旅先風信えくすとら「ブータン」


先風信えくすとらvol.16

 


 

**ブータン修学旅行**


えーと、前回はティンプーに向かうところで力尽きたんでしたっけ…(苦笑)。

とにかく山国なんだなあ…と、車窓を見ていて実感します。
国内唯一の空港があるパロと首都ティンプーを結ぶ幹線道路も、山肌に沿ってうねうねと蛇行しており、こりゃ危ないねえと思っていたら早速、転落した車が目に入ってきましたよ…。
やはりこういうツアーなので、ガイドさんからブータンについてのあれこれを聞き学ぶことになります。
例えば人口。例えば車のプレートの種別方法。インドとの関係(TATAのデコトラがたくさん走っているのだ)。学校教育。ロイヤルウェディングについて。
何だかあれですね、個人だけど修学旅行みたい。すごく真面目にその国のことを勉強している気がする(笑)。
ああでも、一人じゃなくてホントよかったな。一人ではそんなに長く会話のキャッチボールを続けられないもの…。

ティンプーの手前まで来ると、工事中の建物群が雨後の筍の如く広がっていました。今ティンプーは建設ラッシュだそうで、初のショッピングモールもオープンしたばかりとのこと。「ブータンで唯一のエスカレーターがあるんですよ」…なんか、いろんな意味で驚きます。うちの田舎はコンビニが1軒もないとか、電車が1日に4本しか来ないとか、そういうレベルの話じゃないぞ…。
それでも、ティンプー近郊が街として広がりを見せているということは、やはり首都というのは拡大し、発展していくものなんですね。それはどんな国でも同じなんだな、とも思います。
とは云え、ティンプーには信号がなく、メインストリートはさすがにパロより長くて人出も多いものの、一国の首都としてここまで小さな規模のものは、ついぞお目にかかったことがないような…。ビエンチャンやハルツームなんて、ティンプーに比べたら紛れもなく大都会ですよ。ここより小さな首都って、この地球上にあるんでしょうか? モーリタニアのヌアクショットあたりはどうなんだろう?
しかし、そのうちブータンのサイズ感に慣れ始めると、ティンプーってけっこう都会だよねとか思えてくるから不思議です(笑)。車の往来や駐車も多いし、建物の階数もパロの倍はあるし(ティンプーは5階建てくらい)、なんといっても道が1本じゃない。3本くらいある! 映画館や車のショールームもあるよ! …流されやすいな〜(苦笑)。

こうして見るとけっこう都会。

ツアーは夕方で解散なので、エリさんと一緒にティンプーのメインストリートを冷やかすことにしました。
やっぱこれをやんないとね、新しい町に来たら意味もなくウロウロ歩かないと、旅に出た気がしませんよ。
民族衣装「ゴ」「キラ」の仕立屋、仏具屋、生活雑貨屋、肉屋、単一の専門店が並ぶストリートに懐かしさを覚えつつ歩いていると、異質な看板を発見しました。
「アンビエントカフェ」
これは…カトマンズのタメルあたりにありそうな西洋人向けおしゃれカフェか? …と思って入ったらまさにそれでした。
「こういうカフェ、バックパッカーが好きそうだよねえ」とエリさん。そこから、ブータンはいかにもバックパッカー好きのする雰囲気だという話になりました。
「もしブータンが旅行者を制限しなくなったら、バックパッカーも押し寄せて来て、まったり沈没ライフを送りそうですね。雰囲気もいいし、これであと宿代さえ安くなれば」
「ネパールのポカラみたいになりそうじゃない? そういう意味では、ブータン政府は賢いよねえ。お金を使わずにダラダラ居座る旅行者は、断固歓迎しないという」
「むむ、つまりブータンは、
バックパッカーを旅行界のゴキブリと見做していると…!!」
そこまでは誰も云っていないと思いますが、典型的なバックパッカー体質のわたしとしては、金という仮面を無理にかぶってこっそり入国しているような、若干の後ろめたさを感じたりして…。だって本当は、安く自由に旅ができたらうれしいもの!

