旅先風信174「ベトナム」


先風信 vol.174

 


 

**ゲロまみれの青春**


ホーチミンシティからは、ダラット→ニャチャン→ホイアン(ミーソン遺跡)→フエ→ハノイ
という、まったく教科書通りの北上の旅をしております。まあ今までだって、ほとんど王道を旅してばかりで大した創意工夫もしていないのですが、旅も最後になってこのオリジナリティのなさ(苦笑)は、ちょっと如何なものか……って、まあいいか。別にいいのか。

唯一、高原都市ダラットだけはバスチケットのコースから外れていて、バングラで会ったチャーリー君がオススメしていたという経緯で、わざわざ寄ってみました。
ロンプラ東南アジア編によれば、
「Crazy MonkとCrazy Houseが見どころ」……何だかわかりませんがダラットはCrazyということで(いや、違うでしょ)。
「旅行人」のダラット情報がクソの役にも立たないので、しぶしぶながら9ドルも払って1日ツアーに参加。何やかんやで10か所近く周りましたが、見るべきものはドラゴンパゴダとCrazy Houseくらいだったな……。ちなみに、どちらもわたし好みの奇ッ怪ド派手建築です。ドラゴンパゴダはその名のとおり龍のデコレーションが激しく施された寺で、Crazy Houseはちょっとガウディ風味のゲストハウス(一応)ですが、Crazy Houseは何と、
建築物として国から認可が下りていないらしい。先日のカオダイ教総本山と云い、ヘンな建築はベトナムの名物なのでしょうか。
Crazy Monkと「愛の谷」なるスポットがツアーから省かれていたので、ガイドに軽く文句を行ったら「Crazy Monkはただ絵を描いているだけだぞ?しかも、いつもウェルカムなわけじゃないしな」と、別にどーしても見なきゃいけないものではないと主張され、すごすごと引き下がることに。しかし、もはや無理やりでも見に行こうとはしなくなったわたしは、大人になったと云うべきでしょうか。

見ての通りのクレージーハウス。カッパドキアの洞窟とガウディを足して2で割ってちょっとチープにした感じ。

ニャチャン、ホイアン、フエ……は、どこもかしこも、食べ物が美味しく、町はこじんまりとまとまっていて、見どころもあるけど軽めという、佳作的な町でした。悪く云うと、ちょっとパンチに欠けるというか。
こんな旅の終盤で、今さら強烈な刺激などなくともゆるりと楽しく旅していればいいのですが、それにしても、“何も考えなくていい旅”だな、と、ちょっと物足りなさを感じるのも正直なところ。
ホテル探しも、移動手段も、あまつさえ観光さえも自力で画策して動く必要がない。自力でやるとかえって高くつくため、ますます意味がないのです。骨抜きだわ、完全に……。今のところ、現地の人と激しくバトることもないし。
でもそれは、ベトナムに限ったことじゃなかったですね。思えば、東南アジアの旅は、軒並みラクでした。相対的に見てもそうなんだろうけど、どっちかと云うと、良くも悪くも旅に慣れてそういうふうに感じるようになったわたしの心の問題なんだろうな……。
何はなくとも好奇心だけは、簡単に摩耗しないと思っていた。それだけが、自分の旅人としての矜持のようなものだと。

まだ見ぬ素晴らしい何か、想像もできないような出来事。意識しないうちに、心のどこかでそういう派手なエピソードを求めてしまっているのだろうか?
確かに、旅は非日常的な行為だ。しかし、旅路は祝祭ばかりで埋め尽くされているわけじゃない。特に、こんなに長い旅をしていたら、毎日が輝かしい感動や特殊なイベントであふれているわけもない。まるでこれでは、大麻じゃ物足りなくてケミカル物質に手を出すジャンキーじゃないか?(苦笑)

遺跡もありんす。ミーソン遺跡。どこかで見たことある感じなので、イマイチ心を揺さぶられない。罰当たりなわたし……。

……なんて書いているとムダに落ち込んでくるので(笑)、気を取り直して、町の紹介でも。
3つの町のうち、もっとも自分の趣味に合うのはホイアンでした。現在のホイアンの古い町並みは華僑がつくったものですが、その前は、アユタヤのような日本人街が栄えていて、来遠橋(日本橋)という屋根つきの橋がその名残を留めています。
この中華風な町並みは世界遺産になっており、映画のセットのようでちょっと過剰ではありますが、分かりやすすぎるほどのアンティークな中国趣味、乙女的にはたまりません。狭い道を覆うようにして並び立つ木造建築の家々は、かなり絶妙にオリエンタルで、何だか色っぽくさえあります。思うにその色っぽさは、中華風に欠かせない“赤”のせいではないかと……。例えば提灯、例えば柱、看板などポイントで効かせてくる赤は、ゾクッとするほど美しくて、これぞ赤の真骨頂、中国ってのはつくづく“赤”の文化なんだなーと思います。しかし、これが本国で見ると、そこまでの風情を感じないのは何故だ?(笑)
ホイアンは名物のホワイトローズ(シューマイ)、カオラオ(麺)も美味しく、宿も快適で、ビーチもあって、お金と時間に余裕があれば、しばらく滞在してのんびりしたかったですね。
ただ、ホイアンのビーチでクソガキに絡まれ、通りすがりの男に「ハロー」「ハロー」「ハロー」「ハロー」(以下略)とイカれたテープのように繰り返されたあげく投げキッスまで送られたのは不快な出来事でした……。

