旅先風信93「メキシコ」


先風信 vol.93

 


 

**貧乏でもリゾートinカンクン**

 

オアハカを出たあとは、サンクリストバル・デ・ラス・カサスという、南部チヤパス州の町に行きました。
本当は、ここはグアテマラに向かう途中、つまりメキシコ出国の際に立ち寄ろうと思っていたのですが、オアハカから、次の目的地であるカンクンまでの直通バスはなく、どうしてもサンクリストバルを経由しなければ行けないということで、半ばやむなくの訪問です。

とは云え、一応目的もありました。
折りしも11月1日死者の日に、カサギさんという日本人が、サンクリストバル(長いので以下サンクリで)に宿をオープンしたのです。わたしは、カサギさんのことはあまり知らなかったのですが、シティのアミーゴにいるとき、Kくんや管理人のSさんが、「カサギさんのTシャツを作ろう!」という計画で盛り上がっており、わたしもその場のノリで「デジカメ持ってるから、サンクリに行ったらカサギさんの写真撮ってきて、メールで送りますよ」と、協力を申し出たのです。今回、予定よりはだいぶ早いけれども、サンクリに行けば、カサギさんの写真を撮れて、そうしたらTシャツもその分早く作れるではないか…ということで、サンクリに行くメリットはちゃんとあったわけです。

宿はオープンしてまだ3日目でしたが、アミーゴで会った、メキシコ人フアンと日本人Kさんのカップルが第1号のお客として宿泊しており、わたしは3人目の泊り客でした。宿そのものは、まだまだこれからという感じですが、カサギさんと、宿の世話人(管理人)である通称”先生”が、手作りで宿を作っていこうとしている様子が、何だか健気で微笑ましくて、応援してあげたくなっちゃいますね。
Tシャツの話を知っているKさんが、事前にカサギさんに話をしてくれていたおかげで、撮影の件はスムーズに進み、フアン&Kさんと先生の立会いのもと、1時間にわたる撮影会が繰り広げられました。カサギさん本人も、「ちょっと待って、衣装を替えてくるから」などとノリノリで、かなり盛り上がりましたね。(※その後、Tシャツは無事完成、詳しくは「カサコスのページ」で)

KASAGI.JPG - 27,469BYTES こんなラッパ飲みショットもありました。でも、これはポーズではなく、日常の姿なんですけどね…。困ったおじさんです。

サンクリにはまた、グアテマラに行く際に再訪する可能性が高いので、とりあえず3日で切り上げて、カンクンに歩を進めました。
実は、カンクンでは、非常に楽しみにしていた約束があったのです。

このHPにときどき登場する、リアルタイム旅行記『HIT THE ROAD』の作者のりさんが、ちょうどこの時期、会社の休みを取って、キューバ旅行に来ることになりました。
残念ながら、わたしのキューバ行きの日程とは外れてしまいましたが、のりさんがキューバからカンクンに帰って来る日には、何とかわたしもカンクン入りできそうだったので、それではカンクンの日本人宿「カーサ吉田」にてお会いしましょう、という話になったのです。

アフリカ縦断祝いをはじめ、わたしの旅を何度も励ましてくれたのりさん。まさかこの旅で実際に会えるとは思ってもみなかったので、会うことが決まってからは、緊張と期待で毎日どきどきしていました。のりさんのページは前々から読んでいたし、メールもやり取りしているから、或る程度は、その人となりを予想はできるのですが、それでも、初対面は初対面です。しかも、こちらは、云ってみれば”ファン”の立場なわけだし…。
のりさんは、わたしをどんな人だと思っているんだろう?大半は、HPからの情報だから、さぞかし性格の悪い女だと思われているだろう…いや、それでも旅を応援してくれているのだから、嫌われてはいないはず…などと、余計なことをあれこれ考えてしまうのでした。

