旅先風信90「ベネズエラ」


先風信 vol.90

 


 

**空回り**

 

エンジェル・フォールツアーが無事終わって、もうベネズエラでやるべきことの9割はやった…というような気分になっていましたが、キョウコさん曰く、
「そりゃまあ、エンジェル・フォールとカナイマが、ベネズエラ随一の見どころではあるけれども、ベネズエラって意外と観光資源が多いんよ」。
まずは『失われた世界』のロライマ山。これは、エンジェル・フォールと並んで有名ですね。
世界最長のロープウェイがある、コロンビアに近い避暑地メリダ。巨大アナコンダが見られるサバンナ、ロス・ジャノス。カリブ海リゾート、ロス・ロケス島にマルガリータ島。先住民族の住むカウラ川沿い。
…などなど、けっこうバラエティに富んだラインナップなのです。

わたしは、ツアー後の予定を決めかねていました。
とりあえず、11月1日の死者の日からの逆算で、最低でも1週間前にはメキシコに入国しておきたいところです。
でも本来なら、ベネズエラの後は、コロンビア、エクアドルと進んで、そこから中米のパナマに飛ぶ計画だったのです。あと2カ国行くには時間が足りない…いや、でも頑張ればやれないことはないかも…。

それにそれに、キョウコさんが「近々、トリニダード・トバゴに行こうと思うんやけど、野ぎくちゃんも行く?」と誘ってくれたので、それも捨てがたいと思っているのです。
トリニダード・トバゴ…というのは、カリブ海に点在する島国の1つですが、ベネズエラからは意外と近いのです。多分この機会を逃したら、こんなマイナーで日本から遠い国に来ることなんて、おそらく、95パーセントはないもんなあ(まかり間違って、5パーセントはありそう)、ぜひ行きたい…って、ああ、一体どうしたらっ?!

…と、さんざん悩んだ結果、やはりここまで来て死者の日をあきらめきれないので、残された日数は、ゆったりとベネズエラ国内を回ることにしました。
それで冒頭に戻るのです。意外と見どころの多いベネズエラ、さてどこへ行きましょう?

わたしが選んだのは、巨大アナコンダのロス・ジャノスでした。
と云うのも、マナウスのアマゾンツアーでさほど大物を見られなかったわたしは、「巨大アナコンダ」「巨大ワニ」「ピラニア入れ食い状態」というのを聞き、よっしゃここでリベンジじゃあ!と思ったのです。いつからそんな動物好きになったのでしょうか。謎です。
ロス・ジャノスへのツアーが出ているメリダも観光しつつ、その後はカラカスで真面目にエアチケットを探す。これに決定。さようなら、コロンビア、エクアドル、そしてトリニダード・トバゴ(舌噛みそう)…。縁があれば、いつかまた、行くこともあるだろう…。

シウダ・ボリバールから夜行バスでバリーナスという町に向かい、そこからローカルバスに乗り換えてメリダに到着したのは正午過ぎ。
早速、ロス・ジャノスへのツアーを申し込み、翌日から出発となりました。
ツアーは2泊3日。しかし、メンバーの誰かの都合で半日削れるとのこと。
初日は、メリダからひたすら車を飛ばしてサバンナ地帯へと入って行きます。途中の昼食休憩以外はひたすら移動でした。

そしてその夜、ツアーのメインイベントのひとつ、ワニ狩りへ出かけます。狩りと云ってもわれわれがやるんじゃありません。ガイド君が捕まえて来るのです。
闇の中で待っていると、ガイド君が、ワニを抱いて帰ってきました…おおっ、これはけっこうデカイぞ。全長1メートル20ってとこか。マナウスのミニワニとはえれー違いだ。ガイド君の腕に抱かれて、標本のように大人しくしていますが、やはり凶暴なのか、口はしっかり縛られています。

LOS LLANOS06.JPG - 42,080BYTES 捕われのワニくん。

翌日は、ボートトリップに乗馬にアナコンダ狩りという、盛り沢山なメニュー。
ボートトリップでは、アマゾンに続いてのピラニア釣りがありました。待ってました!
これが実によく釣れるので、嬉しいったらありゃしない(笑)。何てったってアマゾンの人食い魚・ピラニアですよ。それも、わりと立派な大きさのピラニアなので、「釣った!」感があって、嬉しさも倍増です。
ちなみに釣ったピラニアは、その後の夕食でフライになって出て来ました(笑)。
このボートトリップは、景色も美しく、途中、巨大なカメや河イルカも見られたりして、なかなか充実の内容でした。

