ゲイ術手帖其の壱拾四

『同級生』(1998年イギリス映画/監督=サイモン・ショア/出演=ベン・シルバーストーン、ブラッド・ゴートン、シャーロット・ブリテン)


 恥ずかしながらもゲイ好きを吹聴していると、親切な情報が入って来るものです。半引きこもり生活で新しいお店や映画などにすっかり疎くなっていたわたしに、お友達が「既に知ってるかも知れないけど、『同級生』っていうゲイ映画がやってるよ。」とメールをくれました。な、何といういかにもなタイトル、しかもゲイ映画のメッカであるイギリス映画。これは観ておかなければ、と用事のついでに梅田スカイビルのシネ・リーブルに足を運ぶと折しもその日が最終日。そして、パンフレットの冒頭を飾る紹介文は、何と嶽本野ばら様であらしゃいました(by吹越満)。もうこれは運命です。神がわたしにこの映画を観るべく取り計らっていたとしか思えません。

 主人公のスティーブンは、やや内向的ですがごく普通の高校生です。将来のことは分からないけど、漠然ともの書きになりたいと思っています。彼はゲイであることを自覚していますが、そのことを知るのはお隣さんのリンダという女性だけ。そして、彼が恋するのは学校一のアイドル、ジョン・ディクソン。陸上部のエースで成績優秀、卒業後は名門オックスフォード大学への進学が決まっていて、恋人は美人モデル、というとにかく完璧な男子です。いわゆる"ハッテン場"的な公園のトイレで行きずりの男とセックスを交わすしかないスティーブンには手の届かない存在だったのですが、ある日、また出会いを求めてやって来たトイレで、隣の個室からメモが差し出されます。「外で会おう。」そこに現われたのは何と、憧れの人ジョンだったのでした…。

 学校を舞台にしたゲイ映画はいくつかありますが、『同級生』の舞台は共学です。特にイギリスの青春+ゲイ映画というと『アナザー・カントリー』『モーリス』などに代表される男子校(パブリック・スクールなど)でのあれこれ、という印象が強かったせいか、ゲイである主人公を応援してあげたりする女子の存在などはとても新鮮に映りました。勿論、現実の世界では珍しくも何ともないですけど。この映画ではクラスメートの女子のほかにも、お隣のリンダやスティーブンの母親など、女性たちが理解ある存在として描かれていて、何だかほっとさせられました。

 さて、主人公二人についてですが、早くからゲイであることを自覚しているスティーブンと、何だか分からないままにスティーブンに惹かれてしまったジョンとでは、恋愛関係に対するスタンスが違います。つまり、スティーブンは堂々と恋人として存在したいのですが、ジョンは周りの目を気にして、学校では口も利かないという冷たい態度を取ります。スティーブンの方が明らかに正しく、応援すべきであると云いたいところなのですが、「やりたいことをやればいいんだ」と思いながらもついつい横目で社会的成功や世間体を見てしまうわたしには、ジョンの気持ちは分からないでもない。確かに好きなのに、それだけは間違いないのに、どうしても堂々と振る舞うことができない……これはこれで結構つらいものでしょう。昔『モーリス』を観て、やはり社会的成功のために同性愛を捨てたモーリスの恋人クライブを苦々しく思いましたが、今はそうせざるを得ない立場も分かる気もします。うーん、大人になってしまったのでしょうか……。でもでも本当は正直に生きたいと切に思っているのです。この映画の原題は『get real』というのですが、帰る道すがら、秘密や嘘の多い我が身を振り返って、心の中で呪文のように"get real"と繰り返したことでした。

 美少年映画、なんて書かれ方もしていたようですが、どちらかと云うとヒューマン・ドラマの要素が大きいと思います(『トーチソング・トリロジー』みたいな感じか)。でも、ジョン役のブラッド・ゴートンという俳優は、ちょっと北村一輝を思わせるような男の色気があって、かなり目の保養になりました。これが映画初出演だそうですが、いつの日かまたゲイの役をやってくれることを願ってやみません。


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