例えばこういう感じのディテールにすこぶる弱い。

ホワイトローズと呼ばれるシューマイ。ホイアンはいちいち名物が美味い。困るほど美味い。

反対に、古都と云われるフエは、思ったよりも古都らしい風情が薄くて、ちょっと残念。あくまでもホイアンとの比較ですがね。
にもかかわらず、フエの宿が安かったものでついダラダラ滞在(4泊)してしまい、DMZ(非武装地帯)ツアーには行ったものの、あとは全滅と云っていいくらいの惨憺たる観光ぶりでした。フエ観光の目玉・阮朝王宮すらもケチって外観しか見なかったわ……(それをケチるなら4泊もするなよという話ですが)。何故かホーチミンの母校はちゃんと見に行ったけどね(笑)。

フエで毎日欠かさず食べていたチェー。

そんな(どんな?)フエからハノイへの夜行バスでは、またあの作者さんと一緒になったのですが、久々にまったく眠れない移動でした。午後6時出発、翌朝8時着ならぐっすり寝られるわい、と余裕こいてたのに……。あ、作者さんのせいじゃないよ。その顛末はこれから説明。
まず、夜中の12:00前後に、
未確認飛行物体が出現しました。
……って、大方ドロボーか通り魔のイタズラだと思いますが、バスの中の観光客どもが「フライングヒューマノイドだ!!!」とわーわー大騒ぎ。確かに、バスに大きめの衝撃があったのはわたしにもわかりましたが、フライングヒューマノイドという発想はなかったわ。むしろ、何か生き物を引いたんじゃないのか……。
しばらく停車した後、バスが走り出したかと思うとまた何か衝撃音がして停車。これが数回続き、気がついたら前方の客席の窓が粉々に割れていました。怖っ!
その騒動が落ち着き、ようやくウトウトし始めると、今度はトイレ休憩のお知らせで起こされました。時計を見ると、夜中の2時。眠いわボケ!
しかも、何ということでしょう、そのトイレは、もう1年近くもご無沙汰していたニーハオトイレでした。再見!……って、いっこもうれしくねー!しかも、ニーハオトイレの中でもかなりレベルの低い部類で、ドアどころか溝すらなく、何て云うんでしょう、シャワー室の角に穴を空けただけで、要はそこに尿が流れていくという仕組みらしいんだけど、地面の傾斜もないから、そんなにうまく流れねーよ(涙)。さらに、ゆっくり出さないと飛沫が跳ね返ってくるといううれしいオマケ付きです。
中国に入る前にこのテのトイレに遭遇するとは思ってもみず、しかもベトナムのくせに寒いしで、いろいろ不意打ちを食らって、一気に疲れました。

あーもう今度こそ寝るぞ! と意を決したところに、さらなる災難が降りかかって来ました。
いや、文字通りそれは本当に降りかかってきたのです。ウトウトしていると、突如、首筋に何か液体が垂れてきて、ビクッとなって飛び起きました。
空調から水滴でも滴り落ちてきたのか? と思ったら……なんとそいつの正体は、斜め後ろの席のイスラエル人が吐いたものすごいゲロじゃございませんか!!!
周囲はたちまち白いゲロにまみれ、わたしの紫色のTシャツに白濁した筋がつつーと……
お(汚)エエエエエエ!!!
特にバスが揺れているのでもなく、山道を走っているわけでもないのに、この凄まじい吐きっぷりは一体何事!?! と云うか、何で隣に座っている作者さんではなく、わたしなのだ!?だって、作者さんはイスラエル人の真ん前の席なんだよ? 何で斜め前のわたしにわざわざゲロをお見舞いしてくれるのよ!?
(※作者氏のHPで「汚野ぎくちゃん」と呼ばれたのはこういう経緯です)

