旅先風信えくすとら8「フィンランド」


先風信えくすとらvol.8

 


 

**終わりと始まり**


わたしは再びバスに揺られて、ロヴァニエミまでの静かすぎる国道を引き返していました。
行きしなにあれほど恐怖と孤独を掻き立てた風景も、昼間はさほどでもなく、ひたすら静謐な枯木の森は、美しささえ感じられました。
途中、イヴァロで休憩があったので少し町なかをうろついていると、スーパーマーケットの電光掲示板に「−11℃」の表示が。 まだ空が明るいのに、そんなに寒くなっていたのか…
確かに…外に出てしばらくはさほどでもないかと思った寒さが、ただ歩いているだけでじわじわと体を侵食してきます。
これがホントの氷点下の寒さなのか…東京のイライラする寒さとはレベルが違うわ、やっぱ。東京の寒さがうっとおしい雑魚モンスターだとしたら、こっちのはアレフガルドにいる奴らくらい強えわ(でも、東京の寒さは大したことないはずなのに、憎しみすら覚えるんだよなあ)。

ああしかし、しかしなあ。
……もうひと晩、粘っていたらオーロラは見られたんだろうか?
心なしか、いや明らかに今日は、昨日に比べて天気がいいように見える。雲も少ない。西の空では、夕焼けがずっとたなびいているではないか。
お昼で−11℃ってことは、夜になったらもっと気温が下がって、今度こそオーロラが見られたかも知れない。ペッカも別れ際に、「今日は昨日より天気がよさそうだよ」と云っていたし。
あと1日なら、ギリギリ粘れなくもない日程ではあった…でも、1日延ばしてもし見られなかったら、そのダメージはかなりデカいのも事実…。
なんか、旅に出るといっつもこうやって選択を迷いまくって、旅の時間を無駄に使っている気がするわ(苦笑)。長期の頃ならそれでもよかったんだろうけど…。
短い旅になっても、旅のやり方(ていうか単に無計画)を変えられないわたしは、よほど凝り固まっているのでしょうか。

ロヴァニエミに着くとすでに夜7時でした。
戻って来た感傷に浸る間もなく鉄道駅に移動して、ヘルシンキ行きの列車に乗り継ぎます。
ヘルシンキまではひと晩。人もまばらでそれなりに快適な車内で、わたしは体が腐りそうなほどドロドロと眠りこけました。ヘルシンキに着くのが惜しいくらい、いつまでも眠っていたいと思うくらい、昏睡していました。東欧やアフリカあたりの列車でなくて本当によかったです。
夜行明けは、いつも身を切られるようにつらいものです。安穏とした眠りと空間から放り出され、初めての街に降り立ち、地図だけを頼りに宿を目指すのは、いつだって緊張するものですが…。
今回はそれに加えて、ヘルシンキという街がものすごく都会に見えて怖いっ! しかも、例によって朝は真っ暗(泣)! 寒さはラップランドよりも和らぎましたが…(電光掲示板を見ると4℃)。
イ、イナリには、こんなに背の高い建物、なかったよ? 何ですかこの、整備された道路や信号は? 車がいっぱい走ってるよ? どこまでも街が途切れてないよ? ここは東京砂漠ならぬヘルシンキ砂漠ですか?

こんな暗いなか、ヘルシンキの人たちは健康志向なのか、ジョギングや散歩をする姿がちらほらと目につきます。道を尋ねて教えてくれる人の存在は、都会ならではのありがたさといえるかも知れません。
ヘルシンキのYHは、オリンピックスタジアムの傍にあるんですが、これが駅からけっこうな距離でした。それも、すごーくイヤな感じに近くて遠い距離=約2キロ。思いっきり遠ければ大人しくバスや地下鉄を探すんだけど、頑張れば歩けそうな距離。そして、こういう距離なら頑張ってしまうわたしのしょうもない貧乏性!
やっとのことで着いたユースは、ひっさびさに見る典型的なヨーロッパ都市部系ドミです。すなわち、大部屋。2段ベッド。12人ドミ(ほとんど満室)。血を吐く思いでシングルの部屋代を払っていたことはすっかり忘れて、「あ〜くつろげね〜…」などと罰当たりな感想を抱くわたし…。
ドミでゴロゴロしていても落ち着かないので、荷物を整理したらシャワーも浴びず早々に外出します。

