ホーリー☆ナイト…と云いましても、クリスマスのことではございません。 いくら独自の常識が満載のインドでも、こんな時期(3月)にクリスマスはやらないのです。 何かって、ホーリーですよホーリー。ヒンドゥー暦最終月の満月の日に行なわれる春の祝祭で、その内容はというと、カラフルな色の粉を辺りかまわずかけまくるというもの。うん、実にインドらしい大雑把な祭りだね(笑)。 コルカタに戻ってきた理由はただひとつ、ミャンマー行きのチケットとビザを取るためなのですが、運良くこの、インド三大祭のひとつに重なることになり、せっかくなのでがっつり参加してから、インドを去ろうという次第です。
つーか。。。 バングラから帰って来ると、インドがすげーいい国に見えてしょうがないんだが…。 そんな自分の感覚がトテモ怖い今日この頃。 まあ、コルカタは2度めだし、わりと好きな街でもあるから、安心感があるのかも知れませんが…。 何たってバングラ君は、出国のその瞬間までわたしを怒らせてくれましたからね…。手土産まで持たせてくれて、ありがとよ。ケッ。あー胸糞わりー。。。
さて、2週間以上もコルカタを離れているうちに、「パラゴン」の顔ぶれもすっかり変わっていました。 ドミは前回とまったく同じ部屋にベッドでしたが、隣にもうタモリの弟子(笑)はおらず、代わりにまだハタチくらいの、初々しい感じのパッカー男子2人組がいました。 まあ今回は、5日程度の滞在なので、馴染む努力をする気も特になかったのですが(←何様?)、この2人組・SくんとMくんが何だかフレンドリーに声をかけてくれたので、その流れで他の旅行者たちとも接するように。 相変わらず、屋上でボンを回しつつラブ&ピース的な集会(?)が行なわれるのがやっぱ肌に合わねーな…とは思いつつも、2人が半ば舎弟っぽく(笑)引っ付いている、Kさんといういかつい兄ちゃんに連れられて、時折顔を出したりしていました。 Kさんは、宿の日本人外国人たちみんなと仲が良く、日本人離れしたエネルギッシュなというかアブラギッシュなパワーの持ち主で、まあ云ってみればわたしと正反対のタイプです。こんなキャラクターだったら、誰とでも馴染めて、どこに行っても楽しいんでしょうねえ(遠い目)。
ちなみにこのKさん、わたしがブラジルで会ったOさんという旅行者と、昔2人で旅をしていたらしいことが判明して、ちょっとびっくり。 日本人旅行者の世界が意外と狭いことには、かねがね気づいていましたが、彼らが2人で旅していたのはもう10年も昔なのです。 旅人は、距離や年月に関係なく、つながっていくものなんでしょうかね。そう考えると、旅人ってつくづく不思議な存在だわ。
ミャンマービザ待ちの間は彼らとぷらぷら遊んだり、クーラーの効いた本屋で立ち読みしたりと、旅の小休止的なゆるい時間を過ごしていました。 そんな中、たまたま観た1本の映画が、ヒジョーに素晴らしかったので書き記しておきたいと思います。
4ヵ月半もインドにいながら、わたしはインド映画というものを一度も観たことがありませんでした。 ハリウッド以上の映画本数を誇るというインドのボリウッドは、インド文化を知る上で、欠くことのできない要素。観光の一環として観なければと思いつつ、なかなか映画をゆっくり観る時間が取れず、そもそも日本でもあまり映画館に足を運ばないしで、ついついサボっていたのです。
コルカタは映画館の多い街らしく、サダルストリートからの徒歩圏内にも映画館の集中しているエリアがあります。 せっかくなので、前回のコルカタで、小手調べ的に2本ほど観てみたのですが…。 1本目は、インドのトップ女優アイシュワリヤー・ラーイが主演しており、何だか信頼が置けそうだったので(笑)選びました。 ヒンディー語が理解できないわたしでも把握できたことは、小説家の旦那(ややオッサン)と美人の嫁(ヤング)と嫁の通っている学校(聴講生なのか?)の学生の三角関係のラブストーリーってことだけ。何故かラスト、旦那はサナトリウムに入っており、嫁は結局旦那を選んだらしくハッピーエンド。どうやら、小説家の旦那は、嫁と学生のラブストーリーを妄想で書いており、その妄想小説と現実の恋愛が重なり合っていく感じだったのね、ということもいちおう理解できました。おしまい。 なーんか、妙にメロドラマっぽくて、『踊るマハラジャ』的な娯楽モノを期待していたわたしとしては、やや拍子抜けする内容でした。ま、意味もなく踊るシーンが挟まるのはインド映画らしかったけど(笑)。 2本目に関しては、もはや内容も覚えていないくらいのB級作品でで、まあB級ならではのキッチュさなどがあればよかったのですが、つまらなすぎて一緒に観に行った旅行者たちともども、途中で席を立ってしまったほど(苦笑)。 映画そのものよりも、「携帯電話の電源をOFFにしてください」の表示とともに「床に唾を吐かないでください」という警告が出ることや、どー考えてもシリアスな雰囲気の場面で爆笑するインド人観客の方がよほど印象的でした。
