旅先風信52「スーダン・エチオピア」


先風信 vol.52

 


 

**キレまくり道中記1(国境越え編)**

 

キレて、キレて、またキレて。
スーダンからエチオピアの怒涛の国境越え編です。

自分でも大人げない、ってことは分かっています。それはもう、重々に。でも、頭と心は別なのか、いや、頭と身体は別と云った方がいいのかも知れませんが、すぐ頭に血が上ってしまう。最近食生活に満足していないからかしら…。
あまりにも気温が高いせいもあるし(鼻かんだ瞬間に鼻血が出るくらい)、生理前、というのもあるのかも知れない。生理前だからって、特別意識しているわけじゃないけど、身体がキレやすい状態になっているような気がします。

何もないとは云え、高いビザ代と外国人登録代を考えると、もう少しスーダンを見て回るべきではないか、と思い、ハルツームから紅海の港町ポートスーダンにダイビングしに行くつもりだったのですが(この期に及んでまたダイビングとは、わたしも懲りない人間だわ)、どうも日にち的に生理にぶつかりそう、しかも今度はタンポンがない、そして何よりハルツームから丸一日かかるという移動距離にウンザリしてしまい、一気にエチオピアまで抜けることにしました。

ハルツームからはまず、バスでゲダレフという町に行き、そこからローリーと呼ばれる大きなトラックで国境の村ガラバートまで行くことになります。
早起きは三文のトク、とばかりに、まだ夜も開けきらない内から荷物を背負ってバスターミナルへ。チケットもさくっと買って、いつでもどっからでもかかってこい状態(何のこっちゃ)でバスを待っていました。

ところが、このゲダレフ行きのバスがいつまでたっても出ません。バス会社のオッサンに聞いてもみんなテキトー。「7時だ」「8時だ」「いや8時半だ」…はっきりせーよ!!!何で誰も知らないんだよ??
「ねーまだなのー」「まだだ。奥のオフィスで寝てなさい」…あのなー。寝てるバヤイかっ!
ようやくバスに乗ってからも、いつまでたっても出発しないんだよこれが…。まさかこの大型バスが満員になるまで出ないとか?!この辺ではよくあることですが…。しかし早朝から待っているわたしは、もはやイライラの限界。一人テンパって、ブツブツと呪詛の言葉を吐いたり、意味なく外をウロついたりと、周りから見たら明らかに挙動不審だったでしょうね。

半日かかってようやくゲダレフに着き、バスターミナルから町のセンターまで出ているピックアップバスに乗ったはいいけれど、ドライバーのオヤジがガラバートまで連れて行ってくれるというので、そのまま乗っていたところ、5分も走らないうちに市場のようなところで車が止まりました。
「あれ?もうガラバート?」
「ノー。○@♀★□▼(…分からん; )」
「え、ガラバートに行くって云わなかったっけ?」
「ノー。ギブミー300ディナール(150円くらい)」
は??何云ってんの?全然走ってないだろ。しかもここガラバートじゃないし!
しかしオヤジは「ワタシエイゴワカリマセーン」てな顔で、とにかく下りろ、そして金払えと云います。それにしたって300は高いので「何故だっ!?」と問い詰めたところ、どうやら勝手にこの車をわたし一人でチャーターしたことになっていたらしい…って、アホかーーーっ!!!
あんまりムカついたので、下り際、ドア思いっきし蹴っちゃったよ。周りの人々からまた奇異な目で見られたけど…。

あとで気づいたのは、どうやらそこはガラバートではなく、ガラバート行きのトラックが出る場所だったようで…ちゃんと話を聞かなかったわたしも悪かった…。

スーダン→エチオピアの国境越えは、先述したローリーが唯一の交通手段です。
これ、ウワサにはちらっと聞いていたものの、本当にすごい車でしたねー。だって、フロントガラスがルーフトップと分離してんのよ!サイドの窓なんてもちろんあるわきゃない。何と云うか、廃材を組み合わせて作った独自の乗り物といった感じで、ギアなんかただの鉄棒なんですが(笑)。運転席の足場部分に粗末な穴が空いていて、一体何かと思ったら、そこからペットボトルでオイルぶち込んでました。。。
当然ながら性能はよくないので、30分に一回は必ず故障して止まってましたね。加えて道が未舗装、いや、道とはとても云えないような砂地で、まーほんとよく走ったなーという感じです。
でも、わたしは助手席を確保できたおかげで、予想よりは辛くなかったですね。もちろん、顔から身体から砂まみれ、身体中の穴という穴から砂が入ってくるような勢いでしたが…。これが運が悪いと(あるいは金をケチると)荷台の上の席で、かーなーりハードな旅になっていたことでしょう。もしかしたらトラックから転がり落ちてたかも…って死ぬだろそりゃ。

