キューバとブラジルって、何となく似ているなぁ…と思ったら、それは、どちらの国も色んな顔の人がいる―つまり、人種が入り乱れているからなんですね、多分。 片や、南米でも生活水準の高い国であり、もう一方は世界でも珍しい社会主義国。対照的な国体系であるのに不思議ですが、まあ国を作るのって結局”人”だしね。
色んな顔のお子さんたち。
後半は、訪れた町のことを、つれづれなるままに書いていきたいと思います。
まずは、トリニダー。キューバ島の真ん中あたりに位置する小さな町ですが、世界遺産に登録されている古都ということで、ハバナ以外でどこかひとつという場合、ここを選ぶツーリストが多いようです。
石畳の道、ひなびたコロニアル調の家々、その中にさりげなく葉巻工場があったりして、何かいかにも旅行者が喜びそうではありますね(笑)。でも皮肉ではなく、本当にいい感じ。町自体がアンティークのようで、歩いているだけで楽しめます。
しかし、前回書いたように、ここで泊まったカサの食事が…(悲しいので以下略)。 もうあと5ドル、いや10ドル出せば、アンティークハウスのような家に泊まれたかも知れないのになあ…。あのカサは部屋も普通だったし…。
トリニダーの家って、外観もそうですが、内装も素敵なのが多いのよね。大抵窓が開いているので、お散歩しながらちらっと中を覗くと、思わず目がハート型になりそうな、乙女レトロな空間だったりして。物がない社会主義国とは思えないくらい、贅沢な雰囲気なのです。
1軒だけ、あんまり素敵なので、頼んで中にお邪魔させてもらったお家は、家具だけでなく、やたらと古いものを持っていて、日本がまだ大日本帝国だった頃の世界地図&図鑑とか、色んな国の絵葉書なんかを見せてくれました。古いものを大事にしているのって、何だかうれしくなりますね。そーいや、問題のカサ(笑)でも、すんげー古い(でもカッコいい)冷蔵庫使ってたなあ。
チェ・ゲバラの霊廟があるサンタクララ。 ここはもう、ただゲバラ像を拝みにいくという、それだけのために訪れる町ですね。
『ゲバラ日記』も読んでいない無学なわたくしではありますが、キューバでちらほら見かけるゲバライコンを目にすると、何だかテンションが上がります。詳しいことは知らなくても、やっぱ圧倒的にカッコいいもんね。ルックスから何から。
鉛色の曇り空を背景に、黒くそびえるゲバラの像は魂が篭っているようで、不気味に迫力がありました。その迫力は、ゲバラの人となりを、そのまま表しているように思えました。
サンタクララの町自体は、ごく普通の住宅地といった感じでした。
建物も、まあどれも古いけれど、トリニダーのようなアンティーク感はさほどなく、普通に古い。泊まったカサの中はキレイでしたけどね。
残念ながら、不幸な事故(※後述)のため霊廟の写真がありませんので、代わりに、ハバナ市内で見たゲバライコン。
キューバ一の高級ビーチリゾート、バラデロ。 村上龍が「世界で一番美しい海」と云ったとか云わないとか…何かちょっと胡散臭い発言に思えるのはわたしだけ?(笑)
ビーチリゾートと云ってもそこは社会主義国、カンクンなどと違って、あんまり盛り上がっていない感じです。下手にキレイに整備されているので、閑散とした印象すら受けます。あまりに新しくて小奇麗なヴィラなんか見ると、不自然でさえありますね。何でキューバにこんなもんが?みたいな(笑。失礼か)。
海は綺麗だけれど、つい先だってカンクンのありえないほどブルーな海を見たばかりの目には、ちょっとインパクトが薄かったです。
リゾート地とは思えない普通のビーチ(笑)。
そして大トリは、首都ハバナです。何だかんだで、キューバで一番見ごたえのある街でしょう。
首都だけあって、かなり規模が大きく、セントロ、ハバナ・ビエハ、ベダード、ミラマール…etcの地域に分かれており、とても徒歩では周れません。
