旅先風信21「フランス」


先風信 vol.21

 


 

**パリのアパルトマンにて考える**

 

引き続きパリからです。と云っても今日が最後。
本当は昨日が最後だったのですが、あろうことか電車に乗り遅れてしまい、のこのこと戻ってきたわけです。毎度ながら、自分の怠惰さによるこのテのミスにはほとほと嫌気がさします。

さて、前回、“パリのアパルトマンからお届けします”と書きました。
何故わたしのような貧乏人が、オリーブ少女の夢ランキング上位に位置する、パリのマンションならぬアパルトマン(しつこいようですがこの響きが大事)にいるのかという話。
旅先風信の第2回で書いた、わたしにバルト行きを薦めたMくん(現在彼はグルジアにいるらしい)が、もしパリに行くなら貸し部屋をしている人を紹介するよとメールをくれたのです。
ブリュッセルで宿に苦労したわたしは、さらに都会であるパリで宿探しに困るのはもう勘弁なので、その人にメールを送り内容を聞くと、1泊13ユーロで1部屋、インターネット、キッチン、洗濯が使えるということでした。

最初は、貸し部屋ってどんな感じなんだろう、とどきどきしていたのですが、家主であるMさん(この旅行Mさんって多いね)という女性が、本当に気さくに、親切に接してくれるので、何と10日間も居座ってしまうことに。これって沈没なのでは…。Kさん宅に引き続き、何をやっているんだか。つい人に甘えてしまう、ダメな旅人です。

Mさんはこっちで12年暮らしている美容師さん。
4歳になる娘さん(カリビアンのハーフで、めちゃめちゃ可愛い!お人形みたい!持って帰りたい!)と2人で住んでいて、今は翻訳や通訳の仕事をしているそうです。
ちなみにわたしは、Mさんに髪を切ってもらって、ちょっとアメリっぽくなってます(笑うな)。

何かねえ、もう本当にいい雰囲気を持っている人なんです。Mくんも云っていたように、とてもおおらかでのんびりしていて、全く嫌味なところのない人。わたしが云うのもなんだけど、人間ができてる、ってこういうことなのでは、と大げさではなく思いました。そして、こういう大人になりたい、と(もう年齢的に大人だろうという指摘はさておき)。
わたしは大バカ野郎なことに、合鍵をどこぞで落としてしまうというあってはならない出来事を起こしてしまったのですが(あまりのふがいなさに死にたくなりましたね)、それも「ちょうどカギ替えるところだったから、タイミングよかったねー」なんてあくまで明るく云ってもらって…例えそれが事実でも、普通そんな風には云えないです。少なくともわたしは。
おおらかである、というのは大変な美徳ですね。すぐにキレるかイライラしているわたしには到底持ち得ない、でもいずれはそうありたい。

PARIS46.JPG - 38,561BYTES アコガレのパリのアパルトマン。これはMさんのお友達のゲイのお兄さん宅。

Kさんと云い、サダおじさんと云い、要所要所で世話になる人には本当に親切にしてもらっている気がする。
前は書けなかったけど、Kさんはわたしが電車に乗る直前、実にさりげなく食事を持たせてくれたんですよね。わたしは鈍感なので、家を出てからずっとKさんが手に持っていた「H&M」の袋がそれだとは全然思いも寄らなくて…
あのときは涙が寸前まで出かかっていました。今思い出してもぐっと来ます。

人に普通に親切にできるって、実はすごいことなんじゃないかと最近思います。
何の自慢にもならないけど、わたしは全然親切な人間ではありません。きっと自分のことで手一杯だからでしょう。心に余裕がないのです。貧しい人間なのです(もちろんお金もない)。

人はそんなに簡単に変われない、と前に書いたけれど、それは単なる甘えなのかも知れません。
例えばカギを無くしたこともそうですが、わたしは物の管理が本当に出来ていない。カバンの中はいらないものだらけだし(いらないものは残って必要なものはなくなる)、すぐに散らかすし。
そして、今日電車に乗り遅れたことからも分かるように(ただ金は払ってなかったので不幸中の幸いだった)、時間にルーズ。朝起きにも弱い。死んだ母親からも口酸っぱく云われていたのに、未だに治っていないようです。
わたしの”最もこうなりたくない女性NO.1”に輝く元上司も、半端じゃなく時間にルーズで、そして物の管理も全く出来ない人でした。しかし、わたしもその傾向は充分すぎるほど持っており、このままだとあの人のような人生を送ることになってしまうのでは…と想像するだけでも恐怖のあまり卒倒しそうになります。

MONSAN46.JPG - 30,587BYTES 北フランスのハイライト、モン・サン・ミッシェル。奇観です。

それもこれも、わたしには余裕というものがないからなのです(元上司にも全然なかった)。
云い換えればキャパシティの狭い人間だということです。または視野が狭いということでしょうか。
どうすれば心に余裕を持てるのでしょう。どうすればつまらないことにいちいちキレたりしないで済むのでしょう。
どうすれば物事をスムーズに運べるのでしょう。どうすれば、一体どうすれば自分を好きになれるのでしょう。
変われない、なんて云う前に、もっと考えるべきことがあるはずです。わたしはきっと、変われない自分のことを、心のどこかで可愛いと思っているのです。そのつまらぬ思い込みを直さないかぎり、いつまでたっても成長はないでしょう。

