旅先風信49「エジプト」


先風信 vol.49

 


 

**ダハブでダイビング(おまけつき)**

 

今は内省のときなのよ、と云い続けてもはや何日経つのやら。
てことで、エジプトはダハブにいます。

世界で14番目にアウトドアの似合わぬ女、という称号をいただいたことがある(ホンマかいな)にもかかわらず、何とわたしは今ダイビングのライセンスを取得中。いやー、お恥ずかしいです。
人間、26にもなったら自分の向き不向きぐらいわきまえんかい、って話なんですけど、ここダハブは値段が安いのと(オープンウォーターで200ドル、アドバンスとセット料金だと300ドルちょい)、世界中のダイバーが憧れる紅海、ってことで、ついつい手を出してしまった次第です。こんなことばっかりやってるから、なかなか先に進まないんだよねーはははは…って笑ってる場合か!

ダハブには日本人インストラクターが何人か働いているという話だったのですが、行ってみるとちょうどダイブツアーで他の町に出張中、ということで、エジプト人インストラクターに指導してもらうことになりました。てことは何を意味するかっていうと、…そう、英会話ですよ(笑)。
ダイビングのダの字も知らない上に、英語もおぼつかないわたしが、英語のインストラクターでライセンスなんて、ちょっと身の危険を感じたのですけど、現在同行中の彼女が通訳をかって出てくれたのと、インストラクターもゆっくり喋ってくれたので、事なきを得ました。
彼女はすでにアドバンスのライセンスまで持っているので、わたしの免許取得に付き合っているとはっきり云って時間の無駄。通訳代わりにダイビング代が安くなるというメリットは一応あったんですけど、何か申し訳なかったですね。それもこれも、自分の英語力のなさに問題があるわけで、一体いつになったら克服できるのやら、と頭が痛いです(なら勉強しろよな)。

去年わたしは初めてシュノーケリングというものをやったんですけど(@石垣島)、「一体これはどーやって息をするのか?!」とパニックしてしまい、5分くらい船のヘリにつかまったまま動けなかったという実にマヌケな思い出が。。。
それが、ダイビングともなると、シュノーケルみたいに疲れたらすぐに水面に浮いて休憩…というわけにもいきません。レギュレーターという機械を終始口にくわえてブクブクブク…と口呼吸しなきゃならん
わけです。慣れればなんてことはないんですが、最初はどうも違和感があるというか、気持ちが悪い。わたしの脳はあまり柔軟ではないので、「何ゆえ口で息をしなくてはならないのか?鼻で息がしたい」という固定観念がどうしても離れず、そういう指令が各器官に行き渡って、心身ともに大混乱をきたすというわけです。

初日は、マスククリアなる技がどうしても飲み込めず(だって、水中でマスク開けたら水入ってくるやんけ!…とそのときは思っていた)、昔日本人の男の子でマスククリアに10日かかった人がいたけどちゃんと出来るようになったから大丈夫、などと慰められてしまいました。情けねー。でもそんなヘタレな自分が妙に可愛い今日この頃。そんなんやったらわたしは11日に記録塗り替えたろかい、と逆のベクトルで気合が入ったりして…というのはもちろん冗談ですが。そして、久々に水につかったせいか、身体が冷えて冷えてどうしようもなく、あまりの寒さにホント、金は返さなくていいから、今すぐやめさせてくれーーー!と叫びたくなったほどです(もちろんそんな勿体無いことはしないけど)。
2日目は、昨日の反省を生かし、水に入る前からウォーミングアップを始め、さらに、昨夜ロートレアモンの『マルドロールの歌』を読んで気分はすっかりパンク(意味不明)、水でもサメでも何でも来いやコラ!なんて意気込んで行ったのですが…。
昨日はできたはずのレギュレーターでの呼吸が怖くてできない!鼻からビミョーに水が入ってくるし、口呼吸は息苦しいし、頼むから人間らしく鼻で息さしてくれや!と、すっかり「パニックパニックパニックみんながあわててる〜♪」(@のはらしんのすけ)状態。「すみません。恐怖心がどーしても取れないです!」と自らのヘタレぶりを遺憾なく発揮しておりました。
普段は「これ以上生きててもしょーもない人生しか送れなそうだし、いつ死んでもええなー」なんて思っているクセに、いざ水の中に入ると「こらー、溺れるやないけ!死んでまうやんけ!」と急に命が惜しくなるというのは不思議なもんですね(笑)。
ちなみに、このとき鼻が気持ち悪くなったおかげで、自然にマスククリアができるようになりました。必然性を感じると人間ちゃんとやるもんだね。

