旅先風信13「イギリス」


先風信 vol.13

 


 

**ロンドンウロウロ**

 

こんにちは。ロンドンに来ました。
5年前に来た時は、もう一度訪れる日が来ようとは夢にも思わなかったのに…また来てしまったのね、と何となくヘンな感じです。

何故か分かりませんがわたしはロンドンが大・大好きで、5年前、ケンブリッジでホームステイしていた折も、週末となると、友達が他の場所に行こうと云っても「じゃあわたしは1人で」と、必ずロンドンへ行っていました。
一体ロンドンに何があると云うのでしょう。買い物だけなら東京の方が全然面白いと思うのですが、それでも何故かロンドンに心惹かれてしまうのですよね。田舎者だから?

LONDON11.JPG バッキンガム宮殿名物・衛兵交替。観光客もぎっしり。

大英博物館もロンドン塔もピカデリー・サーカスもタワーブリッジもバッキンガム宮殿もシャーロック・ホームズ博物館も、すべて5年前に見てしまっているのですが、一緒に来たMさんはロンドンは初です。しかし彼女も来月、イングリッド・フジコ・ヘミングのコンサートを観に再びロンドンに来る予定なので、あまり具体的なプランもなく、何となく衛兵交替を見に行ったり、ポートベローやカムデンのマーケットをぐるぐる回っていました。食事もマクドやFISH&CHIPSと全くヤル気なし。

ところで、ロンドンと云えばやはりストリートマーケット。以前にしつこくロンドンに通っていた理由はこのマーケットでした。
ポートベローは『ノッティングヒルの恋人』の舞台にもなった場所で、土曜になるとアンティークの市がずらりと並びます。
対してカムデンはもっと若者向け。パンクの兄ちゃんが今でもうろうろしています。
前はカムデンで調子に乗ってパンクなプリントのTシャツを買いまくったり、高価な革のジャケットを衝動買いしたりしていましたが、今回はまだまだ先があるのでそうもいきません。
まあほとんどはどうでもいい代物なのですけど、やはり時々「おっ、コレは!?」というようなお洋服や小物に出会ってしまったりして結構危険でした。クラブ系のサイバーなお洋服とかはやっぱりカッコいいなーさすがはロンドンだなーとか思ってしまいますね。

さて、Mさんとは土日をともにしていたのですが、彼女がバースに帰ってしまったのち、それまで泊っていたアールズ・コートのYHから、ミレニアムホステルというZone2(アンダーグラウンドの範囲。数字が増えるほど都心から離れる)にある安宿に移りました。
だって、ロンドンYHって本当に高いんですよ。前にも書いたけれど、ドミトリーの分際で1泊21ポンド(約4200円)もしやがるのです。
アールズ・コートYHはZone1内にあって、駅からも近くてかなり立地はいいのですが、これ以上ロンドンにいるとなると引越しせざるを得ませんでした。
ちなみにミレニアムホステルは1泊10ポンド(約2000円)。お世辞にもキレイとは云いがたいけれどロンドンでこの値段はそうそうないでしょう。『歩き方』にも載っています。

ところで、今回のロンドンの目的は3つありました。
1つは「テート・モダン」。ブリストルで現代美術に目覚めて(?)しまったわたしとしてはぜひ行かねばならないところです。
2つ目は「ワールズ・エンド」。嶽本野ばら氏のデビュー作『世界の終わりという名の雑貨店』のモチーフにもなった、ヴィヴィアン・ウエストウッドの有名なお店です。
最後は、これまた野ばら氏に薦められた、超ゴシック趣味というウワサのホテル「ゴア」に宿泊するため。

まずはテート・モダンから。
現代美術作品を集めたこの美術館は2000年オープンとまだ新しく、すぐ側にはミレニアム・ブリッジが架かっています。
何が素敵って、ここは入場無料。大英博物館やナショナル・ギャラリーも無料ですけどね。何でもかんでも高いロンドンですけど、この点だけは貧乏旅行者にやさしいと云えるでしょう。
ピカソ、マティスからデュシャン(vol.11で書いた便器の作品はこの人でした)、ウォーホル、ジャコメッティ、ドナルド・ジャッド、ダミアン・ハースト…などなど錚々たる面々の作品がそろっているのは圧巻。個人的にはダミアン・ハーストの「Pharmacy」(薬局のインスタレーション)が見られてトクした気分でした。

