旅先風信136「インド」


先風信 vol.136

 


 

**まじめに?北インド観光**

 

バラナシを出たあとは、カジュラホに向かいました。
世界遺産の”セックス彫刻寺院”で有名な町です。

列車でバラナシを夜中に出て、翌朝サトナーという町に到着。そこから、バスに乗り換えて、カジュラホへ。およそ15時間の旅路です。ううむ、やはりインドはでかい…。
バスがカジュラホに着いたとたん、ホテルの客引きが、獲物を狩る勢いでわれわれツーリストの周りを取り囲みました。あああ、長旅のあとだってのに、疲れるなー…。
どうせ1泊だし、どこでもいいやと思っていましたが、トイレ・シャワーつきシングルが50ルピーだと云う「レイクサイド」の客引きについて行くことにしました。ここは、バラナシでほかの旅行者からオススメされてもいたので、悪くはないだろうと思って。

ところが、いざホテルに着くと、
「すまないが、50ルピーの部屋は満室だ。今は100ルピーの部屋しかない」。
…出たよ。この、いかにもインド的な(気がする)ウソのつき方。
アンタねえ、たった10分前に50ルピーの部屋があるって云っておいて、そりゃないでしょうが!
「もういいよ。ほか当たるからさ」と、立ち去ろうとすると、「ちょっとディスカウントするから、まあ座って、チャイでも飲んでくれ」などと引き止めてくる。そんな暢気なこと云ってられっか!こっちは、15時間ぶっ通しで移動してきて疲れてんだ。とにかく荷物置いて落ち着きたいんだよ!
ディスカウントって、いくらにしてくれんのよ?と聞いても、とりあえずチャイを飲め、などと意味不明なことを云うばかりなので、軽くブチ切れて、さっさとほかのホテルに移りました。後ろから、多分罵声らしい声が飛んで来ているのを耳にしながら・・・。

さらには、ここまで乗ってきたオートリキシャ代も、20ルピーとぼりまくりで、またケンカ。
10ルピーでも高えぜ!と思いながら、めんどくさいので10ルピーをつきつけて立ち去ったら、あとで町なかで出くわしたときに、罵声を浴びせられました。。。
バラナシでは、意外と平和に過ごせたのに、やっぱインド、そんな心安らかには旅行させてくれないってわけかい。まあいいさ。こっちは、モロッコとエチオピアで、毎日強敵と戦いながら経験値アップして、とっくにバラモスなんか倒してんだ(※ドラクエ3ね、念のため)。いつでもかかってこい、ってんだ。へっ。

さて、カジュラホ名物(?)セックス寺院とは何か?
時代は10〜11世紀、この地域を支配していたチャンドラー王朝によって建立されたヒンドゥー寺院群ですが、 特筆すべきは、各寺院の壁面に施された、おびただしい数の男女交合の彫刻 。これが、カジュラホを有名にし、さらには世界遺産にまでした理由です。

壁面を、セックス彫刻で覆われた寺院! そんなもの、この2年半の旅でも一度も見たことがありません。うーむさすがはインド(何でもインドのせい)、わたしも大いに旅心、およびスケベ心をそそられました。
ガイドブックには、「これは、人間の次元でのエロティシズムではなく、男女の結合の極みにも似た、神との合一への渇望を、生命力をふり絞って表現したものではないだろうか?」などと、神妙なことを書いてあります。まあ確かに、この彫刻は、単なるエロではなく、タントリズムと呼ばれる教義に基づいた、真面目かつ宗教的なものなのですが、 ほとんどの観光客にとっては、そんなことはどーでもいいはずです(笑)。

セックス寺院のメインは、西の寺院群といわれるエリアです。
寺院群は、東西南とあるのですが、西だけが唯一入場料を取ります。5ドル。高え…。でも、ここを外すわけにはまいりません。
早朝が美しいと聞いたので、5時30分起きの6時入場という、気合の入れようです。
順路通りに、まずは左側のヴィシュナワータ寺院から周ります。
右手の壁に、いきなり獣姦の彫刻が!おお、最初は獣姦ときたか。さすがは世界遺産(?)。
この獣姦をやっている人々の顔が、何とも牧歌的なのが笑えます。いや、これは、恍惚の表情なのかも?(笑)
その後も、セックス、セックス…と、まるで変態のようにセックス彫刻を探して周るのですが、実際は、それほど多くあるわけでもなかったのです。
それでも、時折見かけるアクロバッティックな、ありえない体位の彫刻には、「ほえー…」と口開けて見入ってしまいましたが。

