旅先風信20「フランス」


先風信 vol.20

 


 

**モーレツ美術三昧・パリ編**

 

この頼りないモバイル放浪記も何とか20回目を迎えることができました。
20回目はフランス・パリのアパルトマンからお届けします(ホントです)。

何故わたしがアパルトマンにいるのかという話は次に回すとして、パリに来てまだ3日ですが、これまで以上にすごい勢いで観光しまくっています。
と云うのも、カルト・ミュゼというミュージアム及びモニュメントのフリーパス(30ユーロ)を買ってしまったために、命がけで元を取らねばならず(本当にセコい)、せっせと美術館やら宮殿やらに足を運んでいるのです。
1日目こそオルセー美術館とノートルダム大聖堂(と何故か若干マイナーな装飾博物館)しか行けなかったものの、2日目はピカソ美術館+国立近代美術館(ポンピドゥセンター)+ルーブル美術館、そして今日はベルサイユ宮殿とその離宮(グラン・トリアノンとプチ・トリアノン)、ついでにルーブルと近代美術館にももう1回行ってやりました。ふう。
これだけ見まくると、まるで毎食豪華なフランス料理を食べているような感じで、もうおなかがいっぱいです(実際には忙しくてほとんど何も食っていませんが)。

それでも、さすがに芸術の都だけあって、美術館はどれもこれもハズレなしの素晴らしさでした。
2日目など、普通、1日に3つも美術館を回ったら飽きてくるものですが、不思議とそんなことはなく、むしろもっと時間をくれと云いたくなるほどでした。気に入った作品は写真はもちろん、全部メモを取ったりして…あんたはいつから美大生に?

まずはオルセー美術館。
駅舎を改装して造られたという建物からしてすでに立派な芸術作品です。ルーブルにあった印象派の絵がすべてこちらに移されていることはご存知の方も多いかと思いますが、マネ、モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ロートレック、ドガといった超有名どころの作品が惜しげもなく大量に展示されています。
さらにロダンを始めとする彫刻、アール・ヌーヴォーの家具などもあり、見ごたえ充分。アール・ヌーヴォーにますます興味がわきました。ガレのランプって本当に何とも云えない雰囲気がありますね。幽霊派・マッキントッシュの家具も素敵。
何にせよ、最初っからいきなりガツンとやられてしまいました。

ORUSE25.JPG - 471,771BYTES 印象派の殿堂。

ピカソ美術館。文字通りピカソの絵が集められた美術館です。
わたしは特にピカソに思い入れもなくキュビズムにもあまり興味がないので、大しておもしろくないかなーと思っていたらそれは大間違いでした。いいか悪いかは別にして、ぐいぐい引き込まれてしまい、気が付いたら20枚くらい写真を撮っていた・・・。
シュールな芸術は今でもいろいろありますが、ピカソの作品には、有無を云わさない迫力があります。
普通に見れば明らかにヘンな絵。でも、ピカソは別に筆の赴くままテキトーに描いているわけではなく、むしろ高度な理論と技術によってあのような作品を作り上げたのだなと勝手に解釈しました。或いは本当にあのように世界が見えていたのかも知れません。時々あまりにも可笑しくて噴き出してしまいますけどね。

