旅先風信94「キューバ」


先風信 vol.94

 


 

**謎の国キューバ/苺**

 

“キューバ”というと、わたしは即座にバナナを連想します。
それは、バナナプランテーションのことではなくて、幼少のみぎり、50カ国くらいの国の首都名を覚えるという天才少女の真似事をしていた頃の印象にさかのぼります。
どういうことかと云いますと、キューバの首都ハバナの響きが、子供心にバナナに似ているな〜、じゃ、ハバナは”バナナみたいな名前”で覚えよう…なんて思ったんですね。
…などと、まともに説明すると実にバカバカしくてイヤになりますが、それが今も、記憶のずいぶん底の方で、かけらのように残っているのです。

そして、一応年齢的には大人になったわたしが、キューバと聞いて思い浮かべるものは…。
まず社会主義。キューバ危機。カストロ議長。チェ・ゲバラ。野球。ラム酒。サルサ。アーネスト・ヘミングウェイにブエナビスタソシアルクラブ……ま、バナナよりはだいぶ現実的になりましたか。
こういった具体的な単語以前に、キューバという国は、どこの国にも似ていない、かなり独特のイメージを抱かせます。悪く云えば、最初っからどうしても色眼鏡で見てしまいます。
何と云ったってまず、今どき社会主義国家。世界でも絶滅の危機にある社会主義が、中国などとは違って、かなり純粋な形で保たれているのですから、そりゃもう「どんなことになってんだ?」って思いますよね。とにかく色んなことが”謎”に包まれている、未知なる国というイメージは、きっと多くの人が抱いているのではないでしょうか。

HABANA168.JPG - 31,999BYTES キューバと云えば、やっぱゲバラでしょうか。

南米で会ったGさんは、「期待して行っただけに…失望した部分も多かったな。ただ、治安だけはめちゃめちゃよかったよ」と云っていました。
治安がいいというコメントは新鮮でした。何しろ、中南米諸国で”治安がよい”という評判を持つ国は、そうそうないのです。これも社会主義のなせる業なのでしょうか?

カンクンでお会いした『HIT THE ROAD』ののりさんは、ちょうどそのとき、キューバから帰って来たところでした。
感想を聞いてみると、「とにかく…メシがマズすぎる。実は、それが耐えられなくて、予定を1日早めてカンクンに戻ってきたんだよね;」とのこと…。
キューバの食事については、そのような噂を小耳に挟んではいたのですが…そんなマズイんかい!退散するほどに…。経済制裁のために物資が極端に少ないということが理由なのでしょうか?でも、途上国でもメシが美味い国はちゃんとあるしなあ。。。

キューバへのアクセスは、メキシコのカンクンから飛行機で1時間。
その飛行機、エア・クバーナ(AIR CUBANA)は、今まで乗った中で一番マトモじゃないシロモノでした。
まず、座席が自由席(笑)。席と席の幅がものすごーく狭く、背もたれのリクライニングはなくほぼ直角、前に折りたためてしまうというワケの分からなさ…。
さらに、出発直前、どこからかスモークのようなものが湧き出てきて、機内が真っ白に!何だ、何の儀式なんだ!?
ま、これは事前に他の旅行者から聞いていたので、パニックにはならなかったけれど、知らなかったら「墜落すんじゃねーの?!」って本気で命の危険を感じただろーなー…。

というわけで、もう入国する前から何やら異様な(笑)キューバ。果たしてどんな国なのでしょうか…ドキドキ。

ハバナの空港に到着したのは夕方近くでした。
この日はもう、宿を確保するだけです。本当ならケチって市バスで行きたいところですが、最初からあまり難易度の高いことをするのも面倒なので、他の旅行者たちから聞いていたとおり、大人しくタクシーに乗りました。
このタクシーが何と12ドル!それも、交渉して下がった値段です。うーむ、しょっぱなから何という痛い出費…。しかしキューバというのは、絶えずこういう勢いでお金が出て行くことを、後々知ることになります。

目指すのは、メキシコシティの「アミーゴ」で一緒に麻雀をしたIさんに教えてもらった、ベダード地域にある、とあるCASA(カサ)。
カサって何なの?それはですね、キューバではホテルに泊まる以外に、カサ=人の家に泊まるシステムが出来上がっているのです。もちろん、無料じゃないですよ(笑。だとしたら、どんだけいい国だろうか…)。これについては後述します。