ところが、そんな心配とは何のカンケーもない、困ったことが起きてしまいまして…。
サンクリを出発したバスが、途中のパレンケでタイヤをパンクさせ、しかもその修理に恐ろしく時間がかかってしまったのです。
のりさんと会える日はたった1日しかないのに、それも明日だけなのに、何でこんなときに限って事故ってんだよ…ありえないよ…。わたしは、自分の運のなさを、ひしひしと呪いました。呪いついでに、バスの関係者に当り散らし、バスの車体をボコボコ蹴ったりして、ウサを晴らしていました…。
それにしても、乗客たちは羊の如く大人しくて、 感心しつつも半ば呆れ返ってしまいました。だってさー、運転手も一言くらい、「どういう状況なのか」ってことを告知してくれてもいいと思うんですよ。それが、急に止まったまま、何の音沙汰もないんだもんな。パンクしたのだって、外に出て聞いたから知った話だし。それでみんな、何であんなに従順に、文句ひとつ云わず暗闇の中で座って待ち続けているのか…メキシコ人は心が広いのか?

本来なら朝8時着のはずが、4時間以上も遅れて12時過ぎに到着しやがり、汗だく&乱れ髪状態で、何とか「吉田」にチェックイン。宿帳に名前を書いていると、奥の方から男性が顔をのぞかせ、「…あ、野ぎくtちゃん?」と声をかけてきました。
一瞬の間をおいて、わたしは、その男性がのりさんであることに気がつきました。
HPにたまに出てくる本人写真で、何となく顔は知っていたのですが、実際ののりさんは写真よりもずいぶん若く見えました。さらに云うなら、写真よりも男前でした(笑)。
簡単に自己紹介めいたものをしたあと、「着いたばっかりで疲れてるとかじゃなければ、海でも行く?」と誘ってくれました。疲れていようが何だろうが、のりさんと過ごせるのは今日1日だけ、ここは這ってでも海に行かねばなりますまい!

カンクンと云えば、何はさておいても、美しいカリブ海&ビーチ。
何しろカンクンは、世界に名だたるリゾート地であり、アメリカからも近いこともあって、アメリカ人観光客たちが山盛り来ています。彼らをターゲットにした、いかにもアメリカ的な、大掛かりな外装のアミューズメント施設やショッピングモールが、これまた山盛り建てられています。
「吉田」のあるセントロ(中心地)からビーチへは、バスで30分。けっこう遠いな(苦笑)。ビーチの広がるエリアは、”ホテルゾーン”と呼ばれ、何と20キロにもわたって高級〜中級ホテルが軒を連ねています。マリオット、ハイアット、シェラトン、リッツ・カールトン、フィエスタ・アメリカーナ…われわれバックパッカーとは、縁もゆかりもないホテルばかりですが、目下われわれが向かっているのは、ホテルゾーンの奥の方に位置するヒルトンホテル。
何故かって?ヒルトンのビーチは、パブリックビーチと隣り合っており、柵などもないのでカンタンに入れてしまうのです。監視がゆるいのか、勝手にデッキチェアを使っていても、プールで泳いでも、誰にも文句云われません(笑)。マリオットなどは、宿泊者でなければビーチには入れず、利用者の手にはヨソ者と区別するためにリボンが巻かれるんだとか。ま、ヒルトンだって、宿泊者しか利用しちゃいけないんだろうけど(笑)。

ヒルトンビーチに行くと、「吉田」の宿泊者らしい日本人たちが、5〜6人来ていました。みんなビンボーだなあ…。その中には、汐見荘海鮮三昧仲間、M&I さんカップルの姿も。
とりあえず、のりさんとわたしはデッキチェアを確保し、太陽の下で寝そべって、お互いの旅話に花を咲かせます。
のりさんとついに会えたという感慨はもちろんですが、わたしはそれ以外に、もうひとつの感慨にむせび泣いていました。何かっていうと…ついに殿方と一緒にビーチに繰り出すという経験をした、ってことですよう!
いやー、色んなところでも書いてきたけれども、わたしはこれまで、”ビーチリゾートに行くときは必ず1人である”という悪夢のようなジンクスに呪われてきました。たまたまだろ、と云われそうですが、それは違う!だって、1回や2回や3回くらいなら、「ま、ついてなかったのね」と納得もできようけれど、わたしの場合はねえ、そんな生半可な回数じゃないのよ!具体的に数えるのも面倒なくらいなのよ!

