旅先風信81「ブラジル」


先風信 vol.81

 


 

**リオで雨にたたられる話**

 

サンパウロの日本食&週刊誌の呪縛(笑)から逃れ、次の街リオ・デ・ジャネイロにやって来ました…のはいいんですが、あのなー、何で毎日雨降ってんだ?!

リオのバスターミナルに着いたときから、いやサンパウロを出発したときからすでに雨天でした。
しかし、サンパウロからバスで6時間以上も離れたリオもまた雨とは思いもよらず、いきなり出鼻をくじかれてしまいました。
地下鉄グロリア駅の近くに宿をとり、小雨になった頃を見計らってとりあえず出かけようとしたのはいいのですが、サンパウロの荒木で一緒だったO&Mさんカップルに会い、驚くべき話を聞いてしまいました。

わたしより2日早くリオに入っていた彼らは、何とここで強盗に遭い、カメラを奪われ、さらに男性のOさんはボコボコにされたというのです。
嗚呼、またしても強盗です…。相手は16、7歳くらいの少年グループで、場所はセントロの中心部からほど近い、有名なカテドラルの周辺とのことでした。しかも、白昼堂々。
あとでわたしもカテドラルへ、恐る恐る行ったところ、確かに一部、雰囲気のよくない地域がありました。劇場の廃墟のようなものがあって、物乞いらしき人の姿もちらほらしているのです。
観光都市としてはもちろん、犯罪率の多さでも有名なリオのこと。同じく悪名高いサンパウロが意外と平和だったので安心していましたが、どうやらこれは、かなり気を引き締めてかからねばならないようです。

南米最大のカテドラル。教会と云うより要塞?

これ以後、リオでの外出に際しては、最低限の現金しか持たず、カメラなどの貴重品は肩から斜め掛けした上にぶかぶかのウインドブレーカーを着て隠して歩くことにしました。
このグレーのウインドブレーカーは、何のヒネリもお洒落っ気もない、作業服かねずみ男の衣装といった感じのもので(寒さ対策のためボリビアのメルカドで買った)、正直、リオのような大都会を歩くには少々みすぼらしいのです。バックパッカーとは云え一応乙女、場所によっては少しくらいまともな恰好をしたいじゃないですか。が、前記のような犯罪者がウロウロしていては、お洒落かどうかよりもまず安全第一。奴らのために、暑苦しく地味でイケてない服装をせねばならないのは、実に腹立たしいのですが、命と金には換えられません。まるで、ゲシュタポに見つからないように身をひそめるユダヤ人の心境です(それは大げさ)。

それに加えて、雨がまあしつこいくらいに止まない。ノアの箱舟の洪水でも起こりそうなくらい止まないので、自然、外出するのが億劫になり、ホテルの部屋にいる時間が多くなっていきます。
着いた翌日など、一瞬たりとも雨が止まず、食事とトイレのほかは一歩も部屋から出ないという、実にしょーもない1日になってしまいました。ま、おかげでたまっていたHPの原稿に手をつけられたワケですが…。
しかし、この部屋というのがちょっといただけない。1年半にも及ぶ旅中で、最も狭い部屋と云っても過言ではないくらいに小さな小さな部屋なのです。独房でももうちょっとスペースあるんじゃないのか?(苦笑)
シングルベッドとクローゼットは備え付けられてあり、余ったスペースにバックパックなどを置いたら、文字通り足の踏み場もない状態。部屋の唯一の窓は廊下に面していて、開け放しにするとほかの客人にまる見えなので常に閉めたままで、1日中真っ暗。そりゃ、電気を点けておけばいいんですけど、でも、ねえ…。だって、朝が来ても分からないんだよ?