LOS LLANOS17.JPG - 33,798BYTES ピラニア。歯がめちゃくちゃ立派。。。

その次の乗馬はそれなりに楽しんだのですが、メイン中のメインイベント・アナコンダ狩りが…。
何と、いなかったんだよ!!!アナコンダが!!!バカバカ!アナコンダのバカーーーッ!!!
ほぼ100パーセント見られると聞いていたアナコンダが見られないなんて…「今は雨季の終わりだから、なかなか出てこないんだよね〜」って説明されてもなあ…ああそうですかって、大人しく納得出来んっ!(泣)
そりゃ、仕方ないのは分かってる。ガイドたちはみんなちゃんと探したんだろうし。誰も文句なんか云ってないし。でもわたしは、さすがに口に出しては云わないけれど、心の中では相当フテくされていました。
ここに何しに来たって、アナコンダ見に来たんだよ。それが見られなかったら、何しに来たか分かんないじゃん…。
というか、普通は見られるものが、見られないということに、相当打ちのめされてしまったのです。それってもしかして、わたしのせいなんじゃ?わたしがものすごく雨女で、マイナス思考で、日頃の行いが悪いからなんじゃないのか、なんて…(←だから、その思考だっつーの)。

LOS LLANOS19.JPG - 68,385BYTES アナコンダは見られなかったので、代わりにカピバラを…。宿泊所の庭にいました。

さて、ツアーのメンバーは、オランダ人のカップル・アレクとソングル(名前が難しくて発音出来ないので、とりあえずこの表記)、イギリスとギリシャのハーフ・キモン、イタリア人のジュリアーノとベネズエラ人のアナのカップル、そしてわたし、ガイド君はコロンビア人のホセという、えらく国際色豊かな顔ぶれだったのですが、わたしはここで、久々に語学コンプレックスに打ちのめされることになったのでした。

相変わらず英語が出来ない。もちろん、スペイン語はもっと出来ないけど…。
この旅の1年半というもの、一体何百回、語学コンプレックス(主に英語)に悩んできたことか…。
それでも、何人ものツーリストや地元人やガイドなどと話すことで、少しは改善されていると思っていたけれど、でも、やっぱり駄目みたい…。スペイン語は独学だし、知って日も浅いから仕方ないとしても、どうしてこんなに英語が下手なんだろう???

例えば、ネイティヴでもないオランダ人カップルの、あまりにも流暢な、付加疑問文を華麗に操る英会話。食事の席で、半分も分からないまま何となく聞いていると、ご飯の味なんてほとんど分からなくなります。頭の中はもう、まともに話せない&聞き取れないコンプレックスと、「わたしがここにいていいのだろうか…」という被害妄想でいっぱいで、自然、表情も暗くなっていきます。

下手でも積極的に話せばいいと人は云うけれど、大人と子供くらいの違いがあるんだよ?でも、本当の年齢は彼らと同じかそれよりも上で、頭の中は子供じゃない(ある意味子供だけどさ)。言葉のレベルと思考のレベルが追いつかないのは、本当に、本当につらい。でも、そのつらさを、努力で克服できない自分が、さらにつらい。
イタリア&ベネズエラカップルは、英語なんか全然喋れないけれど、2人だけの世界でスペイン語で話していて、それで満足そうだし。わたしだけ浮きまくりじゃん…。

夜、食事が終わってから寝るまでのフリータイム、ろうそくの灯りの中で、楽しそうに英語で談笑するオランダ人カップルに、キモンに、ガイド君。最初はその輪の中にいたけれど、だんだんつらくなって、わたしはテントに戻りました。
テントの中は、かすかなろうそくの火以外は、ほとんど真っ暗でしたが、どうやら、ジュリアーノとアナが、クスクス笑いながらいちゃついている様子。
うわ、イヤなところに帰って来たな…気マズー…。でも、今さらあの輪の中に戻る気もしないし…。ええい、わたしにだってテントにいる権利はあるんだ!つーか、もうほんと寝よう…寝るしかない。
ハンモックに身を横たえて目を閉じましたが、2人のささやき声が耳について、そして何よりも、暗い思考が頭を巡り巡って、なかなか眠ることができませんでした。

