旅先風信114「イラン」


先風信 vol.114


**イランはどんなとこ?**

 

こんにちは。今回はイランのエスファハーン、“世界の半分”と云われたイマーム広場の展望チャーイハーネ(喫茶店)からお届けします。
水タバコの吸いすぎなのか、ちょっと頭がくらくらしております(酸欠?)。

ESFAHAN109.JPG - 78,831BYTES お約束な写真ですが、エスファハーンのエマーム・モスク(王のモスク)の華麗なるファサード。見事なタイルワーク!

みなさんは、イランという国に、どのようなイメージをお持ちでしょうか?
イスラム国家、イラン革命、イラン・イラク戦争、違いの分かる人々の間で絶賛されているイラン映画…あとは、一時期大量に日本に来ていたイラン人労働者と、彼らが作っていた偽造テレカ(笑)くらい?
名前はみんな知っているけれど、今ひとつピンと来ない国、むしろあまりよいイメージのない国なのではないでしょうか。

わたしの一番のイメージは、イラン=女子が全員黒装束、というものでした。
イランは、厳格なるイスラム国家(建前上は)。それを顕著に表しているのが、女子の服装規定なのです。
イランでは、自国の女性たちはもちろん、たとえ旅人であろうとも、女子たる者はそれを守らなくてはなりません。
まず、頭はスカーフか、ヘジャーブという布(修道女が頭にかぶっているようなのを想像して下さい)ですっぽりと覆い、髪の毛を見せないようにする。
次に、チャードルと呼ばれる黒い布で、これまたすっぽり身体を隠す。これが、まるっきり舞台の黒子状態なんですよ。
最もこれについては、身体のラインとお尻が隠れる服装であればよいらしく、若い女の子や旅行者は、マントーというロングコートを着用しています。婦人用品店に行けば必ず置いてありますが、8割方が黒、あとは紺かベージュ。うーん、悲しくなるほど色のバリエーションがない。。。
黒が最も望ましく、ベージュはわりとお洒落な部類に入ると想像されます。デニム地のマントーを着ている人もいますが(これはトルコでもよく見かけた)、ま、少数ですね。要するに、とにかく地味じゃないといけないのです。

というわけで、バスや電車の女子車両(!こんなものがあるのですよ。あ、でも昨今は日本でも、痴漢防止のために女子専用車両が設けられていますね)に入ると、みんな黒い。暗殺集団かと思ってしまうわよ(笑)。それは云いすぎとしても、修道女か黒子の集団って感じで、なかなか凄まじい光景です。

そんな中でも、若く、進歩的な(?)女の子たちは、何とかお洒落に見せようと頑張っているように思えます。
スカーフの色を派手にするとか、髪の毛をつむじの辺りまで見せてしまうとか、マントーも丈の短いのやぴったりしたのを着ていたり、下はフレアージーンズを履いたり。
首都テヘランでは、若草色のロングジャケットに同系色のラメ入りのスカーフを合わせ、白いパンツを履いたカッコいい女性を見かけました。観光地エスファハーンでは、赤やピンク、蛍光色(!)のマントーも売られています。
それくらいになると、ぱっと見は、スーツ姿の日本のOLさんたちと変わらないですね。ま、頭にスカーフは巻かないとしても(笑)。
あと、ハマダーンの観光地、アリー・サドル洞窟で見た女子学生は、黒いヘジャーブの上に麦藁帽子をかぶり、マントーも黒ながらもろにバストラインの出るデザインで丈もかなり短め、下は細身のフレアジーンズ、お化粧もばっちりでした。「こういうのは、日本で云うところのコギャル(死語だな)みたいなもんなのかしら」なんて考えちゃったわ。

TABRIZ2.JPG - 38,976BYTES タブリーズの町で会った女子大生たち。けっこう髪の毛見えてるよね(笑)。

そのように、わりとゆるめの女子も多いのですが、それでもスカーフだけは絶対に取ってはいけません。取ると、警察に逮捕されるらしいです。
そう云えば、どこかの情報ノートに「スカーフを取るということは、スカートを脱ぐのと同じ行為です」と書かれてありました。んな大げさな!って最初は思ったけれど、それを読んで以来、スカーフをまるで貞操帯のようにしっかり巻くようになりました。だって、こっちにしてみたらたかが髪の毛でも、イラン人の男性にしてみれば「むおおお!かっ、髪の毛が、丸見えだあ!」って感じなのかしら(笑)と思ったら…やっぱ怖いじゃないですか。なかなかその感覚は理解しにくいですけどね…。

