旅先風信84「ブラジル」


先風信 vol.84

 


 

**アマゾンまでのちょっと寄り道**

 

サルバドールを出たあとは、いよいよブラジルのメインイベントとも云うべき、アマゾン河上り…のはずが、アマゾンの入り口ベレンまでの直通バスが230ヘアル(80ドル近く!)と超高額だったのと、美しいビーチが目白押しという北部ブラジルの海岸沿いを少し見てみたかったのもあって、 ちょっくら寄り道することにしました。こういうことをしているから、旅が進まないんだなー…。

北部ブラジルの海岸のビーチは、サルバドールから近い順に、マセイオ、レシフェ/オリンダ、ナタル、フォルタレーザといったところが主な町。ポルトガル語で「クリスマス」という意味のナタルに一番食指をそそられていたのですが(名前に弱いわたし)、ベレンまでの通り道ではないので却下。

そこで、わたしが選んだのは、青い家で同室だったY嬢に教えてもらった、「レンソイス」でした。
彼女が持っていたレンソイスのパンフレットの切り抜きが、今まで見たこともないような光景だったのです。さすがに、1年半旅をしていれば、どこに行っても「あー、どっかで見たことあるなこの風景」てな感想を抱いてしまうことが多いのですが(これはよくないクセだ)、このレンソイスは違いました。真っ白な砂丘の中に、エメラルドグリーンのラグーン。その砂丘のあまりの白さに、実際に足を運んだY嬢に「これって本当にこんな白いの?印刷ミスで色が入ってないんじゃないの?」と疑問を投げかけたほどです。
このテの砂丘スポットはほかにもいくつかあるようでしたが、その辺全部回っているY嬢からも「レンソイスはおすすめよー」とイチオシがあったので、次の目的地はここに決定。

しかし、レンソイスまでは、ちょっと寄り道、なんていう楽勝な道のりではないのです。実は…。
まずは、サルバドールから、テレジーナという町までバスで16時間、そこでレンソイス観光の拠点となる大きな街サンルイス行きのバスに乗り換えて7時間。サンルイスから、レンソイスの入り口の町バヘリーニャスまで4時間。そこからは1日ツアーに参加するのです。

サルバドール→テレジーナ間という少々マニアックなルートを取ったのは、サンパウロからこっち、幾度どなく会っているO&Mさんカップル調べで「一番安い」ことが判明したから。結局同じバスに乗って、サンルイスまでも一緒でした。偶然とは云え、あまりにもしょっちゅう特定のカップルとルートが同じになると、何となく落ち着かない気分になりますね。何だか、わたしが邪魔してるみたいで(笑)。間男ならぬ間女ですか。
テレジーナのバスターミナルでは、サンルイス行きのバスを待つこと9時間!うだるような暑さと湿気の中で、3人とも死んでおりました。固いベンチに寝そべって、それでもしっかり爆睡してしまうわたしは、すっかりたくましくなったものです。大阪出身のOさんが、「そう云えば、昨日阪神タイガースが優勝したらしいよ。大阪は今大変なことになってるだろうねえ」と云うのを聞いて、異国のマイナーな土地で、アホみたいにバスを待っている自分がちょっと哀しくなりました。

テレジーナからサンルイスのバスが到着したのが、朝まだ暗い5時とかで、こんな暗いうちからセントロに出て宿探しなんてコワくて出来ないので、またも固いベンチで仮眠。ようやく空が白み始めたころ、バスでセントロに向かいました。
さて、そこから宿探しなのですが、Y嬢に聞いていた安宿はフル。仕方ないので、そこに荷物を置かせてもらって、ガイドブック片手にOさんと宿回りしてみるものの(Mさんは暑さのあまりダウン)、なかなか安くてよい宿がない。暑い中、ダラダラ汗を流しながら、4軒目くらいでわりといい感じの宿に当たり値段を聞くと、シングル18ヘアル、ダブル24ヘアル。「オレたちはここにするけど、野ぎくちゃんは…?」そりゃ、2人なら1人12ヘアルだけど、1人で18ヘアルなんて出せない。この前に、あまりいい部屋ではないけれど、10ヘアルのところがあったのです。わたしはそこに戻ることにしました。

…哀しい。これこそ1人旅とカップル旅の明暗を分ける顕著な例と云ってもいいでしょう。
1人はいつだって、こういう目に遭う。2人なら何でもシェアして安く上げられる。2人ならどちらかがダウンしていても片方が何かしてあげられる。カップルはいいよな…と、この旅で100回以上思ったことを、またしても噛みしめるのです。1人は悪か。1人は間違っているのか。1人は…。

