旅先風信87「ブラジル」


先風信 vol.87

 


 

**誕生日を迎える**

 

長旅をしている旅人にとって、誕生日とクリスマス&正月を何処で迎えるかというのは、かなりの大問題です(え?そうでもない?)。
とりわけ誕生日は、個人にとってはクリスマスなんかよりよっぽど重要な死活問題(また大げさな物云い…)。そもそも、キリスト教徒じゃないんだから、キリストの誕生日を祝う前に、自分の誕生日を祝うべきなのです。が、あまりに個人的な祝祭ゆえ、むやみにその辺の人に祝ってもらえるものではなく、1人旅だと完全にただの平日として捨て置かれてしまう確率が高いわけです。

昨年のわたくしの誕生日は、イスタンブールでした。アジアとヨーロッパの架け橋、場所はかなり申し分ないと云えます。
しかし、トルコくんだりまで来て誰かが祝ってくれようはずもなく、ガラタ塔に上って1人缶ジュースで乾杯しただけの、寂しい誕生日でした。

さて、今年は何処になるのかと思いきや、何とまあ、アマゾン河のど真ん中に位置するマナウスという街で迎えることになりました。誕生日INアマゾン。うん、個性的でよろしい(?)。
そもそも、去年の誕生日、ガラタ塔の上でさまざまな感慨に耽っていたときは、来年の誕生日も海外で過ごすことになろうとは、思っていなかったのです。一応まだその当時は、1年ちょっとで帰るような気持ちでいたからな(苦笑)。
さすがに来年は、日本で迎えないとなあ…次はもう28歳だし…。

ともあれ、”アマゾン河の真ん中の大都会”での誕生日というのは、なかなか印象深く、魅力的な響きではあります。
6日間の船旅中に見たアマゾンの風景は、えんえんと緑が続くジャングルでしたが、そんなジャングルの中に、平然とビルが立ち並び、車がガンガン走り、巨大ショッピングセンターがある…”ブラジルの何処にでもありそうな”都会が突然存在する…それがこのマナウス。何とも不思議な街です。
ものの本によれば、マナウスは、1888年にダンロップ社がゴム製のタイヤを発明して以来、その需姿を受けて天然ゴムの産地として急激に発展した街だそうな。最盛期には、パリ風の建物が、わざわざ原材料をおフランスから取り寄せて作られるという、まさにゴム・バブルによって築かれた街なのでした。

けっこうな都会ぶりゆえ、とてもアマゾンにいる気はしないものの、船着場に近い市バスターミナル付近や、中央市場辺りは、港独特の空気があっていい感じ。屋台の数も、祭りでもないのに縁日ばりに多い(笑)。
この中央市場、建物は例のゴム・バブルで建てられたパリ風のものなのですが、中に入ると、めちゃくちゃ泥くさい雰囲気の魚市場が広がっていたりして、そのギャップがいとをかしです。
魚市場では、アマゾン河で獲れた多種多様の魚が売られ、かの有名魚・ピラニア君も当然、ラインナップに入っています。魚市場の側には、新鮮なお魚を使った料理が食べられる食堂もあります。わたしも、パクーという魚のスープを食べました。わりとあっさり目のお味で、なかなか美味しかったです。

MANAUS14.JPG - 60,459BYTES 売られるピラニア。

マナウスに到着したのは、誕生日の前日。この日はとりあえず、マナウス観光にいそしむことにしました。
ガイドブックをパラパラめくりながらどこに行こうかと悩んだ結果、汐見荘で会ったM&I さんカップルがメールで「おすすめですよー」と教えてくれた、ピラルクーを見に行くことに。
ピラルクーとは、アマゾン河に生息する”世界最大の淡水魚”のこと(美味らしい)。マナウス郊外にあるアマゾン自然科学博物館に、5匹ほど飼われているのです。ちなみに、ここの博物館の館長さんは日本人です(会えなかったけど)。

ツーリストインフォメーションで場所もしっかり確認し、云われたとおりのバスを待ってみるのですが……来ない。全っっっ然来ない。来るのは違う方面へのバスばかり…。
あまりの暑さに、身体がしぼんでしまいそうでした。さすがはアマゾンのど真ん中にあるマナウス、アマゾンの入り口ベレンもたいがい暑かったけれど、ここも負けず劣らず、相当なものです。この汗の噴出しようといったら!尋常な量じゃありません。だ、誰かわたしに、コ、ココナッツジュースを下さい…。

