旅先風信83「ブラジル」


先風信 vol.83

 


 

**青い家の屋上で苦悶する話**

 

こんにちは。ブラジル旅行の目玉とも云うべき、サルバドールにやって来ました。

最初にお断りしておきますと、今回はサルバドールの話はほとんどありません。
毎度おなじみ、個人的な悶々の話です。旅行記を楽しみにされている方には大変もうしわけありません。
しかし、あんまりにも何も書かないのもどうかと思いますので、以下、サルバのことを簡単に書きます。

*サルバドールのみどころ*
●歴史地区
…味のある古い建物で構成されたコロニアルな街並み。かわいい土産物屋もいっぱい。
●カポエラ
…アンゴラ発祥の舞踏格闘技。黒人がやるとやっぱカッコいい。旅行者でも習っている人が多い。
●町のあちこちでやっている音楽やカポエラなどのショー
…と聞いていたのですが、シーズンでなかったのか、それほど盛り上ってはいなかった。
●バイーアの民族衣装
…を着た女性が、セントロにウロウロしている。写真を撮るともちろん金を要求される。ロリータ風というかロリータそのものでかわいい。(※バイーアとは、サルバドールを州都とした州のこと)
●ボンフィン教会
…セントロからバスで2〜30分くらいのところにあるバロックの教会。ボンフィンのミサンガというのがあって、3つの願をかけ、ミサンガが切れると願い事が叶うという話がある。すぐ近くにビーチもある。
●カンドンブレー
…別名黒人密教。いくつかの家庭で毎週1回儀式が行われている。打楽器音楽とダンスでトランス状態におちいる。ロリータな民族衣装を着たよりましの女性(数人)が葉巻を吸いながら踊るさまはけっこうすごい。
●イグアテミ(番外)
…これは観光地ってわけではなくて、ブラジル全土にあるショッピングセンター。雨で観光できないときなど、ヒマつぶしにいい。でも何もかも高い。唯一、「C&A」という、フランス資本のユニクロみたいな店(ユニクロよりかわいい)だけ安い。

…ということで、よろしいでしょうか?(笑)あとは写真でご堪能下さい。
では、ここからが本題。

サルバドールには、「青い家」と呼ばれている日本人宿があります。
と云っても、個人の家を解放しているだけの無許可の宿なので、看板は出ておらず、その名の通り「青い」ことが目印。
セントロからは少し歩かなくてはならないのがツライところですが(何しろ石畳の道だし、坂も多いしで、バックパック背負って歩くにはキツイ)、キッチンが2つあり、部屋も白くて明るい感じで、なかなか居心地のよい宿です。
特筆すべきは、ここの屋上。目の前というわけではないけれど、海が見渡せて、風が気持ちいいんです。ロッキングチェアーみたいなのがいくつか置いてあって、ハンモックも吊ってあるので、お天気のよい日はここでのんびり読書なんかすると「ああー超シアワセー」てなもんです。クソ暑い中、観光なんてとてもする気がしなくなります。

こういう宿では、いろいろと出会いもあります。
同室になったY嬢は、バックパッカーらしからぬ美少女。長い髪はつやつやしていて、目が大きくて顔が小さい。わたしと正反対ですね(苦笑)。なもので最初は話すのにもちょっと緊張していたのですが(大きな目で見られると、小さな目のわたしは何となく縮こまってしまうのだ)、実際は全く飾り気のない、キャラも3枚目な人で、すぐに仲良くなりました。あるとき、わたしがトイレに入ろうとすると、「ちょっと待ったー!」と、でかいジェスチャーつきで叫ぶので何事かと思ったら、「ウンコが流れないのよー」なんて云うので大笑いしてしまいました。

Y嬢は、もともとはフランス人の彼氏とその友達カップルと4人で旅をしていて、ルートの希望の食い違いで今は1人分かれており、リオで再び合流するということでした。その間、ここでカポエラを習っていて、わたしがウトウトしている間に起きて練習に行っていました。訊けば、1ヶ月で40ヘアル(1500円くらい)と破格の授業料で、わたしも時間があればやってみたかったです。旅に出てから特に、何かひとつ武道を身につけていれば…としょっちゅう思うもので(まーそれで例の強盗事件を防げたとは思わないけど)。でも日本人だから、帰国してから空手を習うのがいいかも。