タクシーの運ちゃんに、カサの名刺を見せて下ろされたところは、3階建ての古いアパートの前でした。ふーん、ほんとに普通の人の家なんだな…。
若干緊張しながらノックすると…返事がありません。何度も叩いたり、かなり大きく叩いたりするのですが、何の反応もない。
まさか誰もいないとは思っていなかったわたしは、不安を覚えつつも、とりあえず少し待ってみることにしました。もしかしたら寝ているのかも…と、ときどき思い出したようにノックするのですが、待てど暮らせど誰かが帰って来る気配もなく、誰かが出て来る気配もなく…。外はどんどん夕闇に包まれていきます。アパートのベランダから、改めて見るハバナの町。この辺はごくごく普通の住宅街といった感じです。もしここがダメだったら、どこに行けばいいんだろう…。ああ、こういう勝手の分からない国で1人というのは本当につらい。
しょっぱなからつまづくなんて、さすがだな、わたし。とりあえず今日は、ハンモックでもかぶってここの床で寝ようかしら。トイレは、そこに置いてある観葉植物の鉢にでもするとして(笑)…って、そんなのヤだよ。くっそー、早く帰って来いよなあ…。

家主のカルロスが現れたのは、それから1時間もした頃でしょうか。
あまりに待たされてテンションも何も下がりきっていましたが、カルロスはとても陽気で親しみやすい兄ちゃんで、「おー、ごめんよごめんよ。心細かっただろうねー。夕食の買出しに行ってて遅くなってしまったんだ」と素直に謝られると、ふてくされた気分も収めるしかありません。
そしてその晩は、もう1人いた宿泊者の日本人の男の子と3人で、ちょうど開催されていたカーニバルを見に行くことになりました。カーニバルの本場である南米ではまったく見られなかったので、これはラッキー。しかも、人生初カーニバルです。
物資の乏しい国のせいか、パレードの車の飾りつけとか衣装が、学芸会っぽい感じのけっこう安っちいつくりだったりはしましたが(笑)、カーニバル自体の規模は大きく、多くのハバナ市民が詰めかけていました。社会主義の国では、こういうのは数少ない貴重な娯楽なのかもなあ…。

さて、その後は早速ハバナを出て、キューバの真ん中辺りに位置する古都トリニダー、チェ・ゲバラの霊廟があるサンタクララ、再びハバナに戻って美しい海とビーチの町バラデロを訪れ、そして残りをハバナ観光に持って来るというコースを取りました。
もう少しお金と時間に余裕があれば、キューバ最東端にある第2の都市サンチアゴ・デ・クーバまで足を延ばしたかったのですが、1週間の日程では、これがギリギリです。

前編では、それぞれの町のことをお話しする前に、旅行者的観点から、キューバが他の国とはどのように勝手が違うのかを、予備知識として解っていただいた方が話を進めやすいので、以下、項目別でいろいろ書いてみたいと思います。

●お金と物価のこと●
キューバの通貨はキューバペソ(そのまんまやね)。1ドル=26ペソ、というのが両替レートですが、はっきり云って、現地通貨ペソで買えるものなんて、何もありゃしません(苦笑)。買えるのは、屋台のひと口ピザ、瓶入りジュース、市バスのチケットくらいです。
われわれ旅行者にはドルの物価が、宿代から観光・交通費にいたるまで、ほぼ強制的に適用されます。このドル物価と現地のペソ物価は著しく乖離していて、もちろんドルが激高で、ペソが激安。ちょうどジンバブエの公定レート:闇レートくらいのかけ離れ具合です…という説明は分かりにくいか。うーんそうだな、ブリトニー・スピアーズとわたしの顔くらいかな(余計分からん)。
それにしても、アメリカと敵対しているキューバが、その敵国の外貨の獲得に必死になっているのは、皮肉としか云いようがありません。結局、金の前にはどんなイデオロギーも膝まづくしかないのでしょうか?…いや、難しい話はやめましょう。

まあ、そんなわけで、キューバを旅するにあたっては、兎にも角にもドルが必要になってきます。アメリカ産の打出の小槌・クレジットカードなんてものは使えないので、ドルキャッシュは命綱。わたしも、カンクンで唯一(?)ドルキャッシュを引き出せるATMで用意して来ました。
それから、ペソはほとんど役に立たないので、うっかり10ドル20ドルと両替してしまったら、出国時に最両替できなくて、泣きを見ることになります。