そんな暑さの中では、ちょっとでもものごとがスムーズに行かないと、通常の3倍増でイライラしてしまいます。ただでさえ、気の短いわたくしだというのに…。それでも、その辺の人たちに訊けば「ここを通るから」と云うので、1時間近く待ってみたけれども……来ねーーーよーーー!!!テキトーなこと云わないでくれよ、命にかかわるから!(←大げさ)

暑さで狂ってしまいそうな頭を抱えながら、セントラルバスターミナルまで歩いていき、通行人に道を尋ねますが、みんな云うことがバラバラで全っ然分からん!
はああ、もう嫌だ…そこまでしてピラルクーに会わなきゃいけないんだろーかわたしは…別に、魚マニアでもないんだし…。ああ、こんなことなら大人しく、アマゾネス劇場(ゴム・バブル期に建てられたゴーカな劇場)とか観光していればよかったかも…。

それこそ死んだ魚のような目をしてふらついていると、道を尋ねた1人のお兄さんが親切な人で、ガイドブックに載っている博物館の電話番号に電話をしてくれました。日本人スタッフが出たので、わたしが電話に出、やっとのことで正確な道順を知ることができました。ていうか、最初から電話しとけばよかったのよね…。ほら、旅先ってつい、電話代ケチりたくなりません?テレカ買うのが勿体無いって、思っちゃうんですよね…。
お兄さんはさらに、見るからに消耗しているわたしに、冷たいアイスまで買ってくれました。ほんとありがとう…ううう。

しかし、指定どおりのバスに乗ってバス停に到着してからも、けっこうな道のりを歩かねばならず、あーもー何ゆえピラルクーのためにこんな汗だくになってまで…とまたも悪態をつきながら、何とか到着。
待望のピラルクーは、巨大な円柱状の水槽に飼われていました。うわーでかいなー!2メートルはゆうにあるんじゃないのか?でも、ぬぼーっとしているから、あんまり怖くはないな(笑)。
人魚のモデルになったというのはジュゴンでしたが、このピラルクーも、身体のラインがきれいで、うねるように泳ぐさまが何とも優美です。

自然系の博物館って、普段わざわざ見に行かない類の観光スポットなんですが、ここに展示されている、アマゾンのへんてこりんな魚たちや昆虫の標本は、生物に対して興味のないわたしでも、意外に楽しめちゃいました。
おみやげに、ピラルクーのうろこを買って帰りました。つめ磨きになるんだそうです。

MANAUS4.JPG - 29,239BYTES 苦労の末ご対面したピラルクー。

さて…ピラルクー見学というマナウス最大の任務(?)を果たしたわたしは、明日の誕生日のことを考えました。
女性誌の見出しなどで見かける”自分へのプレゼント”とか”頑張った自分へのごほうび”なんていうのは、いかにも女特有の浅ましさを感じてうっすらとイヤなんですが、今回はそれをしっかり自分に適用することにしました。自分のことは棚に上げる、これが人生を楽しく生きるヒケツなのです(なんちって)。
「どうせ誰も祝ってくれないんなら、せめて自分くらいは祝ってやりたい。つまり、何かぜいたくをしたい…」

そうだ、アマゾンジャングルツアーに行こう!(JR西日本の広告”そうだ、京都行こう”風に呼んでね)
ということで、もともとツアーに参加するつもりだったMさんに付いていって、1泊2日60ドルのツアーに申し込みました。1日ツアーだともう少し安いけれども、移動だけで終わってしまいそうな気がしたので、思い切って大枚はたいたのです。

ツアーは、誕生日の翌日出発になりました。
となると、誕生日当日は、特にイベントはないわけだ…ううむ、ちとしくったな。アマゾンで誕生日がよかったんだけど…。
でも、一応自分へのプレゼントとして、このツアーを申し込んだワケだから、それでいいのではないか?と思えないところが、わたしの強欲なところ。誕生日当日も、何か誕生日らしいことをしたい!まったく、どんだけ自分が好きな女なのでしょうか…。

