・・サンクリストバル
・つめきり・・・アンティグア
・満タンの水ペットボトル・・・トドス・サントスに行く途中のバス
・ほとんど満タンのリンスインシャンプー+石鹸および石鹸箱+ボディグローブ・・・ウティラ島
・↑のボディグローブの替わりに購入したヘチマタワシ・・・グラナダ?

・・・もしかすると、思い出せないだけで、まだまだありそうな気もするのだが・・・。

このうち、シティで置いてきたものは、シティにいる友人が預かってくれているらしいので確保できるとして、悔しいのはやはりオアハカに忘れてきた布だ。
これは、そのシティの友人にも協力してもらって、オアハカに行く旅人に聞いてもらったりしていたのだが、出て来なかった。本当に気に入っていた布なので、今でも心が疼く。
このほか、日本人宿に荷物を置いて2,3泊旅行した際、やはりベッドの上に色々忘れ物をしていたらしい(管理人さんが確保してくれていたので助かった)。その中には、CD-Rのアダプターもあった。危ないところであった。

さかのぼれば、キューバではパソコンの写真データをすべて消去してしまい、メキシコのプエブラではユニクロのフリースを落とし、オアハカからサンクリストバルに向かうバスで(1回目)下着一式とハンカチを入れていた巾着袋をまるまる無くし、ベネズエラのカラカスでは長年愛用していたダイヤルロックをホテルに置きっぱなしにしてきた。その前のエンジェル・フォールツアーでは、スーダンで買ったアルミコップとケープタウンで買った十得ナイフ、エストニアで買った木のスプーン、それに歯磨きセットを置いてきた。

そして、つい先日。
まだそのときの傷が生々しいので(大げさ?)あまり書きたくないのだが・・・。
今回のブツは、ニカラグアのマサヤの民芸品市場で買った、いぐさで編んだ壁掛けの絵である。
ニカラグアでお世話になった海外青年協力隊のNさん家に飾られていたのに一目惚れし、「こ、これは何処で買ったんですか?!」とつめよって、マサヤに連れて行ってもらい、同じ絵ではないけれどお気に入りのを見つけ、もちろんしっかり値切って購入した一品だ。
大きさは、風呂場の足ふきマットくらいはある。布ならまだしも、いぐさなので、たたんで持って歩けない。せいぜい筒状に巻いて小さくするのが限界だ。そんなことは分かっていたが、この品は、ニカラグア以外では見たことがないので、覚悟を決めて買ったのである。

もちろんバックパックにも、サブバッグにも入らないこの絵は、バックパックの横に、バックパックについているベルトで巻きつけて運搬していた。
このベルトは、甚だ頼りないシロモノで、メキシコで落としたフリースは、やはりここにくっつけていたものであった。それでもほかに運搬のしょうがない。よく現地のおばちゃんが持っている大きなビニールカバンを買おうかとも思ったが、何となくめんどうで買わずにきていた。とりあえず、パナマまで行けば船便が安いというので、それまでの辛抱だ。バスの荷物入れにバックパックを出し入れするときなどに気をつけていれば大丈夫だろう・・・。

自分では、気をつけていたつもりであった。
しかし、コスタリカはサンホセのとあるバスターミナルから、徒歩5分くらいの別のターミナルに移動するその短い間に、絵はなくなっていた。
それも、人から云われて気づいたのである。
サンホセのバスターミナルの集まるコカ・コーラ地区は、治安がよくないことで有名だ。わたしが歩いていたのは昼間であったが、日曜日ということもあり、何となく人気も少なかった。少しびびりながら歩いていると、一人のいかにもガラの悪そうな浮浪者が何やらわめきながら近づいて来た。わたしはとっさに「やられる」と思って身構えた。何かいちゃもんをつけられるようなことをしただろうか?と冷や汗をかきながら、とりあえず冷静に対処しようとつとめた。

浮浪者は、でかい声で何かを訴えていた。ただでさえスペイン語の出来ないわたしに、このオヤジの云うことが分かるわけがない。しかし、その言葉の中でふたつだけ、聞き取れたものがあった。
「アマリージョ」と「ポリシア」である。アマリージョは黄色、ポリシアは警察のことだ。
アマリージョ、と聞いただけで、わたしは自分でも驚くくらいすぐに何のことかが分かった。
黄色とは、わたしが絵を入れていたビニール袋の色のことではないか!

