旅先風信73「ペルー」


先風信 vol.73

 


 

**お楽しみはこれからだ?!(クスコ編)**

 

ナスカからクスコまではバスで16時間。
また一気に高度が上がる(700メートル→3400メートル)ため、高山病の再発を懸念していましたが、何故だか何ともありませんでした。

クスコに来てとりあえず目指すは、日本人宿「八幡」。
汐見荘でともに海鮮三昧していた、一部で田代まさし似とウワサのMさん(汐見荘仲間はMさんが多い;)といきなり再会しビックリしました。だって彼は、わたしがイースター島に行く前に汐見荘を出、今ごろはとっくにボリビアにでも抜けているものと思っていたのです。
「もしかして沈没してますね?」「いやいや、そんなことは」
「毎日何やってるんですか?」「カジノとか大富豪(トランプ)とか、いろいろ色々忙しいよー」
…それを沈没というのですよ、Mさん!!

ご多分に漏れずというか何というか、「八幡」も長期旅行者かつ沈没者が多い。
確かに、部屋はキレイだし、洗濯物の干せる中庭が気持ちよいし、洗濯機も使えるし、NHKは見られるし…と、長居したくなりそうなところではあります。
難点を云えば、キッチンが小さいのと、シャワーの水量が足りないのと、共同スペースがやや狭いこと(文句云い過ぎ?)。
共同スペースというのは、日本人宿にとっては大変重要な場所でして、旅行者たちはとりあえずここに集まって情報交換をしたり、くだらない話をしたりするのが常なのです。
が、ここの共同スペースは、客数に比して席数が少なく、長期の人たちが席を占めていたりすると、新入りは何となく入りづらいものがある。そんな気の弱い新入り(笑)の分までスペースがあるといいのになあ、というのがちょっと残念なところ。

朝からテレビを見ふける沈没者たち。

そんなわけでわたしも、共同スペースが満員だと、つい寝室に引きこもって読書などにいそしんでしまっているのですが(また寝室が”離れ”なのよね)、それでも宿の人たちと、近くの日本料理屋「金太郎」や「プカラ」で食事をしたり、『おしん』(再放送)を観たりと、それなりに日本人宿ライフを楽しんではいます。こないだは、『爆笑!オンエアバトル』が放送されており、久々に10$とかのネタ見て、涙を流すほど笑ってしまいました。あー、もっとお笑い見てーなー。

あ、でも一番の難点は、八幡の前の道が、昼間でも全然人気がないってことだ(苦笑)。
最初にクスコに着いた日、バックパックを背負ってこの道(しかも坂道)を歩いていたわけですが、あまりにも怖く、また高度が高いせいもあって本当に心臓がバクバクいってました。
何せクスコは、南米の中でも有名な”首締め強盗多発地域”なのです。こんな人気のない道で1人歩いていて襲われたら、ひとたまりもありません。
この道には今も慣れなくって、夕方近くの帰宿になるとダッシュして駆け上がりたくなりますが、3400メートルの高所なのでそれはムリ。5秒に1回は後ろを振り返りながら、恐る恐る帰路に着いています。夜間の外出は、大人数でないとコワくて出来ません。ちょっとビビリすぎな気もしますが(実際に襲われた話は聞かないし)、一度強盗に遭ってしまっては…さすがに2度はごめんこうむりたいですからね。

さて、ペルーと云えばインカ帝国。南米大陸に巨大な国を築きながらも、スペインの侵略であっという間に滅ぼされてしまった、悲劇の帝国ですね。ペルーは、南米の中でもインカが色濃く残った国で、何しろ国民的飲み物の名前が「インカコーラ」。ちなみに、どんな飲み物かというと、黄色くてベタ甘い炭酸飲料です。土産物屋には、インカコーラTシャツというのもたくさん売っていて、こういう、ダサさギリギリのご当地ものが大好きなわたしの心を打ち抜き、もちろん購入しました。

クスコは、そのインカ帝国の都が置かれていた場所で、街のいたるとことに”インカの石組み”が残されています。
インカの石組みとは、”カミソリの刃も通さない”というキャッチフレーズで有名な、精巧な石垣のこと。いくら何でもカミソリの刃くらいは通るだろー、と思っていましたが、実際に見てみると…むー、確かにこれは1ミリの隙間もないかも。度重なる地震にもビクともしなかった、という事実にも深く納得です。
その石組みの中で最も有名なのが、「12角の石」と呼ばれる巨石です。文字通り、12の角が他石とぴっちり接しているのです。何もわざわざ12角にせんでも4角でエエやん…と思いますが(笑)、この石だけでなく、インカの石組みは見れば見るほどすごくて、よくまあこんなフクザツな石と石の組み合わせを考えついたものだと感嘆せざるをえません。