日本においても、会社勤めのときは、かなり服装が規定されますが(スーツの色なんて、黒・紺・グレー・ベージュが定番でしょ。マントーと同じだよね)、オフの日は、どんな恰好していても自由じゃないですか。ま、フリフリのロリータ服なんか着ていたら、親や友達に「いい歳して、それはやめろ」って云われたりはするけれども(笑)。
それを考えたら、イランの女の子たちは、気の毒なくらい限定されているけれど、その枠の中で頑張ってお洒落しようという心意気が可愛いではないですか。女子とお洒落の関係は、万国共通、切っても切れないものなのですね。

そんなイランの女の子たちを見習って、わたしもこの、つまんないコーディネートを何とか可愛く見せようと頑張っているかというと、全然そんな努力はしていません。
だって、外国人女子ってのは、ただでさえ目立つのです。それで、自国の女の子に簡単に手を出せない男どもが、われわれをターゲットにして、からかったり、下手すると痴漢行為に及んだりするわけですからね。情報ノートにも、「とにかく、女子の旅行者は、ダサくあればあるほどよい」と書いてありました。
なもので、わたしも、イスタンブールの宿のフリーボックスから頂戴した、真っ黒のスカーフと紺のマントーでずっと通しています。気分は、戦前日本の清く正しく美しい女学生。たまに、スカーフを紫のインド布に変えたりはしますけど、アレンジはそのくらいです。

HAMADAN75.JPG - 41,253BYTES 小学校の制服を着た女の子。前述のヘジャーブって布は、この子が頭にかぶっているものです。

…すみません、つい服装の話が長くなってしまいました。
これまでも、アラブ諸国を中心に、イスラムの国々を旅行してきましたが、服装規定がある(笑)のは初めてなもので、いろいろ新鮮に見えるんですよ。

服の話のついでに、食べ物の話も少し書いておきましょう。
トップページにも少し愚痴ったのですが、イランというところは、本当に食べ物のバリエーションがない!家庭料理は知りませんが、外食に関してはもう、悲しくなるほど選択の余地がないのです。
箇条書きにすると、大体こんな感じ。
@サンドイッチ
Aアーブ・グーシュト(壺に入ったシチューをおわんに移し、その中にちぎったナンを入れ、専用の棒でぐちゃぐちゃにつぶすという不思議な食べ物)
Bチキン&ライス
Cキャバーブ(牛肉の串焼き)
まるでルーレットのように、この4つが回って来るんですよ(笑)。朝はまあ、シュークリームでも食ってりゃいいんですが、昼は大体@で、夜はA〜C、下手すりゃまた@…てな食生活。サンドイッチの具は選べるとしても、何だか楽しくない。まして、料理の美味しいトルコから来た身には、何という寂しい食だろう…という印象が否めません。トルコ国境から何度となく会っている、日本人夫婦パッカーH夫婦とは、顔を合わせるたびに「今日、何食べました?」と力なく尋ね合ってますね(笑)。で、新しい食べ物を食べた日は、ものすごい大発見をしたかのように報告し合うのでした。はは、悲しい…。そんな彼らは、ついに耐え切れず、エスファハーンで自炊生活に入りました。

しかしまあ、救いなのは、バリエーションはないけれど、マズくはないという点でしょうか。
エスファハーンに来てからは、ほかの食べ物もちょろちょろ発見できるようになり、イラン料理も捨てたものではない…と思えるようになりました。
それに、食事が寂しい代わりに、デザート類はハイレベルなんですよ。ソフトクリームとか、シュークリームとか(クリームばっかりかい)、安くて美味しいので、毎日食べてます。

さて、ここ(エスファハーン)までは、タブリーズ→テヘラン→ハマダーンと周って来ました。
イラン最初の町タブリーズは、バーザールがおもしろいことで有名です。歴史を遡れば1000年前から始まるというこのバーザールには、かのマルコ・ポーロも訪れ、活気あふれる市の様子に驚嘆したといいます。絨毯、宝石、香辛料、お祈りグッズ…いかにも中東的な匂いのするバーザールで、歩いているだけでわくわくしました。やっぱ何処の国に行っても、バーザールめぐりは大きな楽しみですよね。わたしは特に、買い物狂だし。ちなみに、店の数は何と約7000軒!潰れないのかいな?