とりあえず宿を確保して、サンルイスの町を歩いてみることにしました。
…が、信じがたいほど暑い。ちょっと気を抜くと、そのままシュルシュル〜としぼんでしまいそうなくらい、暑くてどうしようもない。10分ごとに飲み物を欲するような状況です。サルバドール以来はまっている冷えたココナッツジュースを、一体何杯飲んだことでしょうか…。ついついクーラーのある「C&A」(※ブラジル全土にあるユニクロのようなブティック。本社はフランスらしい。道理で可愛いはずだ)に入って、洋服を物色したりして、全然観光に身が入りません。
サンルイスの街並みは、一応世界遺産。タイル貼りの家が並ぶセントロ(旧市街)はまあ、それなりにキレイではありますが、ガイドブックの「南欧をほうふつとさせる」という表記は云い過ぎです。特にわたしは、南仏にはなみなみならぬ憧れがありますんでねえ。

SAOLUIS17.JPG ま、悪くはないけどね。

ちょっと頑張って、セントロから徒歩30分くらいかかるCEPRAMAという巨大民芸市場にも行ってきました。
体育館のような広い広い建物に、わら細工の小物やアクセサリー、装飾タイルといったこの辺りのおみやげブースがいくつも並んでおり、買い物欲を刺激されてしまいました…と云いたいところですが、本当はめちゃくちゃさびれていて、見ていてつらくなるほどでした。客は、わたしと白人の老夫婦のみ。外のレストランも野外ステージみたいなのもほとんど廃墟と化しており、明日いきなり閉鎖になっていてもおかしくないような状態です。
従業員が、もくもくとタイルに絵を描いたり、レース編みの服を作っているのがまた切ない。いつも思うことですが、物を売るという行為は、売れないととてつもなく切ないもののような気がします。
そして、この売れないおみやげたちの行く末を考えると哀しく、何かひとつくらい買ってあげた方がいいのか…と思いましたが、その辺はわたしもゲンキンなもので、大して安くないのでやめました(苦笑)。ともあれ、至極ブルーな気分で、ここを後にしたのでした。

SAOLUIS4.JPG 入り口にあるジオラマもたいそう不気味な民芸市場。

夜は、これまた1人で近くのカフェ&バーにビールを飲みに出かけました。
オープンテラスでビールをぐびぐび飲みながら、ああ、異国に1人きりだな…なんて、ぼんやりした頭で、今まで何千回と味わってきた感慨を、また反芻していました。ほかにも、1人で旅をしている色んな旅人のことが浮かんできました。彼らもまた、この空の下のどこかで、同じような気持ちを噛みしめているのでしょうか…。それとも、そんなセンチメンタルなのはわたしだけでしょうか…。

さて、翌日はいよいよメインイベント、レンソイスに向かって出発です。
早起きしてサンルイスからバスに乗り、昼過ぎ、バヘリーニャスに到着。朝と夕方のツアーがあると聞いていたので、その足ですぐ夕方のツアーを申し込むつもりでした。ところが、いざ旅行会社に行くと、そんなものはないという。最近また、移動に焦りだしているわたしは、云っても仕方ないと思いながらも「何で?何でないワケ?わたし時間がないんだよー」とエージェンシーのお姉さんに、半泣きで詰め寄ってしまいました。しかし、その成果なのか何なのか、翌日ツアー代金を払う際、頼んでいないのにディスカウントしてくれた…ラッキー(←ゲンキン)。

4WDの後ろにトラックの荷台を付け、さらにそこに観覧席を取り付けてあるという、形容しがたい乗り物で、バヘリーニャスからレンソイスに向かいます。ツアー客はわたしを入れて10人、わたし以外は全員ブラジル人。こんなマニアックなところまで、外人ツーリストはなかなか来ないのでしょうか。
信じがたいほどのボコボコ道を地震なみに揺られ続けること1時間弱。車は、レンソイス・マラニャンセ国立公園の入り口で止まりました。

…すごい。何だこれ。
信じがたいほど真っ白な砂丘が、目の前にありました。ボリビアのウユニ塩湖がいくら白いと云ったって、ここまでじゃなかった。洗剤で漂白したように、というか、洗剤そのもののように白い。白純度100パーセント。絶対零度ならぬ、絶対白度。いくら白い砂丘と云ったって、こうまで白いとは思っていなかったわたしは、湧き上がる興奮をどうにも押さえられませんでした。