オリンピックスタジアム。ユースはこの脇にある。

まずは、ハカニエミのマーケットを目指すことにしました。
歩いている間にぼんやりとした朝が訪れ、ヘルシンキの街の姿が見え始めてきます。
ロヴァニエミとも、イナリとも違う、ヨーロッパ風のクラシカルな街並。それに、アアルト風?のシンプルモダンな建築がところどころ。巨大なスーパーにデパート。その分け目に姿を現す教会。ここ数日に見ていた風景とは、なんという違いでしょうか。
目的地のハカニエミマーケットは、いわゆる“かわいい北欧”のイメージが凝縮されたような市場です。
建物に入るなり、人の気配と暖かな光と色の洪水に包まれ、それまでの寒くて暗い道のりからすると信じがたいほどキラキラしています。店先を飾るクリスマスグッズ、色とりどりの食品。文明に弱いショッピング中毒のわたしは、感激のあまりハイエナのように同じ道を何度もぐるぐるしてしまいました。
マリメッコの卸売りの店、ヤギ石鹸のお店、キッチン雑貨の店、クリスマスオーナメントの専門店…さすがにヘルシンキまで来るとこういうものが当たり前に存在しているのだな。なんかちょっと安心したよ(笑)。
昨昼から何も食べていなかったので、ちょっと贅沢かもとは思いつつ、市場内のカフェで朝食を取ることにしました。細切れのサーモンがたっぷり入ったサンドイッチに熱々のコーヒー! むせび泣いたのはいうまでもありません。

久しぶりに撮った暖かい色の写真。

ひとしきり市場を堪能した後は、さらにヘルシンキの中心部へと歩き進みます。黙々と、下手くそな写真(苦笑)を、必死になって撮りながら…。
なんだか、旅先で町歩きをしているときというのは、一種の修行じみています(苦行とまでは行きませんが)。
何の修行であるかと考えるに、それは“何者でもないただの目になる”ことではないか。自分は、いや自分というちっぽけな属性すらもなく、ひたすら、見て、見て、見て……見るだけの存在に純化するために、歩き回っているような気がします。
昔、長い旅について「自分だけの物語が欲しかった」なんて書いたことがありましたが、そのような“世界を背景にした自分(主人公)”という立場への欲求がある一方で、“一個の目”という立場でもありたいという欲求もある。何者かでありたい気持ちと、何者でもありたくない気持ちと…それらは明らかに相反しているのに、常に同居してもいる。
まあ、ツーリストである限り、異国人という属性は剥れようもないし、ただの“目”と云ったってそれは、予め持っている属性のためにさまざまにバイアスのかかった目ではあるんですけどね…。
“ただの旅行者”なんてつまらない、という人がいます。その土地に、深く入り込まない(入り込めない?)旅行者を、所詮は表層を舐めるだけの存在と見なす人も。
その主張には一理あるので、いつも「わたしはつまらない旅行者なんだろうなあ」と心のどこかで萎縮してもいるのですが、そういう立場にも何かしらの長所はあるんじゃないか…と一抹の悪あがきのような気持ちもあります。入り込まないことで、見えるものもあるんじゃないか、或いは、感想や問題意識といった小賢しいものも抱かずに、ただ見ることに徹するというやり方も…あるんじゃないのかしらね? それが何になるんだ? と問われたら答えに窮するけれども。

