旅先風信18「オランダ・ベルギー」


先風信 vol.18

 


 

**ゴッホ・ゴーギャン展のことなど**

 

前回はいかがわしいことばかりをあげつらってしまいましたが、もちろんオランダもアムステルダムもそれだけの場所ではありません。

アムステルダムで有名な観光名所と云えば、ご存知アンネ・フランクの家。
フランク一家が、ゲシュタポの捜索を逃れるために屋根裏部屋で生活していたというあの家が今も残っているのです。
アウシュビッツのような陰惨さはないけれど、本棚の後ろに隠された屋根裏への入り口は、見る者を沈黙させます。隠れ家があっただけでもほかのユダヤ人よりは恵まれていたそうですが、物音も立てられない、たえずビクビクして過ごさねばならないなんて、どれほど辛く苦しい生活だったことでしょうか…。
アンネたちが逮捕されたのは、終戦間際、連合軍の解放がもう目の前に迫っていたときでした。彼らは結局、アウシュビッツ行きの最後の列車に乗せられたのです。あともう少し、隠れおおせていたら…或いは終戦が早まっていたら…運命のいたずらと云うにはあまりにも皮肉な話です。
アンネの家についてはいずれ、未だ書き終えていないアウシュビッツの話とともに稿を改めたいと思います。

アンネの家のあるヨルダン地区は、飾り窓地区と同じ造りにも関わらずこうも違うかと思うほど静かなたたずまいです。
アムステルダムには扇状にいくつもの運河が流れていて、運河沿いには緑があふれ、小さな船がゆらゆらと停泊しています。
他のヨーロッパの都市では邪魔だった自転車や車の路上駐車も、ここでは何故かさまになっているのが不思議でした。
中心地を少し外れてみれば、「ミッフィーショップ」などが並ぶこぎれいな大通りがあり、その落ち着いた雰囲気がオランダの豊かな生活を想像させます。

AMS17.JPG - 72,656BYTES 本当の(?)アムスはこんな感じ。

また、国立ミュージアムとゴッホ美術館という素晴らしい美術館もあります。
国立ミュージアムには、レンブラントの「夜警」「ユダヤの花嫁」、そして寡作の画家フェルメールの作品が3点あります。何はさておきこれだけは見ておかなくてはなりません。
フェルメールと云えば、大阪市立美術館でのフェルメール展を思い出します。おそらく大部分の人がフェルメールって誰やねん?と思っているはずなのに、何故か連日長蛇の列ができるという不思議な展覧会でした。
あの展覧会の目玉だった「青いターバンの少女」はアムステルダムではなく、デン・ハーグにあります。国立ミュージアムにあるのは「ミルクを注ぐ女」「ラブレター」「手紙を読む女」です。
名画ということでありがたがっているだけかも知れませんが、でもフェルメールの絵には何とも云えない気品があるように思います。あのやわらかい光、注がれるミルクのつやつやしさ…。

FERUMERU2.JPG - 37,816BYTES 「The Kitchen Maid」(フェルメール)

ゴッホ美術館では、ちょうど「ゴッホ&ゴーギャン展」が開催されていました。これはラッキーでした。
入場料が13ユーロ(約1500円)とけっこうなお値段ですが、それだけの価値は十分にありました。
2人の画家がフランスのアルルで生活をともにしていた2年間にスポットを当て、出会いから決別までの2人の関係を絵によって物語るという構成は、特別展らしい創意工夫にあふれ、非常に感動的な展覧会でした。

ゴッホは晩年、ゴーギャンの残したデッサンを元に「マダム・ジュノー」の肖像画を描いてゴーギャンに贈ります。それを受け取ったゴーギャンは大変感動してゴッホに手紙を書き送るのです。そしてラストを飾るのは、ゴーギャンが描いた"ひまわり"―ゴッホの重要なモチーフである向日葵の絵―わたしはここで不覚にもちょっとだけ涙が出てしまいました。

ここでわたしは突然やおいの話をします(やおいを知らない人は読まないほうがいいです)。
ちょっと仲の良さげな男子のペアを見るとすぐに「あの2人はホモ?」という色眼鏡で見てしまうやおい少女のわたしですが、さすがに、ゴッホとゴーギャンがホモセクシュアルの関係だったとは思いません。
しかし、この二人の関係の絶対性、他の誰にも取って替われないという関係のあり方は、ホモでなくとも精神的にはホモと云うか、つまり"やおい"なのです。
有名なゴッホの「耳切り事件」(ゴーギャンが去ったことでパニックに陥り、片耳を切り落としてゴーギャンに送りつけた話)などは如何にもやおい的なエピソードですし、ゴッホにとってのゴーギャンは何ものにも替えがたい存在だったのではないかと思います。もちろん、ゴーギャンにとっても。ただ、やおい的な穿った見方をすれば、ゴッホの愛がゴーギャンには重すぎたのかしら(笑)なんて。いや、愛とかではないかも知れないですけど。2人の決別は絵に対する考え方の違いが原因ですから。
ゴッホがゴーギャンをアルルに呼んだのは、尊敬するゴーギャンとともに"芸術の理想郷"を作りたかったからでした。そういう話を聞くと、やっぱり男のパートナーは男であるべきなのかなー、となるとやっぱり男は精神的にはホモなんじゃないのかなー、なんて思うのです。

閑話休題。やおいの話になるとすぐ暴走するもので…失礼しました。

アムステルダムから電車で20分のところにある、"緑の村"ザーンセ・スカンスは、アムステルダムの猥雑さとは180度違った牧歌的な雰囲気。
ここは民俗村のようになっていて、有名なサボ(木靴)やチーズなどの工房があったり、オランダ名物の風車も見ることができます。
サボって可愛いですねえ。絶対に履く機会はないけれど欲しくなってしまった。
チーズも美味しかったな。ハーブが入ったやつとかめちゃくちゃ美味しいです。
でも一番素晴らしいのは緑色の街並(村並?)。つやつやした緑のペンキに塗られた家々は、まるで絵本の世界に出てきそうで、現実に人が住んでいるとはなかなか想像しがたいです。ここに来て初めてオランダに乙女を感じたかも(笑)。

ZANSE3.JPG - 20,417BYTES オランダと云えばやっぱ風車。

たった3日しかいなかったオランダに2回分も費やすことはないかと思ったのですが、こんなに明らかに違う顔をいくつも持っている国というのも珍しい気がしたもので。長くなりましたね。

ちなみに今いるのはベルギーのアントワープです。
YHが超不便なところにあってヘキエキしています。まあ静かだし12人部屋のドミトリーに3人しかいないというのは美味しいけれども。
アントワープと云えば「フランダースの犬」の舞台…と思っているのはどうやら日本人だけのようです。
あの話は日本ではアニメで有名になったけれど、現地では特別取りざたされているわけではなく、舞台となったホーボーケンという小さな町のインフォメーションは、ほとんど日本人のフランダースの犬ファンのために存在していると云っても過言ではありません。一応ネロ少年とパトラッシュの像とか建っているんですけどね(笑)。
夢をぶっ壊してすみません。それではまた。

(2002年5月30日 アントワープ)

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