SALVA7.JPG Y嬢が習っているカポエラ教室での試合。

ジンバブエの事件時に居合わせたYさん&Tさんカップルとの再会もありました。
宿が別だったのと、時期的にも入れ違いだったので、当時は顔見知りという程度でしたが、お互いよく覚えていましたね。向こうは何と云っても事件の印象があるだろうし、わたしの方は、2人とも背が高くて実に見栄えのいいカップルだったので印象に残っていたのです。
サンパウロ以来、幾度となく会っているO&Mさんカップルもほぼ同時期にサルバ入りし、にわかに知り合いだらけの環境になりました。まあこんなことはよくある話。旅人と云えど日本人社会というのは狭いのです。

さて、ある晩のこと。集まった旅行者たちでひとしきり旅の話で盛り上がり、そろそろお開きというあたりで、Tさんに「部屋行ってきまる?」と云われました。一瞬何のことだか分からなかったのですが、すぐにガンジャだということに気づき、とっさに「あ、わたしやらないんです」とお断りしました。そのとき、ほんのわずかな間ですが、空気に亀裂が入ったような気がしました。
それから部屋に戻ると、Y嬢が「あれ?行かないの?」と云うので、何だかワケもなく動揺してしまって、でもそんなことで動揺するのもヘンなので、あくまでもさりげなく「わたし吸わないから」と応えると、Y嬢は拍子抜けしたように、あ、そう、と云って部屋を出て行きました。

その瞬間、わたしは云いようのない疎外感を覚えました。
一体、その部屋では、何が行われているんだろう…って、別にガンジャ吸ってきまって話しているだけなんでしょうけど、それが気になってしょうがない。そんな、ガンジャ吸ってるからって特殊な話はしてないだろうとは、頭では重々分かっているのですが、ナゼか心が落ち着かない。何て云うんだろう、子供の頃、テレビでエッチなシーンが始まると部屋を追い出されたような(笑)、そういう感じ。追い出されたって、自分から断ったんだけど、その晩はなかなか寝付けませんでした。
翌日になって、太陽の光を浴びるといくらか気分は回復するのですが、すぐ隣で「○○ちゃん昨日めちゃくちゃきまってたよね」「だってあれすごかったよー」なんて会話が繰り広げられると、また疎外感が増して、そんなことをいちいち気にしている自分が、世界で一番しょうもない人間だと思うのでした。

SALVA13.JPG ボンフィン教会内部。ここは、交通事故や病気の人の治癒回復を願う部屋。願掛け用の手足のマネキンがポップでシュール。

前にも「むだ話」の方にガンジャのことを書きましたが、本当に旅人はガンジャが好きですね。旅人っていうか、バックパッカーのみなさんは。
少なくとも、わたしの知り合いの8割以上はやっていると思います。旅先で知り合った人で、このHP見ている人、もしやってなければ連絡下さい(笑)。多分誰もいないだろう。この際断言しよう。あ、アクセルはやってなかったな。それ以外は全員じゃないか?
わたしはめちゃくちゃマイノリティなのではないでしょうか。マイノリティというのは孤独なものです。みんなが楽しくガンジャ吸っているのに、わたしはその楽しみを知らずに、バカみたいに日記なんか書いてウサを晴らしているワケです。ガンジャが吸えたらきっと楽しいでしょうね。ええ、本当に。本当にそう思います。

例えば、タバコの煙がダメ、なんて人はともかく、わたしは煙を吸っても別に平気だし、身体が受け付けないワケではないと思うんです。やればできると思うんです…って、体育の授業かっての(笑)。
もし、今度誰かに誘われたら、やってみてもいいのかも知れない。自分でも、何故やらないのか、理由が分からないのです。「法律で禁止されているから」なんて、理屈は通りますけど、心の底からそれで納得しているわけじゃない。興味のあることは何でもやってみる、のが一応のポリシーなのに、ガンジャだけは出来ない。偏見の理由も、旅に出た当初よりもずっと曖昧になってしまっているのに、どうにも手を出せない。いや、ムリに出さなくていいんだろうけど、こういう疎外感を味わうたびに、自分が正しいのか否か、分からなくなる。普通に話しているときは本当に楽しく、みんないい人だけに…。