ヘルシンキ大聖堂、ヒエタラハティ アンティーク&アートセンター、テンペリアウキオ教会、アカデミア書店……教科書通りともいえる観光スポットをひととおり抑え、夜にはユルヨンカツスイミングホール(市民プール)で泳ぎました。
朝の8時から出かけ、8cmヒールのブーツで歩き倒し、夜の7時にどこに泳ぐ体力があったのかと驚きますが、このプール、映画『かもめ食堂』のラストシーンにも登場するらしい有名なプールというのでつい…。サウナとセットになっているのがフィンランドならではです。サウナ→プール→サウナ→プール…とループするのが地元流?のようですが、これ、心臓に負担かからないんでしょうか…。
そういえばハカニエミ以降、食事もしていません。我ながらほんとに、歩きっぷりだけはすごい。足がちぎれそうなのに、泳いでるしな(苦笑)。出発前日に熱を出していたとは思えない復活ぶりです。咳はまだ出ますがね…。
それやのになあ、駄目押しでユースが遠いねん! 夜の9時とかもう疲れきってるねん! そしたらもう、何コレ? 何コレ珍百景?? っていうくらいツライねん。しかも、人気がなくて怖いねん。
でも安いねん。それだけは間違いない。ほんま助かります安いのは。でも遠いねん。そんで、寒いねん。咳出るねん。

正直なところ、ヘルシンキ市街の観光は1日〜半くらいあれば見て回れるような印象ではあったな…。あと、どうしても外せないといったらキアズマ(フィンランド現代美術館)くらい…?
となると、もう1日イナリにいるという選択も、ないでもなかったのかな? 首都にはつい過大な期待を抱いてしまうからそれなりに時間を割くつもりだったけれど…。
ちょっと頑張って、タンペレ(ムーミン谷博物館がある町)にでも行こうか? それとも、あてもなく近郊列車に乗って終点まで行くとか…あ、そういうスナフキンみたいな(?)真似は出来ないんだったわ、性格的に。

さんざん迷ったあげく、1日でヘルシンキを見限るのも失礼かと反省し、今日はゆっくり、ヘルシンキ市内観光とたいがいセットになっている「スオメンリンナ要塞」を観光することにしました。
残りあと2日、1回くらい優雅な朝をスタートしよう…と、フィンランドのスタバ「ROBERT'S COFFEE」に開店と同時に入り(ここら辺が優雅さに欠けるが…)、意気揚々とカプチーノを注文。静かな店内で、絵はがきでもしたためるか…と気取ってペンを走らせ始めたその瞬間でした。
!?!&%#△。。;*@$☆(←白目むいてる)

アレだ…。低血糖とわたしが勝手に呼んでいるアイツ。あの症状が来たみたい…。
突然の吐き気と下痢と冷や汗と倦怠感。最近はまったくなかったのに、何でまた…? まともに食事しなかったツケが回ってきたとか?
わたしは机に突っ伏し、このいかんともし難い苦痛の感覚が収まるのを待ってみました。が、先に流し込んでいたカプチーノの甘さが嘔吐感をあおり…ついにそれは、ゲロとして放出されました。
キレイな、開店したばかりの、朝のさわやかなコーヒーショップに! 己の腐ったゲロを! わたしは吐きました!!
吐 い た の で す !!!(2ちゃん風)
のみならず、あまりの気持ち悪さで椅子から転げ落ち、店員のねえさんに「きゅ、きゅうきゅうしゃ…」と懇願して、病院に電話をかけてもらう始末。
この状態で、英語脳を振り絞って電話の向こうのドクターに症状を訴えることもキツいですが、それ以上に、見知らぬ土地で見知らぬ人に多大なメーワクをかけているこの心苦しさと情けなさよ!
さらに情けないことには、話しているうちに、少しずつ痛みが和らぎ始めたようで…。おそらく、ゲロを吐いたことで毒が出たのでしょう。引っ込みがつかなくなる前に、ドクターには「あ、あ、ちょっとマシになってきたみたいです…どうしてもダメそうだったら、またお電話しますので…ありがとうございました」と云って電話を切りました。
アブねえ。もうちょっとで救急車がホンマに来るところやったし!!
何でもうちょっとだけ耐えられなかったのでしょうか…。ゲロの始末だけでもねえさんには超メーワクなのに(あくまでもにこやかに始末してくれたねえさんに涙)、救急車とかさあ!! とんだお騒がせ野郎じゃねーか!!
しかし、身体的苦痛に、本っっっ当に弱いのです。心頭滅却しても、わたしの場合、火は涼しくならず、むしろ、体と心が溶け合って、心もズタズタになるのがオチなのです。たぶん、安らかには死ねないでしょうな…。