KHAJURAHO19.JPG ほほえましい獣姦の図。

セックス彫刻よりも多いのは、ミトゥナ像と呼ばれる、男女一対の像。と云っても、交わっているわけではなく、仲良さげに寄り添っているものが多いです。
ですが、女の乳房が、「ザ・巨乳!」とでも云いたいくらい、それはそれは立派なものでして、わたしもこんな乳をしていたら、人生が変わったかも知れないのに…と、どーでもいいことを考えつつ、そのお椀型の乳房に見惚れるのでした。
男と女が、こんな風に親密にうちとけ、寄り添っている姿は、何だかいいものですね。女の方が、男よりもひと回り小さな頭と身体で、男がそれを守るようにして抱きかかえていて。「麗しいなあ」なんて思ってしまいました。
とか云いつつ、その辺の路上や公園でいちゃついているカップルを見ると、「どっかヨソでやってくれ」と文句のひとつも云いたくなるのですけど、何が違うのでしょう?(笑)

KHAJURAHO55.JPG - 34,751BYTES 典型的なミトゥナ像はこんな感じ。

さて、バラナシで会った旅行者から、「セックスしてる男女のキーホルダーとか売ってたよ」と聞いて、それはぜひ入手せねばなるまいと固く誓っていたわたしは、みやげ物屋を物色することにしました。
ところが、売られているのは、ミトゥナ像のキーホルダーばかり。こんな生ぬるい(?)ものでは面白くも何ともありません。
おかしいなあ…どこにあんだろ…と、首をひねりながら、1軒のアクセサリーショップに入り、
「キーホルダー探してるんだけど」
と云うと、店の兄ちゃんは、やはりミトゥナ像のキーホルダーを出してきます。
違うの違うの、これじゃなくて、ほかのキーホルダーなのよー…と訴えると、兄ちゃんはしばし考え、ぽんっと手を打ち…はしなかったけれど、何かを思い出したように棚の奥の方をごそごそとやり始めました。

「もしかして、コレかい?」
と兄ちゃんが出したのは、真鍮製の、サルがオナニーしているキーホルダーでした。サルの右手が輪っかになっており、そこにサルのチン○ンが入って動くというしくみです。おお、これだよ、これ!こういうの!
兄ちゃんはほかのも出してくれました。国籍不明の男女がバックでやっているやつと、立ってやっているやつと。もちろんこれらもキコキコと動くのです(笑)。

兄ちゃんは神妙な顔をして、
「これらは、店頭には並べないのだ」と云うので、
「何で?ミトゥナ像はその辺でもいっぱい売られてるじゃん?」と尋ねると、
「あれは遺跡の彫刻だからいいのだ。しかしこれは問題なのだ。ケーサツに捕まるのだ」との答え。そして、続けて曰く「何故なら、これは動くからな」。
何じゃそりゃ!動くからって、そんな理由あるか?!確かに、動くとヒワイ度はアップするが、そんなことでケーサツに捕まらんだろー!!!

ともかくも、せっかく発見したので、「それ、全部いただくわ」と、中村うさぎ女王様のように買い占めました(と云っても3個ですが)。いずれ、誰か友人のおみやげになるのでしょうが、うーむ、どれも捨てがたいな(笑)。
さらに、シルバー製の、やはり男女交合のペンダントトップも買ってしまいました。これはあまりヒワイな感じではなく、むしろちょっとカッコいいくらいでしたが。

…ここまでの記述を自分で読み返すと、セックス大好き人間みたいだな…と苦笑してしまいますが、ま、本当のことなので、仕方ありません(なんちって)。
いや、セックスそのものが好きというよりは、下ネタ、エロネタが好きなんですね。ほら、子供の頃って、意味不明に「ウンコ」とか「チン○ン」って云っただけで面白かったじゃないですか(え、そんなことない?)。その延長だと思うんです。そー云えば、小学生のとき、やたら黒板にペニスケースの絵を描くのが流行っていましたが、要は、セックスネタというのは、笑いの要素が満載なのです。少なくともわたしにとっては。
たまに、フランス書院のエロ小説とかレディースコミックなどを読むと、最初はドキドキしつつ(笑)、あとになるにつれ、笑いがこみあげてしょうがない。まあ、自分がやっているときに笑っちゃいけませんけど、やっぱどっか、滑稽なものに思えるんですよねー。