ハバナの街を歩いていたら、誰もが思うことでしょうが、とにかく建物が古いです。古いというレベルを通り越して、ボロいです。ボロッボロの域です。ハバナ・ビエハと呼ばれる旧市街は、世界遺産に登録されていて、ビエハ(古い)なくせに小奇麗に改装されていたりしますが、セントロ辺りの家は、ほとんど廃墟寸前(笑)。トリニダーの家のような、いい具合の発酵具合ではなく、ほとんど腐りかけというか何というか。 それでも、古さとボロさのギリギリのラインに立っているような建築物は、何とも云えない味わいがあります。地に落つる直前の果実のような…とでも云えばいいでしょうか。またわたしは、廃墟大好きだしねえ。なんか、廃墟を見ると、ワケもなくドキドキするんだよねえ。そんなボロ家のベランダに、たくさんの洗濯物がはためいているのなんか見ると、アドレナリンすら出るんだよねえ(笑)。
このボロ…いや古い街を、これまた古〜いマニア垂涎もののクラシックカーが、ガンガン走っているのがまた、とても麗しい光景なんですよね。 わたしは車には疎い人間ですが、単純に、古いアメ車の造形は美しく、ハバナの街にこれ以上ないほどよく似合っています。
これなんかはまだキレイな方(笑)。
車オンチのわたしでも乗りたくなるような美しいフォルム。
さて、ハバナ観光と云えば、ハバナ・ビエハのそぞろ歩き、キャピトリオ(旧国会議事堂)、革命博物館、ハバナクラブ博物館、ホセ・マルティタワー、内務省(ゲバラビル)、モロ要塞&カバーニャ要塞、ヘミングウェイの家…etcいろいろとありますが、わたしの中で絶対外せないことになっていたのが、「コッペリア」というアイスクリーム屋でした。 ハバナ一の高級ホテル「ハバナ・リブレ」の斜め前にあるこのアイスクリーム屋は、キューバでは知らない人がいないくらい有名な店で、連日、しかも朝っぱらからキューバ人たちが行列を作ってまで食べに来ているのです(ヒマなのか?)。最も、「そんなに云うほど美味しくはない」というのが、旅行者間でのもっぱらの下馬評ですが…。この行列がまた、もしかするとこのアイスも配給なのか?と思うほど長いので、そこまでして食べたわりには…となるのもまあ、いたし方ないことではありましょう。
しかし、金を持っているツーリストには抜け道があって、本当は0.4ドルのところを、外国人窓口(笑)で1ドル出せば、あっさり買えてしまいます。
でも、それでは何だか”負けた”感じがするので、無駄な行為とは知りつつ、キューバ人の行列に1時間近く並んでアイスを獲得。確かに、そこまでして食べなければいけない味ではありませんが(美味しいけどね)、わたしはどうしても、キューバ人と同じように「コッペリア」のアイスクリームを食べたかったの。 何故なら、「コッペリア」こそ、キューバ映画『苺とチョコレート』の重要な舞台となった場所だからです。
ラブリー&レトロな「コッペリア」の看板。
”苺とチョコレート”だなんて、何だか乙女チックなタイトルのこの映画は、乙女とは何の関係もないゲイ映画です(ある種の乙女には関係あるけど)。
自慢じゃないですが、大概のゲイ映画は観ているわたくし。アニパロ(聖闘士☆矢とキャプつば)から入った腐女子のわりには、けっこう真面目に正統なゲイカルチャーを勉強しているのよ(笑)。
ちなみに、わたくしがゲイ映画を鑑賞するポイントとしては、 @主役2人が美青年 A同性愛がタブーとなっている(という前提がある) Bゲイ映画としてだけではない奥行きがある といった点が挙げられます。それでいくと、『苺とチョコレート』は、@の点では今イチでした。主役のオカマちゃんが惚れるノンケの青年っつーのが、オカマちゃんに云わせれば「芸術的に美しい」んだけど、わたしから見ると「そうかあ???」なんだよね(笑)。
しかし、この映画はBの点数が非常に高いのです。
「ゲイ映画なんて気持ち悪いからわざわざ見ない」といった偏見の持ち主って、今だにけっこういると思うんですよね。実際、たまに好きな映画を聞かれて『モーリス』と答えると大概の人は知らないので「ゲイの話なんですけど…」と説明しだすと、萎える輩が多いんですよ。「ああ、ゲイ映画ですか;」みたいな感じで、それ以上突っ込んで来ないのよ。何だその反応、ゲイ映画は普通の映画より一段下にあるとでも云うのかよ!
