旅先風信85「ブラジル」


先風信 vol.85

 


 

**アマゾンdeウルルンな船旅(笑)をする話(前編)**

 

いよいよ明日、アマゾン河の船旅が始まるという日になって、困ったことが起きてしまいました。
ドイツで世話になったKさんからのメールで、「メキシコの『死者の日』は11月1日ですよ」と知らされたのです。
ん?それで何を困っているのだ?と思われそうですが、これは実に困ったことなのです。

ボリビアで会ったGさんは「女子はみんなガイコツが好きだね。何で?」とか云っていましたが(その意見も何だかすごいけど)、わたしもご多分に洩れずガイコツ好き、おどろおどろしいもの好き。のわりに、ホラー映画やお化け屋敷は苦手なんですけどねー。『デスファイル』とか、絶対観られない。観たいんだけど、観たら多分吐きます。ああいう風に、肉と血がメインの怖いやつはダメなんですが、骨になっちゃうと、なんていうかこう、漂白してキレイになりました♪って感じであまり怖くないし、グロくない。そう、おどろおどろしいもの好きと云っても、本当に血のにおいがするようなのはダメなんです(のわりに、虐殺記念館とか行ってるけどさ…)。

メキシコの『死者の日』というお祭りは、ちょうど日本のお盆のようなものです。つまり、死者が帰って来る日ですね。この期間中は、ガイコツのコスプレをした人々が練り歩き、町のデコレーションも骨骨骨で埋め尽くされるという、ガイコツ好きにはたまらんお祭りなのです。
昔、女優の緒川たまきが「ガイコツ祭り」とかいうタイトルで、死者の日のことを書いた本を出していたような気がする。それもちらっと読んだことがあるし、あと、わたしの愛蔵書のひとつに、『ウルトラバロック』(著・小野一郎)というメキシコの教会をメインにした写真集があるのですが、そこにも少し死者の日の写真が載っていて、潜在的に覚えていたんです。

しかし、11月1日とはこれまた…。勝手に、あの祭りは6月頃だとか思っていたわたしは、冷水をぶっかけられたような気分でした。
死者の日を見るためには、あと1ヶ月少々でメキシコ入りしなければならないわけです。今から1週間の船旅で、その後ベネズエラ、コロンビア、エクアドルと回ってパナマに飛び、そこから陸路で北上というのがわたしの計画なのですが、計算してみるとかなりきつい。きついというか、ムリと云ってもいい。もちろん、死ぬ気で移動すれば出来ないことはないでしょうけど、そんなことで死ぬ気で頑張っても意味がない。わたしは、何も見ずにその国を素通り、というマネが出来ないセコい旅人ですし、あせって観光するほど楽しくないことはありません(だからこんな気ままな1人旅をしているのです)。
のんびりアマゾン河上っている場合じゃないじゃないか…ブラジルはちょっとのんびりしてしまったかも知れない…あそことあそこの日にちは削ることもできた…と、今さら云っても仕方ないのですが、ちくちくと後悔に苛まれました。

まあともかく、船旅することは決定しているので、ここは船の上でゆっくり今後の日程を熟考するしかないでしょう。
何しろ、ベレン→マナウスまでのアマゾン河上りの旅は、6泊7日のロングラン紀行。船に乗りっぱなしで大してやることもないので、つらつらと考えごとをするにはうってつけの環境なのです。

しっかしベレンは暑かったですね。それも、ハンパじゃなく蒸し暑い。
何をしていても身体から汗がしたたってくる。シャワーを浴びても浴びても、そのそばから身体がベタついてくる。さすがはアマゾンの入り口…と感心している場合じゃありません。暑さと気持ち悪さのあまり、気絶してしまいそうです。
市場では、種類豊富なフレッシュフルーツジュースが安く飲めるので、がぶがぶ飲んでいました。さらに、サルバドール以来やみつきになっているココナッツジュースを、1時間に1回は摂取。一応食事もするのですが、いつも食べている、ごはん+パスタ+サラダ+肉の定食はボリュームがありすぎて完食はとてもムリ。病人のように液体ばかり胃袋に流し込んでいました。

BELEM43.JPG ベレン大衆料理「ククルー」は2ヘアル(80円くらい)。カレーを酸っぱくしたような味で、けっこう美味しい。暑くて食欲がなくても、これだけは食べられた。

そんなクソ暑い中、無理矢理ベレンを観光したあと(観光はもはや仕事)、翌日の船でいよいよ船旅開始です。
船は、汐見荘で会って、わたしと同じルートをひと足先進んでいるM&Iさんカップルから聞いていた「MARQUES PINTO」社のチケットを買うことにしました。この船は、アマゾン河上りの船では一番快適と云われている船なのですが、隔週1便しか出ていないのです。それが、運の悪いわたしにしては珍しく、うまいことこの日に当たったのでした。