ところが、3本目の正直とでも云いましょうか、ついに名作映画に当たったのです。 その映画『BLACK』は、メロドラマでもなく、娯楽大作でもない、インド映画のイメージを完全に打ち砕くものでした。
まず映像。原色ギラギラのイメージが強いインド映画とは真逆の、ブルー&グレートーンのゴシック調。どうやら設定が、イギリス領時代の町ということになっているようですが、インドでもない、かと云って完全にイギリスでもない、架空の町のような雰囲気なのです。 そして内容は、聾唖で盲目の女の子が、言葉を教える家庭教師によって成長していく…と云えばアレです。ヘレン・ケラーとサリバン先生。 ヘレン・ケラーの実話を基にした登場人物とストーリー展開で、最初は「ただの焼き直しじゃん!」とナメてかかっていたのですが…甘かった。 ヘレン・ケラーに当たる女の子はそのまま女性ですが、サリバン先生に該当する家庭教師は男性です。この家庭教師役が、ボリウッドの帝王、またの名をボリウッドの津川雅彦(←勝手に付けた)ことアミターブ・バッチャン。 家庭教師が男性である点はかなり重要で、それゆえに、ヘレン・ケラーの実話のような予定調和的な感動話で終わらなかったのがポイントです。 言葉を覚えた女の子は、ヘレン・ケラーさながら、めきめきと成長し、ついには大学にまで進みます。 そして、大人になった彼女は、初めて恋という感情に目覚めます。しかし、それに気づいたとき、家庭教師は行方をくらましてしまいます。というのも、その頃家庭教師はアルツハイマーの初期症状に冒されていたのです…。 実際に観る人もほとんどいなそうだから結末まで書いちゃうと、家庭教師はアルツハイマーが進行し、ついには女の子のことも忘れてしまいます。 そして、女の子は、言葉を教えてくれた先生に、今度は自分が言葉を教えていく…というところで映画は終わります。
これをハッピーエンドと云っていいのかどうかは悩むところですが、何とも陰影のあるラストで、「こんな映画もインドにあるのか…」と、インド映画の奥深さに軽くショックを受けました。 半分が英語、半分がヒンディーという構成で、ほとんどまともに聞き取れないにも関わらず、これほど明確にストーリーが理解でき、なおかつ号泣させるとは、驚き以外の何物でもありません。 いやほんと、インド映画で泣かされるつもりはまったくなかった(笑)ので…。
ああ、こんな名作に出会えるんなら、もっと早くから観ておけばよかったなあ…。 前にパラゴンに泊まっていたとき、ボリウッド映画マニアという整体師のお兄さん(すごいキャラだね)がいて、誰にもわからない話(笑)を嬉々として語っていましたが、きっと、タカラヅカ的な、マニアックだけどやけに豊穣で独特な世界が広がっているんだろうなあと思います。 とりあえず、ボリウッドの織田裕二こと、シャールク・カーンだけは認識できるようになりました♪
そうこうしているうちに、ホーリーの当日となりました。 祭りの間は危険だから宿から出ちゃダメ!特に女性は危険!という言葉もちらほら囁かれ、いったいどんだけオソロシイ祭なんだよ!?って感じですが、そこは旅行者ですから、男だろうが女だろうが第3の性だろうが、参加しないわけにはまいりません。
パラゴンも、朝から何やら異様なテンションに包まれておりました。 気合の入った欧米人たちは、バズーカーのような巨大水鉄砲を入手しており、どっからでもかかって来いや!状態です。 とりあえず、まだそんなに盛り上がってなさそうなので、さくっと腹ごしらえに、いつも行っている屋台でパンケーキを食していましたら…… 「ハッピーホーリー!」 後ろからどピンクの色粉が直撃。ぶほっ(←パンケーキ噴いた)。人が食事してるとか、まったくカンケーないんかい!完全にルールなき戦いなんかい! ま、スペインのトマト祭り(トマティーナ)よりは、匂いがない分、まだマシとも云えますが…。
早速お見舞い。
これはもう、ヘタに身を守っていると、かえってケガしそうです。 でも、何としても撮影だけはしたいので、デジカメは死守すべくビニール袋でぐるぐる巻きに。 己の身なりは、もう捨てる寸前だったよれよれTシャツに、ネパールで購入して以来、汗と汚れがたっぷり染み込んだ綿パンで、最悪身ぐるみをはがれてもOK、な出で立ちでキメてみました(キマってねーよ)。どこから染めていただいてもOKですわよ、オホホ。