とまあ、そんな部屋なので、閉じこもっているとだんだんウツになってきて、
「ああ、わたしってば世界一孤独な旅人なんじゃないか」とか、
「Oさんたちはカップルだから、こんな狭い部屋でも寂しくなくていいよな」とか、
「そう云えばあとひと月で誕生日だけど、結婚と出産のリミットって一体何歳なんだろうか」とか(飛躍しすぎ)、
とにかく思考がマイナス方向へ流されていきます。

本来、リオと云えばドハデなカーニバルに、ぷりぷりの女の子であふれるビーチ、ゆるくて陽気なボサノヴァのメロディ…と、陰陽で云えば”陽”のイメージの街のはず。それが現実は、と云うかわたしがいる間のリオと来たら、「おい!君の実力はそんなもんじゃないハズだ!」と、スポーツの鬼コーチのように怒鳴りたくなるくらい、どんより陰鬱な、そしてキケンなばかりの都会。ま、カーニバルは時期ではない(※2月です)ので仕方ありませんけど、せめてビーチくらいは堪能させてほしいじゃないですか。
ところが魅惑のビーチライフは、6日間いてほぼ全滅でした。
日曜日の朝、少し太陽が出てきたので、今だ!とばかりにはりきってイパネマビーチに繰り出したのはいいのですが、2時間ほど砂浜で昼寝をこいたのち、「何だか寒いな…」と思って目を開けると、空はすっかり雲に覆われていました…。リオでのビーチライフ、あっけなく終了。ちなみに、イパネマビーチはゲイビーチとして有名らしいのですが、わたしが行ったときは、虹色の旗こそ立っていたものの、それらしき人々は見当たりませんでした。残念(?)。

有名なコルコバードの丘観光も、あいにくの曇天でした。
写真で見るような”青い空に映える白いキリスト像”のはずが、わたしが見たのは”灰色の空に灰色のキリスト像”という、悲しくなるようなシロモノ…。キリスト像、すげーでかかったけどさ…。
それでも、雨が降っていないだけマシだったと云うしかない。みなそう思ったのか、観光客も、ここぞとばかりに押しかけていました。ま、一応リオの街は見渡せたし。
ところで、外人(ってか現地人ね)に写真を頼むと、ナゼああも下手くそなのでしょうか?普通、コルコバードの丘で記念写真を撮る場合、”キリストとわたし”な写真が欲しいわけじゃないですか。ところが、彼らに頼むと、平気でキリストの首から上が切れていたりする。意味ねー!てか、呪われそうじゃないか?このときはデジカメでだったので、チェックしてそれに気づき、「すみません、もう1回お願いします」と頼むと、2回目も同じ結果でした(苦笑)。仕方ないのであきらめました。

地元の人の話だと、こんなに連日雨が降り続くことは珍しいとのこと。
わたしは、嵐を呼ぶ女、ならぬ雨雲を呼ぶ女(つまり雨女)なのでしょうか…ちょっとショックだわ。

RIO31.JPG - 11,238BYTES 白くないキリスト像。

しかし、リオがまったく楽しくない、憂鬱な毎日だったワケではありません。
ある、やはり雨の日、O&Mさんに便乗してショッピングセンターに出かけたところ、これが久々のホームランだったのです。つまり、売っている服がかなり可愛い!おそらく南米一ハイレベルと云っても過言ではない。
先進国チリ、アルゼンチンと比べても、ダントツでお洒落。ケープタウンに勝るとまではいきませんが、それでもかなりのレベルです。全体的には露出の多い服が目立つものの(ブラジルの女子の服は、ヘソ出しなんて朝飯前、とにかくボディラインを強調するものが多い)、わたしでも着られる服もたくさんあります。
旅生活が長いのでつい「高っ!」と思ってしまいますが、日本と比べたらかなり安い。日本でこのレベルのデザインの服を買おうと思ったら倍はします。さらにこの時期はバーゲンにギリギリかぶっていたので、Tシャツ4ヘアル(1ドル半くらい)なんていう掘り出し物も見つかってホクホクです(ま、それでもTシャツくらいしか買えないんだけどさ)。

コルコバードの帰りに寄ったNAIF(何の略だか忘れた…)という美術館も、かなり楽しめました。
ブラジルの画家の絵ばかりを集めた、こじんまりした美術館なんですが、このブラジル絵画が実にポップで可愛いのです。アフリカのカンガ(布)やティンガティンガ絵画を彷彿とさせる、ビビッドかつカラフルな色合いと、素朴な描線。印象派とかシュールレアリズムとかいう芸術の流れとは、まったくカンケーないところにあるような…。何て云うんでしょう、ヒロ・ヤマガタの絵をもっと素朴にした感じの絵。画面びっちり色の洪水みたいです。こういうごちゃごちゃしたポップさって好きなんだよねー。キャンディの箱を開けたみたいなの。

