旅先風信165「タイ」


先風信 vol.165

 


 

**バンコクで旅を遊ぶ**

 

ヤンゴンからの飛行機は、夕方バンコクに到着しました。
おおお、ヤンゴン国際空港とは比較にならぬほど、巨大かつ近代的なドン・ムアン空港。
日本語の表示がやけに多く、日本語のフリーペーパーまで置いてあります。イミグレの隣の列に日本人のグループが並んでいたり、「はい、お荷物取られた方はこちらの出口へお願いします」という添乗員の日本語が聞こえたりして、急に日本が近づいたような、ヘンな気分になります。
で、ふとオノレの身なりを省みると…何だこりゃ。何人なんだよおまへは???あの日本人の列にはとても並べない風体に、愕然とします。
よく見るとわたくし、バックパックとスニーカー以外、日本製のものを何ひとつ身につけていないではないですか!(バックパック&スニーカーは、ボロボロすぎて、とても日本製とは思えないし)
インドのバッグに、ミャンマーのシャツと帽子に、ネパールのズボン。駄目押しに、こんがり茶褐色の肌(若干ゴキブリっぽい)で、完全に国籍不明です。

にしてもバンコク……暑っ!!!
ミャンマーも暑かったけれど、もっと何て云うのかしら、むせかえるような濃い〜い暑さ。
ヤンゴン空港とビーマンの飛行機の中がむちゃくちゃな冷房加減で、鳥肌立てて震えていたのがウソみたいです。

ガイドブックも何も持っていないわたしが、とりあえず目指すは、バックパッカーの集まるカオサンロード。
実はわたし、タイもカオサンも初めてなんですよ。これだけ長くバックパッカーとして旅していながら、カオサンを右も左も知らないというのは、かなり珍しい部類なのではないでしょうか…。
“空港からはA2のバス”ということだけは知っていたので、同じような格好をしたパッカーたちに混じって、バスを待ちます。

初のカオサンに降り立ったわたしは、通りじゅうにあふれるネオンサインに、少々面食らってしまいました。
カトマンズのタメルのような雰囲気を想像していたのですが…ううむ、似て非なるとはこのこと。何だこの、いやにギラギラしたストリートは。。。

何だこの六本木みたいな感じ(って、よく知らないけど)…。

妙な熱気の漂うカオサンロードにて、とりあえずは宿探しです。
バンコクは、というかカオサンの宿代は、これまでの相場からは考えられない(ってほどでもないけど)高さ。
例えばタメルなんかには、値段は安くてクオリティの高い宿というものがフツーに存在していましたが、バンコクの(というかカオサンの?)宿は、安かろう悪かろうという感じで、快適さを求めるならそれなりのお金を出さねばならなさそうです。
結局、タモリの弟子Kさんから教えてもらったPCゲストハウスにしました。1泊シングル80バーツという、この辺では格安の宿です。
完全に木賃宿とは云え、3畳あるかないかの広さとは云え、シングルでこのお値段。この際、文句は云ってられません。

宿こそボロいものの、バンコクの街はものすごい文明っぷり、都会っぷり。
中心街のひとつ・サイアムの辺りなんてもう、ここ最近の旅路からは考えられないほどの見事すぎる大都会。直前にいた国がまた、ミャンマーという半鎖国状態の国だったため、そのギャップに唖然とします。寒村から出てきた10代のおぼこ娘のような気分です。
そして、日本との類似にもいちいち驚きます。伊勢丹があることは知っていたけれど、まさかLOFTまであるとは。伊勢丹内には紀伊国屋書店もあります。
基本的にわたしは物欲の奴隷ですから、ついついそういうところに入って、夢遊病者のようにさまよってしまうわけですが、意外とLOFTにいて胸がときめかない。
日本にいた頃は、LOFTおよびHANDS大好きっ子でした。なのに、何年ぶりかにLOFTに入って思ったことは、「世の中には、別に無くても生きていけるものがたっくさんあふれているんだなぁ〜」ということでした。
ま、そのムダさかげんこそLOFTのLOFTたるゆえん(?)であり、わたしがLOFTを好きだったのもそういう部分だったに違いないのですが、今は、金がないせいか、そのムダさが妙に腹立たしかったりして。
いや、何もLOFTに限った話じゃないのです。この大都会には、少なくとも大阪に匹敵するくらい、キラキラした物質があふれていて、センスのいいブティックにレストランにヘアサロンに大量のコンビニが乱立していて…そういうものの寒々しさとか軽薄さが、何となく鼻につくのです。