彼はどうやら、わたしを襲おうとしたのではなく、絵を落としたことを教えてくれたらしい。
しかし、それも何となく腑に落ちない。たった500メートルにも満たない道のりでの出来事なのだ。もし、落とした現場を見ていたのなら、すぐに拾って教えてくれればよさそうなものだ。
それに、ポリシアとは何だろう???
・・・わたしは、いろいろ考えた結果「このオッサンが、どういう経緯か知らないが絵を拾って、通りすがりのポリシアに届けた」という結論に達した。というか、達することに無理矢理してみた。
どうも自分に都合のいい結論だ。一応サンホセに戻ったら、警察署に行ってみるつもりだが、絵は出て来ないだろう。おそらく。それに、”落し物”というスペイン語すら知らないわたしに、状況説明が出来るわけもない。

ともかく、わたしはこの後の3時間の移動中、ほとんど放心状態であった。
ニカラグアにしかないあの絵、おそらくニカラグアには一生来ないだろうから、あの絵も二度と手に入らないだろう・・・もしいつか一人暮らししたら、白い壁にあの絵を掛けるつもりだった。絶対に可愛いと思う。そう云えばあの絵は、5ドルくらいしたんだっけ・・・けっこう頑張って値切ったんだよな確か・・・。
わたしの頭の中は、100パーセントあの絵のことで占められていた。それと交互に、またやってしまった、またものを、それも大事なものを落としてしまった・・・という自己嫌悪がわたしを苛んだ。

・・・わたしは本当に、病気ではないのだろうか???
何故、何故こんなにもものを失くしてしまうのだろうか???

何故ものを失くすのか。
わたしは人よりも、脳みそが小さいのだろう。簡単に云うと、バカなのだ。
普通の人ができることを、わたしはできないのだ。人並みに生きていけないのだ。
冗談ヌキで、何かの病なのだろうか。ナントカ欠落症みたいな感じの・・・。

しかし、ビョーキだ、という答えは、ある種の逃げかも知れない。
もっと常識的に考えて、理由は大体自分でも分かっている。

荷物が多すぎるのだ。わたしの小っこい脳みそでは把握できないくらい、ものを持ちすぎているのだ。

長年の読者の方、および旅先で実際にわたしと会った方はご存知かも知れないが、わたしの荷物というのは、めちゃくちゃ重い。誰もが「ええっ!?」と驚くほどに、重い。こんなの背負ってよく歩いてるね、と云われたことも、一度や二度ではない。マジで。
ここのところ計っていないけれど、前にキューバ行きの飛行機に乗ったときは、パソコンを抜いたバックパックが17キロあった。ということは、パソコンと、そのほかのサブバッグの荷物を合わせると、25キロ弱はある計算になる。あれから、荷物は減るどころか増える一方なので、とっくに25キロオーバーはしていると思う。女子の旅人として、これはあってはならない数値と云えよう。普通は重くても10キロ少々である。
何せ、25キロと云ったら、己の体重の半分以上なのだ。このままだと、ヘルニアに罹るかも知れない。だったら、日本に送るなり捨てるなりして減らせばいいのだが、送料がバカにならないので、安い地域に行くまで、限界まで我慢しているのである。また、捨てるという選択は、貧乏人のわたしの頭には常に存在しない。

しかし、何度送ろうが捨てようが、荷物の重い旅人は、おそらく旅が終わるまでずっと重いままである。これはわたしに限らない。荷物の多い人は、一生多い(笑)。逆に、少ない人はずっと少ない。同じように1年2年の旅をしていても、遠足に行くようなリュックしか持っていない人もいるのである。ああ、少し分けてあげたいぞ(笑)。
やはり荷物の重い旅人とその辺の話をするのだが、みんな口をそろえて「何でか知らないけど、減らないんだよねー」と云う。そして「何が入ってるのかなあ?」と(笑)。
わたしもほんと、そんな感じである。テントも寝袋も持っていないし、分厚い防寒着があるわけでもないし・・・。
100歩譲って、パソコンと周辺機器が重い、という理由が挙げられるが、先述のとおり、パソコンバッグを抜いてもわたしの荷物は17キロもあるのだ。
あと考えられるのは、本だろうか。しかしこれも、現在わたしが持っているのは薄手の文庫本4冊に、ペーパーバックが1冊、ガイドブックが2冊、ソフトカバーが1冊、辞書が2冊・・・・・・うん、多いな(笑)。これが原因かも知れない。でもどれかを減らすとなると、けっこう難しいのだ。せいぜい文庫本を半分にするくらいしか出来ない。
そう云えば、これに加えて英語のテキストブックというのもある。イギリスからずっと持ち歩いているのに、まだ40ページまでしか行っていないけど(笑)。これがでかい上に重い。