PICCASO1.JPG 何じゃこれは、って感じ(笑)。でもすごい。

ポンピドゥセンター。その4,5階にある、世界最大級の近代美術館と云われる国立近代美術館。
いやー、やっぱり現代美術好きだなー。ピカソ(ここにも)、マティスをはじめとする20世紀絵画の巨匠から、わたしの好きなエリザベス・ペイトンの作品、喜多俊之氏デザインのSHARPのテレビまで、かなり幅広いコレクションです。相変わらずワケの分からない作品が満載で、かなり楽しく鑑賞しました。ロンドンの「テート・モダン」とはいずれが桜か橘か…といった感じです(古い云い方だなー)。
そして気になるミュージアムショップも、これまたテート・モダンに引けを取りません…と云いたいところですが、わたしの探している本がなかったので(テート・モダンにはあった…でも高かったのでそのときはあきらめたんだけど)テート・モダンの勝ち。規模的にも若干向うの方が大きいのではないでしょうか。あ、でもすごいものを見つけてしまったのです!
それは、ベルナール・フォコンの『偶像と生贄』。しかも日本のPARCO出版から出ているやつが!日本ではもうそれ系の古本屋ですら入手困難なのに…値段も日本の定価とほぼ変わらず、レジ直行でした。あー嬉しすぎ。
ちなみにここは建物も超近代的で、最上階のカフェもお洒落な雰囲気です。

PONPI2.JPG - 376,380BYTES Agamというアーティストの作品。インスタレーションって本当に意味分からなくて好きだなー。

そして、真打ち・ルーブル美術館。じっくり見ていたら何日あっても足りないというとにかくデカい、本っっっ当にデカい美術館。
ゆえにポイントを絞って見よう、というのはどこのガイドブックにも書いてあります。
と云うわけで、まずは「モナ・リザ」と「ミロのヴィーナス」ですね。何はさておいてもこれだけは全員見ているはず。
うわさに聞いていた通り、ここだけ人の山が出来ていました。特に「モナ・リザ」は大人気。でも、これも聞いていた通り、本当に小さい絵でした。他にいくらでも大作はあるし、ダ・ヴィンチの絵もちゃんとあるのですが、それでも「モナ・リザ」なのですね…。競馬的に云うと1番人気モナ・リザ、2番人気ヴィーナス、3番人気サモトラケのニケ像といったところでしょうか。

それで行くと、ここは穴馬だらけです。
ラファエロやらドラクロワ、ダ・ヴィンチ、ルーベンス、フェルメール、アングルなどの美術史上に欠かせない作品が、オルセー同様、いやオルセー以上に惜しげもなく、あくまでもフツーに(ここ大事)飾られているのですから…。何気なく歩いていると全部ただの絵として見逃してしまいます。
そこにさらに、個人的に知っているややマニアックな絵が、「え、こんなところに○○の××が!」という感じでいきなり現れたりするので大変です。わたしは4時間かけましたが、あとでカタログなどを見るとかなり見落としていました。
インフォメーションでもらえるパンフレットには一応ハイライトが載っていますが、これだけに頼っていると単なるオリエンテーリングになってしまうので(おかげで最後の方はハムラビ法典ハムラビ法典…と唱えながら探し回ったわ)、最初にミュージアム・ショップである程度の基礎知識を叩き込んでから回った方がいいかも知れません。

RUBURU6.JPG - 321,048BYTES 一応撮っときました「ミロのヴィーナス」。

この膨大な作品群の中から(絵だけじゃないです。彫刻、調度品、部屋…もう何でもアリ。無いのは印象派と現代美術だけ)、いくら個人的意見とは云えベストを決めるのは容易ではありません。
しかし、敢えて云いましょう…わたしのベストはアントワーヌ・グロ作「アルコル橋のボナパルト」(但し習作)。ボナパルトとはもちろん、「わたしの辞書に不可能という文字はない」男、ナポレオン・ボナパルトです。
ナポレオンについては後述しますが、この絵のナポレオンはもう本当に、ただごとでなく男前なのです。習作でない本物の方も後で絵葉書で見ましたが、これがさらに美しく、あまりのいい男っぷりに目が潰れてしまいそうです。
次点は…ドラクロワの「民衆を導く勝利の女神」(ドラゴン・アッシュがCDのジャケに使っていたやつ)かな。ああでも…他にもいろいろありすぎます。澁澤龍彦の文庫本のどれかの表紙になっている「ガブリエル・デストレとその妹」とか、アルチンボルドの「四季」とか…うーん。
さすがは芸術の都にふさわしい、名実ともに頂点に君臨する美術館だけのことはあります、と云って締めくくっておきましょう(ちなみに世界のトップ3はルーブル、ロシアのエルミタージュとスペインのプラド美術館)。