…はっ、つい積年の恨み(?)が爆発してしまいましたが、ともかくもこれで、例のジンクスとはオサラバしたわけです。はーよかった。やっぱビーチは男性同伴がいいですよねー。たとえ実際はカップルじゃなくても、一応ハタ目にはカップルに見えるでしょうし(まさか親子には見えないだろう)。やっぱリゾートは3つのS、すなわち、SEA、SUN、SEX。海と太陽と男と女なのですよ!これでわたしも一人前のビーチ人間になったわけですね(何のこっちゃら)。
M&I さんカップルも、波間でお姫様抱っこなんかして、きゃっきゃ云ってます。おーおーおーって感じですが、ま、ビーチなので許してあげましょう。

それにしても、カンクンの海は、ありえないほど美しいですね!
誰かが「シティバンクの看板の色」だと云っていましたが、確かに(笑)、あのグラデーションによく似ているよなあ。人工的とすら思えるくらいの青さなのですよ。
これまで、地中海(特にエーゲ海・アドリア海)が世界で一番美しい海だと思っていたけれど、カンクンのカリブ海は、あれを越えたかも…何だかもうねえ、美しいのを通り越して、恐ろしいくらいの青さなんですよねえ。今まで見てきた”海”、わたしの頭の中にイメージしていた”海”って、一体何だったの?って感じです。海という固定観念をくつがえすほどの、カリブ海…ううむ、恐るべし。

CANCUN1.JPG - 32,857BYTES わたしの写真の腕前では充分表現できませんが…とにかく本当に、本っっっ当に青いんだってば!

のりさんは、まだまだ旅の長いわたしに、”救援物資”すなわち、日本食をあれこれ持って来てくれました。ケープタウンで小包を開けたときのことを思い出し、胸がつまりました。
わたしが図々しくもお願いしていた文庫本も、ちゃんと探して買って来ていただき、さらには、日本の音楽を入れた外付けHDDまで…しかしこれは結局、何故かうまくつなげずに、残念なことになりましたが。

外付けHDDをつなぐのに苦戦するのりさんを隣で見ながら、わたしは、「ああ、もしわたしにお兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかも知れないなあ…」と、甘ったるい感傷を覚えました。
長旅する妹のところに、あれこれと救援物資を持参する兄。うーん、何て麗しい兄弟愛でしょうか(笑)。
ま、兄ってのは云いすぎとしても、学校だか会社だかで可愛がってくれている先輩みたいな感じで、何だかいいもんだなあと思いましたね。でも、先輩ってのは、間違った記述ではないんですよ。旅とHPのれっきとした先輩ですから。

のりさんの飛行機が早朝だったので、「もう今日は寝ずに行った方がいいですよー。フライト長いみたいだし、飛行機の中で寝ればいいんですよー」などとそそのかし、徹夜で話し込んでしまいました。1秒を惜しみ、沈黙すらもったいないと思って、わたしは喋り続けました。ときどき、「あ、くだらんこと喋ってるかも…」と反省しつつも、なかなか口を閉じることができませんでした。それで、のりさんには「HPの感じとかなり違うよねー」と、少々驚かれてしまいましたが…。

1日足らずの短い邂逅でしたが、旅の神様から贈り物をもらったような、そんなひとときでした。
のりさん、どうもありがとうございました。とりあえず、帰国したら、預かっていただいた荷物を引き取りに行きます(笑)。

