旅先風信157「バングラデシュ」


先風信 vol.157

 


 

**たとえばこんな1日。**

 

今回の風信を書くにあたり、ごく簡単にあらましを説明しますと、わたしはダッカからバングラ第2の都市チッタゴンへ赴き、次なる目的地・チッタゴン丘陵へのパーミッションを取りました。
チッタゴン丘陵は、先住民とバングラ人との内紛を抱えた微妙な地域ゆえ、旅行者にもそのような手続きが必要なのです。
まずは、チッタゴン丘陵のハイライトとも云うべき、ランガマティという町を目指すことにしました。このお話は、ランガマティへ出発する日の朝から晩までの、わたくしのしょーもない受難の記録です。

CHITTAGONG004.JPG - 71,194BYTES チッタゴンにある、第二次世界大戦の兵士墓地。ビルマ戦線で死亡した兵士が眠っており、日本兵の名前も……。こんな遠くの地で目の当たりにすると、胸がつまる(※以下、内容の都合により、本文とはカンケーない写真をお送りします)。

ま、先に結論を云えば、パーミッションを改ざんしてまで、焦ってランガマティに行くことにしたわたしが悪いのです。
天罰と云うのも大げさですが、まあ大方そんなところでしょうか……。

それは、チッタゴンのホテルを出、ランガマティ行きのバスに乗るところから、すでに始まっていました。
そもそも、ホテルのおっさんが、バス停の名前を2箇所も云わなければ、こんな面倒にはならなかったのですが(と今さら云っても空しいが)……ともかく。
おっさんに教えられた2つのうち、「近い方」にリキシャで行ったところ、
「バスはないぞ」
……っておい!何じゃそりゃ!じゃあいったいどこに向かって走ってたんじゃい!
しょうがないので「もう1箇所の方に行ってくれろ」と頼んだら、正当なのか不当なのか、実にビミョーな金額を云ってきました。のみならず、例によって意味なくわらわらと集まってきたバングラ人のみなさんが「20だ」「30だ」「いや25だ」と好き勝手云いたい放題で、話がどんどんややこしくなります。
ただでさえ、バスが拾えなくてムカついているわたしは、次第に本気で腹が立ち、「もういい。他のリキシャに乗り換える」と云って、ここまでの代金7タカを払うと、「10タカだ」……あのねえ。最初にちゃんと7タカで話成立したでしょーが!?もちろん、追加料金なんぞ払う気はさらさらありません(そもそも何の追加なんだよ)。

7タカだけを払ってそこを立ち去ろうとすると、今度は、群集の中にいたらしいベビーの運転手がいそいそと出てきました。そして、オレの車に乗れ!と云って半ば勝手に荷物を運んで行こうとします。この際、時間もないしベビーでもいいか……と身をゆだねるべく値段を聞くと、50タカですって。瞬時に却下。
「やっぱやめた」とそいつから荷物を取り返そうとすると、20タカでよいというので乗ることに。その時に、ついいつものクセで「金がない」と云ったことが、後々の面倒につながったのかも知れません。

ともかく、ベビーに乗りました。
運転手は、何故かやたらにわたしの荷物をさわろうとし(バカヤロウ!前向いて運転しろ!!)、あげく、ボストンバッグのポケットに勝手に手を突っ込むのでさすがにブチ切れ、日本語で「何やっとんねんボケ!気持ち悪いことすんな!」とか何とかわめきました。
それを何と思ったのか、この男はますます調子に乗り、「ランガマティまでは1000タカだ」(だから、ランガマティ行きのバスターミナルだって云ってんだろーが!)「カメラをよこせ」などと意味不明な発言を繰り返します。
わたしは、キレるより前に(こいつ、ちょっとやばいかも……)と思いました。ここは、少々ケガしてでも車から飛び降りるべきかも……。ヘンな所に連れて行かれて強盗に変身でもされたらたまったものではありません。
うっすらと芽生えた恐怖を押し殺すように、わたしは日本語で「あんたホントにやる気あんの!?」「ちゃんとバスターミナルに行ってよね!」と威嚇し続け、何とか目的地に着きました。
わたしが荷物を下ろそうとすると、奴はその内のひとつを人質(物質?)に取ろうと手を伸ばして来ます。いちいち手グセの悪りー奴だな!わたしはその手をぴしゃっとはねつけ、運賃の20タカを払いました。
すると彼は、唾でも吐きかけるような勢いでその金を突き返し、「500タカだ!」