さらに。ああ、書いているとどんどん思い当たるのだが(笑)、やたらTシャツが多い。いずれも現地で買ったものである。Tシャツは安いし、かわいいので、ついつい買ってしまう。で、防寒着は1着もないくせに、半袖のTシャツだけが多分6枚くらいある。甚だ非効率的な内容である。
最近購入した、グアテマラの民族衣装もまた重い。それほど大量購入はしていないが、全部生地が厚いため嵩張ってしょうがない。

服だけでなく、何故かカバン類も多い。バックパック、サブバッグ(手提げ)のほか、町歩き用バッグが何と3つもある。1つは本当に町歩きに使っており、2つ目は最近始めたアクセサリー作りのパーツがいろいろ入っている。3つ目は小さいので、本当に近くに買い物に行くとき用・・・と云ってもほとんど使っていない。

そうそう、このアクセサリー作りのパーツがクセモノで、30×30センチくらいのバッグをまるまる占領しているのだ。
糸類が7巻と細かなパーツ(ガラス玉など)、最近グラナダで買った種が山ほど、さらにはその種に穴を開けるためのハンドドリル(!)・・・ああ、自分で書いていて恐ろしい。よくこんなの持ち歩いてんな。

ちなみに現在、わたしは4つのカバンを持って移動している。@バックパックAサブバッグB町歩きバッグCパーツを入れたバッグ。BとCは、前にクロスさせてたすき掛けにしているのだが、みっともないことこの上ない。昔、「罪人みたいですよ」と云われたことを思い出す。こりゃほんと、罪人以外の何者でもない。さらにここに、移動の長いときは食料を入れたスーパーの袋を提げていることもある。はっきり云って、荷物オバケだ。

と、このよーに、”荷物が重いのはムダが多いから”という当たり前の結論に達しつつあるわけだが、分かっていながら今のとこ、どうしようもない。
グアテマラで買ったウィピルなどは、近いうちにどこかから日本に送らなければなるまいが、せいぜい減っても3〜5キロといったところだろう。
何でこんなにものを減らせないのだろうか・・・もしかすると、そう悩んでいるわたしに、神様が勝手に「んじゃ、これを置いていけ」と、忘れ物をさせているのかも知れん。いや、けっこうマジでそう思う。悔しいのは、わりと大事度の高いものからなくなっていく点だが・・・神様は意地悪だ。

ものを失くすたびに、「もう物を買って増やすのはやめよう」と思う。
形あるものはいつか壊れるか無くなる。ものも金も墓まで持って入れない。そんなことは重々承知しているつもりなのだ。
ものなんて、所詮ものにすぎない。
なのに、その決心はいつも、ものを買う段になるときれいに忘れ去られ、しまいには「ああ、もっと買っておけばよかった」などと、己のキャパシティをわきまえないことを思ったりする。そんな己の物欲の深さが、ほとほとイヤになる。イヤになるけど、やめられない。多分。そして、ひいこら云いながら、それらのものを運搬し、あげく失ってしまうのである。バカバカしい。本っっっ当にバカバカしい。
わたしは、物欲の少ない人が、本気でうらやましい。人間として上なのではないかとすら思ってしまう。

こうして自分の愚かさが分かっていながら、それでもわたしは今日も民芸品市場をひやかし、町のショーウィンドーをひやかし、「何か素敵なものはないかしら」と目を泳がせるのだ。何だよ、素敵なものって。自分が全然素敵な人間じゃないから、素敵なものに囲まれていないと、心が寂しくてしょうがないのだろうな。はあ、哀しい。
そして、ずっとこれからもボロボロとものを失い落としていくのであろう。いっぺん、すべてを失わなければ、本気で身に応えないのかも知れない。つくづく業が深い人間だと云わざるをえない。

(2004年2月)


ICONMARUP1.GIF - 108BYTES 画面TOPむだ話INDEXHOME ICONMARUP1.GIF - 108BYTES

inserted by FC2 system