 ローリーから見る風景。何もない…。

途中、コネナという軍事キャンプのある村で一泊し(と云っても半分野宿)、次の朝ガラバートに到着しました。
ガラバートは、スーダンとエチオピア両国にまたがっており、正確にはスーダン側をガラバート、エチオピア側をメタマと呼びます。ひとつの村が二国に分断されているなんて、島国日本では考えられないですね。
国境越えは徒歩です。小さな橋を渡るとそこからはエチオピア。最後にスーダン側でマンゴジュースをぐびっとひっかけて、気持ちを新たにエチオピアに入国しました。

メタマからは、いったんシャハディという隣村に出ることになります。
ところがこのバスが、もう実に阿鼻叫喚と云うか何と云うかで…20人乗りくらいのミニバスに、一体どんだけ乗るねん!というほど人をつめるつめる!もうええやろ、頼むからやめてくれ!と祈るような気持ちでいましたが、バスのオヤジは、まるでここが四次元であるかの如く、次から次へと乗客を拾っては押し込んでいくのです。人口密度200%はゆうに越えてましたね。こらー!ひざの上に座るなー!ダイブするなー!みたいな状態。。。ここはパンクスのライブ会場ですか。。。
うわさに聞いていた通り、バスはボロいし、舗装されていない道をガタガタガタ…と走っていくので、揺れるわ暑いわのろいわ、オマケに20分に1回は故障するわ…その度にバスからいちいち下ろされ、またつめなおすという、馬鹿馬鹿しい作業が繰り返されるのです。
ま、よく考えたら日本の満員電車も相当なもんだけどねー…でも故障はしないか。

シャハディに着いてからも、後から思えば実にくだらんことでキレまくっていました。
いったんキレ出すと、”キレぐせ”みたいなのがついてしまうのかも。。。マズいなー。

まずホテル。
「ハウマッチ?」「20ブル(1ブル=約15円)」。
…国境でスーダン人のオッサンに聞いていた値段と違うじゃん。2倍だ2倍(※この際、2倍ってもたったの30円では?というツッコミは受け付けません)。
「はあ?前にここに泊ったっていうスーダン人は10って云ってたけど?!」
応対に出たのは少年だったのですが、英語もほとんど分からないらしく、ノーノー、20ブル、と繰り返すばかり。
「それじゃ他のホテルに行くよ」と云って立ち上がっても、壊れた機械のように20、20としか云わないので、だんだん腹が立ってきました。こっちは地獄のようなバスに揺られてやって来て、今すぐにでもベッドに横になりたいのに!
「あんたねー、本っっっ当に、絶対に20なわけ?絶対?神に誓って?」通じてないと思いつつ、英語で念押ししましたが、ウマの耳に念仏とはまさにこれ。暑さと怒りで本当に頭がおかしくなりそうだったので、仕方なく折れましたが、でもやっぱりムカついて、投げつけるようにカネを払ってしまった…少年が出て行ったあと、わたしはぶしゅーっと鼻血を吹いてしまいました。

今から思えば明らかにぼったくりなコーラを飲んで、少し落ち着き、洗濯などしているうちに夕方になりました。
せっかく涼しくなったので、散歩がてら村を歩いていると、子供が雲霞の如く寄って来ます。アラブ、特にモロッコ、チュニジアあたりもすごかったけど、ここはひと味違う。「ハロー」とか「ワッチュアネイム?」と云ってくるところを、何故かこいつらは「ユー(YOU)、ユー」と声をかけてくるのです。ヘンなの!直訳したら、お前、お前、って感じでしょ?むしろ失礼じゃないのか?

 ユーユー集団(手前のガキ、悪そーな顔…)。

子供だけでなく、大人もばんばん声をかけてきます。
その内の一人の青年が、シャイ(紅茶)をおごってくれるというので、ほいほい付いて行って、そこでまた他の客と一緒に写真を撮ったり、アムハラ語(エチオピア語)を教えてもらったりと、実に和やかでウルルンなひとときを過ごしておりました。

青年に聞いたところ、すぐ近くにジュース屋があり、そこではパパイヤのフレッシュジュースが飲めるといいます。
スーダンからこっち、キチガイのようにフレッシュジュースを飲みまくっていたわたし。いちもにもなく「ジュースが飲みたい!ジュース屋はどこ?」と云うと、青年は、じゃあ案内するよ、と云ってわたしをジュース屋へ連れて行ってくれました。
ま、そこまでは良かったんだけどねー…。

ジュース屋でその青年と並んでジュースを飲んで、調子こいてパパイヤの写真とか撮っていたまでは良かったのです。
そろそろ暗くなってきたし、散歩を再開するかー…と、腰を上げつつ、「で、ハウマッチ?」と問うたところまでも、まあ普通です。
返ってきた答えは
「3ブル」…あれ?何か高くねーか???と思って、もう一度聞いてみました。
店員のおねーさんは、壁を指差しています。あ。値段表あるじゃん。で見ると、1.5ブルって書いてある。…てことは、もしや、2杯分要求されてるわけ?!こいつの分も?!
当惑するわたしをよそに、青年はこともなげに、「どうした?3ブルだ」と云う。…カチンと来た。「何で?1杯1.5ブルでしょ?3ブルだったら2杯分じゃないの。…何、もしかしてあんたの分も払えってことなの!?」
わたしの英語がひどいのか、そいつの理解力がゼロなのか分からないけど、青年はきょとんとしたまま、3ブル3ブルと繰り返すばかり。
…で、キレちゃったね。また。
「ああ分かったよ!払えばいーんでしょ!」わたしはカネを払って、ものすごい勢いで店を出て行きました。