DAHAB2.JPG - 24,464BYTES 朝の紅海。

3日目は何事もなく行程をこなしたのですが、最終日は何と生理になってしまい、生理の日は気合で遅らせることができるという勝手な思い込みは、見事打ち砕かれてしまいました。そして、生まれて初めてタンポンを使用することに…それもエジプトで。これまで必要を感じたこともなかったし、何となく敬遠していたのですが、いやータンポンはすごい威力だ(男性の方には分からない話題ですみません)。思ったほど異物感もなく、これからはタンポン派になろうかと真剣に考えましたね。

ま、そんな悪条件のもと、この日はオープンウォーターの最大水深18メートルまで潜りました。18メートルと聞いてかなりビビっていたのですが、実際に潜ってみると、そんなに深いという感じはありませんでした。アドバンスだと30メートルまで潜れるらしいので、いずれは取得したいですね。紅海名物のナポレオンフィッシュはついに見られませんでしたが、ロイヤルブルーや虹色の皮膚を持った魚が目の前を横切っていくさまは、大変新鮮な光景でした。とは云え、呼吸して泳ぐことに必死で、水中世界を満喫する余裕は、実はそんなになかったんですけど。。。
そして、最後はマスクを外して15メートル泳ぐという、これまたあんまりやりたくない技術を習得させられ、何とか無事にすべての行程を終わらせることができました。免許皆伝!

ひとつ思ったのは、ダイビングは技術うんぬんと云うよりも、落ち着き、リラックスすることが最も重要なポイントだということでした。それはわたしに最も欠けているものでもあるのですが…。
水中で最も危険なことは、パニクること。これは身を持って実感しました。パニックしたときの恐怖心といったら、もう地獄です。とにかく「絶対大丈夫」と思い込んで、恐怖を完全に払拭しないと、本当に大変。1ミリでも恐怖が忍んで来るとインクのしみのように瞬く間に広がってしまい、自ら墓穴を掘ることになりかねない。これって、日々の生活の色んなところにも云えることですよね。そういう意味では、非常に精神的なスポーツなのかも知れません。

SINAI1.JPG - 13,931BYTES シナイ山の頂上にある小さな教会。時間の関係上ご来光は見られず、残念。。。

…さて、この後は、モーセの十戒で有名なシナイ山にも登り(ダイビングの翌日で、高低差がキツくかなりハードだったわ)、いよいよカイロへ向かうはずだったのですが、このときのインストラクターのワエル氏がカイロ近郊の自宅に招いてくれることになり、図らずも、ワエル氏と、わたしと同い年の奥さんと、お人形のようにキュートなマリアム(3歳女子)の3人家庭に闖入することになりました。
エジプト人家庭(つーかアラブ人家庭はみんな似た感じかな)の実態を見られる、という点では非常に貴重な体験ではありましたね。何せ、この人たちの生活というのは、われわれ働きアリの日本人の生活とは、天と地ほどの開きがあるのです。要するに、ぐうたらこの上なし(笑)。たまたま休日だったのかしら?と思いましたが、そうでもないらしい。

女性なんて、一体何をやって時間を潰しているのか分からないほど、何にもしていません(笑)。子供の相手と茶を沸かすくらいかなあ…料理くらいはしているけれど、そこはアラブ、そうそう凝ったことをやっているわけではない。買い物にも行ってなさそうだし…。
ここまで何もしていないとかえって天晴れなくらいです。お母さんはともかく、年頃の若い娘までが、寝間着姿で1日中ぼんやりしている(か喋ってる)光景は、かなりシュール。。。てか、こんな、ほとんど外出もしないし特に娯楽もない生活で、そんなに喋ることってあるのかっ?!
日本のクソ忙しい生活も異様だけど、この生活も如何なものかと…。