その後も、メンバーに対して友好的な気持ちになれず、早く終わらないかなー、1人になりたいなーと、ついつい感情がマイナス方向に働いてしまっていけません。
それでも、流暢に話せるみんながやっぱりうらやましくて、ふと、ガイド君に、
「コロンビア人なのに、何でそんなに英語が上手なの?どうやって勉強したの?」
と尋ねてみました。彼の英語は、ガイドをしていて上手くなったというレベルではなく、すでに身体に染み付いているような発音に聞こえるので、不思議に思っていたのです。
「種明かしをするとね、僕のお父さんがアメリカ人なんだ。僕も何年か向こうに住んでたんだよ」
彼はそう云って、いたずらっぽく笑いました。
わたしは何だか拍子抜けして、なーんだ、そうかー、なるほどねー、なんてバカみたいに納得の相槌を打っていましたが、まあだからと云って、わたしの英語がどうにかなるワケでもないんだよな(苦笑)。

LOS LLANOS24.JPG - 79,850BYTES アナコンダを探すの図。

その後メリダに帰っても、わたしの心は鬱々として晴れませんでした。晴れるどころか、どんどん下降して行きました。
夜、1人で部屋にいると、
「もうこのまま死んでもいいんじゃねーのか…。この先…いつまで経っても、何十年生き続けても、何も分からないし、何も出来ないし、何の成長もないのかも知れない。それならもう、明日の朝、目が覚めなくてもいいような気がする」なんて、思わずノートに書き綴っているわたし…
我ながら暗すぎるではないか。仮にも旅行中なのに(苦笑)。
シウダ・ボリバールとエンジェル・フォールでは、かなり調子がよかったのに、何なんだこの落差は…?

この後のメキシコ。死者の日。予想されるいくつかの再会…そして新しい出会い。
そんなものにも、ほとんど心がときめかない。何故なんだろう…未来への期待が湧いて来ない…。
でも、それでもとりあえず、旅は続けるしかない。何故かと聞かれても困るけれど。
だって、他に何が出来るだろう。未来がどうであれ、こんな中途半端なところで帰国なんて、考えられない。

憂鬱であろうが何であろうが、観光マシーンのわたしは、メリダもせっせと観光します。
でも、こういうダウナーモードのときって、物事がいい方に進まないんですね…。
まずは、世界最長12.5キロメートルのロープウェイ「テレフェリコ」に、10ドル近く払って乗りました。このロープウェイは、ベネズエラ最高峰・ピコボリバール(5007メートル)の、4765メートル地点まで行ってくれるというステキな乗り物で、晴れていれば、テレフェリコの中から、それはそれは素晴らしい眺望が見られたのに違いありません。
ところが、この日はあいにくの曇天…。いや、曇天どころか、濃霧&吹雪。天気最悪。めちゃくちゃ寒いわ、何も見えないわ、10ドルも払っちまったわ、靴は泥まみれで湿ってるわ(※先日の乗馬の際、湿地帯を歩いたため)…もう頂上に着く前から帰りたい気分でいっぱいです。

頂上に着いたら、当然のごとく何も見えず、びゅうびゅう吹雪いて寒いのなんの。
山小屋は、暖房が効いていないらしく、雨風をしのぐだけのものでしかありません。ああ、寒い寒い寒い…1秒でも早く下山したい…でも、こういうときに限って、ロープウェイーが全っ然来ないんだよ!10時過ぎに乗って、もう1時半だぞ!ぶるぶるぶるぶる…。

MERIDA05.JPG - 38,569BYTES 吹雪の中、頑張るお兄さん@MERIDA04.JPG - 38,411BYTES

ということで、世界一のロープウェイは、何にも面白くなかったのですが、メリダにもう1つある世界一のものは楽しめました。もともとわたしは、どっちかと云うとこちらの方を楽しみにしていたんですよね。
それは、”世界一メニューの多いアイス屋”。
ギネスにも乗っているというこの「COROMOTO」というお店には、何と806種類ものアイスがあるというのです。806って!一体何をどうしたら806種類も作れるんや?!