CUZCO1.JPG 有名な「12角の石」と、CUZCO23.JPG 勝手に発見した「16角の石」。

クスコの中心はアルマス広場です。
この広場はちょっと特筆すべき美しさでして、おそらく南米一を誇ると云ってもいいのではないでしょうか(まだ3カ国しか回ってないけどさ…)。
昼間でも充分魅力的ですが、夕暮れどきに街灯が点灯し始め、広場を囲むように建つ巨大なカセドラルとラ・コンパニーア・デ・ヘスス教会がライトアップされると、例えようもなく幻想的な雰囲気を醸し出します。ヨーロッパでもなかなかこれだけの広場はないかも知れません。

しかし、初めにクスコの街を歩いたときに気づいたこと…それは、「ん?何かここ、虹色の旗が多くないか?」ということ。
ホテル、お土産屋から普通の民家らしき家のバルコニーに至るまで、やたらと虹色の旗が掲げられているのです。
虹色の旗とは、そう、ご存知でない方のために説明しますと、ゲイのしるし(スピッツの『愛のしるし』風に読んでね)。日ごろゲイ好きを標榜していながら、この旅で、懐かしのドイツのKさんに教えてもらうまではわたしも知らなかったのですが、この旗が掲げてあるお店は、「ゲイの店」ということなのです。
わたしは内心ドキドキしながら(何で?)、あまりにも至るところにはためいている虹色の布に目を奪われ、意味もなく写真を撮り歩いておりました。

結局、あとで分かったのは、虹色の旗はゲイのしるしなんかではなく、インカ帝国の象徴であり、インカの都であったクスコ市の市旗だということでした。なるほど。それなら納得。ゲイの旗にしちゃ、いくら何でも多すぎるものな…。
「クスコってゲイに優しい街なのかと思いましたよー」と八幡にいた旅行者たちに話したところ、何人かから自分もそう思っていたという反応が(笑)。クスコの人は虹色の旗=ゲイ、って公式を知っているのかしら…。

CUZCO19.JPG ゲイに優しい街。

ペルーで1、2を争う観光地であるクスコは、非常にツーリスティックな街ですが、美しいので全て許す、って感じ。美人は何をやっても許されるのね(笑)。
インカの石組みの上に建つヨーロッパの田舎風の建物とか、各教会のやや過剰な内装とか(カテドラル内の銀製の大祭壇はため息もの!これは必見)、石畳の坂道とか、宗教画や天使のマスコットを売る小さなお店とか…何だかよく出来た箱庭みたい。アルマス広場からサン・ブラス教会に至る小道なんてもう、乙女ゴコロをくすぐりまくりです。
ところが、しばらく歩くとインディヘナのおばちゃんたちが路上で物を売るごちゃごちゃしたエリアにぶつかり、中心地とはガラっと雰囲気を変えるのも面白い。この辺りは、ちょっとアラブの町なんかを思い出します。
「金太郎」のインカ丼は美味しいし、「プカラ」のケーキは美味しいし、ネット環境もいいしで、確かにここで沈没するのも悪くはないでしょうね。わたし?わたしは真面目な旅行者なので、しません(笑)。

しかし。そんな、美しいクスコの街と、快適なる日本人宿に居ながら、わたしはいつになく鬱々とした気分に苛まれているのでした(ここからは、旅行とカンケーないので読み流して下さい)。

ある日、いつものようにネット屋に行き、メールチェックをしたあと余った時間でネットサーフィンをしていたのですが…これがいけなかった。
何とまあ、日本人は、物を消費したり収集したりすることに命をかけていることか!と、以前自分がそうだった(今ももちろんその兆候アリアリ)ことは棚に上げて、強烈に憤りを感じてしまったのです。

もっと具体的に云いますと、命がけで旅をしている(ウソウソ)わたしのHPよりも、「今日は○×屋のケーキを食べた」とか「ペプシのボトルキャップが全部集まった」とか「○○のお洋服を買った」とかいう内容の日記ページの方がはるかにアクセスが多いってのは、どーゆーことなのかしら!?という憤りですね(笑)。
あーもう、醜いのを承知で書くけど、それはどうにも解せないのよ!ザンビアとかジンバブエとか意味分からん異国の話よりも、人が喫茶店でケーキを食った話の方が面白いんかい!そのケーキの食い方がダウンタウンのコント並みに面白いならともかく、別にフツーにケーキ食っとるだけやないかい!

…ぶちまけてやった。いぇい。ちょっとスッキリ。単にお前のページが面白くないだけでは?というツッコミは、一応自分で入れとくので、わざわざ指摘しないでね(笑)。それに、日常雑記のページが必ずしも面白くないと云っているわけではなく、もちろんすごくいい日記もたくさんあるってことも、ちゃんと書いておきます。はい。

しかしともかく、自分の友人知人連中も含めて、彼らにとって大事なのは半径5メートル以内手の届くところに、自分の気に入った本とか洋服とかCDがあるってことで、いかに優れたものを手に入れるかってことで…。世界のどこかで戦争が起こってても、「そんなのカンケーないもーん。それより○○のコンサートのチケットが欲しい!」てのが真実なわけで…。
なんてことを思っていると、そういう社会から一時的にせよ離れていることへの疎外感、そして、帰国したとき、以前のようにすんなりと馴染んでしまえるのだろうかという危惧と、馴染んでしまうことへの反発…などなど、色んなものが一緒くたになって、わたしの頭を悩ませるのでした。