●宿のこと●
先にも書いたように、キューバには、カサ=人ん家に泊まるシステムというのが出来上がっています。キューバでホテルと名のつく宿は、すべて中級以上なので、われわれバックパッカーは大概、この”カサ”にお世話になるのです。まあ云ってみれば民泊なワケですが、タダではなく、食事代込みの料金を払って泊まります。多分、キューバCASA協会だか連盟だかの組織があって、そこに加盟している家は外国人を泊めてもいいことになっているみたい(家の前に、何かそういう札みたいなのが貼ってあるの)。

しかし、このカサも、決してお安いというワケではないのです。
相場は大体10〜25ドルと、安宿と云うには結構なお値段。一応、ひと部屋が与えられるので、2人旅なら安く上がるんだけどさ…わたしは1人だし。いつだって1人さ(涙)。
これを宿と考えると高く感じてしまうので、前向きに「キューバの一般家庭で過ごすホームステイ」と発想の転換をした方が、多少なりとも納得がいきますかね。
カルロス宅なんて、ほんと普通のアパートだもんね。玄関開けたらすぐリビングで、キッチン、バス&トイレ、寝室、そして10畳くらいの屋根裏。宿泊客がいる間は、カルロスはリビングのソファで寝ています。

トリニダー、サンタクララでもカサに泊まりましたが、サンタクララのはよかったですね。清潔感あふれるプライベートバス&トイレでお湯シャワーばっちり。カルロスんとこのは、シャワーが微妙だからね…。食事はなしでしたが、12ドルでなかなかお買い得ではありました。

●食事のこと●
気になる…というかむしろ、心配だった食事情。
これはしかし、カルロス宅に泊まったことで、かなり救われました。
というのも、カルロスの作る食事はけっこう美味しかったのです。内容こそ、芋の揚げたやつとか、豆ごはんとか、野菜のスープとか、素朴すぎるほど素朴なんですが、これが何故か美味いんですよ。聞けば、以前は(今も?)どこかのホテルでシェフをやっていたとか。なるほどね。

HABANA216.JPG - 62,213BYTES 素朴で美味しいカルロスご飯。

翻って、トリニダーで泊まったカサは、他より安かっただけあって(でも15ドルで、カルロスん家と同じだ)、マズイを通り越して悲しくなるような食事でしたねー。あれはもう、色んな意味で忘れられない食事でした。
その日は、ハバナから8時間もバスに揺られて、ちょっとお疲れ気味だったのです。そこで出てきた夕食が、薄い薄い肉がちんまり乗っかった塩味の白飯に、白豆の付け合せ、バナナ1本とリフレスコ(※キューバの清涼飲料水)、終了。しかも、全部冷めてる。。。
あの肉を見たときは、もうゲンナリとか、ムカつくとかを通り越して、「ああ、キューバってやっぱりすげえ貧しいのかな…」とか「そういやこの家、主人のオヤジと、ほとんど動かない老婆だけしかいないもんな…」なんて生活の裏事情(?)までに思考が及んでしまって暗い気持ちになり、いらぬ疲れを増やしてしまいました。

なもので、翌朝の朝食なんか全っ然期待していなかったけれど、直径4センチくらいのカンパンみたいなビスケットが3枚に、バナナ1本、コップに3分の1だけ入ったコーヒーという、驚異的なマズシさ…。
オヤジはしかし、無邪気にも「昼食は3ドルでどうだ?」って…バーロー!絶対外食に決まってんだろっ!はあ、何かもうやるせなくなるよね(苦笑)。

しかし…外食つっても、これまた食べるものがないんだよね(苦笑)。
どこの国でも、屋台での買い食いなんかが楽しかったりするものですが、キューバの屋台で売られているものといったら、ひと口ピザ、ハンバーガー、アイスクリームくらい。このピザにしたって、果たしてピザと呼んでいいのかどうか…だって、チーズトーストに毛の生えたようなシロモノですよ。ハンバーガーにいたっては、中身が鶏肉の削り節(涙)。まあ、食えないほどマズイわけではないにしろ、あまりに選択の余地がないのが、ねえ。

HABANA204.JPG - 49,431BYTES ハンバーガー(涙)。

唯一、外食で満足したのは、サンタクララの安食堂。
散歩していて偶然見つけた、完全に地元人用の食堂でしたが、定食が1ドル(ペソ払い)と安く、量もたっぷりで味もなかなかでした。何だ、探せばこういうのもあるんじゃん!キューバもやればできるじゃん!(笑)ガイドブックの取材以来、安くて美味しいレストランを掘り出すと、心の底からうれしくなるわたくしです。