その後は、歩いてオールド・マーケットへ行き、昼食をとるところまで回復したのはいいのですが(なんだかんだで健康体らしい)、せっかくの美味しい魚介スープ、サーモンがごろごろ入って濃厚なクリームソースのかかったブイヤベースを完食できませんでした。
病み上がりの腹に、サーモンとクリームは暴力にも等しかったようです…。この旅で、初めてのまともな昼食、しかもマーケット内のお店は屋台風になっていて、いかにも地元っぽい雰囲気の中で食事にありつけて、最初の方はもう、至福!健康って素晴らしいね!などと恍惚状態だったのに…。救急車を呼ぼうとした罰か。

事件現場。やはりわたしなど、気取ってカプチーノなんざ飲むべきではなかったのだ…。

スープもさることながら、右隣の、パンにつけるオリーブソースもさりげなく美味。

マーケット広場前の港からフェリーに乗って、スオメンリンナへと向かいます(所要10分)。
どんよりどよどよ、曇りに曇った天候のもと、スオメンリンナ要塞は、何とも云えぬ中世的な不気味さを醸し出していました。
まあ、世界遺産の有名観光地とは云え、ここはれっきとした元・軍事施設。フィンランド王国が、ロシア帝国からの守備目的で作られた海上要塞ということで、歴史的に非常に重要な場所と云えます(パンフレットからにわかに学んだ知識)。
今もヘルシンキ市の一区として人が住む島でもあり、敷地は非常に広く、ビジターセンターまではそれなりに存在していた観光客が、いざわたしが観光を始めると、いつの間にかみなさんの姿が見えなくなっていました…。
ここぞとばかり三脚を立てて、心おきなく自分入りの記念撮影を行ってみますが、古戦場のような雰囲気の中では、今いち気分が盛り上がりません(苦笑)。
まあここは、鉛色の空気を堪能し、束の間の孤独に耽溺し、ドラクエ風にダンジョンの中を探索して楽しむ場所なのでしょう。だって、絶対に外せない目玉的な見どころは、多分…ない(失礼)。
それにしても、要塞の中に町(いや、逆? 町の中に要塞?)というのは、実に不思議な感じです。おなじみ、スーパー「SIWA」もあり、地元の人が来るような小さな教会や、子どもの遊び場もあります。冬の土曜日だからか、外には人がほとんどいませんが…。

海岸線は誰も歩いておらず。白いベンチが寂しげ。

帰りの船を1本逃してしまったせいで、ヘルシンキに戻ると、大半の店がすでにクローズしていました。
そ、そうか…土曜日は店が閉まるのが早いのか…!
って、まだ4時だけど!?
昨日は、タンペレに行こうかなどと余計な案を抱いてしまったために、ここまで資金を温存、すなわち買い物を自重していたのですが…完璧にしくじったようです。昨日の探索中に目を付けていた素敵なお店も、ことごとく閉店しているではないですか! もはやあと1日、やっと財布のひもを、多少なりとも緩められる時が来たのに、肝心の使う場所がねえ! ああ、ホントに計画性がねーなテメーは!!
悪あがきして、北欧デザインショップが立ち並ぶデザインディストリクト(地区)に足を運んでみるも、ほぼ全滅…。唯一、オープンしていたのが「Lux」というセレクトショップで、ショーウインドウに、めちゃめちゃかわゆいケーキの形のアクセサリーが、ドーム付きのお皿にちまちまとディスプレイされているのに誘惑され、ふらふらと店に入ってピアスを買いました。