変わらないということも、ある側面から見れば美徳です。自分というものを明確に持ち、他人に何と云われてもそれを貫く意志があるのなら。
しかし、わたしの場合、そのような美学ゆえに変わらないのではなく、単に己の怠惰さゆえに変われないだけなのです。20何年も生きてきて、わたしは何をしていたのでしょう。三年寝太郎のようにずっと眠っていたのでしょうか…。寝太郎は3年で起きてしかも大金持ちになりましたが、わたしは20何年眠り続けて未だに眠っているような気がします。
自分のダメさ加減に開き直る勇気すらなく、わたしは毎度毎度同じことを繰り返しているだけ。何という醜い姿でしょうか。

EFFERU6.JPG - 51,366BYTES エッフェル塔からの夜景。

…おいおい、これは旅の記録ではないのか。パリの話はどうなっているんだ。

失礼しました。でも、これは楽しく旅のレポートをするページでもないんですよね、実は(笑)。
はっきり云って、わたしの自己満足のページなのですこれは。苦しいときは苦しいと書くし、悩んでいることも全てではないけれど書く。そもそもこの放浪は、世界遺産や美術品を見て回ったり、美味しいものを食べ歩くのが最大の目的ではありません(それももちろんありますが)。敢えて云えば放浪すること自体が目的なのです。だから旅先で考えることは、例え醜くとも書く。
観光案内や地元の穴場情報なら、いくらでもいいページがありますし、本もいっぱいあります。今更わたし如きがパリのよさなどを語ったところであまり参考にもならないでしょう。

とは云え、少しだけ。
怒涛の美術館めぐりを終わったわたしは、その後はまたいつものように、ひたすら街を歩く日々でした。
パリと云えば『オリーブ』の聖地なわけですが…ま、『オリーブ』の提唱するような街なんておとぎの国ですよ(笑)。
そりゃあ”オリーブ的な”可愛いお店もちゃんとあるし、カフェも山ほどあります。
しかし、どこを向いても可愛いお店だらけというわけではないし、カフェについては、日本なら”おしゃれピープル”しか入らないことになっていますが、こちらではオッサンも普通に利用しています。
お洒落なパリジェンヌだってもちろんいるけど、お洒落じゃないパリジェンヌもいっぱい…。

そもそも、色んな人種が共存する(おそらく東京などよりはるかに)大都会が、可愛いものであふれているワケなどないのです。
わたしがお世話になっていたアパルトマンの周辺は移民が多いとかで、パリというよりエジプトの街角のよう(笑)。ハマム(アラブ式銭湯)もあったりして…。
別に失望しているわけではありません。オリーブなパリは、それはそれとして素敵だし、現実のパリにはまたそれなりのよさがある。
ひとつ思ったことは、メディアは結局、幻想を作るのが仕事なんだなということです。

PARIS34.JPG - 67,042BYTES 絵描きがいっぱいいるモンマルトルの丘(『アメリ』の舞台はここ)。

サン・ジェルマン・デ・プレ、シャンゼリゼ大通り、モンパルナス、モンマルトル(ここが一番オリーブっぽいかも)、クリニャンクールののみの市…などなど、色んな場所を歩き倒しましたが、ひとつおすすめなのがサン・マルタン運河。
アパルトマンからもほど近く、お散歩にはもってこいでした。実にのんびりした雰囲気で、数はまだまだ少ないけれど、センスのよい乙女なお店も点在しています。中心地の喧騒に疲れたらぜひ。
もうひとつ、モンパルナス区域にある「カタコンブ」。これはすごい。
パリの地下に広がる無縁仏の共同墓地なんですが、あっちを向いてもガイコツ、こっちを向いてもガイコツ…チェコのクトナー・ホラ(第1回の日記を参照)どころのさわぎではありません。もっと薄ら寒く、無機質な感じ。死んだらこうなるのか…とため息をつかずにはおれませんでした。
さすがは荒俣宏の『ヨーロッパ・ホラー紀行ガイド』に載っていただけのことはあります。夏の暑い日の観光にはおすすめかしら(物理的にも涼しいし)。

KATAKONBU9.JPG - 54,784BYTES 微妙に装飾的なガイコツの山。こういうのがえんえん見られます。

さて、次はどこに行こうかな。
今日はマルセイユ行きのチケットを取っていて乗れなかったのですが、何だかマルセイユよりもアヴィニヨンの方がいいかしら、それとももうバルセロナへ行ってしまおうかしら…とまだまだ悩み中です。
ただ、スペインはよくないウワサが満載なので足踏みしてしまいますね。いや、いずれは行かないといけないんですけど。
わたしが果たしてどこを次の目的地に選んだかは、次回の旅先風信で。

(2002年6月13日 パリ)

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