……えーと。一体、何をどうしたら500タカという数字が出てくるのでしょうか?
50タカから値切って20タカになったので、50の間違いではないかと思いましたが、どうやらそうではないらしい。
もちろん、払う気などありません。わたしが断固払わない姿勢で挑んでいると、そこへまた善意だか悪意だかの第三者が現れ、「100タカだ」と、ますます話をややこしくしてくれます。
100タカで解決するという問題なのか?だって、最初に20タカと云ったんだから、それを守れよという話なのです。
いつもの如く頭に血が上り切ったわたしは、20タカを突き出して「ほら、500タカだよ!」と怒鳴りました。

CHITTAGONG024.JPG - 61,773BYTES リキシャのパーツを製作中。ザ・職人な光景。

するとこいつは、頭に人差し指をやって“この女は頭がおかしいんだ”というジェスチャーをし、まわりを取り囲んでいる群衆に何かをまくしたてました。
もちろんわたしには、そのベンガル語が分かる術もありませんが、1つだけ分かったのは、この男が、眼鏡のフレームに内側から人差し指を突っ込んでいるジェスチャーでした。
……と書いても(しかも太字で強調しても)、これを読んでいる人には何のことか分からないでしょうが、わたしはこれを見た瞬間、すぐに理解できました。こいつはつまり、わたしがレンズなしのダテ眼鏡をかけていることを揶揄して、「見てみろ、やっぱこいつ頭がおかしいんだよ」とアピールしたのです。

それは、カトマンズで買った安物のダテ眼鏡でした。
昔から視力だけはそこそこいいわたしは、眼鏡っ子へのささやかなアコガレというものがあり、時々、眼鏡をかけた自分になりたい願望に駆られることがあります。いや、何となく賢そうに見えるじゃん?っていう小学生なみの理由ですけど。
で、思い出したように取り出して、眼鏡っ子に変身するわけですが、移動の際も、荷物で潰れないようにと、なるべくかけているのです。
レンズを抜いているのは、レンズが傷つかないようにという配慮もありますが、わたしが日本にいた頃ひそかにお洒落ピープルとして注目していたトミーフェブラリーが、あのトレードマークの眼鏡にはレンズが入っていないことを表明していたからでした。理由は、“マスカラをつけた睫毛ががレンズに当たってしまうから”とのことでしたが、わたしは「なるほど。お洒落眼鏡というのはレンズを入れずにかけてもよいのだな」と納得し、あくまでもお洒落眼鏡としてかけていたのです。以上、長い長い説明でした。

しかし……確かにフツーに考えてみれば、レンズを抜いた眼鏡をかけるなど、何かのギャグかと思われても、いたし方ありません。
しかもここはバングラ。お洒落ピープルのトミーフェブラリーが……などという主張は、1ミクロンたりともまかり通らないのです(ま、日本でも通らないかも知れませんが)。
こんなことを“頭がおかしい”ことの証拠にされたのが、あまりにもカッコ悪く、わたしは一瞬ひるみました。
が、それはそれ。
頭がおかしかろうが何だろうが、20タカ以上の金を払うつもりはありません。
わたしは男を無視して、チケット売り場に歩いて行きました。するとそいつは、わたしの荷物をつかんで分捕ろうとしやがります。あっちはあっちで、とにかく20タカ以上の何某を得ようと必死の様子ですが、その強硬な行動にまたブチ切れそうになります。
幸い、ここには(ここにも)バングラ人はたくさんいるし、こっちはか弱い女子。わたしは、自分が不当な目にあっていることを周囲にアピールしまくりました。
はっきり云って、頭のおかしさでは運転手の方が上だと思われるのですが、ベンガル語を話せないわたしが激昂して、英語と日本語ちゃんぽんでわめき散らしているのを現地人が見たら、100%わたしの方がおかしいと思うのも無理はありません。ああ、言葉が出来ないって、本当に不自由……。
男はしつこくわたしの荷物に手をかけてきて、わたしはそのたびに断末魔のような悲鳴を上げる。その攻防がしばらく続いた後、少しばかり英語のできるおじさんが、仲裁に入ってきました。いよっ、待ってました、御甚大!
…って、はやしている場合ではありません。わたしは即座に、おじさんに泣きつきましたとも。
おじさんは、「よしよし、もう怖くないぞー」とわたしをなだめ、運転手に何やら叱責したもよう。男はそれでもぎゃんぎゃんわめいていましたが、おじさんがわたしをチャイ屋に避難させてくれたので、追撃を受けずに済みました。
しかし、その時点でわたしは完全に放心しきっており、おじさんが親切に「チャイ飲むか?」と云ってくれても、とても飲む気になれませんでした。1秒でも早くここを去って、すべてを忘れたいと思いました。

