旅先風信25「モロッコ」


先風信 vol.25

 


 

**怒りのモロッコ・ニセガイド編**

 

〜ボラれちゃったのよ、ララランラン♪
てことで、モロッコです。ついに来ましたよ。モロッコ。モロッコって面白い名前だね。

アリランで会ったYちゃんが「モロッコいいですよ〜」と絶賛し、またセヴィーリャで『ロンリープラネット地中海編』をくれた日本人パッカーKさんも「2週間じゃ足りない」と云っていたモロッコ。物価もこれまでの半額くらい。そんな、そんな魅力的なモロッコのはずなのに、わたしは今とってもブルー。

何故かって、それはね、モロッコには旅行者をカモろうとする輩がてぐすね引いて待ち構えているからなのです。
客引きがしつこいとか、値段をぼってくるとかはもう当たり前で、それは以前エジプトを旅行したときに経験しているので対応のしようもあるわけですが、もうちょい手が込んでいるので始末が悪い。
今回のテーマおよび教訓は(いつからそんなページになったんだ)「タダほど高いものはない」。みなさまお待ちかね(?)のわたくしの馬鹿話です。

スペインからモロッコへ入る方法は2通りあって、ポピュラーなのはスペインのアルヘシラスからモロッコの港町タンジェにフェリーで入る方法。もうひとつはアルヘシラスからセウタというスペイン領にフェリーで渡って、そこから陸で国境を越える方法。
どちらにしようか迷ったのですが、情報として最も新しいKさんのルートを取って、セウタから入り、その後は一気にティトワンという街を目指しました。この際、国境越えのパスポートチェックに異様に時間を取られたのが、後から思えば運のツキだったのかも知れません。

乗合タクシーでティトワンまで来たのはいいものの、目指すホテルがどこもかしこもフル、フル、フル、と4,5軒続けて断られ、朝から移動し続けていた疲労もあいまってかなりヘビーになっていました。
しかし、タクシーの中で知り合ったモハメッドという男が何故かホテル探しにつきあってくれた上、ようやく部屋が見つかった後は、知り合いの店でミントティーを飲ませてくれたり、メディナを案内してくれたり、さらに彼の家に招かれ夕食までご馳走になったのです。
もちろん、最初はバリバリに警戒していました。ミントティーの中に睡眠薬が入ってんじゃねーか、とかね。何しろここはモロッコ、ボリボリ天国と評判の悪いモロッコなのです。
しかし睡眠薬はおろか、何事も起こりませんでした。彼の家族も、こんな見知らぬナゾの異邦人を快く迎えてくれました。
加えて、その日メディナを歩いていた際に、モハメッドの友達のハッサンが日本人女子と手をつないで歩いているのに出会い、話を聞くと、彼女もハッサンの家に招かれ何とまる9日も滞在しているというではないですか。
「いいんですかねえ。何かすごい親切にされてるんですけど」と云うと、彼女は「大丈夫ですよ。彼(モハメッド)はgood manですよ」と答えるのでかなり警戒心も緩んだわけです。

次の日もモハメッドはメディナや山を案内してくれ、その日からは家にタダで泊めてもらうことになりました。
恐縮するわたしに「旅人を招待するのはムスリムの習慣だ」とモハメッドは云います。なるほどそういうもんなのね、と単純なわたしはあっさり納得しました。
とは云え、まるっきり猜疑心がなくなったわけではありません。再びハッサンと日本人女子に会ったとき、話の途中で彼女が「(モハメッドをさして)やとったガイドさんなんですよね?」と云ったのです。
「え?!」わたしは一瞬ハニワになりました。やとったガイド?何云ってんだこの人は。さらに追い討ちをかけるように「お金には気をつけた方がいいですよ」とも云いました。いやな胸騒ぎがしましたが、その話も結局は「でもみんな根はいい人たちだし、モハメッドはgood manですから大丈夫ですよ」という結論で終わったのです。
わたしはその後モハメッドに尋ねました。「あなたガイドなんでしょう?もしあなたがガイドなら、わたしはお金を払わなくてはいけないですよね」。すると彼ははっきりこう云いました。「ミーはガイドじゃない。フレンドだ。だからお金のことなんか忘れろ」そして「I hate money!」とまで云いきったのです。
わたしはその言葉を信用しました。それどころか、それまで彼を疑っていた自分を情けなくすら思いました。人の親切を信用できないわたしは何と心が狭いのだろう、と。

TETOUAN11.JPG - 32,723BYTES 白い街ティトワン。

それから2日間、わたしは彼の家に泊り、家族と寝食を共にしました。テレビを見たり、かわいい甥っ子と遊んだり…と書くと楽しそうですが、言葉がほとん通じないのとタダで泊めてもらっているということでかなり萎縮して過ごしていました。シャワーを浴びたいとすら云えませんでした。
モハメッドも「明日はビーチにあるミーの家に連れて行くよ」などと云っておきながら半日以上わたしを家にほったらかしたり(勝手に出て行くわけにもいかず苦痛だった)、と思ったら「明日から3日間ビーチの家でホリデーだよ」などと勝手に人の予定を決めるので、何だかなーとちょっと困ってしまいました。しかしそれでも、このままここでだらだら過ごすのもアリかなー、なんてまだ思っていました。