壁一面にみっしりと書かれたメニューを見ると、んもう圧巻というか、バカバカしいというか(笑)、ぽかんとしてしまいます。
さすがに806種類ともなると、謎の味がてんこ盛り。牛肉とか、ツナとか、エビとか、サーモンあたりですでに「???」なんですが(笑。寿司屋かよ)、アフリカ味、ロンリープラネット味、果てはタイタニック味なんてものまで…いや、だからそれ何味なの?と禅問答的に尋ねたくなりますっての。「メリダの夜に愛をこめて」なんてのもあったな。
しかし、全種類のアイスを常時置いているわけではないらしく(そりゃそうだよな)、店頭に並んでいるのはその内のごく一部…まあ、一部と云ってもざっと50種類くらいは並んでいそうです。

MERIDA18.JPG - 46,380BYTES メニューのごく一部。

悩みに悩んでわたしが選んだのは、トマト味、ニンニク味、アボガド味、ツナ味の4種類。一応、コンセプトとしては”サラダ風味”ということで。
何と云っても気になるのはニンニクです。果たして味の方は…。
「甘くてニンニク臭がする」アイスでした。いやそれ、同居できるもんなの?と頭では疑問なのですが、不思議と合っている…ようなそうでもないような(笑)。
ツナ味も、トマト味も、甘いんだけど、何故かちゃんと”それ風味”なんですよねー。アボガドは普通に美味しい。
摩訶不思議なお味でございましたが、想像していたよりもイケました。サラダを食べた気に…はならなかったな(笑)。

メリダを出た後は、まったく気乗りしない首都カラカスへ向かいました。
中南米の首都というのは、たいがいどこも危ないという噂がつきものですが、このカラカスという街は、その中でもトップクラスの危険値を誇っているそうな…って誇るなよ!
ベネズエラで生活しているキョウコさんですら、「カラカスはほんまに危ないからなあ…」と、しみじみ云うくらいなのです。
つい先日も、カナイマのツアーで会った日本人夫婦が、「カラカスで強盗に遭いましてね…。空港からタクシーで宿に乗りつけたんですが、タクシーを降りてすぐやられたんですよ」なんて話していましたっけ…あな恐ろしや。

しかし…わたしはこの、大して見どころがあるワケでもない危険都市に、どうしても行かねばならないのです。DEATH。
メキシコ行きの航空券を買う。それもなるたけ安く。この任務を遂行できるのは、首都カラカスだけなのです。シウダ・ボリバールの「アドレナリン」でも調べてもらいましたが、カラカスで買う方が断然安くなるであろうとのこと…。

そんなわけで、わたしは、これまでにない緊張と警戒心を持ってカラカスに入ったのでした。
まず、夜行バスが着くのが、カラカスの端の方にあるバスターミナル。そこからセントロ(旧市街)までは、メトロと呼ばれる地下鉄に乗って行くのです。そう、カラカスには何と地下鉄がある!地下鉄は文明の象徴ということで、カラカスの都会っぷりが伺えます。

このバスターミナルから、地下鉄の駅までは徒歩で行かねばなりません。ここが最初の難関。かの悪名高きヨハネスブルグのパークステーションを思い出しますね。1歩でも出たら5分以内に殺ラレル、というね(笑)。そこまでではないにしろ、大変危険と聞いていたので、かなりビビっていました。
ターミナルを出るなり、わたしは鬼のような形相で、客引きだか何だか分からない人の群れを猛然と掻き分け、まっすぐに地下鉄を目指しました。赤い布に向かっていく闘牛の如しです。

『歩き方』によれば、安宿はセントロにしかないようで、しかも具体的な宿の名前は載っていません。
…ということで、自分で歩いて探します。ああ、イヤだ…危険って云われている街を、全財産背負って、カモネギのようにさまよい歩くなんて…。
また、あんまりないんですよね、安宿っちゅうものが…。大体どこでも、安宿エリアみたいなのがあって、そこに何軒か集中しているもんですが、それが見つけられません。
それでも何とか1軒の安宿を探し当て、いかにもセキュリティの甘そうなフロントに、少々不安を覚えつつ、泊まることにしました。

荷物を置いた後は、夜行疲れを取るべくシャワーを浴びて、少し仮眠。
昼から旅行会社探しに出かけました。ついでに、両替の出来そうな場所も。
ツーリストインフォに聞いてみると、旅行会社の集まっているのは、サバナグランデと云われる都市部エリアとのこと。セントロよりも近代的で、高層ビルの立ち並ぶオフィス街といった雰囲気です。
メキシコシティまでの片道だと、距離的に300ドルくらいか…と踏んでいました。両替マジックを考慮すれば、もう少し安いかも知れない、なんて期待していましたが、甘かった。どの旅行会社でも、400ドルを下りません。下手したら500ドル、600ドルなんてのも!たかがあれだけの距離で、ありえるか???

