旅先風信103「ホンジュラス」


先風信 vol.103

 


 

**駆け足**

 

何だかんだですっかり長居になってしまったグアテマラを抜け、ホンジュラスにやって来ました。
グアテマラから下は何もないと云われる中米、ここからはとにかく急ぐことにします。

グアテマラは最後に、エスキプーラスという町を観光してきました。
何があるのかというと、バシリカ(大教会堂)とそこに祀られている黒いキリスト像。『地球の歩き方』によれば、「エスキプーラスの木製のキリスト磔刑像は、ある先住民が今のバシリカが建っている場所にキリストが降臨するのを見たことから、地元の住民の以来により1594年にキリオ・カターニョという彫刻家によって彫られた」そうです。ああ、引用するとラクチンね(笑)。
キリスト教徒でもないのに、さらに云うなら宗教なんて別段信じていないのに、やたらこういうところに足を運びたがるんですよねえ。宗教自体は好きじゃないけれど、宗教的な空間とか宗教美術といった、“宗教の周辺”には、何故か非常に心を惹かれるんです。
参拝客は、黒いキリスト像まで、専用の通路を歩いていくのですが、帰りはキリスト像にお尻を向けないように、後ろ向きで歩きます。敬虔な人たちだなあ。わたし?わたしは普通に前向きで歩いて帰りました。すみません(笑)。

門前市には、わたしの大好きなキリスト教グッズが満載で、買い物欲をくすぐられます。とりあえず、あやしげなお守り(種とかいろいろ入ってる)と、手作りアクセサリー用にペンダントトップを10個くらい買っておきました。ほかにも、黒いキリストのミニチュアの入ったお供え菓子セットや、京都の五色豆のようなお菓子が売られていたりして、乙女のツボを大いについてくれます。

ESQUIPULAS11.JPG 黒いキリストとお菓子のセット。

エスキプーラスから隣町チキムラへ、そして国境まで一気に移動。国境を越えればすぐ、ホンジュラス随一の観光地、コパン遺跡です。
出国の際、2ドルの出国税とやらを請求されましたが、グアテマラは出国税はかからない、と他の旅人から事前に聞いていたので、もちろん突っぱねました。ところが今度は、ホンジュラス入国時、入国税1ドルを払うように云われ、「むむ、さてはこれもワイロだな」と即断したわたしは、当然のごとくお断りしました。

そう。中米では、ビザがいらない代わりに、ナゾの入国&出国税があり、それも大半は単なるワイロなのである。前々からそう聞いていたため、わたしの頭には、この1ドルを払うつもりなど、1ミリたりともありませんでした。
ところが、断固として払わない姿勢を見せ、さんざんタンカを切った後、ふと、イミグレのオフィスの壁に目をやると、「入国税 1ドル」としっかり書いてあるではないですか。え、これってワイロじゃなかったの???
しかし、今さら引っ込みがつかなくなってしまい、マズイと思いつつも、「だって、お金持ってないもん。あ、日本円だったらあるよ。日本円で払っていい?コインだけど」などとムチャクチャなことを云い放ち、兎にも角にも払わない意志を、無意味に貫き通していました。
この日は大して急いでもおらず、このまま通してくれなければくれないで、ここで野宿してやるぜ、くらいの心の余裕(っていうのかそれ?)があり、窓口の側で涼しい顔で座っていたら、向うの方が根負けして、通してくれましたわい(笑)。人生、何ごともゴネたもん勝ちっすね。でも、トクしたのはほんの1ドル、その徒労を考えれば、大人しく払った方がよかったのは、自明の理でありますが。

COPAN5.JPG - 16,916BYTES コパン遺跡・カメの像。

コパンは、マヤ文明の代表的な遺跡のひとつで、都市遺跡であるとともに、古代マヤの科学センターとしても知られている遺跡です。
マヤ遺跡と云えば、グアテマラのティカル遺跡を思い出すわけですが、
ティカルを見た後ではどうしてもコパンは見劣りしてしまいますね。残念ながら。特筆すべきは、緻密な彫りを施した、ステラと呼ばれる石碑くらいかな。
面白いのは、遺跡よりも、コパン王朝の王様の名前ですね。18ウサギ王とか、スモーク・モンキー王とかいう、ナゾの名前なのです。18ウサギって、何じゃそりゃ?(笑)