SALVA11.JPG キオスクで立ち読みするロリータ…ではなくバイーアのおねえちゃん。

その辺の溝を埋めたいのもあって、Yさんから『エグザイルス』を借りて読むことにしました。
この本は、70年代だか80年代だかの(それではえらい違いだな)日本人ヒッピー(正確にはハーフ)の自伝でして、ヒッピー好きというか本人たちがヒッピーなYさんとTさんのバイブルだそう。
2人と話していて「面白いよー」と薦められたのもあったのですが、ヒッピーの心情を知ることで、ガンジャに対する偏見を少しでも無くそうと思ったのです。健気だねわたしも(笑)。

もう何十年か前の話ですが、そんなに古い感じはなく、やや「青いなー」とは思ったけれど面白く読みました。
しかし、『エグザイルス』を読みながら、わたしは優等生(あるいは模範的な一般市民)にもなれないけれど、アウトローにもなれない、本当のハンパ者なのだなあと思ったのが、一番の感想でした。
ジンバブエの回で登場した姐御のHPに、「三島由紀夫はなんちゃってアウトローよね」と書いてあって、至極納得した覚えがあるんですが、わたしもこれに当てはまるかも知れない。真面目な自分がイヤで(恥ずかしくて)わざとアウトローを気取るんだけど、元々の性質がそうではないからアウトローな姿勢が板につかず、まわりから見ると何だか滑稽である…まさに三島。そしてわたし(笑)。

まあ、わたしは好んでアウトローぶったりはしないけど、真面目な自分を嫌悪する気持ちは同じです。「真面目だよねー」とか云われると、バカにされてんのかな?と受け取ってしまうほど。いやー、哀しい(笑)。
かと云って、アウトローには絶対になれないことも分かっているのです。ハタから見れば、1年以上も海外をほっつき歩いているなんて、アウトロー以外の何ものでもないだろ、と思われるかも知れませんが、実態はただの旅行者(笑)、ほかの旅行者よりちょっとばかし(?)期間が長いだけのことなのです。
…とか云っても、じゃあノーマルな一般市民かと問われると、とてもそうとは云えないし。行動と習性のはざまで苦しむハンパ者、それがわたし。

昔、ちょっと気になっていた人から、ジャック・ケルアックの『路上』を貸してもらったことがあったんですが、結局読破しないまま返却してしまいました。今にして思えば、わたしにはああいう世界は合わないんです。ならず者の仲間たちと車でアメリカ大陸を横断、なんて、ぱっと見にはわたしの放浪と近いけれど、実際は似て非なるもの。もしかしたら、最も遠いところにいる人種かも知れない。
とにかく、わたしはヒッピーにはなれません。
虹色のTシャツは趣味じゃないし(笑)、第一似合わないもの。ガンジャも吸えないしね。多少の羨望と憧れはあるとしても、わたし自身がそうなることはないでしょうね。ヒッピー(というか社会のハミダシ者)への憧れと同時に、ハリウッドや王室のセレブリティへのミーハー心も持っているわたしに、100パーセント反体制なんて、出来るわけない。何だかんだで、規制の枠に思いっきり囚われている人間なのです。

その辺りのことを考えているうちに、ふと「わたしは、一体どういう人間なのか?」という、この暗い放浪記にふさわしい問いに行き着きました。
そこで、思いつくままに、ノートに書き出してみることにしました。以下は原文ママ。
「気難しくて、気まぐれで、寂しがりのクセにそうでないフリばかりして、極度に小心者で、いつもオドオドしていて(してるか?)、受けた傷の恨みはいつまでも忘れない、損得勘定が強く、ヘンなところで道徳的、心が狭く、人見知りが激しい。
苦行好きでクソ真面目、神経質で内向的、異様なほど構われたがりで依存心が強く、いつも欲求不満で物欲は人の3倍はある。金にも時間にもだらしない。
声が低く、時々何を云っているのか分からないほど不明瞭で、顔はそばかすとニキビの跡だらけで肌荒れもひどく、手は70歳の老婆よりもしわしわ、足はとんでもなく短い上に虫刺されの跡がひどい。
妄想癖で、被害者意識がやたら強く、すぐに悲劇の主人公になろうとする。話が異様に面白くない。」

