旅先風信28「モロッコ・チュニジア」


先風信 vol.28

 


 

**百年の孤独**

 

つらい。。。

体調が悪い。下痢だ。心あたりはいろいろありすぎて分からない。おそらく砂漠ツアーのベルベル人のテントで食った何かが決定的にまずかったのだろう。加えてつまらぬ精神的ストレス(例の一件)がよけいに腹を刺激している模様。
1人きりで身体の調子が悪いというのは最高級に惨めだ。もうこっちの料理を食べるのはやめた方がいいんだろうか。
まるで腹の中に下痢変換装置でも設置されたかのようだ。食べたものはすべて下痢になるというしくみ、ってか?そんな機械、いらんぞ…。
それにしてもひどい。1時間おきにトイレにかけこんでいる。そのトイレ(共同)がまた悲しくなるほど汚い。便器にたまった水が茶色くにごっていて、ご丁寧にタバコの吸殻まで浮いている。最低。
ちなみに正露丸は効かなかった。さりとて抗生物質を飲むほどひどいわけでもなく(寝込んでいるとかではない)、中途半端に苦しい。

部屋には蚊、ハエ、ゴキブリがばっちり住み着いている。特に蚊がひどく、ひと晩で50箇所以上は噛まれたかも知れない。かゆさのあまり何度も何度も目が覚める。蚊の鳴く音が耳につくせいもある。
また、隣の部屋には現地人の3人の男が泊っているのだが、こいつらがとんでもなくうるさい。うるさいクセに、ドアを開け放しにして騒ぎまくっている。ナメてんのかテメー!?何時やと思ってんねん!頼むからもう眠ってくれ…せめてドアは閉めてくれ…おちおちトイレにも行けやしない。

高い飛行機代を払ってチュニスに来たのに、一向に気分は滅入るばかり。
エッサウィーラからカサブランカへ、そしてカサブランカには半日しか滞在せず一気にチュニジアに入った。これ以上モロッコを旅しても、どうしても行き止まりのような気がしてしまった
から。
カサブランカはモロッコ人ですら「あそこは面白くない」と云い放っただけあって、確かに何もなかった。ハッサン2世モスクという巨大モスクは美しかったが、メディナもマラケシュやフェズに比べるとどうということはない上、何となく汚い。
中途半端な都会というのは何だか気が滅入る。

CASA13.JPG 夕暮れのハッサン2世モスク。

チュニジアの首都チュニスも同じだ。中途半端にビルが建ち、中途半端に時代遅れだ。
そもそもこんなに気分が悪いのは宿のせいだ。
人に聞きまわってやっとのことでたどりついたYHが「フル」。受付の女の対応はまったくもってヤル気がなく、「ほかに安いホテルを知りませんか?」と尋ねても、さあ?と云ったきり遠くを見つめている。何という客をナメ切った態度であろうか。怒りのあまり、外に出た途端「ナメとんかコラー!」とでっかい声でわめき、近くにいた子供に変な目で見られた(当たり前か)。
その後も人に尋ねつつ安宿に行くが、どこもかしこもシングルの部屋はない(もしくはフル)という。
あくまでも少人数に冷たいのが資本主義さ。独り者はどこに行っても冷たい風にさらされる。
何軒目かの宿で、「1人部屋はないが5人部屋ならある」というのでドミトリーなのかと思ったら1人で5人分の値段を払うように云われたときは、情けなさのあまり涙がこぼれた。云っても仕方ないが、もしフラ君(でなくてもいいけど)が一緒ならツインの部屋をあっさり取れたのに…と思うと、自分の立場の弱さが哀しかった。迷子になった子供のように泣きながら宿を探してさまよった。