で、”アマゾナスショッピングセンターでお買い物”という、自分を徹底的に甘やかした計画を思いつきました。きゃははっ☆
金もがっつり下ろしたので(※これは次の国ベネズエラに向けて、ドル現金を作るために下ろしたのであって、決して買い物のためではないのですが…)、あとはショッピングセンターまでバスに乗るだけ。ま、あんまりお金はないけど、かわいいキャミソールの1枚くらいは買えるんじゃないかしら。ルンルン♪(←バカ)

MANAUS20.JPG - 85,468BYTES 屋台がめじろおし。

…と、思ったら、事態は意外な方向へと進んでいきました。
お金を下ろした銀行のカウンターで、わたしは誰かに日本語で話しかけられました。と云っても、その日本語は妙な訛りがあり、首をかしげていると、その人は日系人でした。カワムラさんという名のそのお兄さんは、やはり日系人の妹と2人で銀行に来ていたのです。
「もし時間があれば、少し話してもいいですか」と彼は云いました。時間かあ…ちょうどこれから、アマゾナスSCに行こうとしていたところだったんだけど…まあ、どうしても行かなきゃいけない用事じゃないし、ちょっとくらいならいっか、とついて行くことに。

カワムラさんとその妹フローラは、日本人の父とブラジル人の母を持つ、ハーフの日系2世。日本人の父は、ずいぶん前に亡くなったそうですが、彼とフローラは、つい数年前まで日本で働いていた経験があり、それで日本語が話せるということでした。とは云っても、けっこう怪しい日本語だけど(笑)。

彼らにマナウスの中心部を案内されつつ、うろうろと歩きました。日本語で話しているせいか、何となく町の感じが日本の地方都市のように思えてきました。
わたしは、話のついでという感じで「実は今日、誕生日なんです」と云うと、2人とも、「おめでとう」と云ってくれました。ま、そりゃ、それしか反応のしようがないんだけれども(笑)、それでも、この誰もわたしを知らぬアマゾンの奥地で、”おめでとう”と云ってくれた人がいたことは、ものすごくステキなことに思えました。

さらに、カワムラさんは「誕生日なんだから、夕食は何か美味しいものをごちそうするよ!」と、マナウスで一番美味しいというシュラスコ(ブラジル焼肉)屋に連れて行ってくれると云います。
え、そんな…いいのかしら?誕生日だなんて、いらんこと云ってしまったんじゃ…まあウソじゃないんだけどさ…でも何か悪いよーな…。

……いや、いいんだ。旅人だから。
旅人は、人の厚意に素直に甘えればいいんだ。
そんでいつか、わたしが旅人でなくなったとき、新しい旅人に返していけばいいんだ。
今は、旅の間は、ありがたく受け取ろう。

かくして、カワムラさん、フローラ、カワムラさんの友達、わたしというメンバーで、即席誕生日会が行われることになりました。
ブラジル料理と云えばシュラスコなのですが、思えばわたしは、1ヵ月半もブラジルにいながら、まともなシュラスコを食べたことがありませんでした。
まあ、屋台の串とか、安い肉は食べているものの、果たしてあれでシュラスコを食べたと云えるのであろうか…と、うっすら不安を抱いていたのです(笑)。
カワムラさんの連れて行ってくれたお店のシュラスコは、実にジューシーで、今まで食べていた肉は何だったんだ?!と目からウロコが落ちそうになりました。

美味しい焼肉を食べられて、今日知り合ったばかりとは云え、誕生日を祝ってくれる人たちがいて…。まさかこんな誕生日になるなんて、思いもしなかったなあ…。
アマゾナスSCなんかで1人でウロウロしているより、100倍思い出に残る誕生日だよ。キャミソールなんか買わなくても、この時間がもう立派なプレゼントだよ。

