旅先風信15「イギリス」


先風信 vol.15

 


 

**吹き溜まり**

 

ダンジェネスが終わったら物価の高いロンドンはとっとと去って、嶽本野ばらさまの新刊『エミリー』を読ませてもらいに再びドイツ・デュッセルドルフのKさん宅へ向かうことになっていたのが、間際までバスのチケットを取らなかったために満席になってしまい、己の怠惰さを呪いながら再びミレニアムホステルに戻ってきた次第です。

しかし、人生山あり谷あり(何だ急に)、旅にも山あり谷ありで、恐ろしく鬱な気分で部屋に戻ると同室の日本人の男の子が声をかけてきて、よかったら下でビールでも、てなことになり、さらに別の日本人男子2名も加わって、明け方まで喋り倒しすっかり気分が晴れました。
本当に、鬱のあとには楽しいことが待っているもんだ。逆ももちろん然りですけど。

ともあれ、次のバスが出るまで時間が余ってしまったので、元々は予定になかった「マダム・タッソー」へ行くことにしました。
ロンドンに行ったことのない人でも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。マリリン・モンローやプレスリーやらのそっくりなろう人形で有名な人形館です。
おどろおどろしいもの好きとしては前々から興味をそそられてはいたものの、入場料が14.95ポンド(約3000円)という恐ろしい値段のためどうにも足が向かなかったのです。しかしここまで来たからには思い切って入るべきでしょう。

平日というのに大変な盛況で、中に入るとどれがろう人形でどれが本物の人間なのか分からないほど人(と人形)があふれていました。
最初の部屋はセレブのパーティーみたいな設定になっていて、ハリウッドのスターからスーパーモデル、コメディアンまで勢ぞろい。何てゴージャスで贅沢な顔ぶれでしょう(でも人形)。わたしの知らない人(人形)もいっぱいいました。

TASSO7.JPG プレスリー。

しかし、パンフレットなどで写真は見ていたものの、本当にこのろう人形はよく出来ていますね。
近くで見ても人間?と思うような精巧さで、ろう人形なんて云ってもマネキンみたいなもんだろーとナメていたわたしは、すっかり感服させられました。
最初は、いくら有名人に似ているとは云え人形と写真撮ってどーすんだ、と並み居る観光客を白い目で見ていたわたしも、あまりのそっくりさにだんだん興奮気味になり、ついディカプリオ(人形)とツーショットの写真を撮ってしまいました。

TASSO10.JPG きゃーレオ様☆一緒に写真撮って〜とはしゃぐ、アホな観光客の図。

ブラッド・ピット、トム・クルーズ、ヒュー・グラント、アーノルド・シュワルツネッガー、ロビン・ウィリアムス、ペネロペ・クルス(ちゃんとトム・クルーズの隣に立っている)、アルフレッド・ヒッチコックと云った映画関係はもちろんのこと、初代エリザベス女王、ウィリアム・シェイクスピア、マリー・アントワネットなどの歴史上の人物、さらにジョージ・ブッシュとトニー・ブレアの政治的作為を感じる仲良しツーショットを始めとする、各国首脳のろう人形。ちなみにわが小泉首相はいませんでした。日本人は唯一、吉田茂人形だけでしたね。

撮影人気が高いのはブッシュ&ブレアや、アメリカの歴代大統領コーナー、ビートルズあたりでしょうか。
しかし、最も豪華なのは英国ロイヤルファミリーコーナー。どうもここは専門の写真家に撮ってもらわなければならないらしく、貧乏なわたしはもちろん断念。
代わりと云っちゃ何ですが、ファミリーからはみ出して展示されているダイアナを撮ってきました。

TASSO12.JPG 寂しそうなダイアナさん。

さらに、ろう人形館と云えば忘れてはならないのがホラーコーナー。
精巧なのでちょっと気持ち悪いですが、それだけになかなか見ごたえはあります。
切り裂きジャックに殺された女性の人形なんて、飛び出した内臓まできっちり作ってありますからねえ…。うぷっ。おえっ。

ちなみに、このホラーコーナーだけを抽出して拡大し、さらにお化け屋敷色を強くしたのが新アトラクションの「ロンドン・ダンジョン」。
ここも入場料が11ポンド(約2200円)とバカ高いので、わたしはマダム・タッソーだけで我慢することにしました。
しかし、ロンドンの目的はロンドン・ダンジョンだけ、と云い切っていた人までいるので、やっぱり見に行けばよかったかな…。

マダム・タッソーでは、人形館のほかにプラネタリウムも見ることができる(と云うか券を買った時点で自動的に共通券になっている…)ので、どっちでもいいなーと思いつつ金がもったいないので一応見ておきました。まあよくあるIMAX式の3D映画みたいなものでした。

TASSO16.JPG 処刑される人々。

おっと、マダム・タッソー話が長くなってしまいました(すっかりガイドになっていたわね)
ここからは話題をがらっと変えて、わたしの今泊っているミレニアム・ホステルの話でもしましょうか。

アールズ・コートにあるYHから1泊10ポンドのこのホテルに移ってきた話は前に書きました。
地下鉄ベーカールー・ラインでZone2内ギリギリのところにあるケンソル・グリーン駅のすぐ目の前に建つこのホテルは、『歩き方』によるとロンドンで一番安い宿らしく、日本人旅行者もちょくちょく来ている模様。
YHから移ってきたときは、マニアックな立地条件もあって「わたしも落ちぶれたもんだわー」なんて思ってしまいましたが、どこでも住めば都。男子と一緒の8人部屋で、しかも部屋の中にシャワーが付いているので非常にシャワーが浴びづらい(一応女子なのでね)ということにも1日あればそれなりに慣れるものです。