この日は結局、目ぼしい物件が見つからないまま、大体の相場を知っただけで終了。
翌日は土日で、旅行会社はお休みです。いきなり出鼻を挫かれた気分でしたが、まあせっかくの空き日なので、サンタフェという、カリブ海沿いのビーチタウンに出かけることにしました。
まあビーチと云ってもリゾートでもなくて、田舎の漁村といった風情の小規模なものですが、さすがにカリブ海、海はとても美しい水色をしています。
浜辺に数件並ぶ安ホテルのうち、「Cafe der Mar」という名の宿を取り、日がな1日ビーチでごろり。宿でごろり。ゆるき週末です。

しかし、気がつくとここでも憂鬱な気分に襲われて、旅をしていること、部屋でしこしこと旅行記を書いていることが空しくなる、ダメなわたしなのでした。
こんなビーチにまたも1人で来て、わたしは何をやっているんだろう。頭洗ったばっかなのに、何でこんなに頭がカユイんだろう。パソコンの調子が何でこんなに悪いんだろう。何でビーチまで来て雨なんか降って来るんだろう。ああ、そして、チケットはどうなるんだろう…。何だか全部が空回りしている気がしてなりません。

SANTAFE02.JPG - 28,721BYTES 初カリブ。

あまりのんびりする気にもなれず、とか云いつつ2泊した後、カラカスに戻りました。
そしてまたチケット探しです。旅行会社に加え、航空会社にも直接当たってみました。マージンのない分、安くなるだろうと踏んだのですが、やっぱり高い…。どう頑張っても400ドル以下はなさそうです。もう20日だし、そんなに時間もない。この辺で決めるしかないのか…。

しかし、チケットを買うに当たって、ひとつ避けて通れない問題がありました。
闇両替をどこでするべきか。前にも書いたかも知れませんが、ベネズエラは現在経済崩壊中で、公定レートと闇レートの差がかなり開いており、誰も銀行で両替なんかしないのです。
チケットが安くならない以上、この闇両替マジックで何とか少しでも安く買えないものか…いや、トクしないまでも、損な両替をするのだけは避けないと。両替サギになんかあったら、一巻の終わりだもんな。何たって、闇両替には苦い思い出があるし(@ブルガリアジンバブエ)。

それでわたしは、愚かにも日本大使館に行って、闇両替情報を尋ねることにしたのでした。
大体、公然とまかり通っているとは云え、闇両替は一応違法。違法行為の手助けを、大使館が教えてくれるはずもないことは、百も承知ではあったのですが、案の定「そういうことは大使館ではお教え出来ません」だって。
でも、話の感じからすると、自分たちはどこか秘密の(?)場所で、やっぱり闇レートで換金しているっぽいんだよねえ…こっそり教えてくれたっていいのにさ。

さらには、わたしがセントロの安宿に泊まっていることを話すと、「…悪いことは云いませんから、この辺りの、新市街のホテルに泊まられた方がいいです」ときっぱり云われました。そりゃねえ、金があったら金で安全を買いたいのは、山々なんですよ。でも、新市街のホテルなんて、最低でも20〜30ドルするでしょう。
「新市街のホテルは高いのでムリです」
「いや、それでも!セントロは本当にやめて下さい」
そんなこと云うなら、あなたの家に泊めて下さい…。

何と云われようとも金はないのですから、今のホテルに泊まり続けて、何とかやり過ごすしかありません。
日中、人の多い通りを歩いている分には、そこまで危ない感じはなく、普通に歩いて、屋台のアイスクリームを買い食いしたりしているのです。飲食から服飾から日用品から、とにかく屋台がたくさん出ていて、雑多な感じが楽しい。
部屋に侵入された形跡とかもないし…。少なくとも、”北斗の拳状態”なんてことは、全くありません。大都会ですから、行くところに行けば、そういう危険地帯もありそうですが…。
まあしかし、油断していると痛い目を見るのがいつものパターンなので、なるべくカメラは出さないようにとか、気をつけてはいますけどね。

