旅先風信「フィンランド」


先風信えくすとら vol.5

 


 

**フィンランドはどこですか?**


自国の寒い時期に、何も好き好んでもっと寒い国に行かなくても……と思うのですが、さまざまな兼ね合いから、今年の夏休みはフィンランドに行くことにしました。
夏休み、と云いながら実際は12月頭……ほとんど冬休みじゃねーか!というツッコミは受け付けないことにします(後で社長が文句云ってたらしいけど)。

何故フィンランドに決めたか。細かい理由は諸々ありつつ、最大の目的は「オーロラを見に行く」。これです。
屋久島で日食にフラれたから、オーロラで取り返す――ということでもないけれど、わざわざ冬に寒い国に行くからには、それなりの対価が欲しいではありませんか。
大体、暑いよりも寒いのが本気で、肉体的に無理な人間なのに、これまでに行ったこともない北極圏、しかも冬に行くということ自体、わたしにとっては結構な冒険なのです。
昔の旅で、寒くて死にそうと思ったのはボリビアのウユニ→スクレ間の夜行バスくらいで、旅先の防寒と云ったらフリースにナイロンジャケットを重ねる程度のことしか知らないのに、いきなりマイナス10度?20度?などという見知らぬ世界に行けるものなんでしょうか?
新宿の「Victoria」に本格的な防寒着を探しに行くも、ゴアテックス系はバカ高い。そのうえ、特に心惹かれない……。今回、いつにも増してカツカツの予算のため、そこまで金をかける気にはなりません。
こういうときの頼みの綱は結局ユニクロということで、エアテックやヒートテックを挟みつつ重ね着で凌ぐことに。家じゅうのヒートテックをかき集め、薄くてもいいから重ねまくる! ということで、今回は大胆にも(?)ミルクやエミキュの服まで導入することにしました。

しかし、そんな防寒へのたゆまぬ努力をあざ笑うかのように、出発の2日前、風邪を引きました(泣)。しかもたったひと晩で!
11月の前半、ひどめの咳風邪を引いていたのが、先週ようやく治ったところだったのです。
どうも、寒さではなくて乾燥が原因らしく、部屋の乾燥がひどいのか、夜中から急にのどの痛みが激しくなったと思ったら、翌朝にはもう風邪引き一丁上がり! です。もしくは、知らないうちに会社で感染った?
熱や下痢の症状はないので、インフルエンザではなさそうですが……これでインフルだったら洒落になりません。あんな安全そうな国で死ぬとかさあ……いくらわたしが不幸で有名でも、そりゃちょっと笑えないレベルじゃん?

暗雲立ち込める出発前、異国でインフルエンザ発症→死、ということも一瞬頭をよぎってか、父ちゃんにも旅行の旨をお知らせすることにしました。
まー適当に聞き流されるやろとナメていたら、予想に反してえらい不機嫌きわまりない返事が……。
曰く「お前なー、いつまで海外に行くつもりや? もうええ加減にしとけよ」
さらにダメ押しには
「結婚とかについてはどない考えとんのや?」
わたしとしては、姪っ子に「”サンタクロースからの手紙”でも送ってあげよう」なんて無邪気なことを考えていたものですから、まさに冷水をぶっかけられたような、とはこのこと。出発前にどんだけテンション下げる気なんですか???
そもそもですよ。ここ数年、結婚についてつつかれたことはまったくなかったのです。それが、何で急に!?
父ちゃんは、わたしの結婚についてはすでに諦めており、何て物わかりの父親やろかとさえ思っていたのですが……やっぱ世間並みの父親だよな。そりゃそっか。前の旅でわざわざウソついて出たことを思えば、そんな急に理解ある父親になるわけないか。
「フィンランドに行ったら、ちょっとは自分の人生について考えたりとかせえよ」とまで云われ、何でたかだが1週間のレジャー旅行で人生考えなアカンわけーーー!と、思わず逆ギレしそうになりましたが(苦笑)、お世辞にもまともな人生を歩んでいるとは云い難いので、何も言葉を返せなかった……。
あーあー、すみませんねえ、同級生たちは着々と結婚して、子どもを産んで、35年ローンで一軒家を建ててるっていうのに、わたしはほとんどないような貯金まではたいて、呑気にオーロラを見に行こうと云うんですから、そりゃまあどんだけ高等遊民よ? と思われてもしゃあないですわなあ。ほんまに生きててすみません。でも生きる!(←FUJIWARA原西風に読んでください)