わたしの同室は、冒頭で書いたMくんという2つ下の日本人男子と、20歳のちょっと可愛い顔立ちのコロンビア人男子、いつ帰って来ているのか分からない白人のお兄ちゃんでした(男ばっか)。
Mくんの話によると、このコロンビア男子というのが目下、結構大変な状況下にあるようで…。
カメラマンのタマゴである彼は、一旗挙げるためにロンドンに渡り、こっちに住む実姉を頼って行ったものの何故か数日で追い出され(何やらかしたんだ)、宿無しになってこのホテルにたどり着いたらしい。その時点で所持金60ポンド。このホテルは1週間宿泊すると長期割引がきいて、本来70ポンドのところが60ポンドになるのですが、彼はそれを払うと全くの一文無しになってしまう。
それで、ホテルのフロントに「本当にこれしか持ってないんだ!」と泣きついて、1週間50ポンドに負けてもらったわけですが、何とかその間に仕事を見つけなくてはならないという、わたしのようなお気楽旅行者には考えられない切迫した状況になっているのでした。
そんな彼にMくんは時々食べ物を分けてあげたり、仕事を探しにいく彼を、朝起こしてあげたりしていたそう。
ある日、恩返しのつもりか、コロンビア男子がMくんに「一緒に食べよう」と云って何やら黄色い塊を取り出して、それをナイフで削り始めました。食べてみるとどうやらそれはハチミツだったようで、「何〜んかひと昔前の貧乏学生の青春、ってカンジでしたよ。僕が食べ物あげるまであれでしのいでたのかな?ヤツはきっと大物になりますねー」。

このホテル、大都会の安宿だけあって、単なるバックパッカーではない人々にもいろいろと遭遇しました。
本当に”吹き溜まり”って感じで、胡散臭いもの好きとしてはなかなか楽しめたんですけどね。
例えば、Mくんとその友達(と云っても宿で知り合った)のKくんが”ピラニア”と呼んでいた、自称Fromモーリシャスのおっさん。彼はもうここが長いのか、一種の”ヌシ”のようになっていて、何故かバスのチケットのディスカウント販売までやっているという胡散臭さ満開のオヤジでした。コロンビア男子の仕事探しを一緒にするとかも云ってたし…何者!?
そしていっつもわれわれ日本人集団の中に席を陣取るというのもナゾだった…しかも時々日本語分かっていそうな不敵な笑みを浮かべるのがコワかった…。

さらにこのピラニアとつるんでいるウェールズ人のおっさんというのもいたし(酒飲んでいるのかいつも顔が赤い)、あと、Mくんが”仙人”と呼んでいる人がいて、見たまんま、キリストみたいなんですよ。年食ってんのか若いのかもよく分からない感じで、何とも怪しい雰囲気を醸し出していました。
「人生は短いから寝ない」と云って一晩中起きているノルウェー人の船乗り、ってのもいました。

まあ、そんな人々に囲まれて、わたしは、MくんKくん、そして「ロンドンにはロンドン・ダンジョンだけを見に来た」と断言するTくんという日本人男子3名と2晩続けて朝まで喋り倒しておりました。
全員歳が近いせいでしょうか、この世代間に特有の空気というものを強く感じましたねえ。
うまく云えないんですが、あんまり野心がなくて、何となく何かをあきらめていて、ま、楽しければいいんじゃないすか、みたいな感じ(本当にうまく云えてないなー)。で、みんな「30歳まではいいんだよ」って云うの(笑)。
Mくんはこの後すぐロンドンでホームステイをするのですが、KくんとTくんはすでに西欧を旅行してロンドンに入って来た人たちなので、わたしはこの先に待っているフランスやイタリアの情報を、まるで授業のように聞いていました。

でも旅のスタイルって本当にいろいろですね。
あんまり観光せずに公園でぼんやりしたりして過ごす人、鉄道パスを買ってガンガン移動してガンガン歩き回って観光する人、行き先をほとんど決めていない人…わたしは一体どんな旅をしているんでしょう?
何もしない時間を楽しめるような心の余裕もなく、かと云って観光スポット全制覇!なんてできるほどの体力も根性もなく、足の向くままに旅する勇気もなく(かと云って計画性もあまりなく)…何だか性格が顕著に出ている感じですね。何やっても中途半端っていうね…。
旅は人生にも似て、旅は人格にも似て。おお、何か旅ってすげーなー。

予定より長引いてしまったロンドンともようやくお別れです。
Mくんは決まったばかりのステイ先から逃げてきて(全面真っ赤なカベの部屋だったらしい…)まだしばらくホテルにいる様子。
Kくんは昨日、ブリストルに向けて発ちましたし、『歩き方』のイタリア編をくれたTくんはソールズベリへ。
月並みだけど、別れ際に「よい旅を!」って云って握手するのって、何だかとてもいいですね。
欧米人みたいなキスじゃなく、ちょっと控えめに、握手。
寂しいんだけど、でもまた新しい何かが待っていることに期待を膨らませつつ気持ちを切り替える瞬間。
わたしもいよいよ、本格的に放浪生活です(でもその前にまたデュッセルで休憩だけど)。

(2002年5月17日 ロンドン)

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