何やら文明開化的な飲み物に見える…ただのカプチーノなんだけど(笑)。

翌日は、ティンプー観光の1日です。
その記念すべき1ページ目は、何故か郵便局。
もともと予定にはなかったようですが、「行ってみますか?」というUさんの誘いに、女子2人、テンション高く食いついたのです。
ちなみに、女子という表現はもはやどうなのか? という疑問を抱いている方も大いにいらっしゃることと存じます。しかしながら、こういうテンションって、“女”っていうよりやっぱ“女子”ノリなんだと思うんですよね。
それはさておき…、ブータンは珍しい切手を販売する国として収集家の間では有名なのだそうで、布製や鋼鉄製の切手、世界初のCD切手(何だそりゃ)なんてものもあります。目下、大フィーバー中の王様シリーズも選り取りみどり。
しかし、われわれが郵便局で最も楽しんだのは、そうした珍切手の類いではなく、「自分オリジナルの切手が作れる」という情報でした。自分たちの写真を切手にできるとサービスがあるというのです。
なるほど、ブータン式のプリクラってワケか…。それだけならふーん、で済んだかもしれません。が、何と単なるおみやげではなく、切手としてちゃんと使えるというんですから、テンションも上がろうってもの。
これはもう、自分切手を貼ったエアメールを出しまくるしかしかなかろう! と、エリさんとわたしは鼻息も荒く注文。
局員のおねーさんが、5年前くらいのデジカメでさくさくっと撮影。5分もしないうちに、「カラリオ」のような小さな印刷機から切手シートが出てましたよ! マジプリクラなんですが!
二人とも、なまじキラなんか着ているもんだから、パッと見、本物の切手に見えるのがまた楽しいのです。

ブータンから逆輸入のアイドルユニット「きらーず☆」が、このたび切手になりました。

その後も、王様切手&ポストカードなどを血眼になって物色し、大満足の郵便局見学でした。
「わたしたち、こういうのに弱いよねー。でも何気にいちばん楽しかったりするんだよね」
「何しろ昨日だって、最初に自主的にやったことと云えば、王様&王妃様バッジを買うことでしたもんね…」
そうなのです。キラの着付けをしてくれたおねえさんが、胸元に王様&王妃様バッジ(長いので以下、王様バッジ)を付けていたのを見て、二人して「こ、これ欲しい! どこで買えるんですか!?」と鼻息荒くUさんに尋ね、パロのみやげもの屋で入手したのでした。ちなみに1つ400円くらいとけっこうなお値段でした。
ていうか一体いつから王様のファンになったんでしょうかわれわれは。まあエリさんは日本で、王様の来日フィーバーを見て来たようですが、わたしはヤフーのトップで来日の事実だけを知っていたくらい。我ながら、王様グッズへの入れ込み方が意味不明です…。イラクでサダムグッズを探し歩いたときから何も成長していません。京都あたりで、人力車に乗ってはしゃいでいる観光客と大差ないです。でもいーんですよそれは! バカに見えることほど楽しいもんですよね♪

切手やポストカードを買いまくるエリさんとわたしに、Uさんも
「奴ら…さてはめちゃくちゃ買い物好きだな」とピンと来た(笑)のでしょう、次の行き先は、ガバメントショップ(政府が営む土産物屋)でした。まだ観光もしてないうちから土産とか…カモすぎて笑えます。
自覚しつつも、カモの手本となるべくしっかり金を落としていくあたりがエライ(?)。モノとして激しく魅かれるおみやげがあるわけではないのですが、ブータンという特殊性とブランドに購買欲を刺激されている感はあります。
そんな中でも心惹かれるのは布織物。特に手織りのキラは見事な美しさです。と同時に、グアテマラあたりの極彩色刺繍には既視感を覚えること甚だしく、山岳地帯に発生する刺繍・織物文化というものに改めて感嘆したしだいです。

山岳民族の手仕事、ぱねえっす。

織物博物館で、キラを織る職人さん。

織物博物館、民族博物館、ターキンのいる動物園(というか放牧場)など、観光スポットとしてはどこもたいへん素朴で、こういう場所は、例えばアフリカの田舎なんかにもあったりするのですが、アフリカだったら多分あんまり大切にされていないよなあ…。一般観光客もスルーしがちだし。その点、ブータンはちゃんとガイドがそこに連れて来て見させるから、こっちも真面目にありがたく見ちゃうよね(笑)。
小さな町の中では、何組ものツーリスト集団に出会います。観光スポットのみならず、行くレストランもほぼ決まっているので当然なのですが、こうもオーガナイズされていると、なかなか旅の個性って出ないですね。まあ別に、個性を出す必要もないんですけど(笑)、あくまでもブータンの旅は、ブータンというブランドありきなのだろうなと思います。