CHITTAGONG016.JPG - 58,313BYTES チッタゴンの市場。バングラには海外の洋服メーカーの工場があるため、安い衣料が大量に売られている。

……とりあえず、無事(?じゃねーよ)ランガマティ行きのバスに乗り込み、先の疲労のため、ロクに景色も見ずに爆睡こいていました。
すると、バスはチェックポイントでストップ、しかもわたしの荷物を一式降ろすと、ブオオオオォン……と、さっさと立ち去ってしまいました。
……って、ちょっと待てい。
わたしのチケットは、ランガマティまで有効のはずです。チェックポイントだから、降りてチェックを受けねばならないというのは理解できる。んが、何でバスが立ち去るんだよ!?

しかし、置き去りにされたこと自体は、実は些細な出来事でした。
チェックポイントにて、わたしはチェックを受けることになったのですが、これが予想をはるかに上回る厳しさ!
冒頭にも書いたように、わたしは、パーミッションの日付を改ざんしていました。
というのは、申請時は「明日くらいはチッタゴンにいるかな……」と若干の余裕を見て2日後のパーミットを取ったものの、チッタゴンが実に見どころの少ない町で、もう1日居る必要はなしと判断、翌日(つまり本日)のランガマティ行きを決行したというわけなのです。
パーミッションの紙はぺらぺらで、ボールペンでさらさらっと書いただけのシロモノでした。それが、わたしに良からぬ出来心を起こさせたのです。
すなわち、3/11となっている日付を、1の右側に半円を足して3/10としたわけです。あはっ☆ 小学生かオマエは……。

ところが、ぺらぺらのわら半紙であろうとも、パーミッションはパーミッション。
こんな紙切れ、形式的なもんじゃないのー、と見くびっていましたが、どうやら、チッタゴンのポリスからこのチェックポイントへ、「今日誰が越境するか」というリストが、しっかりと送られているらしいのです……って、フツーに考えれば当たり前だよね。
当然ながらそのリストに、わたしの名前は存在しません。
係官は、いち早く改ざんの疑いを向けてきました。が、ここで己のサギ行為を認めてしまっては、それこそのっぴきならない事態になりかねません。
己のつまらぬ焦りが起こしたこの事故、己でカタをつけなければ……。
「ファックスのコピーが薄いんじゃないですかね?改ざんなんてしてませんよー。何故そんなことになっているのか、わたしには分かりません」と、いけしゃあしゃあと白を切りました。我ながら、こういう時の図々しさには目を見張るものがあります……って、何の自慢にもなりませんが。
とは云え、わたしが悪いことくらいは百も承知なので、ブチ切れて強行突破するつもりは、さすがにありません。どの道、明日には堂々と越境できることになっているのですから。
ただモンダイは、今からチッタゴンに戻って明日出直さなければならないということ。たかだが3時間くらいの道のりとは云え、チケット代も無駄になるし(最近は特に、金にシビアになっているもので……)、何よりも今朝のバトルでの労力を考えると、それだけは避けたい。この際、ランガマティに入れるのは明日でもいいから……。

CHITTAGONG013.JPG - 41,644BYTES どこで食べても美味しい、バングラ名物スイーツ・ドイ。ヨーグルトなんですが、酸味と甘さのバランスが、かなり絶妙。