…すげえ。徳川の埋蔵金のようにザクザクと短所が出てくるではないか(埋蔵金はまだ出てないけど(笑))。我ながら天晴れというほかない。
わたしってほんと、何のとりえも長所もない人間なんだなあ、と卑屈でも何でもなくて、改めて認知しました。
昔から、アナタの長所は?なんて聞かれると、本気で困っていました。ほら、就職活動のときとか、履歴書に書かされるでしょ。まさか、ないって書くわけにいかないから、ムリヤリ考え出していたわ。こんなので生きてていいのかしら?(笑)

SALVA50.JPG 暑いのでやたら飲んでいたココナッツジュース。

でも、わたしは思ったんです。別に、それならそれでいいんじゃねーの?って。
欠点だらけというか、欠点しかない自分だけれど、何かあるたびに自己嫌悪に陥りながら、直しようがなければそのままで生きていこう。生きていくしかない。
大体、こんだけ欠陥があったら、もはや再生はムリだよ(笑)。このままで生きていくしかないだろ。とりあえず。ボロボロでも、一応電源は入っているんだから。

何かあるたびに、いつも思う。「別に今すぐ死んだっていいや」って。こんなにどうしようもない自分のままで生きていくんなら、いっそのこと止めた方がいいんじゃないかって。
でも、次の瞬間、それでも天命が尽きるまでは生きよう、って考える。だから、自殺しようとしたことはいっぺんもない。全く死ぬ気もないのに遺書を書いたことはあるけど(笑)。
素晴らしい人格。素晴らしい人生。そういうものから最も遠いところにいたとしても、それでわたしの命の価値が下がるワケじゃない。世界中の人間が、わたしの命なんて紙くず以下だと見なしたとしても、わたしだけは自分の命の価値を守らなくてはいけないような気がするのです。

何やら話が大げさになってきましたので(毎度すみませんね)、ここらで少し軌道修正しましょう。
中東を旅していたころ、長年の読者の方はご存知かと思いますが、同行していた女性へのコンプレックスに日々苛まれていました。そのとき、姐御から、非常に印象的なメールをもらったのです。彼女は旅人ではないけれど、わたしの旅の要所要所で影響を与えている人なのです。ヘタすると、その辺の旅人よりずっと。

姐御は、自らがファンという岡本タロー氏の言葉を引用して書き送ってくれました。わたしはこのメールをプリントアウトしてずっと持ち歩いています。ちょっと長いんですけど、以下にリライトしましょう。

「自分を大事にして、かばおう、うまく行こう、傷つきたくない、そう思うから不安になるんだよ。あるがままの自分以外のものになりたがったりね。もし自分がヘマだったら”ああ、おれはヘマだな”と思えばいい。もし弱い人間だったら”ああ弱いんだなあ”でいいじゃないか。弱いから駄目だとか、どうしてこう弱いんだろうと嘆いて、自分自身を責めることで慰め、ごまかしている人が意外に多いんだよ。そういうのは甘えだ。惨めな根性だと思うね。」
「もっと平気で、自分自身と対決するんだよ。こんなに弱い、なら弱いまま、ありのままで進めば逆に勇気が出てくるじゃないか。人間には自己存在が2つあるんだよ。うつ状態になった自分を、もう1人の自分が冷静に、緻密に観察することが出来る。そっちの方の自分は、病気じゃないだろう。つまり、病気の自分と、もう1人の自分が、見事に付き合い、遊ぶことだなあ。」