1日のスケジュールをカンタンに書くと、こんな感じです。
起床昼12時。この時点で???ですね(笑)。
2時過ぎから近所に住む親戚の家を訪ねる。茶をすすりながら、だらだらと喋る。4時ごろ昼食。その後まただらだら喋る。
そのまま夜はふけてゆき、われわれにとってはすでに夜中の入り口である11時くらいから夕食が始まる。
帰宅は夜中の2時くらい。この時間でも3歳児マリアム嬢は起きている、てのがすごいよねえ…。
一度、奥さんの実家で、夜中の1時30分に夕食が始まったときは、めまいがしそうになりました(笑)。ひとしきりお喋りも終わって、もうすっかりお休みモードに入っていたところ、何やらガサガサと音がするので目を覚ますと円卓の上にパンやらサラダが…うーん、シュールだ。

今回招かれたのは、マリアム嬢の3歳の誕生日パーティーがあるのと、ワエル氏の妹の婚約パーティーがあるというのが直接の理由でした。
誕生日パーティーは、たかが子供の誕生日にここまで?!と驚くほど、親戚やら近所の子供やらが集まって、家じゅう人だらけ。まあ、ワエル氏の仕事上、昨年、一昨年はパーティーが出来なかったので今回は盛大に、ということらしいのですが…。自分の子供時代の誕生日を振り返って、果たしてここまでのパーティーが催されたことがあっただろうか、いやない(悲しい反語)。
ただ、このパーティーのすごいところは、メシが出ない。ひたすら甘味甘味!ケーキとバクラワ(※アラブの超〜
甘いお菓子)とバナナとジュース!さすがに甘いもの好きのわたしも気分が悪くなりましたね…うっぷ。

さて、こっちの人たちは、結婚までに3回パーティーを催すらしく、まずお互いの親戚家族同士のお食事会みたいなものがあって、次に婚約パーティー、それから何と5ヵ月後にやっと結婚式という段取りなのです。まー気の長い話だね。結婚式までの5ヶ月間って、やっぱ性交渉無しなのかしら?ムスリムはそういうの厳しそうだもんね…。
ま、そんな下世話な推測はさておき、結婚式(今回は婚約式だけど)というのはいいもんですね。わたしは嫁入り前の娘なので、誰が何と云おうと、結婚、特に結婚式には夢を持っているのです。わたしが結婚式でやりたいことは以下の2つ。
@ロリータのメゾンでウエディングドレスをオーダーメイドすること。
A2次会は仮装パーティーにすること。
でもねー、式は神式にするのです。日本の心、大和魂なのよ(←意味不明)。文金高島田はイヤだけど、白無垢はOKっす。
友人などの結婚式から帰って来るとこのテの妄想が爆発して、用途もないのに『ゼクシィ』を立ち読みしたりする、本当にバカなわたし…。
実際の結婚はともかく(おいおい)、結婚にまつわるディテールに憧れるんだよねー。新しい家具とか揃えに行ったり、ドレスの寸法を合わせに行ったりしたいです。

…と、己の妄想はこれくらいにして、エジプトの婚約パーティーがどんなものだったかと云うと、レストランの野外会場(?)を借り切って、まるで巨大ディスコのようにガンガンに音楽をかけまくり、ある人はそこら辺で勝手に踊り、あとは主役の2人と記念撮影をしまくる、といった感じでした。
パーティーだし、何かご馳走かも!と思って期待して行ったら、出たのはペプシと7UPのみ…。ムスリムなので酒は出ません。しかし驚くべきは、ペプシだけであそこまで盛り上がれることでしょう。普段は表に出ず、家の中でひっそりと暮らしている(かのように見える)ムスリムの女性たちも、全員じゃないけど、歌うわ踊るわ。その腰つきがまた、すごいんですよ。あれは天性のものなのでしょうね。子供でも、何つーか悩ましい感じの腰の振り方(笑)。花嫁も、動きにくそうなドレスを着用しつつも、踊る踊る。
日本人ってあんまり踊る文化ってないじゃないですか。クラブとかはあるけど…。実はわたし、こー見えてクラブがけっこう好きで、もう少し若い頃はちょこちょこ行っていたのですが、最近はもう誰も付き合ってくれません(「25にもなって踊ってる場合か」とまで云われたわ)。日本人のメンタリティには、どうも”普通に踊る”ことに対する抵抗とか照れがあるような気がするのですが、如何なものでしょうか?
なので、花嫁も花婿も一緒になって踊るアラブの結婚式って、何かいいなー、って思いました。踊るという行為にはある種の浄化作用があるような気がします。

