旅先風信えくすとら「バヌアツ」


先風信えくすとらvol.24

 


 

**再び、オーストラリア**


(前置に代えて、ここまでのあらすじ)

昨年のオーストラリア旅行で組み込んだはずのエアーズ・ロックを、不慮の事故(泣)で取りこぼした野ぎく。
そのまま泣き寝入りして終了するはずが、幸か不幸か、シドニー→エアーズ・ロック→ケアンズと買っていたカンタス航空のチケットが、1年オープンであった。
セコいことで有名な野ぎくが、664A$(当時で55000円くらい)のチケットをドブに捨てられるはずはなく、旅後、ゴールデンウィークや三連休+代休消化などで、5日くらいの休みを取ってさくっとリベンジするつもりが、機を逸し続け、気がつけばチケットの有効期限が迫っていた。
普段、社畜として元気に働く野ぎくにとって、1年で一度、10日程度の連休を取って海外旅行に出かけることは人生の楽しみであり、半ばノルマでもある。そして、基本的には一度行った国をリピートしないことを己に課していた。
チケットは使わねばならない。しかし、今年もまたオーストラリアというのは、新規開拓系旅人としてのプライドが許さない。
悩みに悩んだ野ぎくは、ふとあることに気がついた。これまで、このオープンチケットは、オーストラリア国内便にのみ有効だと思っていたが、実際はオーストラリア発着便であれば流用できるのである。
つまり、日本発→オーストラリア→日本着という往復には使えないが(これができていればとっくにチケット問題は解決していた)、オーストラリア→日本→オーストラリアならばOKなのである。もちろん、日本への往復の場合は664$では済まないため、追加料金は発生する。
要は、このチケットを、オーストラリアからどこか外国へ行くために使えば、希望通り今年も未知なる国の地を踏めるのである!

 

病的な買い物で貯めたJALのマイルは、ギリギリで日本−シドニー間を往復できるマイル数であった。後ほど、結構な額のサーチャージ代を取られることになり愕然とするのだが、この時点ではまだ金額が分からず、これに、手持ちのカンタス航空便をくっつければ、ほとんど金を払わずに飛行機移動ができる、と野ぎくは考えた。
こうなると、オーストラリアからどこへ行くか。それが問題である。664A$というのは、野ぎくにとっては大金だが、この範囲で飛べる外国は実に限られていた。
手っ取り早いのは隣国ニュージーランドである。今まで一度も行き先の候補に挙がったことのない国であり、いざ調べ始めても何だか引っかからない。
それに、何だかんだで、エアーズ・ロックは捨てがたい。前回行けなかったことはかなりの禍根になっているし、行けば間違いなく感動するだろう。今回はうまく祝日を絡められなかったため、実質8日間の旅である。欲張ってオーストラリアを出る必要はないのかもしれない…。
そんな逡巡の中、急浮上してきたのが、V・A・N・U・A・T・U―バヌアツであった。

(あらすじ終了)

 

わたし「…というわけで、今日中に行き先を決めなアカンねん」
同僚「バヌアツって、よく知らんねんけど、何があんの?」
わたし「んーと…海とか、自然…かな?」
同僚「何かピンと来ーへんなあ。エアーズ・ロックは何なん?」
わたし「えーと…巨大な岩かな…?」
同僚「ますます分からんねんけど!」


…わたしは、同僚とランチをしながら、このような会話を繰り広げていました(何故関西弁かというと、二人とも大阪出身なのです)。
いよいよ、オープンチケットの予約期限が目前に迫っていました。
オーストラリア(エアーズ・ロック)か、バヌアツか。誰もが太鼓判を押すS級観光地か、まったくの未知の世界か。…何だか、付き合う相手を迷っているうら若き乙女のような気分です。大手企業に勤務するイケメンエリートか、得体の知れない魅力がある変人か…そういう悩みにぶち当たったことは、一度もないんですけどね(涙)。