あれ?と思ったのは3日目のことでした。モハメッドが「今からヘンナ(モロッコの伝統的なタトゥー。主に手に施す)をしてあげよう」と云って友達を連れて家に帰って来ました。わたしは刺青に興味はないので別にどうでもいいのですが、「これはミーからのギフトだ」などと云われると、タダのものにすこぶる弱いわたしはあっさり申し出を受け入れました。
ところが、この友達がヘンナを描いてくれるというのはいいのですが、何とこいつに100DH(約10ユーロ、1ユーロ=10DHで以下の分も計算して下さいな)払わなくてはいけないと云い出したのです。曰く「ヘンナ(材料)はミーのギフトだが、彼に技術料を払わなくてはいけない」。
やられた!と思いました。しかし断るには少し遅かった。「彼はヘンナを描くプロだから」などと云っていましたが、作業を見ていると絶対コイツはプロじゃありませんでした。普通のヘンナはもっと繊細な柄のはずなのですが、コイツは筆ではなく、何とおもちゃの注射器でヘッタクソな模様を描きやがったのですからね。模様っつうか、ラクガキじゃん!幼稚園児でももうちょっとマシなもんを描くだろうよ…。おかげでわたしの手は焦げたパンのように気持ち悪いことになってしまいました。
これでわたしは「明日からビーチで過ごそう」というモハメッドの提案を受けそうになっていた自分から目が覚めました。しかし、愚かにもこのときはまだ、彼が実はガイドだったことに気づかなかったのです。

TETOUAN16.JPG - 50,480BYTES 焼け焦げた(かのよーな)おてて。

彼は云いました。「ミーの仕事はガイドだ。でもグループツアーのガイドであって、君の場合はガイドじゃない。フレンドだからやってるんだ。だからノーマネーだ。心配するな」と。わたしはまたしてもこの言葉を信じました。
そして、「モロッコを女性一人で旅するのにTシャツにズボンではいけない。しかしジュラバ(こっちの人が着ている割烹着みたいな民族衣装)を着ていれば尊敬されるし安全だ」という言葉にも一理ある、などと思ってしまったわたしは、彼の云うがままにみやげもの屋にも行きましたよ。あやうくたっかいじゅうたん買わされるとこでしたよ(苦笑)。けっこう頑張って、1800DHのところを300DHにまで下げたんですけどね(って、最初の値段、どんだけぼっとるんじゃい)。でも相場も分からないしで、結局買いませんでした。
するとモハメッド、「君がこのじゅうたんを気に入っているのなら、僕がお金を払うよ。だって僕は君を愛しているから」などと云い出し、わたしも卑しいので一瞬買ってもらおうかと思ったのですが、アイラブユーとか云うあたりさすがに信用できないので断りました。

そして、ティトワンを去る日がやってきました(つまり今日ですね)。
いつものように(?)家族と朝食をともに済ませた後、モハメッドは神妙な顔つきでこう云いました。
「ミーは君と4日間一緒にいてガイドをした。だから君は100ユーロをミーに払わなくてはいけない」。
わたしは別に驚きませんでした。ありうる展開だと思いました。家族の前でギャーギャーもめるのは賢明ではないと思ったわたしは、その場はひとまず「今は現金を持っていないから、バスに乗る前に銀行に行って両替してから払う」と云いました。
母親や妹は彼のしていることをどこまで知っているのでしょうか。彼女らは黙ってお茶をすすっていました。
家を後にして、いそいそと銀行に向かおうとするモハメッドをわたしは呼び止めました。
「わたし両替はできません。だから銀行には行きません」
「何を云っているんだ?」
「だってあんたは最初にガイドじゃないとはっきり云ったし、すべてフリー(タダ)だと云ったはずでしょ」
「でもミーは4日間もガイドをしたんだぞ」
「4日もいなかったでしょ。家も2日しか泊ってないよ」
「とにかく100ユーロ払うんだ」
「そんなに大金は払えないよ」と云うといきなりディスカウントが始まりました。「80でどうだ?」何云ってんだこいつ。

でもわたしもお人よしというか何というかで、頼んでいないとは云えメシは食わしてもらったのだしホテル代も浮いたのは確かだから、とホテルに泊ったと仮定して1泊50DHとして2日分、食事代は半ば強要という点で差し引きさせていただき、100DHを払うことにしました。
もちろん彼は、最初に云った100ユーロの10分の1にしかならないこの申し出を受け入れるわけはありません。「30ユーロでどうだ?」と相も変わらずやっていましたが、とにかくわたしは100DH以上払う気はありませんでした。
だって、よく考えたらわたし、2日前に何故か彼に20DH払っているんだよね。というのが、これまたバカなんですが、その当時は彼が食事やタクシーの金をすべて払っていてそれを親切だと信じていたので、何だかものすごく申し訳なくなって何となくお金を出してしまったのですよ。それに例のヘンナ代。あれは彼らのビール代に消えているからね(わたしが金を払ったあと缶ビールを大量に買い込んできたのである。分かりやす〜…)。
まあそれでも、幸いだったのは彼が逆ギレしたりしなかったことですね。バスターミナルまで一応送ってくれて、「ティトワンは楽しかったか?ハッピーか?」などとしゃあしゃあと云って頬にキスまで要求してきたのには???でしたが。