わたしの罰当たりな人生を戒めるかのように、出発前夜は、熱が出ました。まあ素敵♪
え、冗談やろ、風邪を引いても熱なんてめったに出ないのに、ということは熱が出たら重症ってことやん!……と、狂ったように、10分ごとくらいに体温計を脇に挟むのですが、何度見ても、37度台前半から下がりません。
ああ、せっかく休みだったのに、無理して自転車漕いで、新宿の人ごみに旅行の買い出しなんか行くんじゃなかった……。帰宅した途端、疲労に打ちのめされ、布団に倒れ込んで動けなくなりました。関節がしくしくと痛み始め、こりゃもう本格的に風邪が勢力を増しているようです。
いや、むしろこれはインフルエンザなのでは……? 明日の朝起きて、38度まで上がっていたら、マジでそうかもよ??(滝汗) ただの風邪なら、多少ムリしても旅行はできるだろうけど、
フィンランドにタミフルってあるんだろうか? 福祉国家だからそこらへんしっかりしてるんかな? って、いやいやいや、そういう問題ちゃうやん! インフルエンザだったら、普通に旅行はムリだろう……。
夜中じゅう咳は止まらず、神経が過敏になっているのか、いつも以上に隣人の立てる騒音と奇声が耳につき、なかなか眠れませんでした。

翌朝、恐る恐る体温を測ったら、36度6分まで下がり、咳も鼻詰まりも少し楽になっていました。
さすが、土壇場で命拾いするタイプだね!
しかし、今回は珍しく弱気になって、成田空港で海外旅行保険に入りました(申し込みカウンターでひどく咳込んだので、断られるかと思った…)。だって、物価の高い北欧で病に倒れて保険がないなんてことになったら、それこそ死を意味する……かも知れない。
フィンエアーのマイルがJALカードの対象外ということが判明したり、アーミーナイフをうっかり手荷物に入れて取り上げをくらったりしたのは、この際、些細な事件と考えよう。搭乗口に来られた(10万円の航空券をドブに捨てずに済んだ)だけでも、今回は合格点だ……。

(無事に離陸)

ヘルシンキまでは約9時間のフライト。ヘルシンキ・ヴァンター空港で乗り継いで、一気にロヴァニエミへと進みます。
本来ならば、サンタクロース・エクスプレス(夜行寝台列車)でのんびりアクセスしたいところですが、時間短縮時間短縮。ああ、せわしない短期旅行。
機内では、隣席になったフィンランド人のおじさんがあれこれと話しかけてくれました。久々の英会話にガチガチに緊張しつつ(苦笑)、何とか最低限の国際交流は果たし……たと思います。
おじさんは、教育関係の仕事の出張で日本に来ていたそうです。「日本人とフィンランド人は、メランコリーという感情の点で似ていると思う。あと、シャイなところも」と云うおじさんは、確かに過剰にフレンドリーではなくて、微妙な距離感を読みながら話している感じでした。
ちなみに、「オーロラは見られそうですかね?」と尋ねると、んー今の時期はけっこう厳しいと思うなあ、とのお答え。。。前の席にいたご友人にも訊いてくれましたが、やっぱり微妙な返答……フィンランドに着陸する前から、
屋久島の悪夢再びってこと? 海外編もあるよ♪ってか!?