路上に出ると、すでに色水・色粉が飛び交いまくっておりました。 「…な、何ですかこりわ…」(呆然) ただでさえ、キレイだとはとても云えない猥雑な街が、世紀末の如き様相を呈していました。 いったいこの無法地帯を、何と表現したらよいものでしょうか…。まるで色のバイオレンス。これが祭りと知らなかったら、完全に狂気の沙汰としか思えないでしょう。 パラゴン隣の有名な土産物屋“サトシ”をはじめ、よく行っているチャイ屋のおっさんや近所のガキもしっかり変色しており、ただでさえ濃い顔のインド人たちが、どぎついピンク色に染まっている様子は、ほとんどオカルトです。 旅行者たちも、己の顔をキャンバスと見立てているかの如く、次々と妖怪のような形相に、自ら進んで変貌していきます。 こういう「何かをぶつけ合う祭り」というのは、動物的な本能を呼び覚ますものなのでしょうか。インド人だろうが欧米人だろうが犬猫だろうが、色粉の前には皆、バカバカしくもプリミティブに暴れまわるのみ(いや、犬猫は完全に被害者だけど…)。 わたしは、それらを写真に収めるのに必死で他人に色粉を投げつけることが出来ず、ぶつけられ放題。ムキー!悔しい!でもデジカメだけはちゃんと守り抜きましたぜ…ぜえぜえ…。
軽く暴動な感じ。
パラゴンの旅行者たちもこのありさま。
まーでもここ↑までやられると、ホーリー後には廃棄処分にしようと思っていたTシャツも、タイダイ染めならぬ貴重なホーリー染めとして、末代まで残しておきたい気持ちになります(笑)。
広いインドのことですから、ホーリーにも地域性や盛り上がり具合の違いはあるようで、バラナシなどは死者が出るくらい凄まじいそうで。。。死者ってどういうことなんでしょうか…ぶるぶる。 が、コルカタはお行儀がよいのか何なのか、ホーリーは12時で終了という規定になっており、12時を過ぎると警察もやって来て、サダルストリートはまるで戒厳令下のように静かになりました。 とりあえずは、カラフルになりすぎた顔&体をガシガシ洗浄し(若干残しておきたい気もしつつ…)、心地よい疲労とともに昼寝タイム。至福のひとときです。
ところが、これでホーリーが終わったと思っていたら大間違いでした。 “ホーリーの満月”を見に、フーグリー河で月見としゃれ込もうと、KさんやMくんたちとハウラー駅へ出かけました。 すると、バスの窓から、キャンプファイヤー的な炎がちらほらと見えるではないですか。 サダルストリート周辺でのイベントは完全に終了しましたが、巨大なコルカタの街のあちこちでは、どうやら個々に祭りが行われている様子。 まさかホーリーに2次会(?)があったとは…これはとことんまで満喫せねばなりますまいて。
これまた暴動チック。
というわけで、月見でまったりした後、片っ端から…でもないのですが、目についたホーリー会場(?)を荒らし…いや、友好的に参加するわたしたち。 2次会は、色粉をぶつけ合うよりも、火を囲んで騒ぐのがメインのようです。 そして、サダルから少し離れたとある街角で、連れの男どもがスパークしてしまいました。
満月を見て狂気が宿ったのか、はたまた火を見ているうちに何かが呼び覚まされたのか…燃え盛る焚き木の周りをすごい勢いで走りながら、原始人の如く裸になって、吠え、踊りまくるKさん、Sくん、Mくん…って、あんたら、完全に頭おかしいでしょ!?祭りの前にヘンな薬とか仕込んできたわけぢゃないよね!? 普段は寡黙なYさんという旅人まで、すっかり感化されて裸で踊り狂っています。ってか、ホーリーってそういう祭りなのかっ!? 「インド人もびっくり」という言葉が、カレー関係のコピーでよくありますけれども、まさに今、インド人がびっくりしていますよ、彼らを見て。。。インド人たちがこんなに大人しく見えたのは初めてです。大体、誰も裸体になってないから!でも、そのうち周りのインド人たちも、この得体の知れないバカどものパワーに感化されたのか、一緒になって暴れ狂っています。“死者も出る”というバラナシのホーリーは、こんな感じなんでしょうか。。。 ああ、わたしも女子じゃなかったらしこしこ撮影なんかしてないで、加わりてえ…そして、どうせなら裸体で暴れてえ…。まあ、インドで暴れた回数はそこそこあるけど(苦笑)、さすがに裸になるのはムリだもんね。 あー全力でバカバカしいことをやるのって、素敵だね。
超ノリノリなホーリーナイト。
こうして、ホーリーを満喫したわたしは、翌日、満を持してミャンマーに向けて旅立つこととなりました。 昼は宿にてアドレス交換大会が開かれ、夕方、ホーリーの面子ほか、宿泊客たちに見送られてパラゴンを後にしました。
さよならインド。 訪れる人に強烈に愛され、また強烈に嫌われる国。 わたしはそのどちらでもなかったけれど、また来いよって云われたら、多分来ると思う。多分ね。 それにしても、1カ国で4ヶ月というのは、この旅で最高記録。何だかんだ云って、わたしはインドが好きなんでしょうか…諸手を挙げて賛成できないけど(笑)。
…しかし、そんな感慨に耽るわたしの背後に、暗い影が忍び寄っていようとは、そのときはまだ、微塵も思っていなかったのでした。
赤い犬。きっと本人(本犬?)は何も分かっていないところが、ケナゲで笑える。
(2005年3月28日 ヤンゴン) |