BANUHA29.JPG - 25,683BYTES 婚約式では花嫁のドレスは色もの。白はウエディングというのはどこも同じみたい。

ま、そんなイベントがありつつも、基本的には親戚の家めぐりと、マリアム嬢の相手で1日が終わる、といった調子でした。
さすがの彼女も「退屈だねー」と云い出す始末ですから、ここ最近、移動の遅さに焦ってい
たわたしは、ますます気持ちに余裕がなくなり、昼間の無為な時間をひたすら日記を書いたり、英語の本を読んだりして、何とか有益な時間に変えようと躍起になっていました。しかし、ついに我慢がきかなくなり、婚約パーティーの終わったあと、彼女を置いて1人で家を出ることを告げました。
さすがに1週間近くもいると、家族に愛着も湧いてくるってもんで、別れ際はちょっと涙が出そうになりましたけどね。
ちなみに、わたしの名前は覚えにくいらしく、家族は皆「おしん」(もちろんあの『おしん』です。こっちで流行ってたんだよねー)と呼んでおりました(笑)。マリアムまで「オシーン」とか云うもんだから、呼ばれるたびに自分で笑ってしまったな。

わたしは正直、民泊(他人の家にタダで泊ること)が苦手です。
ずっと読んでいただいている方はご存知でしょうが、わたしは一度モロッコで、親切な地元人を装ったガイド野郎にダマされたことがあり、地元民の家に招かれることに、本能的な恐怖があるのです。
まあ、あのときも、そいつに犯されたとか、莫大な金を払わされたわけではないから、そこまで引きずるほどの事故でもないのですが…。うーん、思ったより後を引いているようです。困ったね。
そんなわけで、今回も、まあ彼女と一緒だし大丈夫だろうとは思いつつ、どこかで「最後に金を要求されるんじゃないか」という疑いが頭から離れませんでした。例えば食事ひとつにしても、どこまで甘えていいのか(つまりどこまでがタダなのか)が分からない。お金の出所や所在がはっきりしないというのは、云い方はよくないけれど、何だか気持ちが悪いのです。
旅が長くなると、あるいは人生経験を積めば、いい人か悪い人かの区別はある程度つくものなのでしょうが、わたしは全然ダメ。まして、メンタリティの全然違う外人についてそのテの判断を下すのは、困難極まりない作業なわけで…。

今回は結局、何事もなく済んだわけですが、そうなるとまた、最後まで疑いを捨て切れなかった自分が、とてもイヤな人間のような気がして後味が悪い。だから、わたしみたいなのは、現地人のお家にお邪魔、なんて粋な(?)ことはせず、大人しくカネ払ってホテルで暮らしていた方がいいんでしょうね。金銭的なことがはっきりしていた方がわたしには気楽です。
そもそも、性格の悪いわたしに『ウルルン滞在記』なんて似合わないのよ!現地の人と触れ合う旅、ってのは旅の王道というか、"いい旅"のモデルケースになっているわけですが、そして、そういうのではない自分の旅が、ダメな旅というか面白くない旅のような気がしてならなかったのですが、やはりモバイル旅行記をつくっておられた『HIT THE ROAD』(LINKをご参照のこと)ののりさんから、「ホームページを作っていることであまり気負わずに、自分が楽しいと思う旅をして下さい」というメッセージをいただいて、随分と吹っ切れました。
そうですよね。わたしは誰かのために旅をしているわけじゃない。そして、旅には正解も優劣もない筈なのです。世界遺産をありったけ見るのも、現地の人と仲良くなるのも、それは旅のひとつの形でしかなく、例えば日本人宿でマンガばかり読んでいる(笑)旅人も、本人が納得しているならそれでいいわけです。多分。

…いかん、また長くなってしまった。今回はとりあえずこの辺で。

BANUHA14.JPG - 47,656BYTES プレゼントの山に埋もれるマリアム嬢(プチセレブ風)。

(2002年12月20日 バヌハ)

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