テヘランでは、パキスタンビザの取得という仕事がありました。休日がかぶったので、4日もかかってしまいました。こんな空気の悪い、特にやることもない街で、4日はきつかったわ…。
テヘランという響きに、何故か昔から強烈に憧れていたけれども、実際に来てみるとは、殺伐とした、やたらにデカい大都市という印象。やたら交通量が多いのにもヘキエキしました。ま、イランはオイル山ほど持ってるからな。仕方ない(のか?)。バイクは歩道まで平気で突っ込んでくるし(しかも減速しない)、車も歩行者を轢く気マンマンです。多分、轢かれても絶対、泣き寝入りになりそう…命の値段軽そう…。

そんなテヘランですが、外せない観光スポットがあります。それは、宝石博物館。
テヘランに来たら、とりあえずこれだけは見ておけとさまざまな旅人たちから云われており、実際、それだけの価値のある博物館でした。小規模ながら、実に見ごたえのある展示内容で、わたしは2時間もかけてしまいました(それはかけすぎか)。
ここにある宝石の多くは、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド。それに、ターコイズ、パール、サファイアといったところが続きます。あんまりたくさんあるので、次第に感覚が麻痺してきて、ダイヤなどもはやガラス玉にしか見えなくなる(笑)。
圧巻なのは、「宝石の地球儀」。5万1366個の宝石が埋められているという、その数字だけでもすごいけれど、陸地がルビー、海はエメラルド、アフリカ大陸がサファイア、イランと英国、西南アジアはダイヤモンド…って、光りすぎてて何処が何処だか分かんないっつーの!贅沢とかいうレベルを完全に凌駕しております…。

次に訪れたハマダーンは、町自体には特に見どころはないのですが、近郊にある、アリー・サドル洞窟が有名な観光スポット。ここはイラン最大の洞窟で、洞窟内には巨大な鍾乳洞が広がり、たいそう神秘的な光景を作り出しています。洞窟の起源は、1億5000万年前のジュラ紀にまで遡るそう。気の遠くなるような時間をかけて形成されたのだと思うと、言葉を失います。
洞窟にたまった地下水は、太陽光線が届かないため、触るとぞくっとするほど冷たく、底が見えるほど澄んでいます。われわれ観光客は、地下水の上を、ペダルボートで進んで行きます。ボートトリップは行き帰りで40分と、けっこう長く楽しめるのがいい。頭上には、「自由の女神」や「ぶどう棚」といった名前のついた奇岩が次々と現れます。
その昔、レバノンでジェイタ洞窟という、同じような観光地に行ったことがありますが、自然の作り出す奇観というのは、「えええっ!?」と目を疑うような、何だかドキマギする造形なので、見ていて飽きることがないですね。

HAMADAN16.JPG こんな岩や、HAMADAN42.JPG - 55,509BYTES こんな足みたいなヘンな岩がいっぱいある。

そしてここエスファハーンでは、チャーイハーネめぐりにはまっちゃってます。
毎日どこかのチャーイハーネに出向いては、お腹がたぷたぷになるまでチャーイを飲み、水タバコをふかす。しかも1人で…。こういうお国柄ですから、女が1人でチャーイハーネに来てタバコをふかしている様子はかなり異様、と云うよりふしだらに見えるのかも知れないとは懸念しつつ…。
それでもエスファハーンは、イラン随一の観光地のせいか、現地人たちもほかの町に比べて開放的な気がします。水タバコも、さすがに女の子1人でってのはないけれど、2人とか3人連れでふかしに来ている光景をちょくちょく見かけます。

それにつけても、エスファハーンのチャーイハーネは最高ですね。放浪乙女選定・世界のカフェベスト10に、全部入れてあげましょう(たった今作ったランキングだけど)。
行ったのは、どれもこれも有名どころばかりなんですが、これが全て、文句なしの素敵さかげん!
エマーム広場の展望チャーイハーネ、広場から少し外れたところにある伝統チャーイハーネ、シオ・セ・ポルの橋の下チャーイハーネ2軒、チュービー橋の下のチャーイハーネ…まだまだ探せばいろいろあると思いますが、わたしが行ったのはこの5軒でした。