しかし、どーにも怒りが収まらなくて、楽しいはずの町歩きも、頭に血が上って景色を満喫しているどころじゃない。
その内、怒りは沸点に達し、人目もはばからず、「ふざけんなよ!何であたしがあいつのジュース代払わなアカンねん!何であいつにジュースおごったらなアカンねん!もうサイアクやこの町!」てな調子でわめきちらし(もちろん日本語)、その辺にいた子供たちの好奇の的になりまくり。。。恥ずかしい日本人ですね。後から来る人、ホンマすみません。
あまりにも楽しくないので、もうホテルに帰って寝よう、ときびすを返して歩いていたところ、さっき喫茶店で一緒に写真を撮った少年の姿が目に飛び込んできました。「こいつなら、あの男のこと知ってるはず」
わたしは取り付かれたように少年のところに向かっていき、デジカメを取り出して、「ねえ、あんたさっき喫茶店にいたコでしょ?あんたの隣に座ってるこの男知らない?」と画像を見せました。少年はまったく英語が分かっていませんでしたが、云いたいことはしっかり通じ、あっちあっち、と指を指します。
実のところ、わたしはあんまりその男の顔を覚えていなかったのですが、そいつが自ら「何か用か?」てな感じで現れたので、わたしは思いの丈を存分に吐き散らかしました。英語だから全然スッキリしませんでしたが。

「ねえ、聞きたいんだけど、何でわたしがあんたの分のジュース代を払わなくちゃいけないわけ?わたしがいつあんたにジュースおごるって云ったのよ!?」
とブチ切れるわたしをよそに、そいつは涼しい顔で「何云ってんの君?」みたいなことを云い出し、さらにはあざ笑う始末です。…って、書いてたらまた腹立ってきたぞ!全く!
怒りのあまり、ただでさえヒドい英語がどんどんヒドくなっていくにも関わらず、とにかくわめきたてていると、いつの間にやら周りにものすごい野次馬の輪が出来上がっていました。そして何と、ホンモノのポリスまでご登場!やべー…。

ポリスはわたしの手を引いて、野次馬の輪から抜け出し、「一体どうしたんだ?話を聞こうじゃないか」と云ってくれました。
ジュース1杯(しかも日本円にして20円)で警察ざた…あー、エチオピアに来て早々、何でこんなしょーもないことになってんだろー…。
何だか急に馬鹿馬鹿しくなり、「いや、そんな、警察が出てくるような大きな問題じゃないんです…たじたじ」と云いつつ、でもやっぱりムカつくものはムカつくので「つまんないことなんですけどお…」と前置きして、事情を話しました。
ポリスは、わたしの云いたいことを大方把握してくれ、わざわざジュース屋に事情徴収(苦笑)まで行ってくれました。
「あの男は君にシャイをおごったと云っているぞ」…う、うーん、それは確かに事実だが、それを云われるとちょっと怯むが、そういう問題じゃないんだよー…。さらに云うなら、金額の問題だけでもなくってさ…。
「シャイは1杯0.5ブルだけど、ジュースは1.5ブルするし、わたしはおごるなんて一言も云ってないよ」と一応口答えしましたが、我ながらほんとしょーもないなーとうんざりして、だんだん戦う気持ちが失せてきました。

そうこうしているうちに、どこからともなく、英語のできるオヤジが仲裁に現れ、「君、君、たかがジュース一杯の話じゃないか。気持ちはワカルが、とにかく落ち着きなさい」とわたしをなだめにかかってきました。
何じゃこいつ、と一瞬ムッとしましたが、野次馬はどんどん膨れ上がるし、これでは完全にさらし者なので、「分かりました。もういいです。わたしもちょっとテンパりすぎました。すみません大事になってしまって」などと反省のようなことを述べて、何か食ってとにかく落ち着きなさい、というオヤジに促されるがままその場を後にしました。
オヤジに教えてもらったレストランで1人、エチオピア料理ワットとインジェラ(※酸っぱいクレープみたいな食べ物でエチオピアでは主食になっている。決して美味しくはない)を食したあと、ホテルに戻る道すがら例のジュース詐欺(笑)に再び出くわしました。やつは金を差し出してきましたが、つまんないことで騒ぎすぎた自分への反省も込めて、「いらない」と断りました。

…こんなアホな事件(?)で幕を開けたわたしのエチオピアの旅。一体どうなることやら…。

SHAHADY8.JPG - 17,805BYTES 問題のパパイヤジュース。

(2003年1月14日 シャハディ)

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