旅先風信19「ベルギー」


先風信 vol.19

 


 

**モーレツ美術三昧**

 

こんにちは。ベルギービールを飲みながら、少し酔った頭でこれを書いています。
「クリーク」というフルーツビールなんですが、ビールの苦手なわたしにもこれは美味しく飲めて、何だか気分がよろしいです。
場所は、マグリットが通っていた(かも知れない)という老舗のカフェー。申し分ありません。

BRUSSEL38.JPG - 40,983BYTES すっかり文士気取り(笑)。 

さて、ベルギーです。もう5日も居座ってしまいました。
別に居心地がいいわけでも何でもなく、行きがかり上そうなっただけです。居心地は、どちらかと云えばよくありません。
今泊っているYHが、連泊にもかかわらず毎日チェックアウトと部屋の移動があり、まったく落ち着けないからです。
一体どうしてこんなに融通がきかないのでしょうか。
そもそも、アントワープからブリュッセルにやって来た日からして最悪でした。
あてにしていたYHが2軒とも満室だったのです。今のホテルにたどり着くまでに2時間かかりました。その間は本当に地獄でした。今まで、当たったホテルが満室ということが皆無だっただけに(その方が珍しいのかも知れないけど)、すっかりパニックに陥って、「神様はわたしにここでのたれ死せいとおっしゃるのですか」などとワケの分からぬ呪いの言葉を吐き散らかしておりました。
バックパックは重いわ、息は切れるわ、またブリュッセルは坂が多いわ…汗だくになりながら、こんなことがしたくて旅に出たのだろうか?とまたいつもの自問自答。

しかし、5月30日(木)などという何の変哲もない日にYHがいっぱいになるとは…一体こいつら(客)は何者なのでしょうか?全員失業者?
…と訝しんでいたところ、どうやら、少なくとも隣国ドイツでは5,6月がバケーションシーズンのピークだとか。修学旅行生も多かった気がします。

ここに来るまで知らなかったのですが、ブリュッセルは食都とも呼ばれるグルメの街です。
有名なベルギーワッフル、ゴディバやノイハウスなどのチョコレートはもちろん、食事も美味しいということで、貧乏旅行者の分際で生意気にも、レストランで生ガキとムール貝をたらふく食ってしまいました。いやー、美味しかった(笑)。
特にレモンを絞ってちゅるんと食べる生ガキは最高です。夢に出てきそうなくらい。
ムール貝も深皿にてんこもり。40匹はいたんじゃないでしょうか。ムール貝って”海のゴキブリ”とも云われ原価はタダみたいなもん、って話ですが、でも美味しいものは美味しいもんね。
ちなみに、生ガキ(6ケ)+ムール貝のワイン煮+デザート+パンのコースで12ユーロ(約1400円)。少なくとも日本では不可能でしょう(だから贅沢ではないのだ)。
あ、チョコレート(レオニダス)もワッフルも食べましたよ。"ワーテルゾーイ"という名物のクリームシチューも。どれもこれまで行った国の中ではダントツに美味しいです。でもやっぱ生ガキが一番かな。

BRUGGE6.JPG - 43,385BYTES ベルギー西部・ブルージュの街並は"天井のない美術館"とも云われる。

しかし…毎日毎日歩いていますね。
歩くのが旅人の唯一の仕事とは云え、何をそんなに、或いは何を求めて歩いているのでしょう。
今日も今日とて、マグリット美術館と、アール・ヌーヴォーの父ヴィクトル・オルタ美術館へ、日射病で倒れそうになりながらも行ったわけですが、よくよく考えるとわたしはマグリットの大ファンでもなく(好きは好きですが)、アール・デコとアール・ヌーヴォーの違いもよく分かっていない無粋者。
そんなわたしが、わざわざ中心地から離れたそれらの場所に行ったところでどうなるというのでしょうか。
もちろん後学のためにとは思っています。マグリットがあのシュールな絵だけではなく非常にカッコいいポスターなども手がけていたことや、アール・ヌーヴォーのランプと曲線の美しさを知ることは、楽しい経験ではあります。
しかし、今後もしスーパーのレジ打ちなどを生業とするようになった際、果たしてアール・ヌーヴォーやシュールレアリズムが一体何の役に立つでしょうか?…ああ、わたしは何を云っているんだ(酔ってます)。

旅に出て2ヶ月と少し、わたしはきっと何も変わってはいません。相変わらずキレやすいし、頭も弱いし、小心者だし、鼻血がよく出るのも治らない。
昨日YHで出会って一緒にビールを飲みに行った大学生のKくんは、オランダ・ベルギー・フランス(パリ)を1ヶ月の旅ですが、色々と考え方が変わったと云っていました。そんなに人はすぐに変われるものなのでしょうか?変われるものなら変わりたい。自分のイヤなところはすべて直したい。でも旅にそこまで過剰な期待をかけていいものなのかどうか、未だ判断に苦しみます。

多くのものを見ることはできても、見たいものすべてを見られるわけではなく、見たところでそれらをきっちり咀嚼できるだけのキャパシティも持ち合わせていない。
ルーベンスの「キリストの降架」も、ネロ少年が見るから感動的なのであって、ふらふらとやって来たわたしが見ても逆に絵が可哀想な気さえします。
アンソール、マグリット、デルヴォー…もちろんルーベンスもファン・アイクも、わたしがベルギーで見たいと思っていた絵はほぼ見ることができました(とは云えアンソールは後期の作品があまり見られず残念でしたが)。
確かに本物は素晴らしいと思います。でもマグリットが云ったように「わたしは美術展には行かない。行かなくとも多くの画集が出ているではありませんか」というのもまた真実です。
しばしば、"昔美術の授業で習ったものを確認する作業"を行っているような錯覚にとらわれます。今さっき見た本物を、ミュージアムショップの画集で再確認するわたしは、一体何をしているのでしょうか。まったくワケが分かりません。

BRUSSEL32.JPG オルタ美術館。ヴィクトル・オルタの元邸宅。

それでも。それでもやはり何かを吸収したくて、何か素晴らしいものを見つけたくてわたしは歩き続ける。
そうするしか今のわたしにはできない。まだ帰ることなどできません。
だから明日も、わざわざ12.8ユーロを払ってゲントに行き、ファン・アイクの傑作「神秘の子羊」を見るのです。例え何の役にも立たなくても。

(2002年6月2日 ブリュッセル)

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