…っと、つい激昂しそうになったわい。まあそんなわけで、この映画にはそれなりの思い入れがあるのですが、長蛇の列に並んだ末にアイスクリームを食べたあと、店の前にある映画館に何気なく目をやると…何とそこには、タイプライターで打ち出したような無骨な文字盤で、「FRESA
y CHOCOLATE(苺とチョコレート)」
!!!マジかよっ?!? 運命の出会いとはまさにこのこと。キューバで、ハバナでこの映画を見られるなんて、神様の贈り物としか思えません。
…ま、冷静に考えると、それほど奇跡的な出来事でもなくて、キューバでは、敵国のハリウッド映画なんぞ上映しないので、『苺とチョコレート』も、下手したら毎日流れているのかも知れませんけどね。
観ていない方も多いと思われるので、簡単に内容をご説明します。 主人公は、ハバナ大学の政治学科の学生でありダビドと、文化センターで働く芸術愛好家ディエゴという2人のキューバ人青年です。
出会いの場面は例の「コッペリア」。ダビドはチョコレートのアイスクリームを食べており、ディエゴは苺のアイスクリームを食べているのですが、この2つのアイスクリームは、共産主義者と民主主義者、異性愛者と同性愛者という、相反する2人の立場のメタファーになっています。
キューバは人種差別のない国と云われていますが、どういうわけか、同性愛者に対する偏見だけは強いようで、ディエゴは反革命分子として当局から目をつけられています。
バリバリの共産党員であるダビドは、当然ディエゴを「うさんくさいやつ」として警戒します。しかし、ディエゴの芸術的才能や自分とはまるで違う考え方に、ダビドは次第に興味を抱くようになります。
ディエゴは、ダビドに恋愛感情を抱きますが、ノンケであるダビドにはもちろん受け入れられません。それでも2人は、それぞれの立場を超えて、次第に友情を育んでいきます。
そのうちダビドは、ディエゴと同じアパートに住む女性ナンシーといい仲になり、ついでに童貞も捨ててしまいます(笑。ちなみに冒頭でダビドは前の彼女にふられています)。なんて書くと、どろどろした感じがしますが、この辺がカラっとしてて、すごくいいのです。ディエゴは、わざとダビドとナンシーを2人きりにしてあげて、さらには禁制品であるお酒までプレゼントしちゃうの。ディエゴおおお、お前は何ていいやつなんだ〜(涙)。
しかし、やがて当局のブラックリストに載ったディエゴが、亡命を迫られることに。いよいよ国を出る前になって、ダビドはディエゴとハバナの町を歩きます。そして最後に、ダビドには指1本触れなかったディエゴが、「抱きしめてほしい」と云って、2人は抱擁するのです。
このラストがもう、本当に切なくて切なくて…今これを書いているだけでも涙腺が…。 同性愛とか、共産主義とか関係なしに、他人を受け入れることの麗しさっていうんでしょうか。本当に美しい場面です。
映画館は古く、スクリーンには絶えずノイズが入り、昔むかしの映画でも観ているかのような画像の悪さに加えて、全編スペイン語で英語字幕なしというでかすぎるハンディキャップがあったにも関わらず、わたしは、感動、いやカタルシスすら覚えていました。この映画自体にはもちろんのこと、この映画をキューバで観られたということに。
映画館を出ると、まだ外は太陽がカッと照り付けていて、目の前が真っ白になりそうなほど明るくて、さっきまでスクリーンの中にあったハバナの街、映画の中でディエゴが「僕らは世界で一番美しい街に住んでいる」と云ったハバナの街に、自分が立っているのが、改めて不思議な感じがして、ボロボロの建物群がさらに味わい深さを増すのでした。
余談ですが、この映画館の売店は、おみやげマニアにはたまらん品揃えでしたね。
ゲバラモチーフのTシャツって、メキシコでは死ぬほどいろいろな種類が売られていて、わたしもわりとチェックしていたのだけれど、この売店で、これまで見たことのない絵柄のゲバラTを発見!キューバ限定モデル、いや、この映画館限定モデルかも?ふふ、これはメキシコに帰ったら自慢できそうだわ。
さらには、『苺とチョコレート』Tシャツまでが!まじかよ!?ま、これは誰にも自慢にならないけれども、これを買わずして一連の流れの感動は完結するまいて…。5ドルかぁ、ちと痛いなーと思いつつも、買わないワケにはいきませんでした(っても、日本円計算したら、5〜600円のものなのですが…)。
他にも、古きよき時代の映画ポスターの絵葉書がたくさん売られていて、これまたわたしの心を激しく揺さぶってくれましたね。キューバみやげは、ハバナクラブ(ラム酒)と、ココタクシーのミニチュアくらいしかないのか?と思っていたけれど、意外な場所にあったのね〜。