TETOUAN16.JPG - 50,480BYTES みやげもの屋で民族衣装のジュラバを着せられるわたし。顔、引きつってます。。。

…しかしこれが、ボディーブローのように後から効いてきたのですねえ
ボロボロのバスに6時間揺られて次なる街フェズへやって来たまでは何事もありませんでした。
ところが、降ろされた場所がどこなのか地図を見てもさっぱり分かりません。人に聞きまわってそこが新市街であるとやっとのことで知って、とりあえず『ロンリープラネット』に載っているホテルに行きました。「シングル?フルだ

わたしの神経はここですでに3本くらいキレていました。メディナの方に行けば安宿がたくさんあるという情報を思い出し、その後はメディナに行くことしか考えられなくなっていました。ところが、このメディナが新市街からすっげー遠いんだよ。
バスに乗ろうにもどれに乗っていいのか分からないし、タクシーはボラれそうだし…わたしは仕方なく重いバックパックを担いでひたすらメディナの方に向かって大きな車道を歩きました。
そろそろこの辺りだろうか、と思って街なかに入ったとたん、全く方向が分からなくなりました。身体的にも精神的にも疲労のピークでした。そこへ酒の匂いのぷんぷんするオッサンが声をかけてきたのです。
「どうしたんだ?ホテルを探しているのか?何、メディナ?ここはメディナじゃない。メディナはまだまだ先だ。よかったらわたしの家に来て家族と一緒に…」

…もういいよ!それはもうさんざんやったんだよ!もうすでにダマされてここに来てんだよ!

日が落ち始め、宿が確保できるかどうか不安になったわたしは、それでも一瞬このオッサンの家に行こうかと思いました。
オッサンはやたらとわたしに触って来ましたが、そんなこともどうでもよくなるくらい疲れていたのです。
と同時に惨めな気持ちが大爆発して、わたしはボロボロと泣きました。半泣きでも嘘泣きでもなく、本当に泣きました。
こんなことがしたくてモロッコに来たんじゃないんだよ、何でわたしばっかりこんな目に遭うんだよ、何でどいつもこいつもわたしにタカってくるんだよ、もう誰も信用できるかよ…。

オッサンはさすがにちょっとビビって「どうしたんだ?泣くんじゃない」とやたらになだめすかしていましたが、それでも家に来い来いとしつこく云いやがるのでますます気分が悪くなりさらに泣きました。
「どんなことがあってもわたしはメディナに行く。メディナ!メディナじゃないと絶対イヤだ!」ともはや日本語で素になって訴えました。オッサンはまだ粘っていましたが、根負けしたのかようやく私を安ホテルに案内してくれました。と云ってもそこはメディナではなく、メディナと新市街の間にあるメッラという旧ユダヤ人街なんですが、そして、安ホテルはまるで独房のようでしたが、それでもようやく1人になって、ただ眠れるだけでよかったのです。

世の中、やっぱりうまい話なんてそうそうあるわけじゃないんですよね。
以前、わりと大事だった友達から某マルチ商法に熱烈に誘われたときも「うまい話には必ず落とし穴がある」という結論に達したはずなのに、モロッコくんだりまで来てそんなもんにありつこうとするなよなわたし…。
でも、人間あそこまで平気で嘘をつけるもんなのか、と思うと薄ら寒い気持ちになります。「全てフリーだ」「ミーはガイドじゃない」「お金は嫌いだ」…あれだけはっきりと云っておきながら最後に平然と「ミーはガイドだ。お金を払え」と高額を要求してくるなんて、はっきり云ってまともじゃないですよ。それが仕事なんだろうけど…。アラーの神はそれを許すのか?

さっきもさっきとて、インターネットカフェでメールをチェックしていたら、後ろからヘンな日本語で親しげに話し掛けてくるヤツがいて適当に愛想よく答えていたところ、突然「1時間80DHだ」と云い出しやがったのです。
あせって「は?受付の人は1時間8DHって云ってたけど?」と云い返すと「そんなに安いわけないだろう。モロッコではパソコンは高いんだぞ」。
わたしは慌てて接続を切り受付で支払いしようとしたところ、やはり受付の人は8DHと云います。でもちろん受付の云う方が正しかった。何やねんアイツは!ふざけんなよコラ。営業妨害すんなよ。何が日本にトモダチいっぱいイマ
ス、だ!
帰国後、日本でモロッコ人に出会ったら絶対虐めてやる!なんてつまらぬ決心を固めてしまったわ。

経済格差を利用して旅行している以上、ある程度は仕方ないとは思います。でもちょっときついですね。精神的に。
ま、困ったらまた泣くか(笑)。とにかく疲れました今日は。もう寝ます。

(2002年7月3日 フェズ)

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