旅先風信82「ブラジル」


先風信 vol.82

 


 

**ビーチで1人昼寝する話**

 

その昔、ドイツの大文豪ゲーテは、こう云いました。
「ビーチには決して一人で来てはならない。それはこの世で最も悲しい時間の使い方だからだ」

なーんて。冗談です。ゲーテがそんなしょーもないこと云うわきゃないです。
でもこの格言(?)自体には、大いに納得するところがあると思いますが、みなさまいかがでしょう?

というわけで(脈絡のない接続詞)、久々のビーチリゾートにやって参りました。
何しろ南米に入ったのが冬真っ只中ということで、ビーチを楽しむ機会など皆無だったのですが(リオでも惨敗)、ああ、やっとのことでバックパックの底でへしゃげている水着を取り出す日が来ました。感涙。何しろこの旅で、すっかりビーチ大好き人間になってしまったわたしは、今では、「いいビーチがある」と聞くと、「え?どこどこ?」とメモってしまうまでに成長したのです(無意味な成長だけど)。

しかし、……わたしってば、ビーチに来るときは、必ず1人。本当に1人。本当に本当に1人なの(涙)。
男前の、とは云わないまでも、いい感じの男性旅行者(日本人外人問わず)と偶然同じルートになり、「あれ?これから○○ですか?じゃ、一緒に…」なんて展開は、いつもないけど、ビーチに来るときはいつにもましてありえない。ナンパそうな現地のビーチボーイみたいなのが声をかけてくるわけでもない。
何も、男と2人でなくとも、3、4人くらいでにぎやかに過ごすってので全然いいんですが、それすらない。とにかくわたしはビーチ=1人なのです。ギリシャのミコノス島に始まって、ケニアでもタンザニアでも、常に1人きり。ケニアのときなんて、4つも行ってまるっきり1人だったもんね。呪われているのかと思ったわよ。

ま、それはともかく、今回来ているビーチは、リオとサルバドールのちょうど中間に位置する、トランコーゾという小さな村のビーチです。ここは、何年か前から(もっと前かも)、口コミで広がった場所で、とりわけバックパッカーの間では”知る人ぞ知る”といった感じで名をはせているビーチ。この辺りはほかにも、ポルトセグーロ、アライアルダジューダ、カライバ…とビーチタウンが目白押しなのですが、”楽園”とまで云われるトランコーゾを選ぶことにしました。
(しかし、バックパッカーの間でとある場所が楽園とか天国と云われる理由は、大体において、”質のよいガンジャが手に入りやすい”というその一点によるものとわたしは思う。ここも例外ではない。)

リオからここに来るまでに、オーロ・プレットという、町自体が世界遺産になっている町に寄って来ました。
”町並みキレイ系”の観光スポットには、最近あまり期待を抱かなくなってしまいましたが、ここは期待以上の町でした。ボリビアのスクレなんて「は?」だよ(いや、決して悪くはなかったけど)。
街並みに心打たれたのは久々です。簡単に云うと、わたしの好きな、ベタベタ乙女チック&ヨーロピアンな町並み(笑)。しかも、ヨーロッパの田舎風のこじんまりした町。茶色の屋根に白い壁。ゴテゴテしたバロックの教会。カラフルな窓の縁飾り。可愛い雑貨屋。乙女のためにある町だよこりゃ(笑)。

こういう町並みに弱いわたし。だって、乙女なんだもん(笑)。

早朝リオから着いて、その日の午後のバスで次の町へ行くという少々きついスケジュールではあったものの、一秒を惜しむようにしてひたすら歩き回っていました。
この町の見どころは、町全体の景観もそうですが、あちこちにある教会群。それも、バロック様式のハデハデな教会ばかりが建っているのです。
さすがに観光で食っている町だけあって、教会のクセにいちいち入場料を取るのにはヘキエキしましたが、まあ仕方ない。教会マニアなので、とりあえず、片っ端から入ることにしました(アホだ)。その名も、サン・フランシスコ・ジ・アジス教会、N.S.ダ・コンセイソン教会、ノッサ・セニョーラ・ジ・カルモ教会、N.S.ジ・ピラール教会、サンタ・エフィニジア教会…舌がもつれそうな名前ばかりでどれがどれだかよく分かりませんが、これ以外にもまだいくつかあるんですよ。さすがに全部はムリだった…。

やはり一番素晴らしいのは、ブラジルバロック建築の最高傑作と云われる、サン・フランシスコ・ジ・アジス教会。ブラジルのミケランジェロと云われるアレイジャニーニョが手がけた祭壇があるのですが、あんまり美しいので「ほえー」と口をあけて10分くらい立ちすくんだほどでした。
ハデハデなのは、ノッサ・セニョーラ・ジ・カルモ教会。ひたすらキンキラキン。まぶしい(笑)。そもそも、オーロ・プレットは、名前が示すとおり、金鉱の発見で栄えた町なので、そりゃー教会にもばんばん金を使っているわけです(※オーロは金という意味)。
そんな、どれ見たって一緒だろ、と云われそうですが、バロックの教会ってハデだから見ごたえがあるし、たくさん見てもあまり飽きないんですよね。大祭壇がデコレーションケーキみたいだったり、そのわりにはキリスト像の顔が異常に青ざめていたりして面白い(笑)。マネキン人形みたいなキリストにマリアに聖人たちは、神様というより人間チックで、「イスラム教が偶像を否定するのは神様の威厳を保つためなのかも知れぬ」と勝手に納得。

雑貨屋の窓辺もひと工夫あって可愛い。

意外にいい拾いものだったかも知れない、と思いつつオーロプレットを後にし、本来の目的地・ポルト・セグーロ、そしてここトランコーゾへとやって来たわけです。
しかし、ポルト・セグーロでの2日間はあいにくの曇天。リオ以来の悪天候が、リオからバスで20時間くらい離れたところにあるこの町までも未だに続いているのです。やっぱりわたし、雨女なのかも…???