出発の前夜は、妙な胸騒ぎがして眠れませんでした。
旅への期待なのか不安なのか、自分でもよく分かりませんでした。云うなれば、大事な試験の朝のような気持ち。どうにも落ち着かないのです。
船旅は確かに楽しみにはしていたけれど、何も、子供の頃からの切実な夢だとかいうわけじゃなし、この胸のはやりは一体何なのか…悪い予感じゃなければいいのですが…。

BELEM37.JPG 文章とカンケーないけど、ベレンの自然公園にある乳型電話ボックス。何故乳なんだ…?さらに、この公園にいる虹色の鳥のオスとメスが交尾しまくってて目に毒だった。エロ公園と名づけよう。

さて、チケットを買う段になって、ちょっとしたハプニングがありました。
一昨日の日曜日、偵察がてら港に来た際、ダフ屋っぽいオッサンが近づいてきて、「マナウスの船か?いつだ?明日か?」とまくし立ててきました。何だか胡散臭いオッサンだなとは思いつつ、とりあえず値段だけ聞いてみたのですが、オッサンは今すぐチケットを売りつけたいらしく「その値段は今日だけだ」とかうざいことを云い出します。ムカつくので、じゃいらない、とその場を立ち去ると、しばらくして再び、気持ち悪いほどにこやかに近づいてきて、「いつの船に乗りたいんだいセニョリータ?」と態度を軟化させてきました。まだ出発の日を決めてないから、今日1日考えたいと云うと、じゃあ明日だな!とまた勝手なことを云って去って行きました。

そのオッサンがこの日、わたしが港行きのバスから降りるや否や待ち構えており、頼みもしないのにわたしのバックパックを担いで港に入って行きました。そして、相変わらず強硬に、今すぐ買え、今すぐここに名前書け、みたいな感じで迫ってくるのでウンザリしていると、正規のチケットブースに入っているおばちゃんがこちらを見て首を横に振って、どうやら(その人からは買うな)みたいなことを云っている様子。
わたしはオッサンとおばちゃんを交互に見比べながら、どう考えてもオッサンが怪しいと思い、おばちゃんの手招きに応じてチケットブースの方へ歩いて行きました。するとオッサンが、ものすごい形相で付いて来て、先ほどの2倍くらいの勢いで「ここに名前を書け!」と云い出し、どんどん値段を下げてくる。普段ならつい安い方に流れてしまうわたしですが、オッサンがどうにも怪しいので踏みとどまりました。まあオッサンはただの外部のチケット売りで、ニセチケットを売る類のサギとかではなかったんでしょうけどね…。

で、結局わたしはチケットブースのおばちゃんから買ったわけですが、その後、おばちゃんの友達(?)に連れられて昼飯を食いに港を出ていくわたしを、オッサンは実に憎憎しげににらみつけていました(と思う)。自分の客だとばかり思っていたのを、横からおばちゃんに持って行かれた、というわけでしょう。そんなこと云われてもわたしのせいかよ?と思うけれど、何だか後味の悪い出来事でしたね。

その後はまあ何事も起こらず、午後3時過ぎに船に乗ってハンモックを吊り(ハンモックは青い家でY嬢からもらったもの)、あとは6時過ぎまで出港を待つだけです。早速ハンモックの寝心地を試してみると、予想以上に快適で、そのまま出港までウトウトしてしまいました。出港の直前、いきなり土砂降りの雨が降り出し、何だか幸先のよくない旅立ちだなあ…と思いつつ、日記など書きながらまたウトウトと眠りに落ちていくのでした。

AMAZON23.JPG 船内はこんな感じで隙間なくハンモックが吊られている。左手前の青いハンモックがわたしのやつ。

目が覚めたのは、朝6時30分過ぎ。まだそんな時間か…と思いきや、乗客のほとんどは起きており、シャワーを浴びたり葉を磨いたりしています。そして間もなく朝食のベル。
朝食は、パン(バターつき)とコーヒーと小さなメロンみたいな果物というちょっと寂しい内容です。コーヒーを淹れていると、いきなり日本語で話しかけられたので、驚いて振り返ってみたら、そこには30代半ばくらいの日本人男性が。
「えっ、旅行者ですか?」と思わずマヌケな質問をしてしまうくらい、驚いてしまいました。サンルイスでO&Mさんと分かれて以来、一度も日本人には会わなかったのですから。しかもバックパッカー旅行者が同じ船に乗っているなんてびっくり。