それにしても、ここは入場料が高すぎます。10ドルですよ10ドル!さらに、1989年に発掘されたロサリラという地下神殿に入ると、別途12ドルかかる!日本のODAが、遺跡の修復と保存に多大な援助をしていることが、入り口の看板に書いてありましたが、日本人であるわれわれにその恩恵は全くないのでした。ティカルですら6ドルというのに、これは取り過ぎです。まあ、ほかに観光資源のない国だから、仕方ないんだろうけど…。

コパンの後は、ダイビングのメッカ、バイア諸島に向かいました。
イルカダイビングで有名なロアタン島にするか、ダイビング料金の安いウティラ島にするかで悩みましたが、コパンで一緒になった日本人のHくんとオランダ人のオルガ嬢とともに、ウティラへ行くことに。ロアタンは確か、アクセスも面倒だし、イルカダイビングも相当高かったんですよね。なので、ウティラに行く彼らに、何となく便乗したわけです。

ウティラ島と云えば、”PADIのライセンスが世界一安く取れる”ことで有名な場所です。
そのため、この小さな島には、ダイビングスクールがやたらと多く、日本人のインストラクターも2人くらいいるらしい。
せっかくここまで来たので、アドバンスを取ろうと思ったのですが、今、160ドルの現金を失うのはかなり痛い。ファンダイブなら1本15ドル、さらに1日ごとに保険料が3ドルなので、少なくとも半額くらいでダイビングが出来るけれども、ここより安くアドバンスを取れる場所もそうそうないだろうし、どうしたものか…。Hくんが申し込んでいた、12本で100ドルのトクトクパッケージってのもありましたが、さすがに同じ海で12本も潜る気がせず、しかもウティラで何日も過ごすのももったいなく、2日間で2本ずつ計4本のファンダイブに申し込むことにしました。

ところが、困ったことに、PADIに、わたしの名前が登録されていないという衝撃の(?)事実が、ここで判明してしまったのです。
通常、ダイビングの免許を取ったら、3ヶ月間のテンポラリーカードが発行され、正規のカードは、イギリスの本社に書類を送って手続きがあって初めて、自宅に送られてくるという、うっとおしいシステムになっています。ご存知のように、わたしは、エジプトで免許を取ってから一度も日本に帰っておらず(いーかげん帰れよ!)、カードも当然受け取っていません。自宅から送ってもらうという手もあるけれど、ほら、うちの家族って旅行のこと知らないからさー、それは出来ない相談なのよねえ。
まあしかし、事情があって受け取れない人はほかにもいるでしょうから、別に持っていなくても、テンポラリーカードとロゴブック(ダイブ記録帳)があれば、たいていのところは潜らせてくれます(多分)。前のコスメルもそうだったし、今回も、結果的には潜ったんですが…。

今回行ったダイビングセンターは、ウティラでもおそらく最大手のセンターで、かなりきっちりしているところでした。それで、「ま、テンポラリーカードでも特に問題はないけど、とりあえず、会員登録されているかどうか、確認してみるよ」と云われ、ネット上で確認してもらったところ(と云っても、名前と生年月日打ち込むだけなんだけど)、“そういう人は登録されていません”というエラーが出たのです。

実はわたし、免許を取ったときに、ちょっとしょうもない細工をしていて…というのは、テンポラリーカードの有効期限は3ヶ月で、わたしはダハブのあと、マラウイで潜るつもりでおり(結局行かなかったが)、3ヶ月だと間に合うかどうか分からないしなあ…ということで、本当は12月取得のところを、2月に書き換えてもらったんですよね。あとあと考えたら、そんなことしなくても、日本に帰っていないという事情を話してテンポラリーカードを使い続ければよかったんですけど、そのときは妙に心配でしてね…。ああ、ほんと、つまんないことしちゃったなあ。。。

それで、2月取得ってことで、2月にナイロビだかアフリカのどこかからPADIへ、取得証明書を郵送したんですけど…登録されていないということは、届いていないんでしょうか…ああ、不安だ…。

