ゲイ術手帖番外編其の四

「野ぎくちゃん、二丁目でゲイのお兄さんにナンパ(?)される」

 これだけゲイが好きだ、ゲイの恋愛が好きだと語っておきながら、わたしにはゲイのお友達も、知り合いもいません。いや、本物のゲイと言葉を交わしたことすらない。でも多分、ゲイの人達は、わたしのようなミョーな妄想を抱いている女子とはお付き合いしたくないと思われるので、わたしも敢えてゲイのお友達を作ろうとは考えないのです。でも、たまたまお友達になった人がゲイならば、やっぱり「儲けた!」とか思ってしまうかも知れない。今回は、そんなわたしの(多分)初ゲイ遭遇話です。

 というわけで、いきなり舞台は飛んで、新宿・歌舞伎町二丁目。わたしは東京に遊びに行くと必ず立ち寄るのが、原宿のラフォーレと根津の弥生美術館、そしてゲイのメッカ・二丁目なのです。しかし、前の2つに比べると、二丁目はそんなに気軽には足を運べません(何となく)。ですから、昼間のあまり人通りもない時間、この近くの「模索舎」という本屋に行くついでに、あくまで通行人として通ることがほとんどです。ちなみに、初二丁目は2年前の春で、当時付き合い始めたばかりの東京在住の男子に連れて行ってもらいました。その男子とは、しばらく後に音信不通になってしまったのですが、おそらく二丁目に来て異様に喜んでいるわたしが気持ち悪くなったのでしょう(違うかな?)。

 さて、二丁目は、仲通りというそんなに長くはないメインストリートを中心に、お店が広がっています。「九州男」「bros.」といったいかにもな名前のバーや、ゲイグッズ(?)が買える雑貨店など、歩くだけでもなかなか面白い。この日も、乙女関係の集まりで東京に行っていたのですが、乙女のみんなと別れた後、何かに取りつかれたように一人でふらふらと夜の二丁目にさまよい込んでしまいました。と云っても、一応目的はあって、以前この界隈の「ルミエール」という雑貨店で、何年も探していた絶版本を発見したことがあり、また何か面白い本が見つからないかなー、と探しに来たのです。店内は、所狭しと商品が並べられ、大人のオモチャ系から駄菓子、書籍・ビデオなどなど、実に様々な品物が置いてあります。駄菓子はともかく、他はすべてゲイ関連の品物。なので、客はもちろん、店員もおそらくゲイでしょう。そんな中で、こんな時に限って胸のあいたニットを着て練り歩くわたしは、さぞかし異様な客だった筈です。冷房が効いていなかったせいもあり、わたしは顔に大量の脂汗をかきながら、つとめて"普通の本屋で立ち読みをしている客"を装っていました。

 そろそろ帰ろうと元来た道を歩いていると、頭にタオルを巻いた(いわゆる海賊巻きね)同い年くらいのお兄ちゃんが「ねえ、一人?」と声をかけてきました。こんなところで声をかけてくるのは十中八九ゲイに決まっています。しかし何故わたしに? これが新宿のアルタの前とかだったらただのキャッチだと思って足早に立ち去るのですが、何しろここは二丁目。もしかして、わたしの人生における初ゲイ?と、一体何を期待しているのか分かりませんが、とにかく期待に胸をふくらませながら会話に乗じることにしました。以下はその再現(カッコ内はわたしのココロの声)。

兄「よく来るの?」
私「いえ、そんなには。わたし大阪の人間なので」
兄「ああ、じゃあちょっと見てみたいなあ、とか思って来たんだ」(やっぱそうゆう人が多いんだろーな)
私「ちょっと買い物しに来たんです」(と、まるで近所のスーパーにでも来たかのよーな普通さを装ってみる)
兄「何買ったの?」
私「本です」
兄「何の本?」
私「『薔薇色の星』っていうんですけど」(ついつい律義に答えてしまう…)
兄「そうゆうのが好きなの?」(いきなり核心に触れる質問!)
私「…はい、まあ」
兄「えー?普通の人じゃないの?」(ゲイだと思われてんのか?てゆーか、女って分かってる?)
私「うーん、普通なんでしょうかねえ…」
兄「普通じゃないの?」
私「普通っていうのが何なのか、難しいんで」(哲学的会話に持っていこうとするわたし)
兄「揉まれたいとか思う?」(え、何なに?)
兄「咥えたいとか思うの?」(く、咥えるってやっぱアレだよな?)
私「いやあ、別に…最近性欲もあんまないんで」(つられてワケわかんなくなっている)
兄「へええ。何で?」
私「何で、って云われても」(テキトーに云っただけなのに…)
兄「いい胸してるよね」
私「え?そーですか? まあ、寄せて上げてるだけなんですけど」(何でこんな時にこんな服着てるんだわたしは…)
兄「ねえ、ちょっと時間ない?」
私「いや、わたし今から大阪に帰るんです。夜行バスで。だからもう東京駅に戻らないと」
兄「何だ。泊りじゃないの。10分でいいんだけど、時間ない?」
私「東京よく分からないから、あんまりギリギリに行くとやばいかなって」
(しばし沈黙)
私「あのー、ゲイの方なんですか?」(ついに聞いてしまった…)
兄「そーだけど」(やっぱりそーなのか)
私「何でわたしに声かけたんですか?」(そこが一番ギモンだよやっぱ)
兄「すごいスタイルいいからさ」(すごい厚底の靴でごまかしてんだけどね)
兄「ねえ、ホントに5分でいいんだけど。すぐそこのビルなんだ」(これは怪しいな…って、もともと怪しいってば)
私「5分だったら、階段上ってる内に時間経っちゃいますよ」(ミョーなところで冷静なわたし)
兄「そっか…。じゃ、またね」(やっと諦めてくれた…でもちょっと残念だったりする)
私「はい、また」

 お兄さんは自分の庭である(?)二丁目エリアから抜けると足早に去って行きました。バスの出発があと1時間後だったら本当に付いて行ったかも知れません。或いはその日も泊りだったら…。でもきっとバーのキャッチだったんだろーな。ゲイだ!ってんで目が眩んでたけど(笑)。やっぱ付いて行ったら揉まれたり咥えさせられたりしたんだろーか。でもゲイなのに? そういうのもちょっとオモシロイかな、とは思ったのですけど、万一エイズ持ちだったりしたら(別にゲイじゃなくても、知らない人とのセックスはビョーキが怖い)命に関わるので、やっぱり何事もなくてよかったー、と、実は超ド級の小心者であるわたしは、ドリーム号の中で一人胸をなで下ろしたのでした。でも本当に、何だったんでしょうね?

▲画面トップに戻る

▲ゲイ術手帖表紙に戻る

BACK!   GO!

inserted by FC2 system