タロー氏の人生相談本、その名も『太郎に訊け!』からの引用です。これは、うつ病に悩む人への回答だそう。
あのときも、この言葉を何度も何度も読み返していました。でも、頭では至極納得しつつも、心の方がついて行かず、コンプレックス自体は、彼女と離れるという物理的な力技で解消したようなものでした。
でも、急な話ですが、今になって思い出してみると、心の中にストンと落ちるように納得が行きます。わたしが今思っていることは、まさにこれなのです。
欠点しかない自分。これって、けっこうすごいことなんじゃないのかしら。欠点しかないってさ、ありえないもん(笑)。それに、昔のエラい人とか有名な人の伝記を読むと、大体性格悪そうだし、偏ってるし、絶対友達にはなりたくないタイプが多いんだけど、それでも歴史に名前残して死んでいるんだもの。どっちが人間として優秀かなんて、分からないんだよ。顔も性格も悪くても、歴史に名が残せる人間はいるわけで、だからってもちろん、歴史に名を残すことがエラいわけでもなくて。どっちでもいいんだよ。

そう考えると、欠点だらけで弱い自分が、必ずしも悪い、ダメだってわけでもない気がしてくるのです。
その弱点がプラスになることはいくらでもありうるし、プラスになんかならなくても、生きていくことは多分できる。それでいいんじゃないのかしら。
長所が多いってのはもちろんいいことだけど、短所が異様に多いってのも、ある意味すごいんだよ(笑)。質の点はともかく、数の点では負けてない、みたいな(ムリヤリな理論だけど)。
そして、そんなにもダメな自分が愛しい気さえしてくるから不思議。他人から愛されないと思えば思うほど、自分が可愛い、なんて。だってほら、自分が自分を嫌いになったら、誰も愛してくれないでしょ。

つまんない開き直りだ、って思われるかも知れないけれど、開き直るってことは、そんなに悪いことではないと思います。
幼少のみぎりから大人になるまで、しょっちゅう母親から「アンタはそうやってすぐに開き直る。開き直ったらエエと思ってんのか」と叱責され、図星なのでそのたびにムカついていましたが、今思えば、わたしは別に間違っていない(笑)。

SALVA81.JPG テアトロ(劇場)で毎週金曜日やっているカンドンブレ&カポエラ&その他もろもろのミックスショー。

そんな風にして人知れず葛藤していた日々のある晩、屋上で『アルケミスト』を読んでいると、Yさんが上がって来ました。『アルケミスト』もYさんから借りたものでした。ちなみに、彼の持参本のセレクションはかなり旅人の読書心をそそるもので、あと借りたのは『アントニオ猪木自伝』。これは最高でしたね。少々バカっぽいのですが(猪木の人生自体がもはやマンガみたいだ)、読むとシンプルなエネルギーが湧いてくる。

アルケミスト面白いですね、とかそんなことから始まって、話は精神的な方向に流れていきました。
彼もTさんも、いわゆる”精神世界”にかなり興味を持っていて(さすがはヒッピー)、部屋で2人でメディテーションをしたりすることもあるそう。逆にわたしは、そのテのものに関してはどこか胡散臭さを感じずにおれないタイプなのですが、彼の話は不思議とそういうところはなく、素直に聞けるのでした。

『アルケミスト』を読んだことのある人なら分かっていただけると思いますが、あれは、前兆とか内なるものを大事にして生きなさい、みたいな話ですよね(強引にまとめました)。わたしは元来、そういうものを全く信じていませんでした。自分の人生は自分の力で切り拓くもの、という、まるでビジネス雑誌の成功談みたいなポリシーを持っていたのです(笑)。
でも、旅に出て、例えば明日のルートも決まらないまま眠って、朝起きたときの気分で行き先を決定するようなことがよくある。それはわりと間違った方向には行かなくて、その先に重要な出会いや出来事が待っていたりする。そういうことを何回か体験してきて、即物的なものだけを信じて生きていくのは危険なことなんじゃないかと思うようになりました。
「暴言かも知れないけど」とYさんは前置きして、「あの強盗事件も、野ぎくちゃんの人生にとって必ず重要な意味があると思うんだ」。