じょ、じょしこうせいっ!!!(←完全にオッサンの反応)

もちろん、それらはわたしにとって非常になじみ深いものであり、決して嫌いなわけではありません。
旅のさなかに時たま、こういう大都会に来るたびに、その文明っぷりを満喫してきたものでした。でも、何故でしょう、今回は何だかそれが空しい。
距離も、雰囲気も含めて、日本が近いせいでしょうか?日本に帰ったら、片っ端からデパートやブティックに入りまくり、本屋で何時間も物色する自分というものが、ありありと脳裏に浮かぶせいでしょうか?
今はまだ旅の途上だから、そういうのもたまにはいいなと純粋に楽しめるけれど、帰国したらおそらく、そういう自分が、半永久的に続くのです。いつまでも癒されない渇きに動かされるようにして、帰国前と同じように、買い物と読書に明け暮れる…。そういう人生って、何なのでしょう?
例えば移動時間などによく、日本での未来のことを考えていました。キレイな洋服を着たいといった単純なことから、仕事や結婚のこと、色んなことを、時には焦がれるような気持ちで夢見ていたけれど、帰国したらそれは、ただのつまらない現実になる。ああ、それって何だか、とてつもなく空虚な感じ。

そんなバンコクに、意外と長く滞在することになったのは、このゴールデンウィークに、ある男性が日本からバンコクに訪ねてくることになったからでした。
GWにはバンコクにいなきゃいけないけれど、GWまではあと10日近くあります。“帯に短し、たすきに長し”な期間を、さてどうするか。
チェンマイなどのタイ北部は、この後ラオスに向かう道すがら訪れる予定なので、南部のビーチエリアでダイビングでもするか。タオ島はジンベイザメが見られると云うし、タモリの弟子Kさんが働いていたダイビングショップもあるし。
…と、当初は考えていたのですが、やっぱバンコク、世界中のパッカーを惹きつけるだけのことはあって、だんだん居心地がよくなってきたんだよね(笑)。カオサンなんか、文明なんか…って云ってたのに、気がついたら、マッサージに行ったり、紀伊国屋に行ったり、けっこう満喫してんじゃん、わたし☆
都会で物価が安いってのはやっぱ最強かもな〜…。大都会には違いないんだけど、よくよく見ると、ところどころに脱力できる部分があるんですよね。それは、無数の屋台だったり、ドブ川を現役で運行する渡し舟だったり、夕方の公園でいきなり始まるエアロビタイムだったり、日本の都会にはないヌケ具合。
最初はむ〜ん。。。って感じだった昭和30年代の下宿屋みたいな宿も、これはこれで味があるじゃん、と、けっこう“住めば都”になっていたりして。我ながら適応力があるなあ〜(←単にポリシーがないだけとも云います)。
「まいっか。GWまではバンコクを満喫しようっと♪」

そんな居心地のよいバンコクの見どころといえば、ガイドブックには、ワット・プラ・ケオとか、ワット・アルンとか、ウィークエンドマーケット、ジム・トンプソンの家……なんて書いてありますが、今や高校生でもやって来るバンコク、そんな場所は今さら説明してもしょうがない。
ということで、極私的オススメスポットとして、以下の場所を取り上げたいと思います。

@ゴーゴーバー&ゴーゴーボーイズ
Aワット・ファイロンウア(地獄寺)
次点:シリラート病院の法医学博物館

@は、バンコクの夜の代名詞と云ってもいいでしょう。
パッポン、ナナプラザといった歓楽街の代表的存在である、ゴーゴーバー。下手したら、ワット・プラ・ケオよりも、ゴーゴーバーを知っている人の方が多いに違いありません。
説明するのも若干バカバカしいのですが、一応説明すると、水着姿の若いオネエちゃんたちがお立ち台の上で踊り、客は飲みながらそれを物色するという、バンコク特有の水商売です。
ゴーゴーボーイズというのは、そんなゴーゴーバーの男版。と云っても、客は女ではなく、ホモの男ね(笑)。まあ、女の客もちらほらいるらしいですが…。
あと、ゴーゴーバーの中にも、オカマ専門、ニューハーフ専門の店もありで、さまざまなニーズに対応しているというわけです。