UTILA10.JPG - 30,190BYTES ウティラ島の、いかにも南国なおうち。

ま、ともかくも今回は、テンポラリーカードで潜ることになりました。
前にコスメルで潜ってからは、2ヶ月しか開いていないので、前回のように恐怖心で立ちすくむなんてことはあるまい…と思っていたら、今回もまた、潜る直前に急に軽いパニックになり、インストラクターを困らせてしまいました。昔、水で何か怖い思いでもしたのかしらわたし…?
しかも、2日目は船酔いまでする始末。恐怖と吐き気が同時に襲ってきて、「ダメだ、死ぬかも…」と、船の上にいることすら恐ろしくなってしまいました(いつも大げさだねえ)。
でも、ゲンキンなもので(?)、いったん潜ったらすうっと忘れてしまうんですよね。まことに不思議なんですが。船酔いも、いつの間にか消えていました。水中では何か特殊な力が働いているんでしょうか?(笑)
ダイビングの免許を取るのでなければ、ウティラは、ダイビングスポットとしてはあまりよくない と聞いていましたが、そこは腐ってもカリブ海。コスメルには及ばないものの、なかなか素敵な水中世界でした。

さて、ウティラでは、Hくん、オルガ嬢、それに、ラ・セイバからウティラへの船で会ったアメリカ人のジョンとで4人ドミトリーに泊まっていました。
相変わらず英会話のままならないわたし(もはやビョーキだな)、ネイティブと話すのは超がつくほど苦手なのですが、ジョンは、以前インターンシップか何かで日本に行ったことがあり、日本人が英語が下手クソなことを承知しているらしく(笑)、分かりやすく話してくれるので助かりました。
それまで、アメリカ人に対して「自分たちの国が一番だと思っている鼻持ちならない民族」というイメージを強固に抱いていたわたしですが、まあそれはけっこう当たっているとは思うのですが、ジョンはそのイメージからはずいぶんとかけ離れていました。明るくて、フランクで、親切。アメリカ人のよいところだけを抽出したような、とでも云うんでしょうかね。
大体、アメリカ人が、こうして自分以外の国をバックパック旅行をしていることも珍しいと思うんですよ。第2外国語をちゃんと話せるということもね(彼はスペイン語ペラペラ)。何しろあの国は、パスポート取得率が国民の50%に満たないらしいですから。でも、こうやって外に目を向けているアメリカ人もちゃんといるのだ、ということに、何だか安心のような気持ちを覚えるのでした。

と、誉めつつも、苦言もちょっとありまして。
前々から思っていたのですが、白人パッカーは、飲食・娯楽費に金を惜しみませんよねえ。
まあ、1年単位で来ているような人は稀ですから、パッカーと云ったって、“バックパックを背負っている”以外は、ツアーの人たちとそう変わらないわけですね。われわれ日本人パッカーが、血眼になって安いホテルを探す(笑)のとは、金銭感覚も、旅への姿勢も違う。よく云えば、彼らはお金を惜しまないで、純粋に旅を楽しもうとしているのでしょうね。
なので、オルガ嬢たちも、 毎食高えレストランに、何の疑いもなく行っちゃうのです。別に、彼女らが何食べたって勝手だけれど、今みたいに、グループになっているときは、わたしにも弊害が及ぶので、困ってしまいます。ちょっと惨めだなあと思いつつも、「ごめん、わたしお金ないから、今日はカップラーメン(持参)にする」とお断りして、部屋で1人寂しく、カップラーメンをすすっていました。

ま、そんなことはささいな話です。
ウティラでもっともヘキエキしたこと…それは、ヘヘンと呼ばれるサンドフライの猛襲でした。
ただでさえ虫に好かれやすいわたし(虫にしか好かれない生き物なのかも)、サンドフライにも思いっきり、それはそれは派手に噛まれましたよ…。
前にやはり、ベネズエラでサンドフライにやられ、一時は足の甲が膿んで、歩くのも痛い…というようなコトになり、やつらとはもう二度とお目にかかりたくなかったのですが、またしてもオノレらは…。虫除けスプレーも、ほとんど効果なし。そんなにわたしの血は美味いですかね???