わたしは、係官に「充分なお金がないので、チッタゴンに戻ることができません。今日ランガマティに入れてくれとは云いませんから、このチェックポイントでひと晩寝かせていただけませんか?」と頼んでみました。当然、即座に断られました(笑)。
チェックポイントはただの東屋で、隣にトイレと小さな庭がくっついているのみ、周りには見事にな〜〜〜んにもない山道です。
冷静に考えたら、こんなところで寝かせてくれなどというのは、危険極まりない話なのですが、「チッタゴンに戻りたくない」という気持ちが、わたしの思考を完全にマヒさせていました。
そこの庭で寝かせてくれればいい、わたしは寝袋を持っているし、毛布やベッドを貸してくれと云っているわけじゃない、ただ寝るスペースを与えてくれれば……と、わたしはなおもしつこく食い下がりました。しかし、係官は承知しません。ま、それが当然の反応ですが……。
いざとなったら、その辺の畑ででも寝るつもりであると主張すると、係官とその手下は何故か大爆笑。まあいいよ、笑いたきゃ笑ってくれ。
それに、さっき乗って来たバスの払い戻しもしてもらわねば(こういうところだけイヤに冷静)。
次のバスはいつここを通るのかと尋ねると、3時だの6時だの、いや今日は通らないかも知れないなどと、甚だ心もとない返事。
「ともかく、この払い戻しだけはさせてほしいので、ここで待たせてもらいますね♪」と云って、わたしはベンチに横になり、手持ちの本を読み始めました。つまらんことになったもんだとうんざりしながら……。
でも、例えここで1日本を読んで過ごすことになっても、チッタゴンに戻るよりはいい(のか??)。

気の毒なのは係官。完全にいいメーワクです。それでも、チャイやお菓子を出してくれたりして、何だか申し訳ありませんでした。大人しくチッタゴンに帰るべきか……と心が揺れ動きます。
しかし、無理やり帰らされない限りはここで様子を見てもいいのではないかと、ミョーなところで冷静に考え、わたしはついに昼寝体勢に入り、惰眠を貪りました。最近、疲れがたまっているせいか、いくらでも眠れるのです(病気?)。
気温が高く、またイスラムの国ということで長袖を着ているために、汗をダラダラかきながら、寝たり起きたりを繰り返しました。一体、こんな山道の名もなき一角で、わたしは何をやっているのでしょうか……。

目が覚めるたびに、この先どうなるんだろう……という不安が頭をもたげ、それをかき消すために、また眠りました。
そうしていったい、どれくらいの時間が経ったのでしょうか……。ついに夕方にさしかかった頃、係官がわたしを揺り起こしました。
けっこういい気持ちで眠っていたので、何だよー邪魔しないでくれよーなどと不満げに身体を起こしたら、
「許可が下りたので、君は今日ランガマティに入れることになった」

マ、マジっすか!?
その展開だけは、絶対にないと思ってたんだが……寝耳に水とはまさにこれ(実際寝てたし……)。
この人が、頼み込んでくれたんだろうか?「この日本人は、チッタゴンに戻らずここで寝ると云い腐って動いてくれないので、何とかして下さい(泣)」とか…?(苦笑)
しかも、行きに乗って来たバスがチッタゴンに戻るためにここを通りかかり、チケット代を全額払い戻してくれたのです。ラッキー!

その時点で、夕方5時を過ぎていました。
今日1日をムダにしないために改ざんしたパーミッションは、結果的に今日1日をムダにさせることになったのでした。
自業自得。この言葉を、今ほど噛みしめるべき時はないでしょうね……。
むしろ、これくらいで済んでよかったのです。係官がいい人でよかった、と感謝しなければいけないところでしょう。そのまま本当に野宿なんてことになっていたら、身に危険が及んだ可能性だって、充分あるのですから……。
まる3年も旅をしてきて、いよいよ終わりも見え始めている昨今というのに、わたしは相変わらず何の成長もなく、こんな愚行を繰り返してばかりだな……嗚呼。
とにかく、もう揉め事はしばらく勘弁です。

わたしは、リザーブ・バザールという、町の東端エリアに宿を取りました。
ランガマティは山の上の湖畔の町で、道を歩けば眼下に大きな湖が広がり、静謐で素朴な雰囲気を醸し出しています。
特筆すべきは、ここにはあの、バングラじゅうを埋め尽くしているリキシャがいないこと。坂が多いため、リキシャは用を為さないのです。その代わり、ベビータクシーがこの町の移動手段。
喧騒のない、しかし適度に人のにおいのする小さな通りを歩いていると、ずいぶんと僻地へ来たような気がしてきます。
近くの食堂で魚カレーを食べ、少し散歩をしてから部屋に戻って、シャワーを浴びたり、今日の反省文(苦笑)を書いたりして、夜は静かにふけていきました。

RANGAMATI002.JPG - 30,817BYTES 田舎の保養地のようなランガマティ。

さて、その夜中のこと。
時刻は1時を回っていたでしょうか。
よく覚えていませんが、わたしは床に入って、完全に眠りに落ちるのを待っていました。
すると、部屋のドア――ベッドの頭側のすぐ側だったのです――を誰かが小さくノックしているのです。
初めは、寝惚けているのかと思いました。もしくは、建物が古いせいで、ヘンな物音がしているのかと。
しかし、音はまるで、啄木鳥のようにコツコツ……と規則的にドアを叩き続けているのです。
……人?それとも、白い人?(※幽霊のこと)
わたしは恐怖のあまり、ベッドの中で1ミリも身体を動かすことができませんでした。何だ、何だ何だ何なんだ……!?