………

この後、キューバでの1週間を挟んで、再びカンクンに戻って来ました。
2002年の冬、エジプトのダハブでダイビングの免許を取ってから、カリブ海で潜ることがひとつの夢というか目標になっていました。カンクンエリアは超ツーリスティックかつ全てがお高い場所なので、ダイビングも相当な値段になるのかと思いきや、2ダイブで55ドルと、予想外に普通の値段。これは潜らない手はないでしょう。

とは云っても、そう何本も潜れるという値段でもないので、どこか1箇所に決めなければいけません。
わたしが選んだのは、カンクン・カリブエリアの中でも、最も美しいと云われているコスメル島でした。『地球の歩き方・メキシコ』によれば、”普通で100フィート、いいときには200フィートにも達する世界有数の透明度を誇っている。(中略)マンタやハンマーヘッドシャークなどの大物に会うことも少なくない”とのこと。ま、要するに、とてもレベルの高いダイビングポイントだということです。
そんな素晴らしいコスメルなのですが、大きな問題点がありました。それは、宿代が高いこと。『歩き方』に載っている最も安い宿がシングル・ダブルともに21ドル…その次に安いのは35ドル…。「吉田」の1泊9ドルでもひーひー云いながら払ってんのに、そんな高い宿に泊れるワケねーだろ!だからと云って、カンクンからの日帰りは厳しい…うーん、どうしたものか。。。

悩んでいると、折も折、「吉田」に泊っていたHさんというダイビング大好きなお兄さんが、やはりコスメルで潜りたいという話をしていたので、「2人で行って、高い宿代をシェアするってのはいかがでしょう」と持ちかけ、計画は成立。善は急げとばかり、翌日早速コスメルへ向かいました。

カンクンからコスメルまでは、バスとスピードボートを乗り継いで行きます。
バス代が高いのはいつものことですが、このスピードボート代もまた、18ドルとありえない値段で、「ううむコスメル、何から何まで金のかかる場所じゃのう…」と、早くも打ちのめされてしまいました。
さらに、コスメルに着いた夜の晩ご飯も、安い食堂をあちこち探し回ったのですが…ない。タコス屋台すらない。あるのは、金持ち観光客向けのツーリストレストランばかり。
リゾート地とはいえ、一応”地元の人”も住んでいるわけなのに…何故だ!?
1時間近く探し回ってやっと、町のはずれの方に、タコスを出している食堂を発見し、2人して貧しくタコスを齧りました。
本当のところ、Hさんはそれほどお金に困っている旅行者ではないのですが、わたしの方が、全身から強烈に”金がない”オーラを発しているので、Hさんも気を遣って、一緒に安食堂を探し歩いてくれたのでしょう…すみませんです。

さて、ダイビング当日の朝。
さわやかに目が覚めたのはいいのですが、外に出てみると…天気がすごく微妙。
「ああ…やっぱりな…」とわたしは、絶望的な気持ちでため息をつきました。
と云うのも、わたしがカンクンに来てからというもの、どうにも天気がよろしくないのです。のりさんとビーチに行った日はまだしも、その後も毎日ビーチに繰り出すも、わたしが「さーこれから日光浴…」とデッキチェア(ヒルトンのね)に寝そべったとたん、どんよりどよどよ…と雨雲がお出ましになって、あっという間に空が真っ黒になる…ということが、3回くらい続いたのでした。
M&I さんに、やっぱわたしって雨女ですかね?と相談(?)すると、「確かに…野ぎくさんがカンクンに来てから、雨の日が多くなっている気がする…」と、けっこう真面目に云われてしまい(苦笑)、ブラジルから引きずっている自らの”雨女疑惑”を、またしても深めることになりました。

Hさんには、気のせいだって、ホラ、そっちの空は曇ってるけどさ、あっち側は青空が見えてんじゃない、これから晴れるよ…と慰めていただくのですが、いったんネガティブな思考に陥ると、戻って来られなくなる性格なので、「ダメっすよ。今日もどうせ雨っすよ。すみませんね、わたしが雨女なばっかりに…今日のダイビングはきっと、サイアクっす。潜っても何も見えないっすよ」などと、非常にふてくされたつぶやきを繰り返していました。サイテーの女だなお前は…。
性格の暗い女が雨女ってのは、実にお似合いだぜ、まったく…わたしの心はすっかり荒みきっていました。

