旅先風信164「ミャンマー」


先風信 vol.164

 


 

**怒りの水掛け祭り〜さらばミャンマー**


モンユワの楽しいテーマパーク(じゃないけど)を満喫し、マンダレーに戻ってきたわたしを待ち受けていたのは、東南アジア名物・水掛け祭りでした。
有名なタイのソンクラーンと同じ内容の祭りですが、ミャンマーではティンジャンというのだそう。旧暦の新年を祝うお祭りで、もともとは家族で仏像のお清めを行っていたのが、単なる水の掛け合いになったという、なかなかふざけた(笑)祭りです。
旅をしていて祭りに当たるというのは、かなりラッキーなことです。喩えるなら観光におけるボーナスポイントみたいなもんです。
しかしこの祭り、若干ストレスのたまる祭りでした。。。

モンユワからの帰りのバスで、すでに水掛け祭りは始まっていました。
仕事を終えた充実感を味わいつつ、のんびりと窓を開けて世界の車窓を楽しんでいたら、路上からいきなり水をぶっかけてくるぶっかけ男優がいるじゃございませんか。
ええっ? 水掛け祭りは明日からでしょ??勝手に前日からフライングとか、やっていいのかよっ!?

そして翌朝、祭り当日。
宿にいた旅行者たちと何となく連れ立って町に出ると、3分もしないうちに早速、道端からバケツ1杯分の冷水が飛んできました。
不意をつかれて戸惑うヒマもなく、今度はホースで水を全身にくまなく浴びせられ、フェスティバルのメイン会場に着く頃にはすでに水害が甚だしく、ズボンがものすごく重くなっていました。
「………(←地味にキレてる)」
そういう祭りなんだ、と分かっていても、他人にいきなり水をぶっかけられるのはけっこう、いやかなり腹立たしいものです。本能に訴えかけてくる腹立たしさっていうのかしら?
また、水を掛けてくる主にガキどもの笑顔が邪悪なんだわ(苦笑)。何て云うんでしょ、この「意地悪してやろう☆」という気持ちが全面に押し出されていて、憎たらしいったらありゃしない。

無邪気な顔して容赦なく水をかける悪魔たち。

このように、町じゅうで水を掛けまくっているのですが、いちおうメイン会場というものがありまして、マンダレー王宮のお堀をぐるりと囲んで、舞台のついたトラックが何十台も停車しているのがそれです。
その舞台上には何十本ものホースが設置され、そこから参加者たちに水をかけまくるというしくみになっているのです。
通行人(参加者)たちは、お堀のまわりを車やバイクなどでひたすらぐるぐるぐるぐる……暴走族のように走り回って、人も道路も水浸しになるというわけ。何だそりゃ……。
と呆れつつも、わたしも、ホテルからの道でさんざん水をぶっかけられた鬱憤を晴らすべく、水掛けステージに上って、消防職員なみに水を撒きまくってやりました。
これ、ホースを特定の誰かに向けて、そいつに集中して水を浴びせまくるのが、とっても楽しいんだよね。集中砲火ならぬ集中砲水を浴びて逃げたり悶えたりする姿を見ると、眠れるS心がむくむくと頭をもたげてくるのか、えも云われぬ快感が……。ガキどもの邪悪な笑顔の理由が分かった気がする(笑)。
この祭りって、楽しさのウラに、人間の性悪さがむき出しに発揮される祭りなんだね、きっと。だからこそ楽しいのか。
まあ、暑いので水浸しになっても基本は気持ちいいし、会場の巨大ホースくらいになると、あきらめの境地に入るのでかえって気にならないんだけど、唐突に背中にペットボトルの水をにゅるんと注がれたりすると、しかもそれが氷水だったりすると、頼むからやめてくれーーー!!!ってなります。。。いやー、人の嫌がるツボをよく分かってるわ(苦笑)。

メイン会場のようす。

お濠の周りは暴走族だらけ。

ホーリーと違って、色水じゃないから衣服も汚れないし、あれよりはマシだと思ってたんだけど、意外とホーリーの方がムカつかなかったなあ。何でだろ。
誤解なきよう書いておきますが、基本的に祭りは楽しいんですよ。
たださあ、普通の移動中とかに水を掛けられると、心の底からムカつくんだよね(大人気ない発言)。
マンダレー水掛け祭りの翌々日、バガンに移動しましたら、なんと、まだバガンでは水掛け祭りが終わっていないのか、一部の人々が勝手に延長しているのか、細々と、しかししつこく水をかけられました。
それも、着いた当日、船着き場からニャンウー村(宿の集中しているあたり)に向かう道すがら、死ぬほど水をぶっ放され、最後の方はマジでブチキレ1秒前ですよ(古い)。
こっちは、PCやらカメラやら、水が大嫌いな貴重品を始め、こっちは
家財道具一式背負っているんだよ! 水をかけちゃいかん相手だろーが! 食べ物屋台にかけちゃいかんのと同じだってば!腹には全財産入ってるし(しかも紙の類ばっか!)、冗談じゃ済まされないんだって!
しかし、そう思っているのは当然わたしだけで、「嫌がる相手にはますますかけてやりたくなる」という人間のサディスティックな欲望がモロに爆発する(してもいい)祭りなので、「市ねよバカ!」とすごい形相で怒れば怒るほど喜ぶ変態もたくさんいて、軽く殺意すら覚えちゃったりして☆
御者のおっさんも、ツーリストプライスで客を乗せてるからには、その辺を分かってくれりゃいいものを、あんまり本気で止めてくれないんだよね。なもんで、ついムカついて「てめー、もしカメラが壊れたら金払ってもらうかんな!」と、通じていないと知りつつ日本語で文句垂れてしまったわ。。。