頭がヤギで胴体がウシの「ターキン」。チン○の神様(?)ドゥクパ・キンレイさんが創りたもうた動物だそうです。

夕方まで少しフリータイムになったので、町外れにあるらしい生鮮市場を目指して散歩に出ました。
まあ本当に長閑としかいいようがない牧歌的風景ですが、お店のおばさんから子どもに至るまで英語で話すのだから、ただの田舎(失礼)じゃない。公用語でもないのにこの浸透率…英語教育の徹底ぶりに感心します。と同時に、英語か…という少しばかりの寂しさを覚えてしまうのは、まあ旅行者のワガママですね。彼らにとってはやっぱり、英語はよそ行きの言葉なんじゃないのかなと思っちゃうわけです。いちおう国語であるゾンカ語の「クズ ザンポー」(こんにちは)「カディンチェー」(ありがとう)などは使っていこうと努めていますが、まあそれだと会話は続かないしね…。

日が暮れはじめる頃、ティンプー観光のメインとも云うべきタシ・ゾンへ。
ゾンは役所兼寺院ということで、5時に役所の仕事が終わるまでは観光できないことになっているようです。
昨日のパロ・ゾンとの違いをあまり見い出せなかったのですが(鈍感ですまぬ)、毎朝夕に国旗の掲揚があり、少人数で儀式が行われているのが、なんともミニ国家らしい微笑ましさでした。
ゾンは夕方6時になると赤く、やや色っぽい感じに(笑)ライトアップされるのですが、電気系統とイルミネーションは日本の会社の仕事だそうです。へええ…。思わぬところで自国の名前を聞くもんだな。
わたしのような旅行者は、あくまでもその国を撫でて過ぎ去るだけの存在にすぎないけれど、開発や援助に携わる日本人は、確実にその国に足跡を残しているわけです。でも、そういうことこそ、あまり知られていなかったりするものですよね。

なかなか非現実的なビジュアルのタシ・ゾン。

夕食の後は解散なのですが、われわれは、さらなる探検の旅に出ました。
行き先は、昨夜から目を付けていた映画館。別に夜歩きを禁止されているわけじゃないけれど、何となく、イラクでこっそり夜の街に出かけた時のことを思い出します。いいね、この束の間の自由行動にあふれる修学旅行感(笑)。
ブータンでは自国で映画制作をしており、ブータン映画というものが存在します(ええ、これももちろん付け焼刃の知識ね)。
映画館ではそれしか上映しないという見事な鎖国っぷりもさることながら、この小さな国に独自の映画界、引いては芸能界があることにまず驚きます。
映画館はコンクリート打ちっぱなしのような武骨な建物で、プラスチックの椅子はまあいいとしても、暖房がないのがつらい。まるで冷蔵庫の中で映画を見ているようで、冷房効きすぎの日本の映画館とはまた違った、重々しい冷え具合です。
国民は流暢に英語を話すのに、映画は何故か全編ゾンカ語の字幕なしということで、終始「ちょっと何言ってるか分かんないです」状態でしたが、何となく把握したストーリーはこうです。
田舎の村娘・ナアサは、祭りで皇太子に見初められ、妃になります。男子も生まれ、めでたしめでたしのシンデレラストーリーかと思いきや、皇太子の姉だか妹だかにいびられ、皇太子への讒言によって城を追われ、子どもとも引き裂かれます。農村に戻ったナアサでしたが、小姑と皇太子が何故か執拗に彼女を追い、あげく皇太子はDV夫と化して激しく虐待、その傷がもとでとうとう死んでしまいます。…なんという鬱展開。。。
しかし、ナアサの葬儀の日、彼女は仏の力?によって生き返り、城に連れ戻されます。王の一族はナアサに詫び、城で再び暮らすよう説得されますが、今度は子どもとともに実家に戻り、父母と涙の再会を果たします。ある日、実家で年下の村娘たちに何やら説いて聞かせていると、母が急に怒ってナアサを折檻し始め…。

というところで脱落しました。
映画館が極寒すぎたのです。
どうやら最後には生き仏になるらしいですが(映画ポスターからの推測)、見届けられず残念…でも、ここまでで2時間経ってますからね。あとどんだけ続くんだ!?(ちなみにこの話、500年くらい前のブータンで実際にあった史実だそうで、ブータン国民で知らない人はいないそうです。)
主役の女優さんがサバンナの八木に、皇太子が会社のある男性にとてもよく似ていたので、「○○さんが八木を虐待してる!」と変な気分になりました…。

映画館の待合室。

(2011年11月23日 ティンプー) 
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