MANAUS27.JPG - 50,832BYTES みんなで記念撮影(シュラスコは、カワムラさんのおごり)。

フローラとお友達が帰ったあと、カワムラさんにビールを飲みに行こうと誘われて、セントロのオープンテラスで少し飲みました。
カワムラさんはその帰り道、何となく何かを云いたそうにしていました。
鈍感かつあまり男性に縁のないわたしでも、これはどうやら、ある種の好意を持たれているらしい…ということが分かり、ちょっと困ってしまいました。まあでも、明日はアマゾンツアーだし、それが終わったらすぐマナウスを出て、ベネズエラに向かうことになっているから、どうしようもないんですけどね…。
「親切にしてくれて、本当にありがとうございました。ベネズエラに行ったら手紙を書きますね。」そう云って、わたしたちは握手をし、それぞれの帰り道につきました。

彼とも、もう会うことはないんだろうな…。
ひょんな偶然から、自分の誕生日を一緒に祝ってくれた人とも、あっという間に別れてしまう。それが旅なんだよな。
”一期一会”というけれど、ここまで、どれほどの一期一会を繰り返して来たことか。何てめまぐるしいサイクルで、出会いと別れを体験してきたことか。
いったい、人の縁とは何なのでしょうか。せっかく知り合って仲良くなっても、やがて疎遠になって、二度と会うこともない人が、一生のうちでどれほど存在することか。
そう考えると、人と出会うことが、何だか悲しいものにすら思えてきます。もちろん、出会いは素敵なものには違いないのだけれど…。
そんなことに思いをめぐらせながら、1人には広すぎる部屋のベッドで寝返りを打ちながら、27歳の最初の夜は更けていきました。

明けて翌日はいよいよアマゾンツアーです。
まずは、リオ・ネグロとリオ・ソリモエンスの合流点を見に行くところから始まります。
ここは”ソリモエンスの奇観”と呼ばれており、何が奇観なのかと云うと、茶色のリオ・ソリモエンス(アマゾン本流)と、黒色のリオ・ネグロとが、その色を混じらせることなく合流しているという点です。つまり、ある地点で、河の色がくっきりと、黒と茶に分かれているわけですね。ブラックコーヒーとミルクコーヒーのブレンドって感じで、ちょっと美味しそう。

船は、リオ・ネグロを、遡っているんだか流れにそっているんだか分からないけれども、とにかくジャングルの奥へと入っていきます。川幅が狭いということ以外は、風景的にはベレン→マナウス間の客船と、そう変わりません。ま、同じアマゾンのジャングルだからね…。
本日の宿である水上コテージは、入り組んだ水路の一角に、ひっそりと建っていました。風のよく通る造りの内部にはハンモックが吊られていて、いかにも気持ちよさそうです。

コテージで昼食のあとは、丸木舟に乗って、ピラニアを釣りに出かけました。
アマゾンと云えばやはりピラニアってことで、ピラニア釣りは、とってもアマゾン的なイベントとして、非常に楽しみにしていました。
しかし実際は、釣りと云っても、そんな大層なものではありません。細くて長い木の枝の先に、釣糸をくくりつけ、それを水の中に垂らすというだけの、3歳児でも出来そうなものです。
ピラニアポイントに着き、ガイドがただの木の棒…じゃなくて釣り道具をわれわれに支給します。ま、木の棒に釣り糸をくくりつけただけなんだけど(笑)。

…とバカにしていましたが、これがやってみると、難しいんですよ。
全っ然釣れません。他にも7、8人のツーリストがいましたが、誰1人釣れておりません。釣りポイントを2、3箇所変えても、やっぱり釣れない。そして、ガイド君だけが次々とピラニアを捕獲していました。コツの問題なのかしら…。

MANA-AMA12.JPG - 1,426,870BYTES 1人だけ着々とピラニアを釣るガイド。

結局、1匹もピラニアは釣れず(誰もね)、すごすごとコテージに帰って来ることになりました。
ちなみに、1日ツアーの方々は、これでもう、マナウスに引き返すのです。たったそれだけかよ〜!よかった、申し込まなくて…ソモリエンヌの合流とピラニア釣りだけじゃ、アマゾンの”ア”の字の半分くらいしか満喫できないですもん。
テラスでは、アメリカ人の子供たちが、釣りをしています。わたしも、ヒマなのと、ピラニアを釣れなかった悔しさとで、ここでもう一度、釣りを試みることにしました。こんな、生活廃水を流しているところで、魚なんかいなさそうだけどな…。
しかし、しばらく糸を垂らしていると、魚が釣れてしまいました。ピラニアだったらうれしかったのですが、10センチ強くらいの、ナマズみたいな顔をしたちっこい魚。まさに雑魚中の雑魚とでも云いたくなるような(苦笑)。その後も、「お、かかった!」と思うと釣られてくるのはコイツばっかり…同一魚か?だとしたら、相当なアホ魚ですね…。

