ゲイ術手帖其の四

「エドワードU」(1997年イギリス・日本/監督=デレク・ジャーマン/出演=スティーブン・ウォーディントン、ティルダ・スウィントン)


 第4回にしてタイトルもようやく決定。「考えるひっと」に続くパクリネームとなりました(美術手○です)。今回はゲイの映画監督として有名なデレク・ジャーマンの「エドワードU」をご紹介。

 ジャーマンの映画の中では最も分かりやすい(と思われる)本作は、シェイクスピアと並び称される英国の劇作家、クリストファー・マーロウの戯曲を映画化したものだ。なるほど、それでちゃんと話の筋が通 っているので、何しろジャーマンの映画は、サブカル系映画館および書店ご用達の、難解な前衛映画なのである。それが、この作品では古典と前衛が見事に融合している。古典劇をここまでスタイリッシュに仕立てたのはさすがと云うほかない。低予算ゆえに、歴史モノには不可欠の豪華絢爛なセットや衣装は皆無だが、それがかえって良かった。タンクトップの王やシャネルっぽいスーツにサングラスをかけた王妃、パンクファッションの従者たちこの卓越したセンスはイギリス(と云うよりロンドン)映画でなければあり得なかっただろう。そして随所に現われるホモの点景。とにかくスキのない、完璧な出来栄えだ。

 エドワードU、というのは英国の実在の王様である。名君だった父エドワード1世とは違って、王としては無能だった。彼が後世に名を残すことができたのは、同性愛者だったことと悲劇的な最期ゆえである。政治には興味も才覚もなく、幼なじみのガヴェストン(もちろん男)を寵愛し、王妃イザベラには見向きもしない。当然イザベラは王を憎むようになり、やがてそのベクトルは権力欲へと向かう。そしてエドワードは、イザベラと愛人で貴族のモーティマーによっていたぶり殺されてしまうのだ(映画では逃亡説を採っている)。そのイザベラもモーティマーも最後には転落の憂き目を見る。まさに因果 応報、盛者必衰。王でなければ幸せになれたかも知れないエドワードはちょっと気の毒だが。しかし愛って本当に勝手なもんだなあ。

 エドワード役、ガヴェストン役の俳優は好青年で目の保養になるが、一番の見どころは(やおい的視点とは一切関係ないが)何と云ってもイザベラ役のティルダ・スウィントン。彼女はジャーマン作品のほとんどに出演しているが、この映画のスウィントンときたら、この世のものならざる美しさである。あの白鳥のようなキレイな首を見るだけでも映画を見る価値アリ。ジャーマンについてはまたいずれ語りたい。


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