カジュラホからは、ジャンシーを経由して、首都デリーに入りました。

『地球の歩き方 インド』によると、デリーは相当、旅行者にとっては心してかからねばならぬ街のようです。
「空港〜市内タクシーのトラブル」「デリーの悪徳旅行会社」についての記述が何ページにもわたっており、まさに“口酸っぱく”注意を促しているのです。
典型的なのは、こんな話。
デリーの空港に夜着いて、タクシーを探していると、ツーリストインフォメーションの人間だと名乗る男に声をかけられ、「デリーは超アブナイのだ」とこんこんと口説かれ、「とにかくオレについてこい」と、そいつの車に乗せられて行きついた先は旅行会社で、無理やり高額のツアーに申し込まされる。
防いで防ぎきれないトラブルではないと思うのですが、そこは頭の回るインド人、かなり巧みに旅行者をはめてしまうのでしょう。実際、このテの被害に遭っちゃった人は、あとを断たないのです。バラナシで会った男の子も、「インド初めてなもんで…まんまとやられちゃいました」と、あくまで明るく話していました。

そんな悪評高いデリー、わたしもかなりビビって来たのですが、いざ来てみれば、人にダマされることも、からまれることもなく、「何だ、こんなもんか」と拍子抜けしてしまいました。
それよりもヘキエキしたのは、空気の悪さですね。
デリーに来てから、どうも喉が痛いのです。デリーで再会した、リアルタイム旅行記「CHUZO.NET」の作者チュウゾウさんに云わせると、それは「デリー病」なのだそうで。
デリー病に加え、下痢にも悩まされました。生水なんて飲まないし、そんなにおかしなものも食べていない、むしろツーリストレストランで、うどんとか、チョウメンとか、インド料理ではない邪道なものばかり食べているのですが…何がいけなかったんだ?いや、これも多分、デリー病なのでしょう。

そのせいだけでもないのでしょうが、デリーは、どうもくつろげません。あまりに大きいということもあると思います。
安宿街であるメインバサールは、カトマンズのタメル地区を思わせ、わりと落ち着けるのですが、ほかは、どこに出かけても、決まって帰りはぐったりしているのでした。
コンノート・プレイス内にある、インド版スターバックス「バリスタ」の店内および、「マクドナルド」の店内だけが唯一落ち着ける場所でした。ま、あそこは、インドじゃなかったですけど…。

と、文句を垂れつつも、デリーには結局1週間近くいて、フマユーン廟(世界遺産)やら、ラール・キラーやら、現代美術館、インド門、ガンジーの墓と記念館まで制覇してしまいました。
体調が悪いなら、しっかり休んで静養すればいいものを、どうしても動かずにいられないのです。もはやこれは性、あるいは単に病気なのです。

DELHI19.JPG - 31,837BYTES タージ・マハルのモデルとなった、フマユーン廟。下のタージ・マハルの写真と比べてみて下さいな。

体調もほぼ回復したところで、次なる町、アグラへ移動しました。
アグラは、ご存知タージ・マハルのある町です。
タージ・マハル―それは、ひと言で云ってしまえば、1人の女の墓です。

有名な話なので、今さら書くのも何ですが、一応ご説明しておきませう。
ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、熱愛していた妻・ムムターズの死を悲しみ、22年の歳月と膨大な費用を投じて建てた墓。それがタージ・マハルです。タージ・マハルという名は、ムムターズ・マハル妃から来ているのです。

タージ・マハルは、完全なる左右対称の建築物ですが、唯一、対称でないものがあります。棺です。
真ん中に配置されているムムターズの棺の左隣に、シャー・ジャハーンの棺が置かれているのです。右側は、何もない空間なので、この棺はいかにも取ってつけたような、奇異な印象を受けます。
それもそのはずで、皇帝は、タージ完成後、帝位を狙う息子アウラングゼーブに幽閉され、失意のうちに7年後に死を迎え、タージ内の妃の墓の隣に葬られることになったのです。皇帝は、タージの対岸に、黒大理石で自らの墓を建てるつもりだったと云われていますが、無論それは叶わぬ夢に終わったのでした。