普段、ゲイ好きを公言し、ゲイの友達が欲しいと切望しているわたくしですから、とりあえずゴーゴーボーイズの見学は外せません。
ウワサによれば、『男たちの挽歌』ならぬ『男たちの8連結(ケツ?)』が見られるとか…うーむ、かなりグロそうだけど…見たいぞっ(笑)。
というわけで、宿の人々を誘ってパッポンに繰り出すことに。集まったのは、怖いもの見たさの男性2名、そして別の宿から遊びに来ていたIさんといういかにも旅のツワモノっぽい1人旅のおねーさん。

ゴーゴーボーイズの看板たち。「ぽん太」が気になる…。

店の良し悪しなんざ誰も分からないので、にぎわっていそうなお店を選びます。
まず、入店して真っ先に目に飛び込んできたのは、白いタンクトップに白い短パン、白い靴下とスニーカー姿の若い男子の群れ。20人くらいはいるでしょうか、狭い舞台の上に立って、ベルトコンベアー式に巡回しています。ギラギラしたステージの上で、白い体操着のさわやかさが、何ともマヌケ、かつ全く意味不明です(あっでも、男がブルマ姿に惹かれるのと同じ理由?)。
舞台の前には、3段になった客席があり、客(ほぼ男性。インテリっぽい欧米人が1人で来ていたり。妙にかしこまった表情なのが何とも可笑しい)はそこから物色するというわけです。Iおねーさんは、フツーに“かわいい男子”を探しているご様子で、本当にお持ち帰りしそうな雰囲気がちらほら…(笑)。
歌、ダンス、コントといったごくショーっぽいものから、何故か水槽の中でからみ合ったり、泡にまみれた青年のセクシーシャワーシーン(笑)など、さまざまな出し物が繰り広げられましたが、何と最後は、わたしたちの目の前で男2人の本番が!ぐがあ!(嘔吐)
手を伸ばせば余裕で届きそうな至近距離で、生でハメておられるではありませんか。。。
目に飛び込んできた瞬間はさすがに度肝を抜かれましたが、これが意外とさわやかと云うか(笑)あっけらかんとしているのですよね。
ハメられてた方の兄ちゃんなんか、10分後くらいに何でもない表情でフツーの服着て店ん中を歩いていたしね(笑)。仕事とは云え、この切り替えのすばやさは天晴れ。
それにしても、ア○ルはどないなっているんでしょうか…。ここにいる兄ちゃんたちは、必ずしもゲイではなくて、お金のために働いているって人も多いというし…。いやはや、ハードな世界だわ。

ちなみにバンコク、と云うかタイは、オカマにやさしい国として全世界に名を馳せているだけあって、街を歩いているとフツーにオカマちゃんを目にします。
だって、レストランでご飯食べていると、隣の席にいたりするんですから。1人でふらりと入ってきて、注文して、ご飯食べてる。当たり前っちゃ当たり前だけど、日本だと、周りが一瞬ヒソヒソしそうじゃないですか(笑)。でも、こちらではいたってフツーの光景っぽい。いいですね、この大らかさ(笑)。

本当は、ショーの後こそが本番(つまり売り買い交渉ってことね)なのでしょうが、われわれは店を出ました。
「ドリンク代だけで面白いものが見られてよかったねー」と喜んでいるわたしとIおねーさんの隣で、男性陣は完全に死んだ魚の目をしておりました。
「頼むっ、頼むから違う空気を吸わせてくれ〜〜〜;_;」と懇願されてしまったので、本家ゴーゴーバーへとハシゴすることにしました。
女子が行っても何にも面白くないのではないかと思いましたが、Iおねーさんがすっかりハジけ飛び、女の子に誘われるままお立ち台に上がって踊りまくり、さらにはTシャツまで脱いで半裸状態に……っておい、すげーなこの人。ダテに歳を重ねてないわね(←失礼)。
つられてわたしも、普段のキャラに似合わず一緒にお立ち台で、ポールにつかまってぐるんぐるん踊ってしまいました(さすがに脱がなかったけどね)。
そのせいで、酒が必要以上に回って、帰りは吐きそうでしたが。。。