ベルサイユ宮殿。と云えば何と云っても『ベルサイユのばら』。最終巻のオスカルとマリー・アントワネットの死のくだりは何度読んでも泣いてしまいますよね。
宝塚版もばっちり観ている(VTRですけどね)ベルばらっ子のわたしは、ベルサイユ宮殿に行けば束の間でもお姫様気分が味わえるものと思い、デュッセルのKさんからいただいたフリル付のブラウスを着用し、いつもより小綺麗な身なりでいそいそと出かけました。
しかしそれは全く無理な相談でした。平日というのに宮殿の前には何十台もの観光バス。そしてもちろんその何百倍もの観光客。
フェルゼンの如きハンサムな貴族の御曹司や瀟洒なドレスを着た公爵夫人の代わりに、ポケットのいっぱいついた釣りベストを着たオッサンやTシャツ&ジーンズの女子がうじゃうじゃいて、もはや単なる一大レジャーランドです。
ここにかつてマリー・アントワネットやポンパドゥール夫人が存在し、生活していたことなど想像もつきません。豪華な内装ならルーさま(ルートヴィヒ2世)の城やミュンヘンのレジデンツ宮殿で充分満喫したので、今更大した感慨もなく、有名な”鏡の間”も写真で見るより心なしか小さい気がしました。
ベルサイユ宮殿の素晴らしさは、宮殿そのものよりも、それを彩る人々―例えばルイ14世、ポンパドゥール夫人、マリー・アントワネットらにまつわる物語あってこそのものだという気がしますが、如何なものでしょうか。

BERUSAIYU.JPG - 42,628BYTES 確かに絢爛豪華ではあるのです。

そんなわたしがベルサイユ宮殿で最も感動したこと、それは"鏡の間"でも、広大な庭園でもなく、ナポレオンが非常に男前であるということでした(またかい)。
ルーブル美術館で見たグロの肖像画(の習作ではなく本物の方)がベスト・オブ・ナポレオンですが、ベルサイユ宮殿の"戴冠の間"にかけられているものも、地味な色遣いながら非常に美男子に描かれていて、しばし絵の前で立ち尽くしてしまいました。

王様になってからのナポレオンは男前度落ちますね。戴冠式の絵のナポレオンはそれでもまだ男前ですが。
やはり、ナポレオン1世ではなくナポレオン・ボナパルト将軍時代です。
有名なナポレオンの肖像画(馬に乗って右手を上げているやつ)を描いた画家ルイ・ダヴィッドも、将軍時代のナポレオンを初めて見たとき「何という立派な顔をしているのか。(中略)今がギリシャ時代ならこの男のために祭壇を建てただろう」と感動したといいます。ナポレオンは軍人ですもの。あんな毛皮のお化けみたいな王衣よりストイックな軍服の方が何百倍も似合うのは当然です。

ちなみに、晩年のナポレオンを描いた「フォンテーヌブローのナポレオン」という絵もあるのですが、この頃になると頭はハゲかかっているわ、小太りだわで、哀しくなるほどイケてないです。男と云えど、花の命は短いものなのですね…。

と云うわけで、ブリュッセルで美術三昧な日々に疑問を感じていたにもかかわらず(前回参照)、またしても己のキャパシティを遥かに越えた美術鑑賞をしてしまいました。
しかし、今はこの前のような後ろ向きな気持ちではなく、役に立とうが立ちまいが、やはり見てよかったと素直に思います。
そもそも芸術なんて、何の役にも立たないところにその存在価値があるわけで、それを何かの役に立てようとして鑑賞するのは邪道なのかも知れません。
そして、そのムダさ加減にこそ、不毛な現実世界における唯一の希望があるのではないでしょうか。なんてね。

(2002年6月6日 パリ)

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