コッペリア内部(金持ち用)。
…っと、『苺とチョコレート』話に、どんだけ文章を割くんだオレは;
さて、もっとポピュラーな話題を…となると、やっぱ音楽でしょうかね。サルサの本場ですし。 ハバナのカーニバル、日曜日のルンバ大会(どうやらルンバの聖地らしい)、トリニダーの「カサ・デ・ラ・ムジカ」の前で行われていた野外ライブ…と、何やかんやでちょろちょろと音楽に触れる機会がありました。
娯楽の少ない国だけれど、その分(?)音楽とダンスのレベルは、素人目に見ても相当に高いなあと思いましたね。とにかく、老若男女誰も彼も踊っちゃうし、みんな上手い。カルロスも、部屋で音楽をかけると、自動的に踊りだしていたわ(笑)。遺伝子に組み込まれているんじゃないか?と思うくらいです。
キューバ最後の晩には、同じカサに泊まっていたMさんという日本人女子と連れ立って「カサ・デ・ラ・ムジカ」というディスコ&ライブハウスに行ったんですが、そこに踊りに来ているキューバ人の若いねえちゃんたちの腰の動きと云ったら、もはやありえない動きで、そこだけ独立した生き物なのでは?と思うほど、人間離れした腰使いでした。
わたしたちも、お近くの席にいたキューバ人の兄ちゃんたちに誘われて踊るんですが、大人と子供っつーか、象と蟻くらいの差が…。Mさんはそれでも、サルサを習っているのでステップが様になっていて、わたし1人だけ、腰の砕けたババアみたいによたついてんの(苦笑)。モンゴロイドの悲しさを肌身で感じたひとときでした。。。
ダイナマイトボディなキューバのムチャチャ(お嬢さん)。
しかし、あれですね、前回も書いたけれど、貧しいわりには貧しい雰囲気のない、悲惨な感じのしない国ですよね。
ディスコに来ている人なんて、誰もみすぼらしい格好していないもの。まあ、金持ちそうには見えないけれど、みんな普通にお洒落している感じ。最も、女性なんかはもともとの身体がゴージャスな人が多いから、何を着てもさまになるってことも大きな要因でしょうが…。
…といった感じで、キューバ旅は、大方平和に終わりつつあったのですが…。 最後にどえらい事件が起きてしまいました。
これは、キューバやキューバ人とは何の関係もなく、ただただわたくし一個人の中で起承転結された事件であります。 え?何かって?写真データ、全部ぶっ飛んだんだよ!!!バーロー!!!
本当に、一瞬の出来事でした。 所詮機械なんて、100パーセント信用できる代物ではないのです。いや、でも今回は明らかにわたしの作業ミス…。
愚かにも、わたしが自分の手でクリックし、写真という写真、ホームページのファイルの全てを消してしまったのです。何も答えてくれないパソコンを前に、何ひとつなす術もありませんでした。
ほとんど一睡も出来ず、それでもうとうとしかけると、尿意で何度か目が覚めました。 寝る前に水分を多く取ったわけでもないのに…。神経がおかしくなっているのかと思いました。 悔やんでも悔やみきれません。あれほどの時間と情熱をかけて撮り続けてきた写真…5000枚以上もある写真を、よりによって自分の一瞬のクリックで!
何なんだ? こんな風に全てが、積み重ねてきたものが数秒で消える人生って、何なんだ??? 悪夢でも見ているんじゃないのか?もうすぐしたら目が覚めて、「何だ、イヤな夢だったな;」って、胸を撫で下ろすんじゃないのか? …なんて、云うだけ空しい。目の前にあるパソコンの画面には、もはや何も残っていないのだから。
大体、何故今の今まで、CDに焼いて保管するという作業を行わなかったのか? そうだよ。それが問題なんだよ。普通はみんな、そうしてるだろーが。 何でお前はやってないんだよ!?何で今までほったらかしておくんだよ!?
嗚呼、悪魔に魂を売ってでも取り戻したい…。 それかもう、写真ごと自分の記憶を消してしまいたいよ…。
え?何ですか?たかが写真ごときで大げさなって?
あのすべてに、1枚1枚に魂がこもっているってのに?
何で、何でキューバ最後の晩に、しかも夜中にこんなことになるんだろう…。 いい思い出だけ持って帰れるはずだったのに、それを、自らの手で台無しにするなんて、もうイヤだ、こんな自分、こんな人生。
ゲバラビル。
※その後、カンクンに帰って、復元ソフトというものの存在を知り、8〜9割がたは何とか復活しました。。。 ※で、キューバ編の写真が偏っている(カーニバルや、ゲバラ像の写真がないとか)のは、それが原因ではなく、のちにCDに焼いたデータが、ことごとく壊れていたという惨事によるものです。これもほんと、今思い出しても胸が痛むよ…。
(2003年11月19日 ハバナ) |