CARACAS13.JPG - 34,044BYTES ベネズエラの英雄、シモン・ボリバール。

ああ、それにしても…頭が痛いのは両替問題。
セントロの銀行の辺りに個人両替商がいるって情報もあったけど、いなかったしな…。
せめて誰か同じバックパッカーがいれば聞けるのに、全く見かけないし…。

しかし悩んでいる時間も、そんなにはありません。
こうなったら、グランサバナの通りを歩いていて声をかけてきた、謎の両替商のところに行くしかない。その時は話半分に聞いて、チラシだけもらって立ち去ったのです。
もらったチラシには、「TELCEL」と書いてありました。文字通り、携帯電話ショップのようでした。何でこんなところで両替が…と大いに不審感が募りますが、店自体はちゃんと携帯電話屋として営業しているようです。
他に当てがない以上、ここに賭けるしかありません。でも、やっぱり不安だ…。

さんざん旅行会社を周った末、約400ドルの片道チケットが一番安いという結論に至り、それでも「高いな…」と思いつつ、これに決めました。決めるしかありません。
タカ航空というコスタリカの航空会社で、直行便ではなくコスタリカの首都サンホセにトランジットするという便です。
あとは、この分のお金を両替して払い込むだけです。

夜は危なくて出歩けないので、部屋で閉じこもっていると、不安でイライラしてきます。
カナイマでサンドフライにやられた足が、どうしようもなくかゆくて、それがイライラを加速させます。部屋にも蚊がいて、容赦なく刺されるので、ホントかゆくてしょうがない、でも蚊は逃げ足が速くて殺せない…ああ、もうっ!
大体…そうだよ。「死者の日」にこだわらなければ、こんな気苦労も、余計な出費もなかったんだ。それで、コロンビアとエクアドルに行って、パナマに安く飛べたんだ(多分)。何なんだ。死者の日って。バカみたいだ…。
シャワーを浴びようと思いながらも、水シャワーなので気が進まず、ベッドでゴロゴロしたまま時間が過ぎていきます。ちなみにわたしは、どんなに暑い国にいても、水シャワーがキライです。最初に冷やっとするあの感覚に、どーしても慣れないのです。暑い国でも、夜はけっこう気温が下がったりしますしね。

とりあえずパソコンをつけよう。キョウコさんにもらったオザケンの「LIFE」を聞いて気分を紛らわそう。
「♪遠くまで旅する恋人に〜あふれる幸せを祈るよ〜」とオザケンが歌う。
誰かがこんな風に、わたしのことを思っていてくれたらいいのにな。1人で安宿の暗い部屋で口ずさむと、涙が出そうなフレーズ。
「僕らが旅に出る理由」か。そんなのあんのかなって思って、歌詞をノートに書き起こしてみたけれど、答えは書いてないみたいだ。

翌朝。相当神経質になっていたわたしは、両替分のドル紙幣を、デジカメに収めるという意味不明な行動に出ました。
これで、万一盗まれたりサギられたときに、一応紙幣番号は分かるし、それで足がつくかも知れん…なんて、甘甘すぎる考えなのは百も承知。心の慰めのためにやったまでのことです。

CARACAS03.JPG - 50,486BYTES 意味のない写真(苦笑)。

まるで1000万円入っているアタッシュケースを抱えているような心持で、「TELCEL」に出向きました。
「TELCEL」は、とある雑居ビルの1階にあるのですが、店舗は通りに面しているわけではなく、ちょっと奥に入ったところにあります。
370ドル分の紙幣をすべてボリバールに換えるまで、わたしの神経は切れそうなほどに張りつめていました。周りにいる店員だか何だかの若い連中が、いきなり強盗に豹変しないだろうか…とビクビクしつつ、紙幣から一瞬も目をそらさずに、その過程をじっと見続けていました。ジンバブエのときみたいなトリックはなさそうだ。偽札でもないし…。何とか、何とか無事に終わってくれ…。

…何事も起こりませんでした。
これであとは、偽札でさえなければ大丈夫だ。
一応大金なので、「TELCEL」を出たあとは、わき目もふらず真っ直ぐに旅行会社に向かいました。そして、耳をそろえてキッチリ航空券代を払い込み、晴れてわたしはメキシコに飛び立てることが確定したのでした。はああー、長かった、ここまで…(文章も長かった…すみません)。