トラコンーゾに来て、ようやく天気がよくなりました。と云うより、天気がよくなったので、トランコーゾに移動することにしたのです。
雲ひとつない快晴、というわけにはいきませんが、一応晴れており、気候もいい感じに暑い。
トランコーゾ村は小高い丘のようなところに位置しており、ビーチはそこから歩いて下ること5分くらいのところに広がっています。丘の上から見下ろすビーチは、ヤシの木に囲まれていかにも穴場のビーチっぽく、久々の魅惑のビーチライフの予感を掻き立てます。

そう、たとえ1人であってもビーチはビーチ。クリスマス同様、ビーチも決してカップルのためだけに存在しているのではない!(と、わざわざ云うところが僻みっぽいけど(笑))
寺山修司の『少女詩集』を片手にビーチに繰り出し、とりあえず寝心地のよさそうな砂浜の上にゴロリと転がって、やることといったらもちろん昼寝。穏やかな波の音を聴きながら、「あ〜、あったかいよう〜〜〜」とまるでアホの子のように太陽の恵みをかみしめるひととき。毎度ながら、ビーチでの幸福というのは何とシンプルな、しかし偉大なものでしょうか。持って来た本も読まずに、ひたすらゴロゴロ寝返りを打つだけの昼下がり。脳みそが溶けるるる〜。
ビーチも海も、目を見張るほど美しいわけではありませんが(めちゃくちゃ期待していたもんで…)、今はオフシーズンなのか、人がほとんどおらず、実にのんびりした雰囲気です。物売りもちょこちょこ寄って来るけれど、「いらない」と云えばあっさり引き下がるし、特にキケンな感じもないし。

トランコーゾのビーチ。砂浜も海も、特別キレイ!ってほどではないけれど、人が少なくてくつろげる。

普段はどちらかと云うとインドア志向のわたしですが、ビーチライフだけは別格。
日本にいた頃は、海なんて、誘われても行かなかったのに、ずいぶん変わったものです。とは云っても、ダイビングやボディボードやらのマリンスポーツにいそしむ活動的な海好きではなく、ただビーチでゴロゴロするのが好きなだけの、怠惰なそれなんですけどね。
それに、外国のビーチは、日本のように、発情期まっさかりのギャル男&ギャル子に占領されていないのがいい(笑)。だから、のんびりするにはうってつけなのです。日本のビーチはせちがらくていかん。

結局2日半いて、やったことといったら昼寝オンリー。起きたら少し浜辺を歩いて、また寝心地のよさげな場所を見つけて、ゴロリ。そこから最低1時間は、死体のように動かない(笑)。で、またガシガシ肌を焼いてしまって、大変なことになっています。肌だけ見たら、立派なブラジル人です。しかも、肩がすりむけて、バックパックを背負うと、い、痛い。。。そんなに焼いてどうすんだわたし?!もう、あとのことなんて何も考えてません(笑)。日本に帰ったら、さぞかし後悔することでしょうが、もはや手遅れです。
それにしても、1人でビーチに来て、泳ぎもせずに、アホみたいに寝ているだけの東洋人女子って、ハタから見るとちょっとヘンな人かも知れないなあ、とふと思った…。

お腹がすいたら、宿の近くにあるポルキロ(量り売り)のレストランで食事。
ここがまた、けっこう美味しいんだ。ご飯もさることながら、デザートの種類が豊富で美味い!ツーリスト向けとは云え、こんな小さな村でこのクオリティはかなりハイレベルでしょう。しかし、そう安くはないので(ちょっと控えめによそっても8ヘアル=3ドル弱くらいはする…って書いてみるとそんな高くもないよな(笑))、1日1回。何故かあまり空腹感を覚えなかったので、ポルトセグーロで買っておいたお菓子とそれで、食事は事足りました。

夜は、1人だし、娯楽も大してなさそうなので(探せばあるんだろうけど)、宿で孤独にHPの更新などしていました。カップルで来ているツーリストたちは、さぞかし甘いひとときを満喫しているのだろうな、思う存分ナニしているんだろうな、けっ、としょーもないことを考えつつ、ビーチの夜はひっそり更けていくのでした。

ビーチではとにかくのんびり!が目的だったので、気のすむまでのんびりしてやろうと思っていたものの、わたしのセコい性分では2日半が限界でした。何より、3日目の朝、天気がまたまた悪くなり、早起きしてビーチに繰り出したものの見事に雨に降られてしまい、すっかりやる気をなくしたわけです。昼ごろからまた晴れ出したんですけどね。でも、これ以上いたら、のんびりを通り越して単なるヒマになってしまうと思い、次の目的地に向かうことにしました。

トランコーゾの小さな教会。

次の行き先はサルバドール。ブラジルいち面白いと云われている街です。ポルト・セグーロからはバスで10時間。
やっとブラジルも半分まで来たわけですね。いやはや、さすがは世界第5位の面積を誇っているだけのことはあるな。何だか、どこまで移動しても永久にブラジルにいるような気がする今日この頃(笑)。それではまた。

(2003年9月7日 トランコーゾ)

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