この中でベストを選ぶのはかなり難しいですね。どこも、立地条件のよさ、内装の美しさでは甲乙つけがたいのです。チャーイの値段も一律だし(1ポット=2000リアル、大体50円くらい。安い!)。
チュービー橋のチャーイハーネは「エスファハーンNO.1」と云われているそうで、わたしも1番最初にここに行ったせいか、「すげえ!ここは文句なしにベストカフェだわ!」と思ったのですけど、あとでほかのチャーイハーネに行ってみたら、どこも本当に魅力的なので、安易にベストを決めるわけにいかなくなりました。

内装が、わたし好みのデコラティブなのは、チュービー橋と、伝統チャーイハーネでしたね。天井から隙間のないほどにランプが吊り下がっており、壁面もペルシア絵画(細密画)やアンティークの小物&家具で埋め尽くされ、いかにもエキゾチックな雰囲気。
それに対して、あとの3軒は立地がいい。展望チャーイハーネはもちろんのこと、シオ・セ・ポルの両側にあるチャーイハーネ2軒は、橋の下にあり、すぐそこに川が流れていて目にも涼しく、橋の下という構造をうまくスペースとして活用しているのも素敵です。

せっかくなので、写真を多めに載っけます。

ESFAHAN27.JPG - 66,273BYTES チュービー橋・橋の下チャーハーネ。

ESFAHAN104.JPG - 50,345BYTES シオ・セ・ポルの橋の下チャーイハーネ。地元人多し。

ESFAHAN181.JPG - 68,265BYTES 伝統チャーイハーネ。ここはツーリストも多いかな。

でも、何だかんだで、一番よく来るのは、これを書いている展望チャーイハーネですね。
内装は、ほかに比べるとあっさりめなんですが、エマーム広場を見渡せるこの立地はやっぱり最高。宿からも近いですしね。

そうそう、内装が素敵と云えば(いきなり話が飛んですみません)、エスファハーンには、エマーム・モスク(王のモスク)、マスジェデ・ジャーメといった、有名かつ素晴らしい建築物がたくさんあるのですが、わたしのオススメは、アルメニア人地区にある、カイセリエ・ヴァンクという教会です。
エスファハーンというと、どうしてもエマーム・モスクに代表される、緻密な青タイルに彩られたイスラム建築にばかり目がいってしまいますが(ま、そりゃ当然。本当に美しい)、あちこち見て、ちょっと食傷気味かな…と思ったら、ぜひぜひ行っていただきたいのが、この教会。

ここは、アルメニア正教の教会で、建物自体は小規模ながら、完成には9年を要したと云います。
入った瞬間、あまりの美しさに、本当に息を呑みました。「宝箱の中に閉じ込められたみたい…」。
天井から壁まで、一分の隙間ない装飾と、和洋折衷ならぬ、ビザンチン&イスラム折衷の不思議な調和。美しいイスラミックタイルの上に描かれる、これまた美しく色鮮やかな宗教絵画。何気にエグい拷問の絵が、ちらほら混じっているおどろおどろしさもまたそそりますね(?)。鎌で乳首を抉ってたりするのよ!(笑)キラキラした刺繍の布を、幾重にも敷いた祭壇には、小さな銀の十字架と、バイブルがこじんまりと祀られています。
カトリックの華やかな教会も素敵ですが、オーソドックス(正教)の教会はまた違った魅力がありますね。生真面目さの中にある妖しさとでも云いましょうか。もともとオーソドックスの中世的なテイストが大好きなもので、この教会はそういう意味でも、かなりわたしの心にヒットしました。

ここの併設のミュージアムでは、“世界一小さな聖書(0.7g)”や、”聖書の言葉が刻まれた髪の毛”などという、不思議な展示物も見られます。
その一角には、トルコにおける、アルメニア人大虐殺の展示もありました。
教会マニアでなくとも興味深い場所だと思いますので、ぜひぜひ行ってみて下さいな。
カイセリエ・ヴァンクの近所にも、いくつか似たテイストの教会があるので、そちらの方もどーぞ(って、わたしはアルメニア正教の回し者か)。

ESFAHAN101.JPG - 51,060BYTES 宝石箱のようなカイセリエ・ヴァンク。

※今回のタイトルはイラン映画『友達のうちはどこ?』風に読んでくださると嬉しいです…って、ちょっとムリがあるか…。

(2004年5月4日 エスファハーン)
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