船が進むにつれて、海のようだった川幅が狭くなっていき、ジャングルが目の前に迫って来ます。
大河だから、ジャングルなんて遠目にしか見られないだろうと予想していましたが、けっこう近くで見られてトクした気分でした。
うねるように生え、絡まりあう植物たちが、きらきらと緑のグラデーションを作り出しているさまを眺めていると、アマゾンの有名なキャッチコピーである”緑の地獄”という言葉が浮かんで来ました。緑の地獄。何だかゾッとするような、しかし妙にそそるコピーです。一体地獄の中はどんな風なのだろう?と好奇心が疼かずにはおれません。

しばらく河を見ていると、小さな丸木舟が、何艘もわたしたちの船に近づいて来ました。
乗っているのはおばさんや子供。ちびっこだけの舟もあります。みんな両手を挙げて、手招きのような動作をしています。何だろうと思っていると、こちらの乗客が、河に向かって中身のつまったスーパーの袋を投げ始めるではないですか。
おいおい、いくらアマゾン河が汚いからって、ゴミは捨てたらアカンやろ、と横目でにらんでいたら、実はそういうことではなく、袋の中身は服や食糧で、丸木舟に向かってそれを投げているのでした。つまり、丸木舟は、アマゾン河を往来する船に物乞いをするために近づいて来ているというわけなのです。舟の物乞いなんて、初めて見た…。
そこでわたしも、いらなくなったというか、「あと1回は着られる…」と云って捨てきれずに何度も着ているTシャツなどを袋に詰めて、投げてみました。捨てる神あれば拾う神あり(ちょっと違うか?)。リサイクルできてよかった。

AMAZON5.JPG 丸木舟の物乞い。

物乞いだけではなく、物売りの船も近づいて来ます。
エビ売りの少年は、かなり繁盛していました。わたしも旅のおともに2袋ほど買ってみました。が、これがめちゃくちゃ辛いのです。剥いたやつとそうでないやつがあって、剥いた方はすでに塩をまぶしてあって、1袋食ったら高血圧の人は多分死ぬだろうというくらいに辛い。剥いていない方は美味しいんですが。

この船旅のために読まずに取っておいた(と云ってもちょこちょこつまみ読みはしてしまったが)、『乾いた空湿った空』と『少女詩集』をパラパラとやりながら、時折、思い立って甲板に出てみたりします。
河は、話に聞くとおりのカフェオレ色(泥の色)をしていますが、不思議と”汚い河だ”という印象は受けません。まあ、この水に顔つけろって云われたら、やっぱイヤだけど(笑)。

甲板に立っていると、近くにハンモックを吊っていた大家族のおじいちゃんとおばあちゃんが、ポルトガル語でばんばん話しかけてきます。ポルトガル語はさっぱり分からないので、似ていると云われているスペイン語の乏しい知識を駆使して話してみるのですが、半分以上は通じません。ブラジル人はスペイン語も出来るものとばかり思っていましたが、実際は話せない人が多いようです。それに、似てる似てるっていうけど、”似てる”と”同じ”は違いますからねえ。なので、会話が2往復くらいで止まってしまうのが哀しいんですけど、ま、あとはノリでカバーだ(笑)。笑っとけば何とかなる(?)。

おじいちゃんおばあちゃんと云っても、まだ50代前半とかそこらへんに見えるのですが、その辺は大家族の多いブラジルのこと、結婚や出産も早いのでしょう。で、ここんちの孫たちが超・超〜可愛いんだ。また誘拐したくなってしまった(笑。こらこら)。しかもねー、まだ生後10ヶ月の一番下の男の子が、わたしが笑いかけると必ず笑ってくれるの。偶然かと思ったけれど、100発100中で。何て、何て可愛いのだ!!

そして、そのめちゃ可愛い赤ちゃんと、それをあやしているおじいちゃんを見ていると、ふと自分の父親を思い出して、束の間、感傷的な気持ちにおそわれました。
2年くらい前、同い年の友人が子供を連れてうちに遊びに来たことがあったんですが、その子が何故かやたらうちの父親になついていて、何だか胸がしめつけられた記憶があります。
自分がいつか子供を産むと考えたとき、ひねくれ者のわたしは、”自分のミニチュアみたいなもんがこの世に産まれてくるなんて、ぞっとするわ”と、恐怖すら感じるのですが、唯一産む価値があるとすれば、父親に孫を抱かせてやりたい、というその一点につきると思います。
父ちゃんは今ごろ何をしているんだろう。弟くんは何をしているんだろう。…と、急に家族が恋しくなってしまいました。日本にいた頃は、とりわけ母親が死ぬまでは、憎たらしい家族だったのにな(笑)。

AMAZON33.JPG たいそう可愛い赤ちゃんとおばあちゃん。こいつはいい男になりそうだ(笑)。

…そんなことをしていても、まだ時間は朝の10時だったりして(笑)、うーん、船生活の1日はとんでもなく長そうだ。。。

(2003年9月24日 アマゾン河の船)

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