ブラジル以外の世界の絵画を集めた展示もあって、これがまた面白かった。ブラジルもたいがいハデだけど、メキシコ絵画はさらにハデハデ。蛍光ピンクとかばんばん使って、何だかまぶしい(笑)。インドネシア絵画はカラフルなのに、恐ろしく緻密で美しい。東欧とか旧ソ連圏の国の絵は、同じモチーフを描いても色使いが暗い。…とかいう風に、絵にお国柄が出ていて、興味深かったです。

RIO53.JPG - 30,579BYTES ちょっとピンボケしてますが…こんな感じの絵。

さらに、サンパウロに続いてサッカー観戦も。
ヨーロッパでは本場のサッカーを観ることもなければ、昨年のワールドカップ時、せっかくの自国開催にもかかわらず海外でほっつき歩いていたわたしですが、本当は、サッカーには少なからぬ興味があるのです。

何を隠そう、隠しはしない、わたしは『キャプテン翼』の大ファン。それも幼少のみぎりから、今に至るまで。小学校のときはサッカー部に入っていたくらいさ(何もやってなかったけど)。
幼稚だのオタクだのとバカにされようともこれは譲れないのです。ちなみに好きなキャラは日向小次郎と松山光くん。ふん、オタクでいいもんね。
当然、キャプつばの影響でサッカーファンになってもよさそうなものですが、残念ながらそうはなりませんでした。
Jリーグが始まった頃だったか、テレビで実際のサッカーを観たとき、「何これ?これがサッカーなの?オーバーヘッドキックとか、トライアングルシュートとかはないの?!」と大いに失望してしまい、以来サッカーを観ようという気がしなくなったのです。しょーもない理由だと云われそうですが、仕方ない。キャプつばの影響(悪影響?)は想像以上に深遠なのです。それでも、98年のフランスワールドカップは、さすがに世界レベルの試合だけあって見ごたえがありましたが。

リオのマラカナンスタジアムは、世界一の規模を誇るスタジアムです…というのは、一緒に行ったO&Mさんに教えてもらった話です(笑)。こんなことも知らないようでは、キャプつばファン失格ですね。
この日は、フラメンゴ(リオ)vsコリンチャンス(サンパウロ)の試合でした。
実は、コリンチャンスの試合はサンパウロでも見ていたので、ほかのチームだとなおベターだったのですが、どちらも人気チームですからよしとしましょう。フラメンゴはかのジーコがいたチームということで(これもO&Mさんから得た知識)、日本人にはわりとなじみのある名前だと思います。

ブラジルでのサッカー観戦は、サッカー自体よりサポーター&観客を見ているのが楽しいですね。
もう、この広いスタジアムが全員阪神ファンかと思うくらい、応援に熱が入りまくってます。シュートが惜しくも決まらなかったときなど、この世の終わりかよ!とでも云いたくなるようなうめき声が上がる(笑)。点が入ろうものなら、これまた天変地異でも起こったかのようなどよめきが起こる。われわれも、隣のオッサンと手を叩き合って喜んだりして(笑)。サポーターのサンバ風の応援も楽しく、ああ、これがラテンノリだよな、南米だよな、って思いました。

RIO70.JPG - 27,090BYTES マラカナンスタジアム。

そして、リオで一番よかったこと。それは、ボサノヴァのライブを見に行ったことでした。
リオと云えばボサノヴァ!…なんてはりきって来たわりには、実はわたしは、ボサノヴァなんてまともに聞いたことないんですが(笑)、ライブにはしっかり行って来たのでした。
まあ、ミーハー心を満足させられればそれでよかったのですが、このライブが予想以上に素晴らしく、その日の日記には、「ああ、何で幸せな夜なんだ。みんないい人で、奇跡のようにいい夜だった」なんて書いてある(笑)。宿に帰って来たのは夜中の1時過ぎでしたが、興奮してしばらく眠れなかったほどです。リオで夜1人で外出するなんてと、かなり腰が引けていましたが、いやー、命がけで行ったかいがあったよ(笑)。