それにしても、アマゾンというのは不思議な河です。
これほど濁っているのに、いや濁りすぎているからなのか、その水面はまるで黒い鏡のように、ジャングルをくっきりと映し出すのです。風景が川面を境に折りたたまれているように見えて、何とも不思議…。黒い漆のお盆なんかに、自分の顔が映せるじゃないですか。あれと同じようなものでしょうか。

MANA-AMA6.JPG - 42,850BYTES 汚さ転じて美となす、てなもんでしょうか。

夜は、ピラニア釣りと並ぶ、めくるめくアマゾネス・エンターテインメント・イベント、ワニ狩りに出かけます。
ワニ狩り、という響きがまたいかにもアマゾンぽくてワクワクしますね。暗い闇の中をボートで走り、ワニポイントまで来ると、ボートはエンジンを切って、ガイドたちが奥の方に入っていき、われわれは固唾を飲んでその成り行きを見守ります。ワニ狩りと云っても、さすがにわたしたちが狩るわけにはいかないのね…。
闇の中、静かに待っていると…
お!どうやらワニがかかったみたい!

ガイドが連れて帰ってきたのは、巨大な大人のワニではなく、50センチに満たないミニワニ(ミニモニみたい)、つまり赤ちゃんのワニでした。赤ちゃんワニ、全然怖くねー!怖くないどころか、すげえ可愛いんだけど(笑)。でっかいトカゲって感じで、ペットに欲しくなったくらいです。
ガイドに捕獲され、まさに手も足も出ないといった風に、固まっている赤ちゃんワニ。われわれも、腹をなでなでしたり、握手したりしていました(笑)。それでも、口をこじ開けると、鋭い歯がびっしり生えていて、「小さくてもワニなのだなあ〜」と、ありがちな感想を抱いた次第です。

MANA-AMA26.JPG - 39,826BYTES されるがままの赤ちゃんワニ。

翌朝は、ジャングルウォーク。名前の通り、ジャングルを歩くのです(そのまんま)。
これまでは、船からジャングルを見るだけでしたが、ついに、自分の足でアマゾンに分け入るのです。まあ楽しみ〜!
ピラニア釣り、ワニ狩り、と、どうも今ひとつ物足りなさを感じていたので、これに期待をかけていました。何というんでしょう、「いかにもアマゾン」な体験がしたいわけですよ。血湧き肉踊るジャングル探検…みたいなのが(川口浩のイメージか?)。ま、ツアーに参加している時点で、そんなもんありえないんだけどさ(苦笑)。

ジャングルの中には何があるかというと…木、植物、木、植物、木、植物、木……木木木木木木!そらそうだよね。ジャングルにあるものって、そんなもんだよね。
「ぶっちゃけさあ、僕の家の近くの○×自然公園と、そんな変わらない気がするんだけど…」とミもフタもない感想を云うMさん。
一番云ってはいけないことをオノレは…と思いつつ、わたしも実は、同感だったりして(笑)。いや、でも…違うよ。○×公園とは…。
わたしは何とか60ドルの価値を見出そうと、頑張って自分に暗示をかけました。「ここはアマゾン、世界の秘境に、大ジャングルの中にわたしは立っているのよ」…って、ウソでも妄想でもなくて、事実だっつーの(笑)。確かにアマゾンのジャングルの中にいるのです。

まあ、自然の風景というのは、わりと何処もそんなに変わらないものなのかもな…。
そりゃあ、細部を見て行けば、不思議な植物とか、昆虫とかがたくさん生息しているんだろうけれど、全体として見るなら、”森”の一言なんですよね。天下のアマゾンのジャングルと云えども、一言で云ってしまえば”デカい森”なのです。あああ、アマゾンまで来て何てバチ当たりな発言だろうか(苦笑)。
あ、でも一応フォローしておくと、タランチュラや、ハキリアリや、木皮を剥ぐと白い樹液の出るゴムの木…といった、ジャングルらしいものを見たり、ターザンの木に吊るされた綱で、本場のターザンごっこも出来ましたよ☆