まあしかし、夜が楽しい街というのはいいですよね。
これまたセルフイメージとはかけ離れているけれど、わたしは夜遊びが大好きなのさ!
コンビニで酒を買って、ラッパ飲みしながらゴーゴーバーに向かっているときの高揚感。何だかよく分からないけどイキオイだけで進んでいくこの楽しい感じ。

Aは、@よりもずっとマイナーで、バンコクからはやや離れているので、ガイドブックにも載っていないのですが…ここは、知る人ぞ知る、穴場観光スポットの一等星なのです。
ちなみにわたしは、ミャンマー観光でもお世話になった『東南アジア四次元日記』(宮田珠己・著)でこの寺の存在を知りました。
読んだときは、脳天をかち割られるような衝撃を受け、バンコクに行ったら死んでも見なければ!と拳を固めたものでした。それくらい、超インパクトのある寺なのです。

何でもここは、「地獄を立体的に再現した寺」とのこと。
どう立体的かと云うと、地獄の鬼や罪人などのセメント像が乱立しているというだけのことなのですが、本にいくつか載っている写真を見ると、まあこれが、どれもこれもスゴイのひと言に尽きるんですよ。スゴイというか、アホというかキ○ガイというかヘンタイというか……。
写真はほんの一部らしく、それ以外にも大変気持ち悪い像の数々があるらしい。

この地獄寺への遠足には、カイラスでおなじみ・観音様ことSさんをお誘いしました(ちょうどバンコクに来ていたのです)。自分の中では、地獄に仏を連れて行くというコンセプトです。
バンコクの南バスターミナルから、68番のバスで2時間30分。だだっ広い土地を貫く国道沿いのバス停で降ろされます。
寺はバス停からすぐ。まずは、完全に製作途中の巨大涅槃仏がお出迎えです。完成すれば、かのモニワにいた涅槃仏に匹敵する、いやそれ以上の巨大仏になることは間違いなさそうです。
境内は相当広いらしく、歩いていくと今度は、大小さまざまの造りかけ仏が並び、その真ん中には、それら雑兵ならぬ雑仏(失礼)を従えるかのように金ピカの立ち仏が、さらにその先には、立ち仏の上司の如く、白い大仏が鎮座ましましています。まだ到着して5分くらいしか経っていないのに、すでに相当量の仏像を目にしています。ご利益あるんでしょうか…。

しかし、入り口で驚いている場合ではありません。この寺の真髄はここからなのです。
足を進めるごとに、めくるめく、素晴らしき地獄絵図が、さあ、どっからでもツッこんで下さいっ!!!と云わんばかりに両手を広げて待っているのです。そこはまさに、奇奇怪怪、魑魅魍魎、ギャグガス爆発(←昔の吉本若手芸人のギャグ)なオブジェたちの楽園(地獄なんだけどね)。

とりあえず、写真を列挙していくのがいちばん早いので…見ていただきましょう。

【ワット・ファイロンウア/選りすぐり10選】

エントリーNO.1「背後霊ならぬ、背後仏」…背後仏の方が金色なのがミソ。

エントリーNO.2「罪人を軽やかに見捨ててわが道を行く仏様の図」…巷にいる、喧嘩したカップルのようでもあり、味わい深いですね。

エントリーNO.3「ウンコを出す人と始末する人の像」…ワット・ファイロンウアの数ある奇怪なオブジェの中でも、群を抜いて意味不明。

エントリーNO.4「この世の無情」…仏との対比が何ともやるせない構図。

エントリーNO.5「怪物たちの林」…確かにこのヒドさは地獄。。。

エントリーNO.6「どうしてもイツモツにばかり目が行ってしまう像」…よく見ると、イチモツと指の長さが同じくらいなのもわりと気になります。

 エントリーNO.7「顔が足の裏になった男」…はそうそうおるまい。どんな地獄やねんっ!