何故、バヌアツなのか。
世界一周する旅行者にとって、最もハードルが高い地域のひとつが、南太平洋およびカリブ海の島々だと思います。一時、ベネズエラからトリニダード・ドバゴに行こうという話もあったのですが、メキシコの死者の日に間に合わせたくて断念した思い出もあります。
何しろ、どちらも物価が高く、アクセスするにも飛行機代がかかりすぎて、今も昔も、なかなか旅行の射程圏内に入ってくることは滅多にありません。
長期旅行中はどちらかというとお金の問題で省かれていましたが、当時よりは余裕のある今、日本から行くとしてもやっぱり遠いし、高い…。
しかしながら、南太平洋の島国は、オーストラリアからだとあら不思議!(でもないが)たったの2〜3時間でアクセスできてしまうことに気がつきました。
もしかして、二度目のオーストラリア訪問の意味は、ここにあったのかもしれない…。南太平洋の島国は、どこもわりと似ていそうだから、1つでも行けば「こういう感じなのか」とそれなりに納得して満足できるんじゃないだろうか。
フィジー、トンガ、ツバル、サモア、ナウル、キリバス……国の名前は知っていてもほとんどイメージが湧かない中で、バヌアツが最有力候補になったのは、単純に、チケットの金額の範囲内で収まりそうだったことでした。
もう少し調べてみたら、ダイビングスポットとして名高い島や、世界で最も火口まで近づける火山の島があり、ついでに「幸せな国ランキング」で1位に選ばれたこともあるらしい。最も、わたしはネイチャー系の観光地で盛り上がるタイプの人間でもないのですが、今いる環境とは正反対であろう素朴な島国にしばし身を置いてみるのも楽しそうではあります。


同僚に相談するまでもなく、すでにわたしの心はほぼバヌアツに傾いていたのだと思います。
わたしはどうも、臆病なわりには未知なるものへの希求がすこぶる強いらしい…。過去の長旅の影響で、珍食傾向や国数ゲッター的な側面があることも否めませんが、それ以上に“♪知らない街を歩いてみたい〜”気持ちが常に先行しているのです。
ただ、同時にミーハーでもあるので、誰もがいいと云うエアーズ・ロックを捨てる決意をつけかね、逡巡していたのでした。そして、いざバヌアツ行きのチケットを押さえるにあたって、664A$の壁をあっさり越えてしまうことが判明し、また10分ほど来た道を戻るように悩みました。
そう。当初、いちばん安いred-deal seatで組み合わせれば余裕じゃーん!と喜んでいたのに、往復ともred-deal seatを使うことはできないという意地の悪いシステムになっていたんですよ! 変更手数料も入れると、最安の組み合わせでもあと2万円は足さないと…むううう。
これでまたバヌアツへの気持ちが萎え、もう一度、往生際悪くエアーズ・ロックのチケットをチェックしました。すると…何とこちらはこちらで、昨日よりも50ドル近く値上がりしているではありませんかっ!

 

…かくして、バヌアツの勝利(なのか?)は確定したのでした。おめでとう、バヌアツ☆☆☆

 

またしても、出発ギリギリまで仕事をして、夜の便で発つという綱渡り状態でしたが、さすがに同じ失敗はしませんでした。
まあ、今回はLCCではなく腐ってもJALですので、万一やばい時間になっても、昨年のような悲惨なことにはならなかった…はずですが、もう一度やってみたい経験では決してないですからね…、
わたしを乗せた飛行機は、翌朝、無事に(ああ、無事という言葉が何て身に沁みるんだ…)シドニーに到着しました。
今回も、昨年の旅程とまるっきり同じに、初日1日だけシドニーを組み込んでいるのです。あのときは、1日しかいないのに、めちゃめちゃ店を調べまくったよなあ。その結果、飛行機に乗り遅れて行けなくなったなんて、今思い出しても下らなすぎて涙が頬を伝います…。
って、泣いている場合ではありません。まずは宿探し。昨年の事故により、軽い予約恐怖に取りつかれているわたしは、普段ならとりあえず1日目だけは宿を予約するところを、あえてパスしたんですが、これが、早速裏目に出ましたよ。立て続けに2軒断られましたよ!はうう、貴重なシドニーの1日が早速、宿探しなどという不毛な行為で削られているじゃないか…。
断られた宿で他のホステルを教えてもらい、ため息をつきながら向かっていると、何年も前のバックパッカー時代と何ひとつ変わらぬ行動パターンに今さらながら愕然とします。大人になれないピーターパン旅行者ですかアンタは。。。


