金子光晴「どくろ杯」「ねむれ巴里」「西ひがし」 今も昔も放浪文学の最高峰に位置するであろう傑作。個人的には生涯のベスト本のひとつ。
この雰囲気は他の旅行記ではまず読めない。さすがは詩人。
放浪という言葉が持つ本来のただれ感と哀愁をあますところなく味わえる。本気で酔いたい人向き。詩集も併せて読むと感動が増幅する。「マレー蘭印紀行」もパッカーの間では聖書かも。
小林紀晴「アジアン・ジャパニーズ」 90年代半ばのバックパッカーの生態を書いたドキュメンタリー。賛否両論激しい作品だがわたしは好きだ。
これも三部作だが、一作目が圧倒的に出来がよい。デビュー作だけあって、とても切実に書かれている。リアルさは後の二作とは比較にならない。登場する旅人たちの言葉がいちいち心に響く。 勝因は半ば掟破りの着眼点のよさに尽きるだろう。
沢木耕太郎「深夜特急」 わざわざコメントするのが恥ずかしいくらい有名な本。バックパッカーの聖書にして長期旅行者のお手本。これを読んでアジア横断を志した若者は数知れずと思われる。
個人的には、実はそれほど影響は受けていないかも・・・(内容も結構忘れている)。
でも「26歳のうちに旅に出なければならない」という決意には妙に共感する。
素樹文生「上海の東、デリーの西」
現代的な放浪感覚を味わえる本。アジアン・ジャパニーズと同世代かな。 この筆者の作品はどれもゆるくていい。日常を綴ってもどこか旅のような、ふわふわと漂う感じがある。
そこが甘いと云う人もいるけれど、まあそれはそれでいいのだ。
西本健一郎「間違いだらけの海外個人旅行」 よくも悪くも影響を受けた、"チョー世界旅行者"による旅の指南書。
云うこといちいちもっともだが、かなり辛辣でキビシイので、ある程度パロディとして読まないと自信をなくす(現にわたしがそうだったわ)。
「みどりのくつしたの部屋」というご本人のホームページでも毒舌たっぷりの原稿が読める。
オーシロカズミ「バケツひとつでアジア旅」 オールカラーで絵本感覚の旅本。大阪・十三にある旅本専門店「漂瓢舎」の店長に薦められて購入した。
とにかくイラストが可愛い。イラストというのは時に写真以上のインパクトがある。
女性の旅行記にありがちな押し付けがましさがないのがいい。あくまでも庶民的な視点も好感が持てる。
山内智晴・皆川博子「行くはヨイヨイ 旅行生活」 新宿の「模索舎」で見つけたミニコミ(今も売っているんだろうか?)。
レイアウトなどは素人っぽいが味がある。手作り旅に手作り本。いいなあ、この感じ。
西欧→東南アジアというやや変わったルートで、ちょっと共感を覚える。
下川裕治「12万円で世界を歩く」 これも有名な本。これを読んで下川さんへのイメージが少し変わった(実は友達がちょっと知り合い)。 もっと温かい感じで、アジアで心癒してますみたいな人(どんな人だ)かと思っていたので。 ヒマラヤのふもとの貧しい村で出してもらったご飯を「実にマズかった」と書いてしまう正直さがよろし。ちなみにこれ読んだ影響で、一時シベリア鉄道でヨーロッパに行く計画を練っていた。
ジャン・ジュネ「泥棒日記」 フランスの泥棒作家、ジュネの自伝的小説。 これを旅の本というカテゴリーで紹介すべきかどうかはかなり微妙なところだが、放浪という点では当てはまるだろうと思って紹介。金子光晴の500倍ヨゴレ(笑)で濃厚。これを読むとフランスに行きたくなる。しかも場末のカフェに。 独自の云い回しや同性愛的表現が多く、しかも読みにくい文章なので、明らかに万人向けではない。実はわたしもかなり苦労してやっと読み終わった。旅人に差し上げたいが、喜んで引き取る人はいるのだろうか。。。
吉行淳之介「乾いた空湿った空」
文壇の色男、故吉行淳之介と、女優の愛人宮城まり子の、アメリカ、フランス喧嘩道中記。 ボリビアで一緒になった旅行者に薦められ、しかし絶版本であると聞いていたのが、何とサンパウロの日本語書店にて難なく発見!いちもにもなく購入を決めた。 読んで吉行淳之介のイメージが少し変わった。もっと二枚目を想像していたが、けっこうマヌケで笑える。せっかく海外旅行に来ているのに、ホテルの部屋でゴロゴロしているところなど、妙な親近感を覚える(笑)。それにしてもこの二人、こんだけしょっちゅうケンカして、相性もよくなさそうなのに、結局、吉行が死ぬまで添い遂げている。男女の仲はつくづく奇奇怪怪だわ。
トーベ・ヤンソン「ムーミン谷の十一月」 TVアニメでおなじみのムーミンの物語。本書はシリーズ最終巻にあたるが、ムーミン一家は全く登場しない。 ベネズエラで会った旅行者に薦められ、にわかに無性に読みたくなり、ちょうどカンクンに来るというのりさんに、ちゃっかり頼んで持って来ていただいた(笑)。 旅人の代名詞(?)スナフキンはもちろん、他の登場人物の心の動きが、旅をしている自分に重ね合わせて何だか切なくなる。薦めてくれた女性は、「不思議なカタルシスがある」と云っていたが、読後のあの何とも云えない心の静寂はまさにカタルシスだろうと思う。ラストシーンがとにかくいい。胸がきゅうっとなる。心にひっそりしまっておきたい1冊。
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