ロヴァニエミまで来ると、外は薄い雪化粧に覆われていて、いよいよ本番(って何だい)が始まるのだなあという思いで軽く武者震いします。
エアポートバスに乗り、ほどなくして到着したロヴァニエミの街は、息詰まるほどの静けさに包まれていました。
日曜日の19時過ぎという時間帯もあるのでしょうが、小さな中心地に人通りはほとんどなく、街灯と看板の光だけがぼおっと夜に浮かび上がっています。
し、静かすぎて窒息しそうだ。。。
さっきまでバスに乗っていた人たちは、いつの間にかどこかへ散り散りになっていました。いや、空港にはそれ以上のツーリストが溢れかえっていたのに、彼らはどこにいるんだろう?
ホテル・サンタクロースの系列であるYH(1泊69ユーロ! YHとは思えぬ値段である。シングルだけど)は街の外れにあり、ホテル・サンタクロースで渡されたIDカードで入館するしくみになっています。フロントはなく、従って、従業員の姿はおろか、客とすれ違うこともありません。

誰もおらん。。。

小腹がすいたので、と云うよりも到着して荷物を置いたらすぐに街に出るのは旅人の義務なので(え、ほんと?)、食料調達がてらショッピングセンター内のスーパーへ出かけました。
ショッピングセンターはすでにクローズしており、スーパーだけはありがたくも開いていましたが、巨大冷蔵庫の如くだだっ広い店内には、これまた人がおりません。道幅も、日本のスーパーの3倍も広いので、何だか落ちつかず、意味不明にまごまごしてしまいます(苦笑)。
食料を得ていったん宿に戻るも、旅の初日を部屋で済ませるのも忍びなく、雪のちらつく中、無理やり散歩に出ました(さすがは苦行好き)。
とりあえず出来そうなミッションとして、アルヴァ・アアルト建築の「ラッピア・タロ」と「ロヴァニエミ図書館」を見に行くことに。
どちらも時間的に中には入れないので、外から眺めます。ラッピア・タロの屋根が、濃紺の闇に、不似合いなほど白く煌煌と輝いていました。巨大な宇宙船が休息しているようでした。
……とりあえず、記念撮影をしたら、観光は一瞬で終了しました(涙)。簡単な地図しか持っておらず、この先のあてもないので、宿の方に引き返します。
それに、恐れていたほどではないけれど、やっぱ寒い(苦笑)。一定時間外にいると、運動の熱量では追いつかないほど芯から冷え、寒いというよりも冷たくなってくるのです。
誰もいないストリートを一人で歩いていると、子どもの頃に読んだ、『世界にパーレただひとり』という童話を思い出します。世界で自分ひとりになれば何でも好きなことができるのに、という主人公の願望が、ある朝突然果たされる……という内容でした。まさに、世界にパーレ君ひとりきりになってしまうのです。
…世界に野ぎくただひとり、ってか。つぶやいてみると、なんともマヌケな気分になりました。
誰もいないけれど、店舗や家屋、マンションがあるからには、そこに少なからぬ数の人々が暮らしているのでしょう。あちこちの窓辺に置かれている燭台風の照明の光が、その奥の生活をほのかに感じさせ、旅先でほとんど感じたことのないホームシックの苦味を、少し噛みしめます。

ホテルの部屋に戻ったら……戻っても一人きり。
ロビーや廊下、キッチンでも、誰ともすれ違わないし、人の気配すらしません。旅の醍醐味は、日常のいろんなものから切り離されることだけども、なーんか、徹底的に切り離されたような気分だなあ……。まあ、シーズンオフの旅らしくていいような気もしますけどね。
カンタレッリ(あんず茸)の粉末スープをお湯でつくり、ムーミンビスケットを主食にして齧る、旅行初日の夕食。物価の高いのフィンランドで、最初から贅沢できないということもありますが、それにしても、一人旅の侘しさをぎゅっとエキスにしたようなメニュー(苦笑)。もっと栄養を取らないと、風邪が悪化しそう……。
日記を書いたり、空港で買った『かもめ食堂』の文庫本(←何だかんだでミーハー)を読んだりしているうちに、北極圏の夜、旅の初夜はしんしんとふけていくのでした。

小公女セーラのような夕食。

※タイトルは、谷山浩子の曲からです。フィンランドがどこだかは知ってますよ☆

(2009年11月28日 ロヴァニエミ) 
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