そもそもこのゲロ男は、ゲロの前に、さんざん騒ぎまくっていたという罪状もあるのです。
“寝ながらにして移動する”ことが目的の夜行バスで、夜中じゅう騒いでいることからしてなかなかに許し難いのですが、きゃつと彼女、それに3人のイギリス人だかアメリカ人が、ペラペラ、ゲラゲラとまるでパーティー会場のように盛り上がっていらっしゃるではありませんか。しかも、彼らは英会話をなさっているので、わたしの能力でも3〜5割は内容が分かってしまうのです。
内容がうっすら分かるだけでも腹立たしいというのに、突然日本人の話題になり「日本人ってさあ、二言目にはすぐ「オーーーーー」とか云うよね、ププ」だの「前にチベットで一緒だった日本人ガールが「英語が苦手だから」って全然話さなくて。わたしたちは「そんなの気にしなくていいのよ」って云うんだけどやっぱり話さないのよね。何なのあれ?」という会話が、われわれ日本人2名のすぐ後ろで繰り広げられているのです。
もしや、
知っててやってんのかテメー?!
「○×人って〜」という話題は旅人の間ではよくあるけれど、フツー本人の前ではやらないぞ。それともナニかい、「どうせ日本人は英語が分からないんでしょ」とバカにしているからああも平然とでけー声で話していたのだろうか。まあ実際、日本人のわたしはいつもいつも英語が分からなくて悔しい思いをしているのですけど、今回は理解できて悔しいよ!世の中うまくいかないよね!
ネイティブが英語を話せるのなんか、当たり前なんだよ!得意げにどこの国でも英語喋り散らかしてるんじゃねーぞ!店頭で英語が通じないからってイライラする外国人とか、何様なの!?……しかし、残念なことにそれらを実際に口にできるだけの勇気と英語力はないわたし。
そんでまさか、トドメをゲロで刺されるとはね!!!
しかも、貴様のゲロを、何でわたしが自ら拭き拭きせなねばならん!(涙)気が動転しているのは分かるが、ひと言謝ってくれてもいいだろ?(涙涙)
それにしても、他人様のゲロを頭からかぶるという体験は、しょーもなすぎて実際は涙も出てきません。さらに云うと、ここのところの旅路で特筆すべきことがゲロの話かよ!という一抹の空しさが…(笑)。

まあその後、わたくしめも
自らゲロを吐き散らかすことになろうとは、このときは1ミクロンも予想しておりませんでしたがね……。
(詳しくは作者氏のHPをどうぞ……本当に、特大もんじゃ焼きのような、まあるいゲロでした(はぁと)。あれは酒のせいだとも思いますが、ああいうふうに、突発的発作的急激的な腹痛と嘔吐に襲われることが、この旅で何度かあったんだよな……。変な病気じゃなきゃいいけど)

……何とも云えぬ夜が明け、首都ハノイへ到着しました。
ベトナム第二の都市だけあって、またもバイクが増量し、空気の汚染度もアップしたようで……ゲホッゲホッ。さすがに耐えられずマスクを購入しました。水色の生地に、にゃんこのアップリケがついている可愛いマスクです。
ついでに、「アオババ」と呼ばれるベトナムのおばちゃんが着ているぺらぺらの水玉ブラウスを買い、旅の途中で拾った編み笠も着用。顔の半分を覆うマスクを着ければ、どこから見ても、普通の日本人旅行者に見えない代わり、ベトナム人にもビミョーに溶け込んでおらず、謎の異邦人コスプレと化していました。でもいいの。「アオババ」の水玉はある意味、コム・デ・ギャルソンと云っても過言ではないのです(またウソばっかり)。

ハノイから、ひとまずハロン湾ツアーに参加しました。「海の桂林」と呼ばれるベトナム屈指の景勝地です。
エメラルドグリーンの海の上に、巨大な奇岩がぽこぽこと生え、その合間を縫うように周遊するクルーズ。相も変わらず観光客てんこもりのツアーでしたが、光る海の上を進む船は、刻一刻と、まさに旅の終わりに向かって加速しているようで、胸が苦しくなりました。
こんな景色に会えるのも、数えてみればもう本当に最後かも知れない。たとえ感動は薄れていても、いよいよ旅を手放すのかと思うと、諦めきれない何かがまだあるような気がして……。

海上にぽこぽこと立つ奇岩。

さて、話は急に変わりますが、ベトナムの女性はよく働きますね。お店でもなんでも、女性が就労している姿がやけに印象的。そして、その“よく働いていること”が、あからさまにしみ付いているような顔をしているのです。やや乱暴に云うと“きつい”印象で、そこが、もう少しゆるやかな他の東南アジアとちょっと違うかも知れません。ベトナムが中国文化圏に近いせいでしょうか、 愛想のなさには、漢人と同種のものを感じますね(笑)。東アジアのここら辺では、どうやらスマイルは0円では売ってないみたいです……。ま、わたし自身、愛想のことをとやかく云える人間では決してないのですが。
年配の女性たちに関しては、「やっぱり戦火を生き抜いてきた逞しさが顔に表れているのだろうか」と思うけれど、若い娘もみんなけっこう気が強そうです。そんな女性たちに比べて、男性はいつも玄関の前に座って涼んでいるような印象(笑)。暑い国では男はあんまり働かないのでしょうか……。
そう云えば、ニャチャンのビーチでは、日の出(AM5:00)時間すでに大賑わいで、あらゆる年齢層の地元人たちが海で泳ぎ、ビーチで体操やバトミントンをしていました。この人たちはこうして早朝に運動してから仕事に出かけるのだそうで、AM7:00には就業しているとか。で、PM5:00頃仕事が終わるとまた海へ行くらしい(笑)。ベトナム戦争での驚異的な粘りをふっと感じる逞しさです。

一瞬アメリカ西海岸か?と思わせる、ニャチャンビーチの朝焼け。

(2005年7月28日 ハノイ) 

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