と、その時でした。
すーーーーっ、と、頭上わずか20センチにも満たないところで、カーテンが開くではありませんか。
あ、明らかに、誰かいるっ!!!誰かが、窓からわたしを覗いてる……!!!
「Please open the door……」

ぎゃあああああああああっ!!!!!!
誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰誰ーーーーー??????

……と、ありったけの声量で叫びたいのをガマンし、わたしは全力で、死体のように凝固していました。
聞こえない、わたしは何も聞こえてないぞ……。これは夢だ、夢だ……。
そんなわたしの神経を逆なでするかのように、声の主は、
「I miss…give me sex…」
「Please、Please open the door…give me sex…」
と、ささやき続けます。おええーーーーー気持ち悪りーよーーーーーー!

身の毛がよだつ、血の気が引く、生きた心地もしない……とは、まさにこういう気持ちを云うのでしょう。
3年間の長旅で、怖い目には何度か遭って来ましたが、こんな恐怖を味わったのは初めてです。
30分?1時間?ささやきは、それくらい続けられたように思えました。
どうか、無理やりドアをこじ開けられませんように……と、それだけを祈りながら、奥歯を噛みしめるようにして男が去るのを待ち続けました。

しかしながらこの男は、早朝にもやはりカーテンを開け、部屋を覗いていたのです(その後、眠りが浅すぎて気づいたのよ)。
起きてから窓を確認しましたが、前後開閉式のカギにはなっているけれど、少なくとも指の入るような余地はありません。細い棒でも使ったのでしょうか……?
この狭い宿で、器用に窓を開けてくる奴と云ったら……おそらく、宿のレセプションでしょう。ヒゲ面なので分かりませんが、そこそこ若いと思われるレセプションの男。こいつに違いない。何となく顔がエロそうだし。

わたしは、早々に宿をチェックアウトしました。
ランガマティは、いちおう観光地?なのでしょうが、そこはバングラデシュ。安宿が充実しているわけもなく、選択肢はほとんどありません。
すぐ近くの似たようなランクの宿に移ったものの、部屋は昨夜の半分くらいで、まるっきり独房です。
その上、何故かここの従業員も、やけにノックしてくるのです。どうやら、御用聞きにでも来ているらしいのですが、昨夜の事件でノックには異様に過敏になっているため、気軽に顔を出せません。

それでも、昼間はどこへなりと出かけているのでいいのですが、夜になると…ひたひたと不安が押し寄せてきます。
ノックの恐怖はもちろんのこと、何しろ部屋が狭すぎて、「もし強引に押し入られたら逃げられない」という恐怖も湧いてきて、いたたまれません。
それを忘れるために、ひたすらパソコンにしがみつきます(ああ、電源があってよかった……)。旅行記でも書けばいいものを、そこはつい、ゲームなんかやってしまうわけですが(苦笑)、ゲームをしている間は、不安から解放されますからね……。

隔絶。
牢獄のような部屋で1人、昨夜のような侵入者が来ないかとおびえながらパソコンに向かっていると、まるで島流しにでもあっているような寂しさと悲しみが襲ってきます。
ここはいったいどこなのだろう。そしてわたしは今、何て孤独なのだろう……。
ここよりも、日本からうんと距離のある場所には数え切れないほど訪れたけれど、今いるここほど、日本から、と云うよりわたしの生きてきた世界から遠い場所はないような気がしてきます(また大げさな)。
窓の外を見れば、すべてを飲み込むような漆黒の闇が広がるばかり。部屋を照らすオレンジ色の粗末な明かりだけが、わたしの頼れるもの、か……。

ずいぶん気弱な〆になってしまいました。とりあえず、今回はこの辺で。

RANGAMATI054.JPG - 1,246,503BYTES 部屋の窓から見る夜景。何もないけれど、妙に神秘的。

(2005年3月11日 ランガマティ)

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