それでも、天候はその後、完全回復とは云わないまでも、快方に向かっていきました。
せっかくのカリブ海、しかもその最高のダイビング・スポットで潜るのですから、”雲ひとつないピーカンの青空”でなければ気が済まないところですが、まあ、仕方ありません。何しろ雨女が1人混じっているからな(←まだ云うか)。

今回のダイビングは、ボートダイブです。
免許を取ったエジプトのダハブでは、全ダイブ、ビーチダイブ(ビーチから歩いて潜ること)でした。しかし、今回は、ボートでびゅーんとどこかの沖まで連れて行かれ、そこからいきなりどぶんと潜ってしまうのです。
船上からの入水方法は、2通りあって、ひとつは船尾から、歩くように一歩を踏み出し、そのままざぶーんと水に入る方法。もうひとつは、船のへりに腰掛け、後ろ向きに頭から飛び込んでしまうというもの。バック転のような感じですね。で、今回は、後者の方法で潜りましょう、ということになりました…って、ちょ、ちょっと待って、超コワイって〜〜〜!!!
1年近く潜っていないというブランクが、恐怖心をさらに倍増させます。大丈夫、インストラクターもいるし、Hさんもバディについているじゃないか…と頭では分かっているけれど、けれど、けれど…。きらきらと輝く水面が、何かとてつもない怪物のように見えてきて、パニックの渦に今にも呑まれそうになります。やっぱダイビングなんてやるんじゃなかった…とまで思ったね。ほんと、自分でも意味不明なくらい怖くなってしまったんですよ。でも、ここまで来て潜らないワケにはいかない。まさに、”清水の舞台から飛び降りる”ような思いで、海に飛び込みました。

COZMEL13.JPG - 61,111BYTES さわやかなブルーの水面。ゼリーみたいで美味しそう…しかし、潜る前はとてもそんなことを思う余裕はない。

ところが、いったん潜ってしまえば、あとはケロっと平気になるもんです(笑)。不思議なことに。
何ごともそうですが、”飛び込む瞬間”というのが、一番怖いんですよね。うむうむ。ダイビングから人生を学ぶというわけですね(何のこっちゃ)。
前のダイビングのときも書きましたが、ダイビングに必要なのは、平常心です。多分。
ちょっとでもこのバランスが崩れると、「息ができなくなるんじゃないか」「溺れるんじゃないか」「窒素酔いするんじゃないか」…といった恐怖が、むくむくと湧いてきて増幅してしまう。何しろ、地上の常識は、水の中では適用されないからね。そして、パニックに陥って、よけいに事態が悪くなる。だから、大丈夫、ここ(水中)は安全な世界だ、と自分に云い聞かせ、あとはひたすら魚と戯れるのを楽しみ、水中世界に没頭することが大切。まるで、ダイビングの教科書に書いてあるような文句ですが、本当に、心からそう思ったんだよ〜。

水中世界は、まるで宇宙のようです。世界は青いフィルターの中にあり、そこに生きているすべての生物が、不思議な色と形をしていて、さまざまな色の艶やかな魚たちが、あるものは光のように俊敏に、あるものは燃える火のようにちろちろと泳いで、目の前を過ぎていくさまの美しさ。脳みそのようなかたちの海草。毒々しいほどに鮮やかなサンゴ。ここは、わたしたちの住む世界とは全く違う世界、違う秩序のもとに動いている世界なのだ…。それにしても、何という新鮮な世界でしょうか。自分が万華鏡の中に入ったみたいな…。

船の上で感じていた恐怖は、もはやまったくありませんでした。あっという間にカリブの水中世界の美しさに引き込まれ、40分少々の潜水時間が短く感じたほどです。何というゲンキンな、喉元過ぎれば熱さを忘れる人間でしょうか。天気がよくないとふてくされていたことも、何処へ行ったのやら、という感じです。Hさんも呆れ返っていたことでしょう…。