しかし、ここの真打ち、それはミュージアム・ショップ。
邪道と分かっていながら、わたしはミュージアムよりもしばしばミュージアムに付随するみやげ物屋の方により心惹かれるのです。
テート・モダンのミュージアムショップは、ミュージアム自体に比例して規模もかなり大きく、グッズもいろいろあるのですが、それより何より書籍の充実ぶりが素晴らしすぎる。
お洒落な雑誌から子供向けのキュートな絵本、高価なアーティスト作品集までずらりと並び、本キチガイのわたしはもうアドレナリンを大放出しながら店内を徘徊していました。
そしてちょろっと散財してしまった…本当にこらえ性のない人間だよ…。

LONDON13.JPG テート・モダン内。

お次の「ワールズ・エンド」は、キングスロードというロンドンのお洒落ストリート(笑)沿いにあります。
本当に小さなお店なので、逆さまに回るあの有名な時計がなければ通り過ぎてしまったでしょう。

ここには日本人の女性スタッフが働いていて、ここでスペシャルオーダーなどをしている野ばら氏のことはもちろん知っているので、しばし野ばら話に興じました。
日本人のお客さんって多いですか?と尋ねると「日本人とイギリス人ですね」と云っていたのが印象的でした。日本人ってやっぱヴィヴィアン好きが多いんでしょうか。
節約第一のわたしも、さすがにここまで来たからには何も買い物せずにはおれず、しかしやはり貧乏には違いないので、少なくともお店の中では一番安い40ポンド(8000円)のオーブのピアスを買いました。よくよく考えるとピアスに8000円は高すぎなのですが、何しろ他のものが輪をかけてお高いのでつい「8000円かあ。安いなあ」という錯覚に陥ってしまいました。危ねー危ねー…。まあ来店記念ってことで。

LONDON14.JPG チェルシーにある「ワールズ・エンド」。

最後に「ゴア」のお話。
YHを出たあと、実はこの豪華なプチホテル(とガイドブックには分類されている)に一泊くらいしてみようと思って、ねずみ小僧のようなみすぼらしい格好にもかかわらず扉を叩きました。
ビビりながら、何とかプライスリストだけはもらったところ、何と最低価格が130ポンド(約26000円)と、バックパッカーにはあるまじき値段。
話に聞いていたようなバリバリのゴシック趣味という感じはしませんでしたが(浴槽が棺オケの形をしているとか聞いていたもので)、何ともクラシカルないい雰囲気のホテルで、ここは一発、理性を捨てて、どかんとカードで払って泊ろうかしら…と一瞬思いました。しかし、26000円で他に買えるもののことを考えると、貧乏性のわたしにはやはり決心がつきませんでした。

それでも、雰囲気だけでも味わいたいので、とりあえず紅茶でも飲んで考えようとレストランに入ったところ、ここでは飲めないからラウンジ(?)の方に行くように云われました。
例によって下手くそな英語で紅茶を頼むと、バーカウンターに立つそのカッコいいお兄さんはちょっと困った顔で「紅茶はやってない」と云います。
よくよく見るとそこはどう見てもお酒を飲む場所であって、紅茶はおろかコーヒーを飲んでいる人も一人もいません。
しかしレストランの人にはこっちに行くように云われたし…困惑して立ち尽くしていると、お兄さんが「向うで座って待ってて」と云ってレストランの方に入って行きました。
しばらくするとお兄さんはポットに入った紅茶とカップを持って戻って来ました。

と、そこまでは何でもない話なのです。
が、
わたしが「お金はどこで払えばいいですか?」と尋ねると、どうも、ノープロブレムではないですがそのようなことを云っているらしいのです(ヒアリング力ゼロなので分からない)。
そんなワケはなかろう…と思い、戸惑いながらも出してくれた紅茶を飲みつつ、プライスリストを眺めながら「やっぱ泊れないよなー」と悶々と時間を過ごしていました。
帰り際、やはりお金を払うつもりでお兄さんに告げたところ、今度はわたしにもはっきりと分かるように「お金はいらないですよ。それはプレゼントです」と云うではないですか。
耳を疑いました。何で?何で?そんな……。
何と言葉を返していいか分からず、わたしはただ「サンキュー」を繰り返すしかありませんでした。

今にしてみれば、わたしがあまりにも場違いで貧しげだったので哀れまれてしまったのかな、「ここに泊りたいけどお金がなくて泊れない貧しい少女(歳を考えろ歳を)」と思われたのかな、という気もします。
そうだとしても、やはり親切にしてもらったことには変わりなく、本気で涙が出そうになりました。旅先での親切は普段の100倍の感度を以って心に沁みるものです。
お金持ちになったらきっと再訪して、今度はちゃんと泊り客になりたいなあ。以上、ちょっといい話でした(自分で云うな自分で)。

LONDON17.JPG 金持ちになったら泊りたい「ゴア」。

(2002年5月13日 ロンドン)

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