旅に出るまで

 

 

   

IKUMOP1.GIF - 1,369BYTES旅に出るまでの話IKUMOP1.GIF - 1,369BYTES


旅に出るまで。それはどろどろしたスープの如き、混沌と迷妄の日々でありました。


ローカルの出版社で、それなりに誇りを持って仕事をしながらも、給料を滞納されたり理不尽な人間のもとで理不尽な労働を強いられ、
母親が突然死に、
いつまでたっても給料を払わない末期的な会社を辞め(その後給料をめぐるちょっとした戦いもあり)、
せっかく失業したのだから旅に出ようと決意し、
職業訓練校に通って大人しく失業保険をもらい、
さあ旅に出るぞ!と思った矢先にテロが起こり、
先の見えない中で旅の荷物を揃え、
家で飯を作りながら鬱々と暮らし、
鬱々としていてもしょうがないのでいくつかの派遣に行って荒稼ぎし、
そして今に至ります。
その間ずっとずっと旅のことばかりを夢想していました。


旅に出てどうするの? これまで何回そう云われたか分かりません。
何の役に立つの? 意味あるの?
…さあねえ。意味なんてあるんでしょうか。
でも家でずっと「旅に出てどうするんだろう。何の意味があるんだろう」と考えている時間がそろそろ無駄に思えてきたので、やっと重い腰を上げ始めたところです。


親にはコワくて云えませんでした。これが出発を延ばしてしまった最も大きな原因です。
結局本当のことは云っていません。「イギリスに行く。大体一年くらい。とりあえず学校に通う」とだけ云いました。
その日は口をきいてもらえませんでした。
初めから理解を示してくれるとは期待していなかったものの、やはり辛かった。


友達はおおむね好意的に見てくれます。
でもそれは、ある親切な大人に云わせれば「あんたが死んだからって友達には関係ないからそんな無責任なことが云えるんや」ということなのだそうです。ま、そうかも知れませんが(苦笑)。でも親はそうではないと。ま、それもそうでしょう。


何でバックパックの長い(長くなるかどうかは現時点では分かりませんが)旅なのか。
貧乏旅行によくある動機、自分を変えたいとか、自分を見つめ直したいとかいう目的もあるにはあります。
しかし、おそらく劇的に何かが変化することはないでしょう。それはそれでいいと思っています。
ずいぶん昔、headdressの方に「旅するきもち」という小文の中で、「人間には旅をする人種とそうでない人種の2つがある」などとカッコつけたことを書きましたが、結局はそういうもの(つまり性分)でしかないような気がします。
旅をしたい、旅をするぞ!という気持ちは盲腸のようなものです。
なくてもいいもの。でも痛み出すと大変です。
最近では盲腸は手術せずとも散らして治せるようですが、旅に焦がれる気持ちは、旅の本を読み漁ったり、連休と有給を無理矢理くっつけやっとのことで会社を休んでパックツアーで1週間行くだけでは到底治りません。治らないということに気づきました。


何故今でなくてはいけないのか。
今年は母親の三回忌があるため、どうしても行くならそれからにしろと父親には云われました。
しかし、昨年も同じ理由(一周忌)で出発を延ばしている以上、これではいつまでたっても行けませんし、
その日にこだわるなら一時帰国すればいいわけですし、
何よりも、それまでの中途半端な時間を有意義に過ごす方法が分かりません。
お金のためだけに派遣に行くのにはもう飽きてしまったし、かと云ってちゃんと就職してしまうとそもそも旅計画じたいがつぶれるわけで、
年齢のことをあれこれ云いたくはないですが、まだ若いと云って許されるギリギリの時間が今ではないかと思うのです。
明確な報酬のない放浪の旅。今ならそんなバカげたことも許されるでしょう。
もちろん25歳にもなって!と云う人もたくさんいるでしょうが…。


”自分の人生”という言葉はありえるのでしょうか。
誰かのために生きることが立派で、自分のために生きることは悪なのでしょうか。
自分のことしか考えてない、と親や幾人かの大人たちから云われてきました。
相対的に見ても、極めて平凡に、平均点よりは上のあたりで大人しく生きてきましたし、決して好き勝手はやっていないと思うのですが、見える人にはそう見えるのでしょう。
そう云われるたびに、わたしは自信を失くします。
自分勝手に生きていると思しき自分は、他人に迷惑しか与えない存在なのではないか。
そんな人生ならやらない方がましなのか。
でもそれなら、自分は何のために生きているのか。
それとも誰かに生かされている人体に過ぎないのか。
実にくだらない妄想ですが、ぐるぐるぐるぐると頭にまとわりついて離れません。


でも、こんな混沌と憂鬱の中で発見したことも少しだけあるのです。
下手の考え休むに似たり。
やらずに後悔するよりやって後悔すべし。
焦りは禁物。
時間は待ってくれない。
いやー、どれもこれもベタですね(笑)。こんなことは幼稚園ですでに学習しておかねばなりませんね。
そして、今まで書いたこととちょっと矛盾しているかも知れないけれど、
何のかんの云っても家族を大事に思っている気持ちも…。


これからどうなることやら。ともあれ、行ってまいります。


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