そして話はガンジャのことになりました。精神世界とガンジャは切っても切り離せないんだよ(笑)。
彼が率直に、オープンな気持ちで話してくれているのが分かったので、わたしも正直に、自分がガンジャに対して偏見を持っていること、でも興味はあること、アムステルダムで一度吸ったけど何の効果もなかったこと、吸わない自分が旅人世界ではマイノリティなのではないかということ、ガンジャは身体に害はないというけれどバッドに入って気分が悪くなる人もいるんじゃないかということなどを、ぶつけてみました。

Yさん曰く、ガンジャを吸わないのは全然マイノリティなんかじゃなく、いくらでもいるということでした。そんなことで疎外感を感じる必要は全然ないと。わたしはすっかり色眼鏡で見ていたようです。
そして、ガンジャでおかしくなるということはありえない、とも。本来ガンジャは、吸ってリラックスするものであって、例えば偏見ガチガチの状態だったり、「悪いことをしている」と思いながらやるとダメなのだと。普通はガンジャでバッドに入るということはないのだそうです。
「吸いたくないのに吸う必要なんてないんだよ。偏見があるうちは、吸ったって面白くないし、いい効果もないし。アムステルダムで何も感じなかったのは、よく知らない相手に囲まれて吸ってたからじゃないかな。自分が、ここなら安心できると思える環境に出会えたときに、もし吸う気があるなら吸えばいいんであって」

Yさんは、ガンジャはいいものなんだ!という主張は全くしませんでした。ただ、自分の知っていることと思っていることをそのまま話してくれているという気がしました。
ガンジャによるいくつかの不思議な体験も聞きました。あるとき、麻雀でつもる牌が全部分かってしまった時期があったそうです。それは単純にいい効果かも知れん(笑)。本当なら、ガンジャなんかなくても、自分の感覚を研ぎ澄ますことができたらいいんだけどね、と彼は云いました。

ガンジャを吸う動機って、いろいろあると思うんです。大半は、中学生の頃に吸い始めるタバコと同じで、”カッコいいから”てな理由なんじゃないでしょうか?まあそれで、はまっちゃう人ははまっちゃうし、という感じなのかな。そして、わたしがガンジャに拒否反応を起こすのは、やっている人から感じる”何ちゃってアウトロー”な臭いのせいだと思うんですよね。でも、彼の場合は、別にアウトローを気取りたいワケではなく、純粋に(つーのもヘンだが)違う世界を見たいからじゃないかという気がしました。彼女のTさんも同じで、高校生の頃、霊感が強くてけっこう怖い体験をいろいろしたそうですが、今になって振り返ると、あれは何だったんだろう、でももう一度あの世界を見てみたい、と思うようになったと云っていました。その世界を見る手伝いをしてくれるのがガンジャ、ということなのでしょう。
そういう理由なら、わたしにも少しは理解できるのです。知らない世界を見たい、知りたいということならば。だってそれは、旅をする気持ちと酷似しているものだから。

これで、じゃあ明日からやるか!とはもちろんならないんだけど(笑)、それでも彼の話は、今までガンジャに関する話を聞いてきた中で、一番素直に納得できたものでした。何て云うんだろう、話の内容は同じようなものなんだけど、ちゃんと中身が入ってたというか。率直に話されていることというのは、心に響いてくるものなのかも。
「興味があるんだったら、いつでも部屋に訪ねてきてくれればいいよ」と云ってくれたのを、結局実行することはなかったけれど、今後、このHPの自己紹介欄に書いてある「セックスおよびドラッグ禁止」を破ることがあっても、抗議の手紙なんか送らないでね(笑)。何にせよ、自分の意識はまだまだ曇りに曇っているなあ、と思い知らされた出来事なのでした。

SALVA93.JPG 青い家の屋上(Y嬢が洗濯中)。

サルバドールの回のハズが、一体何ですかね、この原稿は?(笑)
今までで一番ヒドい内容ですね。我ながら。己の精神のどうしようもなさ、無整頓ぶりが、そのまんま出ているな。
ま、サルバドールについては、ガイドブックや他の人のHPを読んで味わって下さいませってことで、今回はこの辺で、ムリヤリ終わらせていただきます(逃げる)。

(2003年9月15日 サルバドール)

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