そして、やっとのことでたどり着いた宿も1人部屋はなく、しかし10dr(1000円)しか持っていないというと、3人部屋に入れてくれた。
のはいいけど、部屋はひどい。最初に書いたように蚊がうようよしている。窓が中庭(庭というよりゴミ捨て場だが)に面しているので仕方がない。そして暗い。モロッコからこっち、ロクな宿に当たらないが、この宿は悲惨だ。人生の墓場のようだ(それは云いすぎ)。
誰もいない。誰もいない。日本人でなくとも同じバックパッカーにでも会えれば少しは気もまぎれるのだが、この宿にいるのはあやしげな現地人ばかりだ。

暇つぶしに、声をかけてきた現地人男子とメシを食いにいったりするが、それも空しい。
ティトワンの一件以来現地人を信用できないし、例によって好色な感じがしていただけない。それでもまあモロッコよりは人はマシな気はする。あからさまにたかってやろうという雰囲気もなく、道を聞いても金をせびったりはしない…ってそれが普通なのだが、もはや基準がモロッコ化されており、普通の人が全員いい人に見えて仕方ない。ある意味やばい。

この後何かまたいいことは待っているんだろうか。
そうでなければやってられない。
とりあえず下痢はなんとかならないものか。わたしこのまま死ぬんじゃないのか。ここで?下痢で?(笑)
家にも電話していないな。父ちゃんよすまぬ。金をけちって電話もしない親不孝者の娘をどうか許してくれ。こんなところで下痢で死んだら父ちゃんも浮かばれないだろうな全く…。

雨が降っているらしい。雷らしき音も聞こえる。本格的に呪われている気がしてきた。
誰かにこの苦しさを分かってほしい、少しだけでも分かち合う人がいればいいのに。そう思ってパソコンに向かう。でもこの部屋には電源がない。充電は3時間弱しか持たないからその間に書き尽くさないといけない。

…宿を移ってカルタゴに出かけた。
ローマ帝国に滅ぼされた伝説の国カルタゴの遺跡。観光バスが大挙している。
遺跡の入場料が勝手に共通券になっていて結構高い。また元を取ろうとして必死にオリエンテーリングをする。遺跡はあまりたいしたことはなく(たいしたものもあるにはあるが)、単に石が転がっている廃墟のようだ。嗚呼、そんな風にしか遺跡を見られないわたしは、腐っている。
カルタゴにはビーチがある。泳ごうかと思ったが、1人でビーチに出ても荷物が心配だし、何より下痢が治っていない。
それでもビーチに下りるだけ下りてみる。すると何故か腹がゴロゴロゴロ…と鳴り出す。や、やばい、トイレを探さないと…。暑さと痛みのあまり死にそうになる。
やっとのことでカフェまでたどり着いた頃にはいくぶん持ち直していた。モロッコもそうだが、カフェはオッサンばかりだ。オッサン純度100パーセント。女子はわたしだけ。トランプをするオッサンの机を叩きまくる音がうるさい。でもカフェオレは美味い。

TUNIS21.JPG - 41,261BYTES この辺はまあまあすごい。カルタゴの遺跡。

新しい宿もそんなに前と変わらないが、ほんの少しだけきれいでホットシャワーが出る。
電源はない。部屋も暗いし(例によってゴミ捨て場に面している)、ゴキブリと蚊はもちろんいる。また今夜も50箇所は噛まれるのだろうが、もうどうでもいい。
バックパックの旅行者にはほとんど会わない。日本人も皆無。
イタリア行きの船が出るのが約1週間後。それまではチュニジアを旅しなければならないのだが、どうにもやる気が出ない。
日本にいた頃、『歩き方』のチュニジア編を読んで、いいところだな、行ってみたいな、と憧れていたはずなのに。

何なんだわたし。何なんだ。
辛かったら帰ってくればいいんだよ、と友達からのメールが入る。でも、それでもやっぱり帰る気にはならない。こんなところで帰ったら、この旅はすべて灰になってしまう。それに日本に帰って何が待っているというのだ。さらなる困難(別の種類の)だけではないか?
でも寿司は食べたい、とふと思う。

TUNIS1.JPG - 42,921BYTES シリ・ボ・サディというチュニス近郊のビーチの街。白い壁に青い窓が特徴。

(2002年7月14日 チュニス)

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