とこのよーに、バガンでは来た早々に洗礼を受けたので、外出時はある程度の覚悟をすべく、荷物は厳重に二重ビニールパックで保護してはいますが、まず、宿から徒歩5分のレンタルサイクル店に行くまでで、全身ずぶぬれ。何でやねんっ!!!
遺跡地区・オールドバガンに向かうべく自転車を走らせれば、ニャンウー村を抜けるまでで相当量の水を浴び、タラバー門(遺跡地区の入り口)をくぐる辺りで、すでに虫の息。。。
バガンもマンダレーに劣らずかなり暑いので、水を浴びてもかえって気持ちいいくらいかと思っていたけれど、朝方はずぶぬれになると、しばらく寒気が止まらなくなるのです。ただでさえ変温動物なみに体温が下がりやすいわたしなので、これはつらい。日差しのもっともキツい、せめて、クソ暑い真っ昼間にこそかけてもらえればいいものを、この時間帯は全員休憩(怒)。やるなら今にしてくれ、今に!!!
まあ、その頃になれば朝方にびしょぬれになったTシャツはバッチリ乾いているけれど、ズボンはしつこく湿っていて、尻のあたりが気持ち悪いことこの上ない。しかも自転車で観光しているので尻の湿り具合がよけい気になってしょうがない…。もはや、水着で自転車に乗った方がいいんじゃないだろうか(グラビアの撮影かよ)。
それにしても、奴らが水をぶっかけてくるときの顔は、はっきり云って悪魔ですよ悪魔。意地悪な気持ちが満面の笑みとなって表出しているのです。そうか、この祭りは人間の悪意を思う存分発揮し、解放するための装置なのやも知れぬ、とまた、マンダレーで思ったことを上書きするのでした。

水掛けの脅威にさらされつつも、バガンではいつもどおり精力的に観光しました。
バガンは、世界三大仏教遺跡と呼ばれるうちのひとつです(あと2つはカンボジアのアンコール遺跡、インドネシアのボロドゥブール)。
広大な茶色の大地に、これまた茶色いデコレーションケーキのようなパゴダが無数に林立しており、いくつかある高いパゴダに上って見るパノラマは、世界のどこにもない不思議な光景です。特にシュエザンドゥパゴダからの夕陽とパゴダ群のセットは素晴らしい。建物単体でのインパクトは薄いけれど、団体戦だと強い、という感じでしょうか。ですからバガンの観光は、"木を見ず森を見る"が正しい姿勢だと思われます(何のこっちゃ)。
大小さまざまなパゴダの中に入っている仏たちは、モンユワほどのオモシロさはないものの(いや、そもそも仏にオモシロさを求める方が間違っているのだが、あれを見た後ではつい……)、一体一体、表情や大きさ、仕様が少しずつ違います。座仏もいれば立仏も、涅槃物もいるし、やたら顔の濃い南方系な仏さんがいたかと思えばうりざね顔の貴族的な方もいたり、さらには金色の全身にカラフルな☆シールが散りばめられていたり、仏さまのお腹に小さい仏さまがいるバージョンなんかもあり(これはちょっと不気味)…みうらじゅんにぜひ一体一体コメントをつけてもらいたいですね。
しかしそれも、10体も見ればわたしのチンケな脳は
「大体同じ」という乱暴な処理をしてしまうので、やがて飽き始め(さらに云うならパゴダの形もちょっとずつ違うけど、結局大体同じってことになりがち)、そのうち、真昼間の炎天下を避けるため、誰も来ないマイナーなパゴダの中で昼寝をするという罰当たりな使い方をしていました…。