3軒目で何とかベッドを確保したものの、夕方まではチェックインできないので、荷物を預けてとりあえず外出です。
荷物と寝床の心配から解放されるとゲンキンなもので、途端にすべてが新しく始まるような予感に心が満たされます。ただの標識や信号さえも、いちいち写真を撮りたくなる高揚感。天気もすこぶるよく、高層ビルの合間から見える青空は自然に旅心を掻き立てます。
とりあえずは、シティを抜けて、オペラハウスのあるロックス(エリア名)を目指すという王道のコースを歩きます。タウンホールを通り、世界一美しいショッピングモールといわれるクイーン・ビクトリア・センター(QVC)を冷やかし、ロックスにある無料の現代美術館(MCA)でアート鑑賞。まあ、ぬるい観光ではあるけれど、初日の散歩としてはまずまずです。MCAは、相変わらずワケの分からん楽しい現代アート以外に、アボリジニアートの展示もあってなかなか見ごたえがありました。ま、無料っていうのが大きいけど(笑)。
しかし、オペラハウスをあらゆる角度から撮影し、己も入った記念写真も撮り終えた正午過ぎあたりになると、当初の高揚感は、暑さと疲労にとって替わられ、午後は実に凡庸な街歩きに堕してしまいました。ビールのひと口目だけがやけに美味しくて、あとは何を飲んでいるのかよく分からない、あの感じにちょっと似ています。
シドニーは観光地なのかもしれないけれど(実際、旅行者はたくさんいるのだけど)、どうしても見なければいけないものがそんなに無い…ような気がしてきたのです。ま、そもそものわたしの目的意識が低いのが問題なんですけど…。オペラハウスも、高い入場料を払ってまで中に入りたいとも思えず、多数あるショッピングセンターもねえ、2つくらい入るとパターンが何となく分かってきて、飽きてしまうんですよねえ。前回同様、Peter Alexander(オーストラリア一かわいいパジャマ店)以外は、特別心を惹かれるお店があるわけでもないし…。
シドニーらしさというのは、いったい何だろ? シティの辺りはちょっとニューヨークっぽかったけれど、廉価版みたいな印象は正直なところ否めなかったりして…。きっと、住む側になって見れば、こういうコンパクトにまとまっていてひと通り何でもあるような街は快適なんだろうなあ。でも、住みやすい街というのはえてして、観光的魅力には欠けるのよね。恋愛と結婚の相手は別、という感覚に近いですね。
ひとり旅で初の土地ゆえ、気がつくと無駄に同じ道ばかり歩いたり、目的もなく他エリアに行ったりしてしまっているのも問題なのかもしれません。ウラジオストクの団体旅行の際に、詳しい人に案内してもらって、いかにいつもの自分の旅の立ち回り方が効率が悪いかってことを痛感したものでしたが、やっぱり同じことをやっていますね…。