カンクンのヒルトンビーチとコスメルのダイビングで、カリブ海も充分に満喫したのですが、わたしはさらに欲張って、イスラ・ムヘーレスに足を延ばしました。
ここのことは、何で知ったのか忘れましたが、とにかく美しい島であるというのが前々から記憶にあり、カンクンに来たら必ず足を運ぼうと思っていたのです。イスラ=島、ムヘーレス=女(たち)、で”女の島”というネーミングも、何やら心をくすぐる響き。カンクンから船で1時間弱、という近さも魅力的です。

ここもやはり、リゾート地ではあるのですが、どちらかというと、”田舎の漁村”色が強い。カンクンのように、豪華で巨大なホテルが乱立している代わりに、”海の家”的な小さなホテルが点在していて、とてものんびりした雰囲気です。
金のない人向けリゾート、とでも云えばいいでしょうかね。ほかのカンクンエリアに比べて、パッカー人口比率が格段に多い気がします。そーか、貧乏パッカーはカンクンの何処にいるのかと思ったら、ここにいたのだね。で、『歩き方』を見たら、ここはかつてのバックパッカーの聖地だったそうで、なるほどねーと深く納得しました。

この日も、真っ青な空ーっ!というわけにはいかず、悪くはないがよくもない、薄ぼんやりした天気でした。「やっぱ雨女なのか…」と打ちひしがれながらも、とりあえず、島の北に位置するビーチ、プラヤ・ノルテで日光浴です。ビーチは観光客が大挙しており、彼らの足跡で砂地はボコボコ、ゆえに大して美しいとは思えませんでしたが(美しいビーチというと、つい、平らな白い砂地がどこまでも続いている絵を想像してしまうのよね)、お昼寝するにはいい気候。毎回しつこく云いますが、ビーチでの日光浴&お昼寝って、何でこんなに気持ちいいのでしょうか?この気持ちよさだけは、貧乏人も金持ちも平等なんですよねー。は〜、しあわせなり〜。

日光浴に飽きたら、小さな島をぶらぶらと散歩。ブーゲンビリアの鮮やかな赤い花が咲き乱れ、いかにも南の島らしい風景を作り出しています。町にひとつだけある小さな白い教会。その前の広場で遊ぶ子供たち。木造の簡素な民家。はためく洗濯物。この島の時間は、たいそうゆっくりと流れているような気がします。
こういう島で数日ゆっくりする、っていうのもなかなか魅力的なプランなのですが、1人でビーチでゆっくりしても、ただヒマなだけかも知れない…と冷静になり、大人しくカンクンに戻りました。

ISLA MUJERES40.JPG - 54,289BYTES イスラ・ムヘーレスの夕暮れ。

と、そのような感じで、貧乏人のせせこましいリゾート生活は終わりました。そう云えば、カンクンエリアにいる間、わたし何食べていたんでしょう?「吉田」にいるときは、スーパーで食材買って自炊していたし…少なくとも、レストランに入って何かを食べた記憶は皆無です(あ、のりさんにおごってもらった1回だけ)。
やっぱ、リゾートは金があればあるほど楽しい、というのが、反論の余地なき残酷な真実ではあります。
しかし、それでも、海&ビーチはいいもんである、というのもまた真実です。そういうわけで、今後も懲りずに、ビーチリゾートにいそいそと(金も持たずに)出かけていく所存であります。

ここからは、至極効率の悪い回り方であることを承知の上で、再びメキシコシティに戻ります。死者の日やらのりさんに会うのやらで、いろいろすっ飛ばしてきたもので。まだまだ見たいものがたくさんありますからね、メキシコには。
とりあえず、このあとは、メキシコで最も有名な遺跡のひとつ、チチェン・イツァーに行ってきます。

(2003年11月 カンクン)

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