早朝に行ってもすでに観光客だらけのタージですが、そして、外人料金750ルピーという恐ろしく高い入場料ですが(インド人は20ルピー…っておい、ふざけんなよ、30倍以上じゃねーか)、ここまで来たら、中に入らないわけにはまいりません。
ま、安宿の屋上レストランからでも見えるんですけど、中に入るメリットとしては、総大理石のタージを自分の足で踏みしめ、手でじかにさわれること。遠くからでは、タージが本当に大理石でできているのかどうか、よく分かりませんからね。近くで見たって、この巨大な建物が、すべて白大理石で造られているなんて、にわかには信じられないのです。しかし、さわってみると、大理石は手に吸いつくように滑らかで、何だか、高貴でデリケートなものに触れているようで、ちょっとドキドキします。

それから、タージの完璧な左右対称の姿を臨むには、やはり、中に入らなくてはダメです。ホテルの屋上から斜め45度に見るタージと、真正面から見るタージとでは、ひと味もふた味も違うのです。
サイドから見ようが、裏から見ようが、それなりに感動はあるけれども、真正面に立って見ると、まるで、鍵がカチリと合うように、完全な左右対称になるのが、何とも気持ちがいいのです。
さらに、墓の内部の装飾がすばらしい。白大理石の基盤を削って、そこに輝石を埋め込んで作られた花模様が、そこここに施されているのですが、これがため息ものの美しさ。花模様は、イスラム建築にはよく見られるけれども、大体は色タイルであり、大理石+輝石という組み合わせは、少なくともわたしは見たことがありません。

AGRA49.JPG - 23,928BYTES この完璧なシンメトリーこそ、タージの真髄なのである(なんちゃって)。

しかし、それら視覚的なこと以上に驚くべきは、この壮麗な建築物が、たった1人の女のために造られたという事実です。
これが、神に捧げられたものであったり、自らの権威を誇示するためのものであれば、タージ・マハルは今ほど有名にならなかったのではないでしょうか。
どのようなものでも、ロマンのあるもの、ドラマティックなものは、美しい。
皇帝は、幽閉されていたアグラ城から、遠くにタージを臨み、晩年を過ごしたそうです。
本当なら、白いタージの隣に、黒いタージ―自らの墓標がそびえていたはずだった…タージを見つめる、かっての皇帝の老いた姿を想像すると、何だか切ない気持ちになります。

建設当時は、国の財政を傾けたタージも、今は、インド国内で最も人気の高い、そして最も入場料の高い観光地。タージという名は、最高級ホテルチェーン・タージグループが引継ぎ、まさにインドを象徴するキーワードのひとつと云えます。
これも、歴史の皮肉というやつでしょうか。

ところで、ここに来ているカップルたちは、
「ダーリンも、わたしのためにこんなお墓を建ててくれる?」
「何云ってんだバーカ(と笑いながら女の額をこづく)」

などという会話を交わしているんでしょうかね。ケッコウケッコウ。

アグラという町は、タージ・マハルのお膝元(?)でありながら、町自体には大した特徴も、面白みもありません。
ホテルの屋上から見るとよく分かるのですが、タージだけが妙に、町から浮いているのです。
まあ、タージはあくまで墓であり、ここは城下町などではないので仕方ないのかも知れませんが、もうちょっと何とかならんのかいな、と思ってしまいますね。

インド初心者的には、ガンガーを見て、タージを見て、カジュラホも見れば、もう帰ってもいいくらいなものです(笑)。実際、1〜2週間くらいの予定で来ている学生などは、これにジャイプルをプラスするくらいの日程で動いていました。
しかし、そこは長期旅行者ですから、たとえ初インドであろうとも、もっとディープに旅せねばなりますまい。というわけで、ここからは、インド北西部、砂漠の国ラジャスタンを巡ります。

AGRA38.JPG - 20,723BYTES 朝焼けの中のタージ。

(2004年10月29日 アグラ)

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