今読んでいる『永遠の仔』に、こんなフレーズがあったんです。
「頑張らないと生きる価値はないと、あなたたちは繰り返す。努力しないなら人生の意味はないと叱咤する。でも、あなたたちが言う頑張り、努力する道は、際限なく欲望に満ちた暮らしをめざす道でもありはしない?」

長い移動のときなど、ぼんやりと帰国したあとのことを考えます。
わたしは、今でも、お給料がよくてやりがいのある会社で仕事がしたいとか、好きな男と結婚して子供を産んで人並みに幸せになりたいとかいうあまりにも俗っぽい願望を捨てきれないでいることに、我ながら吐き気を催すこともしばしばです。
これだけ長く旅を続けていながら、結局望むことはその程度のことでしかないのか?それだったら、最初から旅になんか出ないで、真面目に働いていればよかったんじゃないのか?いや、そもそもそんなことがわたしの人生の命題なのだろうか?それが手に入れば、わたしは幸せなのだろうか?

そして、そこから話はくるくると螺旋を描いて落ちて行き、己の孤独といういつものアレにぶち当たるのです。

際限ない欲望というのは、際限ない孤独の合わせ鏡ではないのでしょうか。
わたしは時々思うのです。自分の中に、ブラックホールのような穴があって、どんなに素晴らしいものを見ても、優しい言葉をもらっても、まだまだ足りない、この穴を埋めることはできない…と、我ながら、空恐ろしいほどに何かを渇望している、と。何故これほどまでに、寂しい、足りないと感じるのか、一体何が欲しいのか…。

よく、このHPには孤独という言葉が、安っぽく何回も登場しますが(すみませんね)、別に、1人で旅をしているから孤独、というわけではないんです。もちろん、1人旅は孤独な行為ではありますが、仮にこの旅を止めたからと云って、孤独感が埋まることはありえないでしょう。だから、「そんなに寂しいなら、帰って来ればいいのに…」という忠告はあまり意味がなくて、帰ってしまえばもっと救いようのない孤独が待っているだけのような気さえします。
今は孤独だけど、その分自由ではある。でも、帰国したあとの孤独は、自由と引きかえですらない。だったら今のままの方がいいんじゃないか。日本に帰ったら、その埋まらない孤独感を、本とか洋服とかCDとかで埋めようとして浪費し、部屋にゴミの山を築く生活になるに決まってるんだもの…。それならまだしも、消えてなくなるものに浪費している今の方が、よっぽどスッキリしているような気がする…。

CUZCO23.JPG 夕暮れのアルマス広場。

…支離滅裂になってきつつあるので、ここいらで閑話休題。
いつにも増してドロドロしたたわごとを書き連ねてしまいました…と反省しているならアップしなければいいのですが、どうもわたし露出狂のケがあるようで。はー、せっかくのクスコの街もこんなことを考えて歩いちゃ台無しよね。

八幡ではひとつ、ちょっと劇的な(?)出来事がありました。
ブダペストのテレサハウスに、ちょうどあの時期泊っていた旅行者に会ったのです。
とは云っても、わたしがテレサを出た翌日だか翌々日だかに入れ替わりで来た人だったので、テレサでは会っていません。ニアミスというやつですね。
ヨーロッパ旅が長かったという話をお互いにしているうちに、そのことが判明したときは、本当に、本当に驚きました。
「えっ、じゃあアクセルとかタケシさんとか知ってますよね?」
「アクセルくんか!懐かしいなあー。タケシさんって、ブダで働いてた人でしょ」
「タケシさんまだブダペストにいるんですよ」
「ええっ?ホントに?随分長いねー」
てな調子で、しばし周りを無視したテレサ話で盛り上がっていました。また彼が「テレサのあの気の抜け具合ってすごくいいよねー。テレサ大好きだよー」なんて云うので、自分の宿でもないのに(笑)嬉しくなって、テレサへの思い入れをアツく語ってしまったのでした。

それにしても、こんなに驚いたのは久しぶりです。
長旅していると、こんな偶然もあるのですね。ここはヨーロッパから遠く離れた南米大陸で、あれから1年近くも経っているというのに…。
話をしている内に、「えー?あのときイスタンにいたんですかー?」なんてけっこうニアミスしていることが分かり、旅の不思議というものをつくづくと思い知るひとときでした。
しかし、何が驚きって、お互い未だに旅を続けているということだよなー(苦笑)。そうでなければ、南米なんかで会うこともなかっただろうし…「あれからずっと旅してんでしょ?ヤバいよねー」って、それはアンタのことだよー!(←とお互い思っている)。

クスコのとある街角。

(2003年7月19日 クスコ)

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