そこを出ても、まだ18時過ぎです。
あてどなく歩きますが、中心部から少し外れただけで、ものの見事に人通りがなくなり、それはちょっと、驚嘆するくらいです。アールヌーヴォー建築が立ち並ぶというカタヤノッカ地区でも散策しようかと行ってみたら、ほとんどゴーストタウン化していました。治安は悪くないのでしょうけど、か、かなり怖い…。
これ以上、街歩きはきついかもな…。ちょっと早いけど、夕飯にするか。
アキ・カウスキマリの映画の舞台にもなったという…のはどちらでもよくて(映画、知らんし)、値段が10ユーロ前後とあったので選んだレストラン「コルメ・クルーヌア」で、フィンランド最後の晩餐を取ることにしました。
レストランに至るまでの道のりもかなりの寂しさでしたが、いざ店に入ると、そこにはウソのように人があふれていました。なるほど、みんなここにいたんだ…(薄ら笑い)。
楽しげな地元人たちの集い。女の子4人組は誕生日パーティーでしょうか。恋人同士のディナー。職場仲間かなんだか、大人数の会食。
ああ、なんか、えらく場違いな気がしてきた。ザ・異邦人のわたしは、店の隅の席で寂しく、一人で食事…(なのに、料理はやけにボリューミー)。
人にはそれぞれの生活がある。わたしも自国に帰れば、こんな感じの時間がないわけでもないか…。そう考えると、少しだけ安堵し、また感謝の念も湧いてきます。
まあ、明日には帰る短期旅行者の身、今感じている寂しさなどはぬるい感傷に過ぎないわけで、むしろこの寂しさをこそ、惜しんだ方がいいのかもな…。

フィンランド最後の日は、ヘルシンキから少し足を延ばして、ミュール・マキ教会を訪れました。
ヘルシンキ出身の建築家、ユハ・レイヴィスカの手による現代建築の教会…って、元々そんな知識がわたしにあるはずはなく、教会の存在も含め『フィンランド光の旅』という写真集で知ったのです(表紙にもなっています)。
見事なまでの白の空間。いかにも北欧らしい、モダンでありながら温もりを感じさせる建築デザイン。写真で見ただけでも、静謐な空気が伝わってくるようでした。
ということで、何気にここは、今回の旅で外せない場所なのです。

教会は、ヘルシンキ中央駅から近郊列車で約20分、ロウヘラ駅で降りて徒歩1分のところにあります。
日曜日の午前中だからミサかもな〜…という懸念は当たり、さらにこの日はフィンランドの独立記念日?とかで、まる1時間ほど、わたしもミサに参列する羽目になりました。
考えようによっては貴重な体験ではありますが、夕方に帰国便が迫っているうえ、キアズマへも行かねばならないことを考えると「ああ、早く終わらないかなあ…」と罰当たりな祈念を振り払うことができません。この神聖なる空間で、昨日のレストラン以上に浮いた存在のわたしです。

ミサが終わって、参列者たちが出払ったあとの教会内は、その白さを際立たせていました。
恐ろしく清潔で、言葉を失うほど静かなのに冷たい感じがしないのは、天井から差し込む弱い冬の光と照明のせいでしょうか。水色・すみれ色・薄緑色のテキスタイルが遠慮がちに色彩を添え、白いランプが音符のように吊り下がり、クリスマスツリーの深い緑色だけが、強烈なコントラストを放っています。
ああ、こういう建物は、フィンランドの(北欧の)人にしか作れないだろうという気がする…。こういう静けさの表現というのは。

隣の部屋ではバザーが行われていました。
一人どう見ても場違いな異国人のわたしに、柔和そうな初老の女性が声をかけてくれ、わたしよりもはるかに上手な英語で、バザーを案内してくれました。自家製のクッキーや古本、手づくりの靴下、家庭のガラクタなどが並び、いかにも地元のバザーといった風情です。
日本人のわたしの目から見れば、まるで現実離れしたように美しい教会が、あくまで日常生活の中の場所であるという麗しさ。北欧デザインがもてはやされる昨今の日本ですが、やはり、このような建築、デザインがさりげなく存在している本国にはかなわん、と思います。