ウティラを出たのは、ダイビングが終わった翌日でした。
Hくんには、「何でそんなに急いでるの?こういう場所では、ゆっくりした方がいいよー」と云われ、確かにそうだよなとは思いつつ、焦る気持ちの方が勝ってしまう今日この頃。
今は、1日も早く、1歩でも前に進みたい。のんびりしている場合じゃない。何だか分からないけれど、今のわたしには、急ぐことが最善の行為に思えるのです。

そういうわけで、ウティラからラ・セイバに戻ると、一気に首都テグシガルパを目指しました。
テグシガルパ(長いので以下テグと略す)は、中米の各首都がそうであるように、”キケンなだけで何もない”街。でも、個人的にはそういう街がけっこう好きだったりします。何もないところには、何も期待しないので、ささいな発見でも新鮮で楽しいのです。ま、基本的にはキケンな街はイヤだけどな。
例えば、「アメリカン・カフェ」というスタバっぽいお店のモカチーノがとても美味しかったり、メインストリートに死ぬほど並んでいる出店(特にどうということのない服とか日用品)をひやかしたり、たまたま入った教会の内装が素敵だったり…そんなことでけっこう満足できたりして。

TEG8.JPG - 28,635BYTES テグシガルパ・ドローレス教会の金色の祭壇。テグの教会はけっこう見ごたえがある。

とは云え、少しくらい観光らしいこともしたいので、テグからバスで50分のところにある、パジェ・デ・アンヘレスに行くことにしました。
パジェ・デ・アンヘレスは、日本語に訳すと”天使の谷”。そんな素敵なネーミングに、乙女たるわたくしが惹かれないワケはありません。CDのジャケ買いならぬ町のネーミング買い(?)が大好きなわたし。
しかもここは、ガイドブックによれば、民芸品の里らしいのです。“天使の谷”で“民芸品の里”とくれば、行かないわけには参りませんでしょ。

…しかしまあ、ここはホンジュラスですから(って、どんな理由だ?)、そうそうどっかん!と心に響く見どころがあるわけはなく(笑)、肝心の民芸品屋はどことなーく寂れているし、レストランはムダに高いしで、何となく打ちひしがれながら、村をあとにしました。

TENSHINOTANI5.JPG - 26,256BYTES 天使の谷(パジェ・デ・アンヘレス)はハンモックの名産地。かわいいけれど、さすがに持ち歩けないので購入は断念。

さて、前にも書いたように、テグシガルパは危険なことで評判の街、夜歩きなどとんでもないので(実際、暗くなったら宿のまわりは全く人気がなくなるのだ)、「ドラクエ5」に励むことにしました…っておい!お前は旅行者だろ!ドラクエのキャラを動かしているヒマがあったら、自分が動けーーーっ!!!
…とツッコミを入れつつも、いったんドラクエの魔力にかかってしまったら、もはや自分で自分をコントロールできないのです。そー云えば、大学入学早々「ドラクエ6」にはまって、授業に出られなくなってしまった情けない経験が(単位も落としちまったよ)…いや、ホント、ドラクエはやばいですよ。
昼間の歩きつかれも何のその、目が血走るまでレベル上げに励み、気がついたら朝の4時とか!…はああ、何をやっているんだよ、お前というやつは…。しかし、反省しつつもやめられないのが、ドラクエの恐ろしいところなのです。

でもさー、ドラクエって旅とそっくりだと思いません?
吉田夫婦やつあーめん・トシヤス氏も旅行中ドラクエやってたらしいけど(笑)、地図を片手に世界中をめぐり、宝を見つけ、モンスターと戦い、数々のイベントをこなし、成長していく…といった過程は、旅そのものという感じがします。旅人の大半は、ドラクエが、というかRPG(ロールプレイングゲーム)が好きだと思うんですけど、いかがですか、旅人のみなさん?
見ようによっては、旅は壮大なRPGとも云えます。大きな違いは、ドラクエ(RPG)はボスを倒したら終わりだけど、旅はそうじゃなくて、自分で終わりを決めなければいけないってこと。それに、“こう行けばこうなる”っていう攻略法も存在しない。まあ、ガイドブックというものはあるけれども、それもあくまでも“目安”でしかないですもんね。
なので、ときどき、「旅もドラクエみたい(にラク)だったらいいのになあ」なんて、本末転倒なことを思ったりもしますが(笑)、いやいや、やっぱホンモノの旅には適わないですよねえ。でもドラクエもおもしろいよねえ(笑)。

てことで、今回は何故かドラクエの話で終わってしまいました。それではまた、次回の風信まで。

(2004年2月5日 テグシガルパ)

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