しかし、まだ驚くのは早かった。
やがて、1つ目のラグーンが見えてきたとき、本当に腰を抜かしそうになりました。
白い砂地の中に突如現れる、グリーンがかった青色の大きなラグーン!この、あまりに素晴らしいコントラストを、一体どう表現したらよいのでしょう。思わず「天国だ…」とつぶやいていました。それくらい、ありえない光景なのです。これまでに見た、どことも似ていない、紛れもなく初めての光景。これまであちこち、素晴らしいと云われている場所を回ってきたけれど、世界にはまだこんな、想像を絶するほどの美しい場所が隠されていたのか…。

ほどなくして2つ目のラグーンに到着しました。このラグーンがまた、見事なほどのエメラルドグリーン、紺碧色なのです。もしかしたら、何かヤバい化学物質が入っているのかも知れないというくらい、美しすぎる色。
休憩がてら、ここで1時間くらい泳げるというので、わたしは、はやる気持ちを押さえきれず、服を毟り取るようにして脱ぎ、水の中へ飛び込んで行きました。この瞬間の気持ちよさと云ったら…何と説明したらいいのか分かりません。もはや、問答無用、説明不要の気持ちよさ。やや冷たい水温が徐々に体温に馴染んでちょうどいい感じになり、目に映るものと云ったら真っ白な砂丘に青い空と青いラグーン。完全に青と白だけの世界。「ああ、一体わたしってば何処にいるんだよー!何だかよく分からんけど、めっちゃ幸せだよー!」と、世界中に向かって叫びたい気持ちでした。

LENCOIS13.JPG 天国ーーーっ!!!

その後、3つ目のラグーンまで、しばらく歩きます。何しろ一面真っ白なので、照り返しがキツイの何のって。幸か不幸か、とってもいいお天気なので、水着で歩いていても汗がダラダラしたたってくるほどです。
それにしたって、まあ本当に白い。一体オマエは何回白いと云ったら気が済むのか、と怒られそうですが、だって、並みの白さじゃないっすよこれ?これを目の前にしたら、白いとしか云いようがないです。写真に撮ったら、何が写っているのか分からないくらいだもの(笑)。
もう少しまともに説明すれば、ナミブの赤い砂漠を、まるまる白く塗り替えたような感じと云えば、分かる人には分かっていただけるでしょうか。個人的には、世界に名だたるナミブ砂漠にも引けを取らないと思います(規模は劣るでしょうけど)。

3つ目のラグーンには、小さな魚がたくさん泳いでいました。こんなところにどーやって紛れこんで来たんだアンタらは?と不思議でなりませんでした。 というか、もはやここに在るもの全てが不思議でならない(笑)。自然賛美なんてありふれているけれど、もうこれは「恐れ入りました、完敗です」と自然に向かってひれ伏すしかないでしょう。

LENCOIS32.JPG 三色旗みたいだ(笑)。(上)空(中)砂(下)池。

ずいぶんと大げさな物云いを並べ立てて来ましたが、こちらとしても、久々に心の底からすごい!と思った光景だったもので、ついつい…。それでも、わたしの文章と写真の腕では、ここの素晴らしさはとても伝えきれないのです。『地球の歩き方』にはコラム程度にしか載っていない場所ですが(ブラジル人の間ではけっこう有名らしい)、理不尽な扱いと云わざるをえません(笑)。このツアーで20ヘアル(7ドルくらい)だったら、まったく安いもんです。興味のある方はぜひ。

…そして、またサンルイスに戻り、ベレン行き直行がここでもやはり高いので、ペリトローというマニアックな町まで出て、そこからやっとベレン行きを拾って(それでも大して安くならなかった)…と、長い長い道のりを経て、やっとベレンまでやって来ました。バヘリーニャスを出たのが朝6時で、そこから延々、移動→バス待ち→移動→…と繰り返すことまる24時間!やっぱブラジル、広すぎです。そして、ベレン、めっちゃくっちゃ暑いです。サンルイスの1.5倍は暑いです。ああ、あぢい、あぢい…息しているだけで汗が出るんですが(苦笑)。これからいよいよアマゾン河上り。今日は日曜で船会社がお休みなので、明日チケットを買いに行きます。それではまた。

あまりに感動したので、レンソイスもう1枚。

(2003年9月21日 ベレン)

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