あと、ハバナには、バリオチーノと呼ばれる中華街があって、どーしてもカサの食事が不味かったりレストランがダメダメだったりする場合は、とりあえずセーフネットとしてここに来るのもいいかも知れません。
わたしも昼食にと、20ペソでテイクアウトの焼飯弁当を食べました。味は…まあまあとしか云いようのない、中華にしては今イチなレベルでしたが、店ならもっと美味しいのかも知れません。

●交通のこと●
旅行する上で、常に”外国人料金”が適用されるキューバでは、移動にも当然のように金がかかります。
都市間の移動がとにかく高い。ハバナ→トリニダー間(7時間)が25ドル、トリニダー→サンタクララ(2時間)が8ドル、サンタクララ→ハバナ間(4時間)が15ドル…ってもう、キューバの物価とキューバ人の平均月収(約10ドル)を考えたら、爆笑したくなるような値段です。

一方、市内間の移動は、タクシーアメリカーノという、何だか不思議な名前の乗合タクシー。こちらはペソ払いで、1回10ペソとまあ安くて便利で、さらにはアメ車のクラシックカーに乗れるというオマケもありで、一番よく利用していました。
それをさらに上回る安さなのが、一般市民が利用する市バスで、たったの0.5ペソ。しかしこれ、うっかり乗ろうとしてエラい目に遭いました。
あるとき、ウロウロしすぎて自分がどこにいるのか分からなくなって、たまたま市バスのバス停を見つけ、「これなら確実に帰れるかな」と列に並んだんですよ。ところが、この列がまるで便秘のように動かない。前の方を見ればどんどん客を乗せているようだし、後ろにはどんどん人が並んでくるのですが、何故か一向に順番が回ってきません。一体どういうシステムなのか、そして列のキューバ人たちは何とも思わないのか…。しかし、いったん並んだ以上、今さら列を出るのもあまりに悔しく、精神が壊れそうになりながらひたすら順番を待つこと…何と1時間!1時間あったら、歩いて帰れたんじゃないのか!?

もう少しお金持ちのツーリストなら、ココタクシーに乗るのもいいかも。
丸くて、ココナッツの形に似ているのでこの名がついています。日本で云うと、人力車に値するくらい(?)のミーハー観光用乗り物ですが、遊園地の乗り物みたいでとっても可愛いのさ。わたし?わたしは乗ってないです。ケチだから。

HABANA150.JPG - 54,382BYTES これは、わたしの乗った市バスとは違うけれど、「グアグア」という、一般市民の乗り物。えらく巨大。

●物のこと●
アメリカの経済制裁が続くキューバには、とにかく「物がない」と聞いていました。
その辺は、食事情にも表れていますが、通常の途上国の物の無さとはまた違った、もっと徹底的に、きれいさっぱりない感じ(笑)ですね。まともなものを売っている商店と云えば、ハバナで1軒だけ、小さなスーパーのような店しか見つけられませんでした。そこだって実に殺風景で、大した品揃えでもないけれど、「プリングルス」などの外国製品が置いてありました。当然ながら価格はドル表示です。

しかし、物がないわりには、不思議と貧しい雰囲気はありません。いや、貧しいのはそうだとしても、悲惨な感じの貧しさではないというのかしら…。ほとんどの人が貧しくて、それがスタンダードになっているから貧しさが際立たないのでしょうか。

●人のこと●
これも旅行者情報をいろいろと聞いていると、「チーノ(中国人)攻撃がすごい」「すぐに金(ドル)をせびってくる」の悪評2本柱で、どうも芳しくないようでした。
Gさんは、「すごいいい雰囲気で葉巻吸ってるばあさんがいてさ、思わずカメラ向けたら、速攻で『金』って云われたよ」なんて話をしていましたっけ。
まあこれは、キューバに限った話ではなく、途上国ではよくあることなのですが、多分誰もがキューバには”他の国とは何か違うものがある”というイメージを抱いていて、それを裏切られた感じがするんでしょうね。社会主義なのに金せびんなよ!みたいな(笑)。
わたしは、珍しくキューバでは、どちらの攻撃もほとんど受けませんでした。まあ皆無じゃないにしても、思わず胸倉つかみたくなるようなムカつくのはなかったです。会う人は素朴で、陽気で、穏やかで、余計な干渉もしてこなくて、普通に親切で。ブラジルとちょっと似ているかも知れません。

…と、こんなところで、大体のアウトラインを掴んでいただけましたでしょうか?
ってか、こんなに前置きの必要な国って、何なんだ?(笑)

HABANA166.JPG - 41,482BYTES ハバナの街角。いい感じの老(?)夫婦。

(2003年11月20日 カンクン)

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