マナウスまでの帰路は、思わぬ悪天候になり、暴風雨に見舞われました。
アマゾンの川面がざっばんざっばん波立ち、船はぐらんぐらん揺れ、船上は雨風吹きっさらし。容赦なく雨と波しぶきが身体を濡らし、寒いことこの上なく、視界もかなり利かなくなって、船もまともに進んでいません。
うううう、こ、これ、マナウスに無事に帰れるんだろうか…。ま、まさか、沈没とかしたりしないよね…。
わたしは昔から、船の揺れ→沈没という思考回路を、強固なまでに持っているのです。明石海峡大橋が出来るまでは、四国の田舎に帰る際は客船を使っていたのですが、家を出る前に必ず、「沈没しませんように」と仏壇に手を合わせてから家を出たものでした。

…って、そんな余談を語っとる場合じゃないんだ!いやほんと、今夜の夜行バスでマナウスを発つことにしてるから、帰れないと困るんだよ…。
それにしても…と思うのは、ベレン→マナウスの6日間と昨日も含め、アマゾンは至極穏やかな河でした。こんな”怒れるアマゾン”を見るのは初めてなので、まるで「普段温厚な人がキレたら手がつけられない」様子を目の当たりにするような驚きでした。
それでも何とか暴風雨は収まり、夜の帳が下りる頃、船はちゃんとマナウスに到着しました。船上から見る、マナウスの町の光が、とても美しく印象的でした。船頭のおっちゃんに「生きて帰れてよかった…」と云ったら笑われた(苦笑)。
しっかし…このツアーで、実はこれが一番アドベンチャーだったかもな(笑)。

ツアーが終わったその足で、わたしは荷物を取って、バスターミナルに向かいました。
かなり慌しいけれど、これでブラジルともお別れです。
これまでで、最も滞在期間の長かった国。まあ国土が広すぎるので、これくらいの時間はかかっても仕方ないと思うのだけど、長くなったのは、それだけの理由ではないような気がします。

最初にパラグアイからブラジルに入国したとき、それまで聞いていた「治安が悪い」「拳銃強盗が出る」なんて噂が頭を駆け巡って、ああイヤだな、と思いながらの入国だったのです。
でも、ここまで何ひとつ、怖い思いもせず、イヤな目に遭うこともほとんどなく、ほんと、何事もフタを空けてみなければ分かりませんね。

一介の旅行者の感想だから、甚だ偏見に満ちているとは思うけれど、ブラジル人は概して大らかな人たちだと思います。陽気で、人懐こくって、でもそれはなれなれしいという感じではなくって、距離感がとてもいい感じに保たれていて。
まあ、どこの国でも大体はそうだけれど、人に道を聞いて無視されることなんてまずないし(日本で聞くと、無視されないまでもイヤそうな顔をされたりしませんか?)、こっちが”分からない”という顔をしているとそこまで連れて行ってくれたりすることも多々ありました。何ていうのか、そういう基本的なところがとてもちゃんとしている気がするんです。

さまざまな人種がごったがえしているせいか、人種差別も少ないんじゃないかしら?
アフリカはもちろん、南米でも、通りすがりに「おい、中国人!」とか云われてバカにされることが、んもうウンザリするほどありましたが、ブラジルではほとんどなかったんですよね(唯一、黒人の多いサルバドールでは時々云われましたが…黒人は何処にいてもわれわれ黄色人種を見下しているのでありましょーか)。

素敵な印象を持ってその国を去れるというのは、実に気持ちのいいものですよね。
Obrigado(ありがとう)と、この国で数え切れないほど口にしてきた言葉を、最後に、ブラジルという国まるごとに、手向けたい気分です。

MANA-AMA17.JPG - 27,666BYTES 美しい夕暮れのアマゾン。この風景が、27歳の誕生日プレゼントさ…なんてね。

(2003年10月2日 マナウス)

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