エントリーNO.8「地獄と云えばやっぱ釜ゆで」…見たまんまです。針の山バージョンもあります。

 エントリーNO.9「俗物どもを見下ろす金色の僧侶」…このお坊さんに群がっている奴らがまた、ことごとくすごいビジュアル。。。

エントリーNO.10「地獄のど真ん中に突如現れるフツーのカップル」…何故こんなにもフツーでいられるのか!? 実はこの人たちがいちばんクセモノでは…。

もっともっと載せたい写真はあるのですが、選りすぐって10枚に絞りました。
もうね、これ、地獄アートです(かなりB級ですけど)。持てる想像力の限りを尽くしたアートの無法地帯。
あまりにぶっ飛んだ表現が多いため、見続けているうちに、いろいろと解釈を加えるのも馬鹿馬鹿しくなってきます。意味なんて考え始めると迷宮に迷い込んでしまうことは間違いないので、ただありのままを楽しむのが正しい鑑賞法でしょう。
10選には入れませんでしたが、背中から真っ二つに切断されたり、針の山を登らされていたり、内臓から蛆虫が飛び出ていたり、鬼にフォークで突き刺されていたり…といったフツーに(?)エグい地獄絵図もあったりはします。チープさゆえ、エグさと気味悪さが倍増しているのが何とも云えません。

 こういう感じ。

最後のを次点にしたのは、これを嬉々として「オススメ!」と云うのは、何となく後ろめたくって(苦笑)。
はっきり云うと、グロいんですよ。@Aもグロいっちゃそうなんですが、あっちはほとんどギャグでしたからね。
正確には、法医学博物館と解剖学博物館に分かれているのですが、何しろ展示物が、交通事故やら爆発事故で死んだ人の写真パネルやら、身体のスライスやら、死刑囚のミイラやら、脳や臓器やら、シャム双生児やら水頭症の子どもやら(いずれもホルマリン漬け)…といった具合。ホラー映画は苦手なクセに、こういうのはしっかりばっちり見に行ってしまうんだよなわたし……悪魔か?(笑)
とは云っても、悪魔なのはわたしだけではなく、このときは旅人4人で一緒に見に行ったので、こいつらも全員悪魔だということで(笑)。
でも、けっこう多くの観光客(って云っていいのか?)が見に来ているのですよ、ここ。タイ人のフツーにかわいい女の子なんかが来て、表情ひとつ変えずに殺人鬼のミイラを見学しているんですから。
ま、新聞の一面に、死体の写真が載ってしまうタイというお国柄ですから、死体に対するタブー意識が薄いのかも知れません。
それでも、子どもの標本の傍には、ちょっとしたおもちゃやお菓子が供えられていて、何とも云えない気持ちになります。

しかし、こういうのを次々と、淡々と見ていると、自分の中で何かが麻痺していくというか、停止してしまうのを感じます。
頭部が真っ二つに輪切りされていようが、内臓が飛び出していようが、「そういうもの」としてただ見るしかなくて、「グロいとかむごいとか云ってもしょうがないよ。だってこれが現実なんだから」って云われているような気持ちになってくるのです。
まあだからって、夜中に1人で来いって云われたら、絶対に絶対に絶対に無理ですけどね。。。

なお、寄生虫博物館も併設しており、寄生虫の影響で金の玉が異様に膨れ上がった人の写真や、尻の穴から乾麺のように管を巻いて飛び出しているサナダムシなどが見られます。
死体と寄生虫が奏でるハーモニー。マニアにはたまらない組み合わせ…かも知れません(汗)。

こうして見るとタイという国は、南国だからなのか、性も死も、やけにあっけらかんとしているなあという印象を受けますね。
淫靡を好み穢れを嫌う日本とはかなり対照的。そういうところが、タイという国の愛すべきところであり、タイにはまる人が多い理由なんだろうな。旅人に限らず、例えば駐在で何年か住んだ会社員が、リタイア後にこっちで家を借りて住むっていうパターンも多いですもんね。
大らかなのにエネルギッシュで、文明が整っているのに物価が安くて。こんな男と付き合いたい(笑)。