チケットを無事入手し、わたしは残された南米最後の時間を、ひたすら歩いて過ごしました。微妙に余りそうなベネズエラ通貨の使い道を探しつつ…。
髪でも切ろうかな。2〜300円で切れそうだし。それとも、昨日ショッピングセンターで見かけた日本食屋でご飯を食べようかな。
明日には南米を去るのかと思うと、明日にはまったく新しい未知なる場所に降り立つのかと思うと、過剰に不安で、過剰にセンチメンタルになります。たった数日居ただけのカラカスも、ここが南米最後の地かと思えば、急に愛しく感じられ、オレンジジュース屋台のおっちゃんの笑顔が、妙に心にしみたりします。

CARACAS06.JPG - 46,806BYTES 大都会な風景。経済崩壊の前は、かなり豊かな国だったようです。

翌日は、昼の出発でした。
最後は中途半端にも「ウェンディーズ」で昼食を取り(南米最後の食事なのに…)、いよいよ空港へ。
空港行きのシャトルバスは、カラカスヒルトンホテルの近くから出ています。実はヒルトン周辺は、金持ちを狙った強盗が出没するので危ないと聞いており、まあ数日前にその辺をうろついていてある程度下見しているとは云え、「ここで襲われたら一巻の終わりやな…荷物丸抱えだし」と、最後まで気を抜けない危険都市カラカスなのでした。疲れるなあもう…。

残りの小銭で、ベネズエラでよく飲んでいた「マルタ」という黒砂糖ビールを引っかけながらバスを待ちました。いよいよお別れか…。ああでも、ここまで来たらもう、何も心配することはないんだ、バスに乗って、飛行機に乗って、それで終わり。

…しかし、そうやって安心した途端、何かあるのがわたしってやつなのさ。
空港に到着してまず、バックパック用のダイヤルロックがないことに気づきました。これまで一度たりとも閉め忘れたことのないカギを、どうやら宿に置き忘れて来たらしいのです。これはショックでした。
そのカギは、昔、アイルランドを1人で旅行していたときに出会った、在住の日本人の女性にもらったもので、以来ずっと使っていたのでしたが…。

さらに、チェックイン時になって、
「あなたはメキシコのレジデンスがあるのか?ないなら、往復の航空券が必要だ」と云われてしまい、驚くよりも先に、げんなりしてしまいました。カギの時点で、何かイヤな感じがしたんだが…そう来たか。
しかしこんなところで追い返されてたまるかい。どんな思いしてこのチケット買ったと思ってるんや(って、まあそんなたいそうなことじゃないが)。乏しすぎるスペイン語を総動員して、「メキシコからグアテマラにバスで行き、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマを旅行し、パナマで航空券を買うのです」と、つとめて冷静に述懐し(実は必死)、何とか切り抜けました。

さらにその後も、”出国税○○$”という張り紙があるのを発見し、「はっ、チケットに空港税は含まれているはずだけど、出国税はどうなってたんだっけ?確か何も云ってなかったような…しかしもうボリバールはコインくらいしか持ってねーぞ…」と不安に陥ることに。
昨日旅行会社で、しつこいほどに「TAXは全部込み?」と念を押したのですが、5パーセントくらい信用してなかったんだよね、何となく…。あんまりわたしがうるさいんで、オヤジ、テキトーに答えただけじゃないのか?なんて。
まあこれは結局、チケットに含まれていたので事なきを得ました。疑ってすまん、オヤジ。しっかし、搭乗するまで気が抜けなかったですね。

…数時間のフライトののち、サンホセに到着しました。
サンホセの空港は、近代的で、何となく高級感があり、”中米のスイス”なんて云われるコスタリカの豊かさの片鱗を見たような気がしました。
おみやげ屋では、何種類ものコスタリカコーヒーが売られていて、試飲するとけっこう美味しく、コーヒー豆チョコレートとやらもやたら美味い。
再びコスタリカに来ることが出来たら、そのときは、カフェかどこかでゆっくり美味しいコーヒーを飲もう。そんなことを思いながら、次のメキシコシティへのフライトを待っていました。

(2003年10月22日 カラカス→メキシコシティ)

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