モスクワのぐむぐむ(グム百貨店)を思い出すQVC。

  現代美術館の作品。分かりやすいアイロニー。


それでも、旅先ではおかしなくらいアドレナリンが放出するらしく、死ぬほど歩き回り、写真を撮りまくるのが、わたしという旅人の如何ともしがたい因果な性質です。
どこの国でも都市というのは、東京砂漠じゃないけれど、ある意味では砂漠に近いのかもしれない…。歩いても歩いても、そう大きく景色が変わるわけでもなく、茫洋としていて、でも、何かがありそうな気がして、歩き続けてしまいます。
そして、オペラハウスの入場料はケチったのに、何故かシドニータワーには上ることにしました。行動にまったく脈絡がありません。特にタワー好きでもないのですが、都市部に来ると俯瞰で街を見なきゃという強迫観念に駆られるような気もします。しかも、どうせなら…と、屋外に出て生で眺望を楽しめる、スカイウォークなるオプションツアーに69A$も払って参加しました。ケチなのか太っ腹なのか、お金の使い方が我ながら謎!
シドニーの、というかオーストラリアの物価の高さには前回も驚いたけれど、1年経っても変わっていないですね。アイスクリームのシングルが5〜6A$、小袋のナッツが7A$、野外イベントに出ていた屋台のフォーが12A$!! でもって、今って1A$が100円越えているのよね! 働いている身ですらいちいち応える物価です。長期旅行時代に来なくて、本当によかった…。
スカイウォークは安全のためグループでの参加が必須で、きっちりガイドも付くのですが、ここで己の英語力の貧しさを、またしても、改めて、思いっきり味わうことになりました。
宿探しや街歩きでは特に不便もなく、つい最近買ったTOEIC問題集の選択問題だっていちおう聞き取れたのに、ガイドさんのお話が、半分も分からないじゃないの! やっぱ、トラベル英会話なんて所詮ままごとだよね!
3分に1回くらい挟まれるジョークに付いて行けないのはしょうがないとしても、普通の説明も分からず、間違えて命綱を隣の人にくっつけて、失笑されてしまったよ…。ガラス張りで下界が透けて見えるというスリル満点のシースルー床よりも、英会話が聞き取れない焦りの方がよほど恐いっつうの。
…と、まあそんなことをやっているうちに、特に見たいものはないとか云っていたくせに、宿に戻ったのは夜の9時半過ぎでした。これぞMOTTANAI精神。あるいはつるせこ(@つるピカはげ丸)的精神。

ショッピングモールの上にそびえるシドニータワー。


翌日のバヌアツ便は午前11時45分発、最寄りのセントラル駅からはエアポートリンクで1本です。
寝る前、”世界一美味しい朝食”の称号を持つ「ブリス」で朝食ってのもいいんじゃないの〜などとぼんやり計画してみたのですが、やっぱり宿代に込みになっている無料の朝食を食べないのは、パッカーとして間違っている!…と思い直し、大人しく朝食にありつくことにしました。
ところが、朝食の食パンが異様に塩辛い。オーストラリアには食パンにも無塩とそうでないのとがあるのか? などと訝しく思いながら食べていたら、どうやらチョコスプレッドとベジマイトを間違えて塗っていたらしいのよね! ベジマイトというのは、オーストラリアにしかない謎食材で、旅人の間でもすこぶる評判が悪いのですが、前回はうまいこと食べずにスルーしていたもので、この茶色いペーストがよもやベジマイトだとは、まったく気づきませんでした。
そんな口惜しさをTwitterにのんびりとぶつけていたら、危うく飛行機に乗り遅れそうになりました。。。大慌てで宿を出てから、空港のチェックインカウンターまで、またも走り通しです。エアポートリンクが途中の駅で信号待ちに3分くらいかかったときは、昨年の成田特快での悪夢がよみがえってきたわ!
安いジェットスターではなく、それなりに金を取っている親会社の方なので、血も涙もないクローズはしないだろうとは思いますが、それにしても、90分前チェックインって、だいぶ厳しくないか!? 出国審査の行列の長さを鑑みると、しょうがないのかもしれないけれど…。
この旅では、あと2回も飛行機に乗らねばならないというのに、大丈夫かわたし?!


何だかんだ云いつつも、オペラハウスの写真は撮りまくった(笑)。


(2013年10月24日、ポートビラ)

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