とにかく白い。でもほのかに温かい。

教会の周りもうろついてみたかったのですが、雨が降ってきたのと、時間がないのとで大人しくヘルシンキに戻ることにしました。
ロウヘラ駅構内の、ラクガキだらけで尿の臭いが漂っているエレベーターに、いかにも郊外という印象を受けました。駅前風景も、純ヨーロッパ風建築がメインのヘルシンキ中心部とはまるで違います。毎度おなじみスーパー「SIWA」(そーいやシワってどういう意味なんだろ?)、いかめしい様相の集合住宅、ほとんど人の歩いていない道路……雨天と相まって、なんとも寂しげで、殺風景に見えます。
しかしながら、そのような駅前に、奇妙に心を打たれるのは何故なんでしょう。その土地がツーリストには見せない顔を垣間見る気がするからでしょうか。それとも、こうした実際の生活が営まれる場所は、国境を越えてもそう変わらないからでしょうか。
余裕があれば――時間的にもそうだけど、心にも余裕があれば、こんな郊外風景ばかりを訪ね歩く旅も、悪くないかも知れないな。でもそれって、単なる覗き趣味っぽくもあるな…。

ヘルシンキに到着したら、休む間もなくキアズマへ直行です。
ギリギリまで取っておいたのは他でもない、ほとんどの店や施設が閉まる日曜日において、貴重にも開館しているから。
期待値がむちゃくちゃ高かったため、それを上回る衝撃とまではいかなかったものの、なかなかイカレ狂った作品もあって刺激的な美術館でした。写真が撮り放題なのもポイント高いです。
併設のおしゃれなカフェテリアでこってりとしたケーキを食し、ミュージアムショップを覗いているうちに、出発の時間が迫っていました。慌ててバス乗り場に向かい、エアポートバスに乗って一路空港へ。

悪フザケとしか思えないが、これもアートなのだ(笑)。

空港では、みやげの帳尻合わせで頭を悩ませている間に時が過ぎました。
機上の人となり、日本直行便だから当然とは云え、日本人がたくさん乗っていることに今さら驚いてしまいました。だって、ヘルシンキですら日本人を見た記憶がないんですもの! みなさん、本当にどこにいらっしゃったの? わたしとて、そんなマイナーな場所にはいなかったはずなんですが…。
周りの人の話に聞き耳を立ててみると、どうやら、例のフィンエアーのストに巻き込まれた人が少なからずいたようで、「今度こそちゃんと荷物は着いてくれるんだろうねえ」などと話し合っていました。もしやそれで、ホテルで缶詰めになっていたとか!? わたしも、あと1〜2日出発が遅かったら、ぶち当たっていたのかも…?

さようなら、フィンランド。森と湖とデザインの国、サンタとムーミンの国…そんな乙女チックなイメージよりは、もう少し武骨で、北欧というよりも東欧のような雰囲気もあって、人は控えめでやさしくて…わたしにとっては、そんな印象の国でした。観光シーズンの夏に来るとまた、違う感想になるのかも知れないですけどね。
それにしても、今年の夏、「わざわざ屋久島に行って日食を見られなかった」経験をしたばかりなのに、半年も経たぬうちに「わざわざ北極圏まで行ってオーロラを見られなかった」経験をめでたく上書きしたことだけは、残念でなりません。
これではますます、
野ぎく=不幸を呼び寄せる貧乏神というイメージが定着し、婚期がさらに遠のいてしまうではありませんか!
…って、そんなことはとりあえずどうでもよくて、なんか、こういうことをいちいち外すのって、己の不徳に因るものに思えて凹みますが、まあ、この先も旅に出る理由を温存しておいたのだと思うことにしますか…。(終わり)

追記:この後、数日間の飛行機頭痛に悩まされようとは、予想だにしませんでした。。。

お時間のある方はこちらもどうぞ↓(ブログ記事)
「フィンランド雑感」
「フィンランドに行った影響」
「フィンランドみやげ」
「飛行機頭痛」

(2009年12月6日 ヘルシンキ→日本)
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