腹踊りならぬ、腹仏。

オールドバガンのパゴダ群が団体戦出場だとしたら、女子シングル部門(いや、男子でもいいけど)はシュエジィゴーンパゴダでしょうか。
バガンのみならずミャンマーを代表するパゴダのひとつとも云われ、バガンの青い空に、巨大な金箔張りの仏塔が映えるさまは、何だかわかりませんが「ああ、これぞミャンマー的光景!」と思うような不思議な明るさを湛えています。で、夜景になるとガラッと雰囲気が変わって、まるで近未来の飛行物体のような宇宙的なカッコよさに変貌するのです。この仏塔は、後のミャンマー仏教建築に大きな影響を与えたとかで、確かに模範的でスキのない美しさですね。
モンユワ系のオモシロ仏たちは、ここに少しいました。そして、ナゾの迷路が併設されていました……。
ちなみに、バガンで奇妙…いや前衛的なフィギュアを見ようと思ったら、本来ならば(何が本来だか)聖地・ポッパ山に行くべきなのですが、やれ今日はダイレクトのピックアップがないだの、単に自分が寝坊しただので、結局は行けずじまいでした。「わたしはポッパ山に呼ばれてなかったんだ…」と、こういうときよくやる言い訳をしてみるものの、何の解決にもならず、ただただ己の怠惰&段取りの悪さがうらめしいわ。ああ、ナッ神とか(ミャンマー限定の精霊)ボーミンガウン(ミャンマー限定の聖人、でも外見はどう見ても高倉健)とか見たかった……。

ところで、久しぶりにモンゴロイドの国にきて、人の顔が自分に近くなってきたことに何となく安堵感を覚えていたのですが、ミャンマーを旅行するモンゴロイド系旅行者のほとんどが日本人なのか、必ず「コンニチワー」「ジャパニーズ」といちいち名指しされるので、ちょっとゲンナリ……。
いや、確かにおっしゃるとおりジャパニーズなんだけどさ、いちいち云われるとちょっと疲れるんですよ。
で、たまに
「いや、インドネシアから来たんです♪」とか云ってみるのだけど(インドで会ったYさんから伝授された戦法)、バガンでそう云ったら「そうか、インドネシアか」と納得したかに見えた男(ツーリスト相手に何かしらやっていそうだったけど、何者か不明)が、わたしの去り際に「あんたが日本人だってことくらい知ってるよ」と捨て台詞なのか何なのかをぼそっと呟かれたときはもう、恥ずかしいやらムカつくやらでそいつを殴りたくなりました(殴ってないよ☆)。
アジアに来て、自分の顔が周囲と何となく馴染んでいるのがうれしかったのに、何でわざわざ「オマエは日本人だろ」と確認されなきゃいけないの?
そりゃ、ローカルの言葉が分からないから、日本人だってすぐにバレるのはしょうがないけど、いちいち余所者扱いしなくてもいいのに…。

何故かミャンマーにもハンプティ・ダンプティが。。。

そしてヤンゴンに戻って来ました。
10日前までは、もうここで力尽きるかと思ってた。でも、こうして再び、元気な体でヤンゴンの地を踏めようとは……よく考えてみたら、いや考えなくても実に有難いことですね。
最後にしつこく、マイラムーパゴダ・チャウトージーパゴダ・アーレインガーシンパゴダ(舌噛むわっ!!)という、オモシロ仏&フィギュアがてんこ盛りとウワサの寺たちを巡ってきました。
ピンクや緑のポップな色使いの仏像、それに輪をかけて謎をはらんでいる数々のフィギュアたち。モンユワでも見た、えんえんと続く僧たちの行列あり、中にも入れる巨大ワニあり、ガラスケース入り巨大仏あり、地獄あり、妖精あり、ペンギンあり…ともはやワケが分かりません(何でペンギン?)。しかも、続けて3つも周ってファンシー光線を浴びまくったため、脳がとろけるアイスクリーム状態に…。
いやー、ミャンマー人のセンスはだいぶぶっ飛んでますよね。なんか、寺の内装も、寺っつうかパチンコ屋に近いような。
ちなみに、テーマパーク性が一番高いのは、マイラムーパゴダでした。ヤンゴンを旅することがある方は、ぜひ行ってみてくださいね。

せっかくなので、お茶目フィギュア三連発。

よっ

ほっ

ナンデスカ〜?

ヤンゴンの喧騒も、妙に懐かしくホッとしますが、ここでミャンマーの旅は終わりです。
まさに悲喜こもごもの旅路でした。入院さえなければ、宿は快適、食事は美味しく(というかわたし好みなの)、寺は面白く(笑)、観光地は見ごたえがあり…と、普通に楽しい旅で済んでいたことでしょう。
余ったお金は、ヤンゴン病院に寄付しようなどと殊勝なことを思っていましたが、結局は己の飲み食いにほとんど使い果たしました…(苦笑)。所詮は俗物なんだよな。。。
でも最後に、あいさつには行きました。わたしを診てくれた教授と、メガネの女医さんにお礼を云いに。そうしたら、また何やらこみ上げてきて、あられもなく号泣してしまった…。
会う人すべてが仏のようにいい人だったわけじゃないけれど、少なくとも、市井の人たちはおおむね、親切で気持ちのいい人たちだったなあ、と、この国を去る今になって思い出します。まあ、どこの国も、いつもそうなんですけどね。あ、でも、ミャンマーに関しては、水掛け祭り時は除く…。

バガンの夕暮れ。

(2005年4月20日 ヤンゴン→バンコク)
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