BANGKOK138.JPG - 36,653BYTES バンコク名物・夕方のエアロビタイム。

バンコクではほとんどの日々を、知り合った旅人たちと遊んだりして楽しくゆるゆると過ごしていましたが、ひとつ、後味の悪いヘンな事件(?)がありました。
旅人の坩堝カオサンを歩いていると、思いもかけぬ人に再会したりします。バンコクに着いたその日に、ラサのドミで一緒だった旅人と偶然ネットカフェで再会とか、アフガニスタンの旅の道連れ・Kさんとも、連絡は取っていたものの散歩中にばったり再会、ってな感じです。
そんな中、某国で会ったAさん、Bさんとも真っ昼間の道端で再会しました(※万一のため、いちおう伏字)。
再会を祝して、でもないのですがその晩、Aさんがよく行っているというブルースバーに、Bさん、その友達のCさんと連れ立って飲みに行きました。
素敵なライブと美味しいお酒で、今夜もいい気分で眠れそうだな〜なんてゴキゲンだった帰り際、思わぬ展開が待ち受けていたのです。

ことのあらましはこうです。
わたしたちのテーブルに、ほろ酔いのアメリカンの男子が来て、自分の持っていたビールをわたしに薦めてきました。
わたしはそれを何気なく飲んだのですが、その子が冗談でくいっと瓶の底を押しました…って書くと分かりにくいけれど、まあ「もっと飲めー」的なノリだったと思います。別にそれでわたしが、ビックリしてむせたとかいうことでもないし。
ところが、それを見ていたAさんが突如、男子にブチ切れたのです。
「貴様、何で女に無理やり酒飲ましてんだコラ!」
わたしはぎょっとしました。ってかむしろ、それでむせそうになりました。
Aさんとアメリカ人男子はすごい形相でにらみ合い、アメ君が「お前、誰だよ?」と云うとAさんが「ジャパンだよジャパン!ジャパニーズだよ!!!」と云い返すという応酬が何度か続きました。今にも殴り合いの始まりそうな空気です。
気づいた店員が慌てて止めに入り、とりあえずは鎮火しましたが、Aさんのキレっぷりはそのままで、アメ君が誤解を解こうとしたのか「僕は君に敬意を持っているよ」と何度もAさんに云っていました。

その場を収拾すべく、とりあえずわれわれは店を出ることにしました。
何とも微妙な空気が流れる帰り道、突如Aさんがわたしに向かって、
「お前な、分かってんのかよ!?お前も悪りーんだよ!」
とすごい剣幕で怒鳴りました。
それまで、男性にいきなり頭を割られたことはあっても(笑)、いきなり頭ごなしに怒鳴られることなどほとんどなかったわたしは、再びぎょっとして立ちすくみました。
Aさんは鬼のような形相でわたしをにらみつけ、多分「日本人の女として恥ずかしくねーのか、ナメられてんじゃねーよ!」みたいなことを云っていた気がするのですが、はっきり覚えていません。そんな言葉の内容云々よりも、彼の剣幕に気圧されてしまい、震える声で「そんなに大きなことなんですか?」と云うのが精一杯でした。
これがまた火に油を注いでしまったらしく、Aさんは「もうてめーの顔なんか見たくねーよ!」と吐き捨て、Cさんを連れてその場を立ち去ったのでした。…の割にはBさんに、「野ぎくちゃん送って行って」と気を遣ってくれたのがナゾでしたが…。
わたしは宿に着くまでの間、Bさんにずっと愚痴り続けました。Bさんも、「まさかあそこでキレるとは俺も思いませんでした」と云ってくれたものの、やはり気持ちが収まらず、宿の人たちにまで「さっきこんなことがあって〜(涙)」と訴え続けたのでした。

その後は、下手に係わり合いになるのも面倒なので、Bさんにこっそり探りを入れることもせず、Aさんが泊まっている宿の周辺を歩くときは警戒していました(カイラスのSさんが泊まっている宿の側だったの)。おかげでまあ、再会には至らなかったわけですが。
ぶっちゃけると、某国で会ったときは、ガキ大将みたいな雰囲気のAさんに、わりと好印象を抱いていたのです。男っぽくて、快活で、エネルギーがあって…って。まあ恋心にまではギリギリ至らず、ですが。
だから、カオサンで再会したときも、ちょっと嬉しかったのに、まさかこんなことで縁が終わるとはねえ。
普段は生意気にも「やさしいだけの男なんてねー」とか思っているクチですが、やっぱあのテのタイプの男は危険かも(笑)。男っぽさがマチズモとか凶暴さと結びつきやすい人と云うかね…。
バンコクでの日々は概ね楽しかったけれど、このことだけが何とも妙なしこりです。

(2005年5月8日 タオ島)

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