ライブが始まるのは夜9時半頃。それまで、有名な「イパネマの娘カフェ」でお茶をすることにしました。ボサノヴァの神様、アントニオ・カルロス・ジョビンが『イパネマの娘』をここで作曲したのにちなんで、名前がそのまま冠されているのです。
いつも食べている安食堂の定食よりも高いコーヒーを飲むことになろうとも、一体どこにいたんだ?と訝しく思うくらいたくさんの白人ツーリストで満員状態であろうとも、こういうスポットは外せないわたし。ま、ただのミーハーなんですけど、でも、旅はミーハーな方が楽しいよな、「興味ない」てのは旅人の禁句だよな、なんてことをぼんやり考えながら、カフェコンレチェ(ミルク入りコーヒー)を飲んでいました。ただ、こういう場所には、1人よりも誰かと来た方がいいな、と自分の前の空席を少し寂しく感じましたが。

RIO55.JPG - 20,495BYTES 「GALOTA DO PANEMA」(イパネマの娘)の内部。

頃合を見計らって、カフェのすぐ目の前の老舗ライブハウス「VINICIUS」へ移りました。
入り口で客引きをしているおじさんに値段を聞くと、予想金額より高く、かなり躊躇してしまいました。どうやら今日は有名なシンガーのライブとのこと。しかし42ヘアルは高い(ミニマムチャージ込)…っても日本円にしたら1500円くらいなんですけど、だって、今泊ってるホテルが10レアルですから(笑)。
わたしはおじさんにごねにごねて「何とか負けられないのー?」としつこくせがんでいましたが、値下げというのはどうやらムリらしく(ま、ダフ屋じゃないしねえ)、1ステージだけ見て帰るというので手を打つことにしました。それだと半額になるからです。

「VINICIUS」は、ライブハウスというよりも、北新地のクラブのような内装で、例のねずみ小僧ウインドブレーカーで来てしまったわたしは激しく後悔しました。しかも、あまり客も入っておらず、「何だよ、全然盛り上がってないじゃないか」とがっかり。帰りの足の心配もあって、早くも帰りたくなってしまいました。
とりあえずお酒を飲みながらぼんやりしていると、そのうち、ぱらぱらと客が入りだして、1ステージ目が始まりました。長髪のお兄さんの弾き語りです。軽やかなギターの音が、何ともゆるくてハッピーな感じで、ああ、青い空の下、ビーチでお昼寝しながら聴きたいなあ…って思いました。音によって、身体がどこかに運ばれていくような、そんな気分でした。

1ステージでもけっこう満足だったのですが、急にボサノヴァが好きになってしまった(笑)わたしは、欲を出してもう1ステージ見ることにしました。
2ステージ目は、マリア・クレウザというボサノヴァ界では有名らしいシンガーのステージだったのですが、この人がめちゃくちゃカッコよかった。森公美子みたいな太ったおばちゃんなんだけど、オーラがギンギンに出ていて、圧倒されまくりです。弾き語りではなく、生バンドでのステージは迫力満点で、いつのまにかお客も立ち見が出るほど満員になっていました。
そして、彼女が歌う『イパネマの娘』を聴いたときの興奮と云ったら!自分がこの世で一番幸せだと思うくらいに、身体が震えて、涙が出そうでした。お酒も気分よく回って、何だか夢うつつでした。
クラブも好きだけど、やっぱりライブならではの昂揚感というのは格別です。クラブで踊っていて涙が出ることはないけれど、ライブなら充分ありますもの。ベタな云い方だけど、エクスタシーを感じる(笑)。

…夢のような3時間と少しでした。
入り口で、「ディスカウントしてくれよー」なんて粘っていた自分をちょっと反省しました(笑)。
帰りの足がずっと気になっていましたが、それも、何と、客引きのおじさんが自分の車でホテルまで送ってくれたのです。
実はこのときもかなりビビっており、「途中で友達を拾っていくけどいいか?」と尋ねられたときは、も、もしかして黒人のごつい兄ちゃんが入ってきて、おじさんと2人して強盗にヘンシンしたらどどどうしよう…とか思っていたのですが、乗ってきたのは可愛いガールフレンドで、おじさんはあくまでもいい人だった(笑)。
まさにパーフェクトな夜でした。そう、思えば、ホテルを出たときから、夜出かけるというのでホテルの兄ちゃんが心配してバス停まで送ってくれたりして、何だかもう、会う人がみんないい人で、”ブラジルは強盗だらけだ””リオは恐ろしい街だ”なんて思っていたのはどこへやら、という感じです。ブラジル、もしかしていい国なんじゃないのか?(笑)

(2003年9月3日 ポルト・セグーロ)

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